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第4話「取引先に、税務署が」

朝の工務店の資材置き場。日焼けした角刈りの白髪まじりの男性が、作業着のまま携帯電話を耳に当て、眉間にしわを寄せて振り返る。後ろに小さなトラックと材木の束。白い朝の光。

工務店の社長(56)菅沼 誠二

芦原 透真(電話の声):瀬尾 篤さんとの
お取引について

芦原 透真(電話の声):確認させて
ください

事務所の机。灰色のスーツにネクタイの税務職員が、受話器を耳に当て、手にした書類を見ながら話す。後ろに窓と蛍光灯。

菅沼 誠二:税務署が
なんでウチに
来るんだよ

同じ朝︒
僕の部屋︒

仕事部屋。灰色のパーカーの男性が、携帯電話を耳に当てたまま、椅子から半分立ち上がって固まる。後ろに2枚のモニター。窓の白い光。

菅沼 誠二(電話の声):おい
篤

菅沼 誠二(電話の声):税務署から
電話が
来たぞ

瀬尾 篤:菅沼さん
まで︙︙

工事現場の足場の前。紺の作業着の角刈りの男性が、スマホを耳に当て、顔をしかめてどなる。後ろに、クレーンで吊られた資材と作業員。

いちばん大きな取引先で︑
灰谷さんを
紹介してくれた人だ︒

すぐ︑
灰谷さんに
電話した︒

税理士の小さな事務所。短い銀髪に老眼鏡の小柄な女性が、受話器を肩にはさみ、赤いペンで書類に印を付けながら話している。窓の白い光。

灰谷 静江(電話の声):反面調査よ

反面調査(はんめんちょうさ)の解説

現実の事実本人の申告の正しい事実をつかむために、取引先など本人以外の人に行う調査です。国税通則法で、税務署(ぜいむしょ)の職員は本人にお金を払う義務のある人にも質問し、帳簿(ちょうぼ)を見せるよう求められます。法令上の事前通知(じぜんつうち)の決まりは無いものの、原則として先にその取引先へ連絡するとしています。

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灰谷 静江(電話の声):取引先に
払った額を
確かめに
行くの

パーカーの男性の顔の寄り。スマホを見つめ、目を見開いて額に汗。

瀬尾 篤:止められ
ないんですか

灰谷 静江(電話の声):止める?

灰谷 静江(電話の声):あなたには
止められない
わよ

仕事部屋の机の寄り。灰色のパーカーの男性が、携帯電話を耳に強く押し当て、机に肘をついてうつむき、唇をかんでいる。机に赤いマグカップ。

灰谷 静江(電話の声):請求書の
控え
は?

請求書(せいきゅうしょ)の控えの解説

現実の事実事業所得(じぎょうしょとく)のある人は、受け取った領収書だけでなく、取引のために自分で作った請求書なども整理して残します。白色申告(しろいろしんこく)では書類は5年間です。控えがあれば、取引先の支払いの記録と1件ずつ照らし合わせられます。

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瀬尾 篤:全部
あります

瀬尾 篤:紗希と
分けたのが

少し上から税理士。老眼鏡で開いた帳面に赤いペンを当て、電話を肩に挟む。

瀬尾 篤:芦原さんにも
預けてます

灰谷 静江(電話の声):それと

灰谷 静江(電話の声):菅沼さんの
顧問は
私なのよ

灰色のパーカーの男性の顔の寄り。携帯電話を耳に当てたまま、はっと顔を上げ、目を見開いている。

瀬尾 篤:あ︙︙

税理士の横顔の寄り。眼鏡の奥で帳面を見つめ、赤いペンを持つ手が止まる。

灰谷 静江(電話の声):あなたの事は
菅沼さんに
言えない

税理士(ぜいりし)の秘密を守る義務の解説

現実の事実税理士は、正当な理由なく、仕事で知った秘密を人に漏らしたり、自分のために使ったりしてはいけない、と税理士法で決まっています。税理士をやめた後も同じです。同じ税理士に2人が頼んでいても、片方の事をもう片方には話しません。

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灰谷 静江(電話の声):自分で
言いなさい

第4話「取引先に、税務署が」

〈払う額(見込み)〉約150万円調査は、まだ続いている

11月13日(金)︑
10時︒
工務店の1階の事務所︒

斜め上から見た工務店の事務所。机の左に、灰色のスーツの細面の男性が帳簿を開いて座る。向こうに、作業着の角刈りの男性が腕を組み、右に、老眼鏡の女性が赤いペンを持って控える。奥の棚に、背表紙の並んだファイル。

芦原 透真:瀬尾さんへの
お支払いの
記録を

芦原 透真:見せて
いただけ
ますか

菅沼 誠二:7年分
全部
取ってある

法人の帳簿書類(ちょうぼしょるい)の保存期間(ほぞんきかん)の解説

現実の事実会社などの法人は、帳簿(ちょうぼ)と、取引で作ったり受け取ったりした書類を、その事業年度(じぎょうねんど)の確定申告書(しんこくしょ)の提出期限の翌日から7年間残す決まりです。青色申告(あおいろしんこく)で欠損金(けっそんきん)が出た年などは10年間です。取引先の個人の売上を確かめる時にも、この記録が使われます。

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作業着の男の胸から上。腕を組み、横目でにらむ。後ろの棚にヘルメットとファイル。

菅沼 誠二:隠すもんなんか
ねえよ

そのころ︑
僕は外にいた︒

道に、灰色のパーカーの男性が両手をポケットに入れてひとり立ち、工務店の1階の事務所の窓を見上げている。白い曇り空。パーカーの袖の手の寄り。請求書の控えを挟んだクリアファイルを、指が白くなるほど握っている。ファイルの端に赤い付箋。後ろは工務店の前の道。

入れない︒
でも︑
帰れなかった︒

明日は︑
紗希の実家へ
あいさつに行く日だった︒

机の上の寄り。開いた帳簿の行を、スーツの袖の指が1行ずつ横へたどる。行の端に小さな赤い印。右上に書類の束、手前に赤いペン。
作業着の角刈りの男性の顔の寄り。腕を組んだまま、口を結んで帳簿をにらんでいる。額に汗。

芦原 透真:お預かりした
請求書の
控えと

真上から机。赤いペンを持つ手と、帳簿の行を指す手を並べ、横に作業用のヘルメットと手袋の手。帳簿の字は読めない。

芦原 透真:御社の
お支払いは

芦原 透真:一致しました

仕事の売上は︑
1円も
ずれていなかった︒

作業着の角刈りの男性が、組んでいた腕をほどき、椅子の背にもたれて息を吐く。左で、老眼鏡の女性が横目でその顔を見ている。机に赤いペン。

菅沼 誠二:なんだよ
脅かし
やがって

菅沼 誠二:あいつ
何か
やったのか

芦原 透真:申し訳
ありません

税務職員の胸から上。前かがみになり、眉を寄せて静かに言う。後ろに棚とヘルメット。

芦原 透真:調べて
知った事は
外に
話せない
決まりなんです

税務署(ぜいむしょ)の職員の守秘義務(しゅひぎむ)の解説

現実の事実国税の調査や徴収の仕事をする人が、その仕事で知った秘密を漏らしたり盗用したりすると、2年以下の拘禁刑(こうきんけい)又は100万円以下(えんいか)の罰金と国税通則法で決まっています。反面調査(はんめんちょうさ)で取引先に行っても、本人の事情は話されません。

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菅沼 誠二:︙︙ちっ

税理士の腰から上を少し下から。上着の襟に手を掛け、赤いペンを持ち、やわらかい目で見て言う。

灰谷 静江:菅沼さん
本人から
聞いてあげて

11時︒
工務店の前︒

工務店の入口の前。左で、作業着の角刈りの男性が、手をポケットに入れて足を止める。右の離れたトラックの横に、灰色のパーカーの男性が立っている。

菅沼 誠二:来てたのか

パーカーの男性の胸から上。両手の拳を握り、不安そうに相手を見る。後ろに工務店の建物。

瀬尾 篤:菅沼さん
あの

下から見上げた、作業着の角刈りの男性。すぐ近くからにらみ、こちらへ人差し指を向ける。指の先が手前へ大きく出ている。後ろに工務店とトラック。

菅沼 誠二:篤

菅沼 誠二:俺に
嘘 ついてない
よな

瀬尾 篤:︙︙

斜め上から見た工務店の前の地面。灰色のパーカーの男性が、深く頭を下げて立っている。右の端に、作業着の男性の足元。

瀬尾 篤:嘘 ついてました

全部︑話した︒
2冊目の通帳の事も︒
会社員の頃の事も︒

作業着の角刈りの男性が、取った帽子を片手に下げ、背を向けて歩きながら、肩ごしに振り返る。帽子が絵の枠の右の線を越えて外へ出ている。後ろにトラックと材木。

菅沼 誠二:職人には

パーカーの男性の胸から上。うつむいて歯を食いしばる。後ろに工務店の壁とカラーコーン。

菅沼 誠二:嘘だけは
つくなって
言ってん
だよ

菅沼 誠二:毎朝な

作業着の男性の顔の寄り。帽子のつばの下で、怒っているのではなく、疲れて寂しそうな目。右の端に、パーカーの男性の後ろ頭。

菅沼 誠二(画面の外の声):次の仕事は
少し
考えさせて
くれ

灰色のパーカーの男性の目の寄り。顔を上げ、震える目で相手を見ている。
工務店の前の広い引き。左に、パーカーの男性がひとり、頭を下げたまま立ちつくす。右の奥に、作業着の男性が背を向けてトラックの方へ歩く。2人の間に広い地面。白い曇り空。

第4話「取引先に、税務署が」

つづく

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

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確定申告、15分で出しました。

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この話で分かること

反面調査(はんめんちょうさ)とは?

本人の申告の正しい事実をつかむために、取引先など本人以外の人に行う調査です。法令上の事前通知(じぜんつうち)の決まりは無いものの、国税庁は、原則として先にその取引先へ連絡するとしています。

条件・例外

個別の判断は、税理士(ぜいりし)などの専門家や税務署(ぜいむしょ)に確かめてください。

物語との違い

作中の工務店・税務署・日時は創作です。

確定申告(かくていしんこく)の漏れは、どうして税務署(ぜいむしょ)に分かる?

税務署の職員は、調査に必要な時、本人だけでなく、本人にお金を払う義務のある取引先などにも質問し、帳簿(ちょうぼ)を見せるよう求められます。取引先への反面調査(はんめんちょうさ)や、金融機関(きんゆうきかん)への預貯金(よちょきん)の照会(しょうかい)で、申告と記録を照らし合わせる事があります。

条件・例外

個別の判断は、税理士(ぜいりし)などの専門家や税務署に確かめてください。

税務署(ぜいむしょ)の職員や税理士(ぜいりし)は、調べて知った事を人に話せる?

話せません。税務署の職員が調査の仕事で知った秘密を漏らすと、2年以下の拘禁刑(こうきんけい)又は100万円以下(えんいか)の罰金と国税通則法で決まっています。税理士も、正当な理由なく仕事で知った秘密を漏らしてはいけないと税理士法で決まっています。

条件・例外

個別の判断は、税理士などの専門家や税務署に確かめてください。

会社(法人)は、帳簿(ちょうぼ)や領収書を何年残す?

その事業年度(じぎょうねんど)の確定申告書(しんこくしょ)の提出期限の翌日から7年間です。青色申告(あおいろしんこく)で欠損金(けっそんきん)が出た事業年度などは10年間です。

条件・例外

個別の判断は、税理士(ぜいりし)などの専門家や税務署(ぜいむしょ)に確かめてください。

個人事業(こじんじぎょう)主が作った請求書(せいきゅうしょ)の控えも、残しておく?

残します。事業所得(じぎょうしょとく)のある人は、白色申告(しろいろしんこく)でも、受け取った領収書のほか、取引のために作った請求書なども整理して残し、書類は5年間保存します。

条件・例外

青色申告(あおいろしんこく)の人には、別の決まりがあります。個別の判断は、税理士(ぜいりし)などの専門家や税務署(ぜいむしょ)に確かめてください。

この話の用語

反面調査(はんめんちょうさ)漫画の中で見る
現実の事実本人の申告の正しい事実をつかむために、取引先など本人以外の人に行う調査です。国税通則法で、税務署(ぜいむしょ)の職員は本人にお金を払う義務のある人にも質問し、帳簿(ちょうぼ)を見せるよう求められます。法令上の事前通知(じぜんつうち)の決まりは無いものの、原則として先にその取引先へ連絡するとしています。
請求書(せいきゅうしょ)の控え漫画の中で見る
現実の事実事業所得(じぎょうしょとく)のある人は、受け取った領収書だけでなく、取引のために自分で作った請求書なども整理して残します。白色申告(しろいろしんこく)では書類は5年間です。控えがあれば、取引先の支払いの記録と1件ずつ照らし合わせられます。
税理士(ぜいりし)の秘密を守る義務漫画の中で見る
現実の事実税理士は、正当な理由なく、仕事で知った秘密を人に漏らしたり、自分のために使ったりしてはいけない、と税理士法で決まっています。税理士をやめた後も同じです。同じ税理士に2人が頼んでいても、片方の事をもう片方には話しません。
法人の帳簿書類(ちょうぼしょるい)の保存期間(ほぞんきかん)漫画の中で見る
現実の事実会社などの法人は、帳簿(ちょうぼ)と、取引で作ったり受け取ったりした書類を、その事業年度(じぎょうねんど)の確定申告書(しんこくしょ)の提出期限の翌日から7年間残す決まりです。青色申告(あおいろしんこく)で欠損金(けっそんきん)が出た年などは10年間です。取引先の個人の売上を確かめる時にも、この記録が使われます。
税務署(ぜいむしょ)の職員の守秘義務(しゅひぎむ)漫画の中で見る
現実の事実国税の調査や徴収の仕事をする人が、その仕事で知った秘密を漏らしたり盗用したりすると、2年以下の拘禁刑(こうきんけい)又は100万円以下(えんいか)の罰金と国税通則法で決まっています。反面調査(はんめんちょうさ)で取引先に行っても、本人の事情は話されません。

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あなた菅沼が「次の仕事は、少し考えさせてくれ」と言った後、事務所で灰谷と話す場面を考えたい

AI灰谷は菅沼の顧問で、篤の事は話せない立場です。菅沼が篤の事を聞いても、灰谷は中身には答えず、菅沼自身の気持ちを聞き返す形にすると、2人とも決まりを守ったまま話せます。

あなた短い会話で

AI菅沼「あいつの事、何か知ってんだろ」。灰谷「言えないわ。……で、あなたはどうしたいの」。

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この話のあらすじ

11月12日の朝、瀬尾 篤のいちばん大きな取引先の工務店の社長・菅沼 誠二に、税務署(ぜいむしょ)の芦原から電話が入る。灰谷 静江は篤に、取引先に払った額を確かめる反面調査(はんめんちょうさ)だと話し、菅沼の顧問でもある自分は篤の事を菅沼に言えない、自分で言いなさいと告げる。翌日、工務店の事務所(じむしょ)で、芦原は篤への支払いの記録と、篤が紗希と分けて残していた請求書(せいきゅうしょ)の控えを照らし合わせ、仕事の売上は一致したと伝える。何があったのかと聞く菅沼に、芦原は調べて知った事は話せないと答える。店の前で待っていた篤に、菅沼は「俺に、嘘(うそ)ついてないよな」と聞き、篤は2冊目の通帳の事も、会社員の頃の事も、全部を話す。職人には嘘だけはつくなと毎朝言っている菅沼は、「次の仕事は、少し考えさせてくれ」と言う。

作者

ことわり帖

住宅ローンの審査や確定申告、役所の窓口のように、結果だけが届いて理由が見えにくい手続きの裏側を描いています。

この作品について

税務署から電話が来た。直すなら今か、隠し通すか。確定申告を15分で出してきた篤と一緒に、調べられる側の1年をたどってみてください。

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