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第6話「運転席の忘れ物」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

トンネルの非常電話の灯りの下。冷たい水色のマフラーを首に巻いた運転手が、壁にもたれたまま顔を上げる。横にひざをつく小柄な老婦人。

久我:空は︙︙
9Aに
いません
でしたか︙︙?

フミ:いたよ
フードの子
だろ?
あったかくして
寝かせてある

久我:︙︙息子です

久我:名簿には
書いて
いません
私が
乗せました

カメラを胸に抱えたポニーテールの若い女が、懐中電灯の光の中で目を見開く。

ハル:運転手さんの
息子︙︙!?

運転手が白い手袋の手を握りしめ、まっすぐ前を見て言葉をしぼり出す。霜の付いた眉。

久我:袋のことも
聞こえて
いました

久我:私が出た時
運転席の
物入れには
何も
ありません
でした

ハルのメモ1:50 久我さん、車内放送。外へ。物入れは空(久我さんの話)1:52 霧島さん、鷺沢さんの鞄のダイヤを見ている2:20ごろ マフラーの雪かき朝 物入れから、空の袋

フミ:ふうん
じゃあ袋は
あんたが
出た後に
入れられたんだ

第6話「運転席の忘れ物」

5時40分︒
雪は︑
小降りになっていた︒

夜明け前の灰色の雪の峠道。止まったバスのハザードの灯りへ向かって、小さな二人が戻っていく。空の端がわずかに白む。

フミ:除雪車は
6時だ
久我さんには
電話の前で
待ってもらおう

ハル:でも︙︙
一人で
置いてきて
大丈夫かな

フミ:あの人は
もう
一人じゃ
ないよ

バスの後ろ。らくだ色のコートの男が一人、後ろの車輪のそばの雪の山を、両手で必死に掘り返している。掘り返した雪と墨の飛沫が、左へ飛ぶ。「ザッ」「ザッ」の描き文字。
雪まみれの手のまま、ぎくりと振り返る宝石商。白髪まじりの撫でつけ髪が乱れている。

フミ:探し物かい
鷺沢さん

懐中電灯を下げたまま、静かに宝石商を見すえる小柄な老婦人。首にはもうマフラーが無い。

鷺沢:タ︑タイヤの
雪を
どけてた
だけだ

バスの乗り口から、銀の短髪の長身の女と、禿げ頭のずんぐりした運転手が降りてくる。後ろの窓に、乗客たちの顔。

岩淵:なんだ?
こんな時間に

霧島:︙︙やっぱり
そこね

カメラの背面の画面の寄り。雪かきをする人たちの写真が映っている。手袋の指が画面の奥を指す。

ハルの写真 2:21マフラーの雪かき。その奥、後ろの車輪のそばの雪の山に、しゃがみこむ、らくだ色のコートの男。

ハル:あの︙︙
最初の夜に
撮ってたんです

ハル:マフラーを
掘ってる時の
一枚

フミ:あの時
「寒い」って
真っ先に
戻ったのは
誰だい

回想(薄い墨)。吹雪の中でマフラーを掘る乗客たちに背を向け、一人だけバスの乗り口へ上がっていくらくだ色のコートの男。

宝石商は︑
真っ先に︑
バスの中へ
戻っていった︒

フミ:運転席は
乗り口の
すぐ横だ

フミ:皆が外で
雪を
掘ってる間に
鞄の袋を
物入れへ

鷺沢:で
でたらめ
だ!

鷺沢:盗まれた
のは
私の
ダイヤ
だぞ!

霧島が革手袋の手で、一枚の書類を鷺沢の前に突きつける。書類の字は読めない線。

霧島:半年前
あなたの会社は
このダイヤに
2億円の保険を
かけた

霧島:私は
その保険会社の
調査員よ

鷺沢:︙︙っ

岩淵がスコップを雪の山に突き立てる。スコップの先が何か固い物に当たり、その真下にひびが走り、欠片が飛ぶ。「カツン」の描き文字。

岩淵:どいてな

雪の中から出てきた小さな丸い缶を、黒い革手袋の手が開ける。中で、大きなダイヤが冷たい水色に光る。

ハル:あった︙︙!

雪の上にひざをつき、うなだれる宝石商。らくだ色のコートの肩に雪。

鷺沢:春になれば
雪は解ける
︙︙会社が
もたなかった
んだ︙︙

フミ:それで
運転手に
罪を
着せたのかい?

フミ:あの人はね
お客を置いて
逃げたり
しないんだよ

夜明け。峠の下から、回る警告灯をつけた除雪車が雪を押しのけて上がってくる。その後ろに、警告灯を回すパトカー。

6時02分︒
峠の下から︑
灯りが
上がってきた︒

パトカーから降りた警察官が、乗客名簿の板を手に、バスの乗り口に立つ。後ろで乗客たちが見守る。

警察官:名簿の乗客は
7名
乗っているのは
8名ですね?

警察官:名簿に無い
この少年と
乗せた
運転手の事も
聞かせて
もらいます

バスの窓の内側から外を見る少年。フードの下の目が、まっすぐ警察官を見ている。

ソラ:︙︙父さんは
悪くない︙︙

第6話「運転席の忘れ物」

つづく

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乗客は七人のはずだった

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AI名簿に無い少年を乗せた運転手の責任を、警察官の前でフミがどう話すかが見せ場です。ハルがこの夜の写真を、誰のために使うかを決める場面にもできます。

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この話のあらすじ

トンネルの非常電話の前で、声の戻った運転手の久我は、名簿にない9Aの少年・空は自分の息子で、自分が乗せたと話す。そして「私が出た時、運転席の物入れには何も無かった」。袋は、久我が1時50分に出た後に入れられたことになる。5時40分、雪がやみ、フミとハルがバスへ戻ると、宝石商の鷺沢が一人、後ろの車輪のそばの雪の山を掘っていた。ハルが最初の夜に撮った2時21分の写真には、マフラーの雪かきの奥で、同じ雪の山にしゃがむ鷺沢が写っていた。「寒い」と真っ先に車内へ戻ったのも鷺沢だった。保険調査員の霧島は、鷺沢の会社が半年前にダイヤに2億円の保険をかけていたと明かす。岩淵が雪の山を掘ると、小さな缶に入ったダイヤが出てくる。春に雪が解けたら掘り出すつもりだった、と鷺沢はうなだれる。6時すぎ、除雪車とパトカーが峠を上がってくる。警察官は、名簿では7名の乗客が8名いることと、名簿に無い少年を乗せた運転手のことも聞くと言う。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

雪で動けなくなった車の中で、一酸化炭素中毒を防ぎ、体を冷やさず、助けを呼ぶにはどうするか。謎を追う一夜の緊張の中で、命を守る知恵が身につきます。

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