第5話

第5話「トンネルの灯」

雪の中、制帽を両手で拾い上げる小柄な老婦人。その横でポニーテールの若い女が、ぶら下がる受話器に懐中電灯の冷たい水色の光を当てている。

フミ:久我さんは
ここまで
来てたんだ

受話器を耳に当てる、しわのある手袋の手。受話器からは何も聞こえない。

フミ:︙︙切れてる

ハル:電話の途中で
切れた︙︙?

フミ:だから
受話器が
垂れたままなんだ

フミ:あの人は
つながる電話を
探しに行った

ハル:でも
足跡が
どこにも――

古い石積みのトンネルの入口。上からつららが下がり、中は真っ黒な闇。入口の前に立つ、小さな二人の影。

フミ:トンネルの中にゃ
雪は
降らないよ

懐中電灯に照らされた、トンネルの濡れた路面。奥へ向かう一人分の足跡と、片足を引きずったような長い跡。「カシャ」の描き文字。

DSC_0441 04:52鴉ノ峠トンネル 入口の路面

ハル:足跡︙︙!
奥へ
続いてる

フミ:片足を
引きずってる

フミ:けがをしてるね

トンネルの入口の凍った路面で足をすべらせたポニーテールの若い女の腕を、小柄な老婦人がとっさにつかむ。「ズルッ」の描き文字。

ハル:わっ︙︙!

フミ:入口が
一番凍る
雪解けの水が
染みてくるからね

フミ:久我さんも
たぶんここで
やったんだ

第5話「トンネルの灯」

トンネルの中から振り返った入口。白く光る雪の外と、つららの影。

外の吹雪の音が︑
遠くなる︒

ハル:どこまで
続いてるん
だろう︙︙

真っ暗なトンネルの中を、懐中電灯を持った小さな二人が奥へ進む。濡れた路面に、足跡の続き。ずっと奥の壁に、小さな冷たい水色の灯りがひとつ。非常電話の箱の灯り。

フミ:見な
奥に
灯りがある

フミ:新しいトンネルなら
中にも
200メートルごとに
非常電話がある

トンネルの非常電話(ひじょうでんわ)の解説

現実の事実トンネルの中で事故や火災が起きた時に、管理する所へ話して知らせるための電話です。国土交通省の基準では、非常電話を置く時の間隔は 200m 以下が標準です。高速道路では、受話器を上げると道路管制センターの係員が出ます。

どのトンネルにもある?
基準では、トンネルの長さと交通量で等級(AA・A・B・C・D)を決め、非常電話などの通話型の通報設備は AA〜C の等級に置くのが標準です。短く、車の少ない D のトンネルには、標準では置きません。
声が出せない時は?
NEXCO西日本は、話すのが難しい時は受話器をたたくなどの合図で知らせるよう案内しています。

出典

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フミ:古いトンネルでも
もう一つくらいは
と思ったんだろ

暗闇の中で、ポニーテールの若い女が懐中電灯を天井へ向ける。冷たい水色の光の筋が、絵の上の枠を突き抜けて黒い地へ伸びる。「コン……コン……」の描き文字。

ハル:音︙︙?

白い手袋の手が、懐中電灯で非常電話の箱の鉄の枠を、弱々しく叩いている。

ハル:久我さん!!

非常電話の箱の灯りの下、トンネルの壁にもたれて座りこむ制服の運転手。帽子は無く、肩に霜。目は半分閉じている。
ひざをついた老婦人が、水筒のふたに湯気の立つお茶を注ぎ、運転手の口元へ運ぶ。運転手は震えている。

フミ:飲みな
ゆっくりだよ

ひもをほどいた黒い靴。足首が大きく腫れている。

ハル:足首が
こんなに︙︙

フミ:これじゃ
戻れなかったはずだ

老婦人の手が、自分の冷たい水色のマフラーをほどき、運転手の首に巻いていく。

フミさんは︑
自分のマフラーを
ほどいた︒

非常電話の受話器を耳に当て、箱の灯りに照らされる小柄な老婦人の横顔。

フミ:もしもし
鴉ノ峠トンネルの
中の電話です

電話の声:こちら
道路の管理事務所です

電話の声:3時ごろ
バスの運転手さんから
通報を受けています

電話の声:除雪車が
6時に
峠に入ります

フミ:運転手さんは
見つけた
足をけがしてる

フミ:お客は
バスで
全員無事だ

ハル:︙︙電話
ちゃんと
つながってたんだ

ハル:久我さんは
逃げてなんか
いなかった

ハル:久我さん
宝石の人の
ダイヤが
消えたんです

ハル:運転席の物入れから
空の袋が
出てきて︙︙

壁にもたれた運転手が、ゆっくりと首を横に振る。白い手袋の手を前へ伸ばし、老婦人の袖をつかむ。その手が絵の右の枠を越えて黒い地へ出ている。

ハル:知らない
って︙︙?

フミ:袋のことなんか
今はいい

フミ:この人
ほかに
何か言いたいんだ

運転手の目だけの細い帯。焦点がゆっくり戻り、まっすぐこちらを見る。
冷たい水色のマフラーを巻いた運転手の顔の大写し。凍えた唇が、何かを言おうと動く。

久我:︙︙空は

久我:無事か

カメラを胸に抱えたまま、ポニーテールの若い女が息をのむ。懐中電灯の光が揺れる。

ハル:そら︙︙?

回想。暗い車内の9Aの席で、フードをかぶりヘッドホンを首にかけた少年が、膝を抱えて座っている。

空︒

名簿にない︑
9Aの少年の
名前だった︒

第5話「トンネルの灯」

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あなた名簿に無い9Aの人影の正体を考えたい

AI3つの線があります。①誰かが隠れて乗っていた ②名簿の誰かが別の席にいた ③写真の写り込みで、人ではなかった。①と②を重ねると、乗客全員が疑わしく見えます。

あなた③で。少し怖い場面を

AIハル「この写真、窓の外から撮ったはずなのに、中に光がある」。絵:カメラの小さな画面、9Aの席にだけ映る白い光。

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この話で分かること

トンネルの非常電話は、どのくらいの間隔で置かれている?

国土交通省の「道路トンネル非常用施設設置基準」では、トンネルに非常電話を置く時の間隔は 200m 以下が標準です。NEXCO西日本の高速道路では、トンネルの中に 200m おき、トンネルの外の本線に 1km おきに置かれています。

条件・例外

基準は、トンネルの長さと交通量で等級(AA〜D)を分け、非常電話などは AA〜C に置くのが標準です。短く、車の少ないトンネル(D)には、標準では置きません。

物語との違い

作中の鴉ノ峠トンネルは、旧道の古いトンネルという設定で、入口と中に一つずつ電話がある架空のトンネルです。今の基準に合っているとは描いていません。

非常電話は、どこにつながる?

基準では、トンネルの非常電話は、事故や火災を管理所などへ話して知らせるための設備です。NEXCO西日本の高速道路では、受話器を上げると道路管制センターにつながり、係員が出ます。

条件・例外

事故・故障の様子や、けが人がいるかを伝えます。ボタンの付いた機種では、状況に合うボタンを押します。

物語との違い

作中の電話は、峠の道を管理する「道路の管理事務所」につながる設定です。

非常電話で、声が出せない時は?

NEXCO西日本は、会話が難しい時は、受話器をたたくなどの合図で知らせるよう案内しています。

トンネルの「押しボタン式通報装置」とは?

ボタンを押すだけで、トンネルの中の火災などを管理所などへ知らせる装置です。国土交通省の基準では、置く時の間隔は 50m が標準です。NEXCO西日本は、ランプがつくまで押すと自動で火災が通報されると案内しています。

条件・例外

トンネルの中で火災が起きた時は、NEXCO西日本は、まず速やかに車の外へ避難するよう案内しています。

この話の用語

トンネルの非常電話(ひじょうでんわ)漫画の中で見る
現実の事実トンネルの中で事故や火災が起きた時に、管理する所へ話して知らせるための電話です。国土交通省の基準では、非常電話を置く時の間隔は 200m 以下が標準です。高速道路では、受話器を上げると道路管制センターの係員が出ます。

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この話のあらすじ

入口の非常電話は、話の途中で切れていた。受話器が垂れたままなのは、運転手の久我がつながる電話を探しに行ったからだとフミは読む。雪の降らないトンネルの中には、奥へ続く一人分の足跡と、片足を引きずった跡が残っていた。凍った入口でハルが足をすべらせ、フミは久我もここでけがをしたと見る。新しいトンネルなら中にも200メートルごとに非常電話がある。暗いトンネルの奥に、灯りがひとつ。懐中電灯で鉄の枠を叩く音をたどると、非常電話の箱の下に、足首を腫らした久我がうずくまっていた。フミは水筒のお茶を飲ませ、自分のマフラーを久我の首に巻く。中の電話は道路の管理事務所につながり、3時ごろに運転手から通報があったこと、除雪車が6時に峠に入ることが分かる。久我は逃げていなかった。消えたダイヤと空の袋のことを聞かれると、久我は首を横に振り、フミの袖をつかむ。凍えた唇から出た第一声は、「……空は、無事か」。名簿にない9Aの少年の名前だった。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

雪に閉ざされた夜行バスの中で起きる、ひと晩だけのミステリーです。立ち往生した車の中で命を守る知恵(一酸化炭素中毒・寒さ・助けの呼び方)も、物語の中で描いています。

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