第4話

第4話「もう一つの窓」

昼の開発部。受話器を置いた鬼塚部長が、険しい顔で立ち上がる。

6月17日。

鬼塚:黒川課長からだ
3月の障害が
他社に漏れている と

鬼塚部長が宇佐美の机の方へ振り向き、見下ろす。枠から頭がはみ出す。

鬼塚:宇佐美
報告書は
誰に送った

報告書の綴りを胸に抱え、青ざめる宇佐美。

宇佐美:黒川さんに
だけです︙︙

宇佐美:私 外には
何も

疑われているのは、
宇佐美さんだ。
前の人生には、
無かった疑いだ。

律:待ってください
確かめさせて
ください

第4話「もう一つの窓」

机の上に、2つの書類を左右に並べる律の手。片方は社内の報告書、片方は白い表紙の他社の提案書。

漏れたのなら、
うちの報告書と、
同じことが
書いてあるはずだ。

律:2つの文章の、違う所だけを挙げて。(自社の障害の報告書/他社の提案書 12ページ)AI:違いは2か所です。①期間:報告書「3月9日〜4月1日(24日間)」、提案書「約3か月にわたり、6月現在も再発のおそれ」 ②影響:報告書「記録は一件も消えていない」、提案書は記載なし(原因は両方とも「サーバーの時刻の設定」で同じです)本日の残り:874

律の目だけの横長の大写し。瞳が細く絞られる。

律:3か月
――前の人生の
長さだ

前の人生で、この不具合は、
宇佐美さんが夏まで、
一人で抱えた。

3か月かかったのは、
あの人生だけだ。

律:向こうが見ているのは
うちの報告書じゃない

律:前の人生の
記憶だ

客先の会議室。律と鬼塚部長が並んで座り、向かいの黒川課長の前に2つの書類を置く。

律:漏れたのなら
うちの報告書の
日付が
そのまま写るはずです

突き合わせ自社の報告書(4月3日、黒川様へ提出):3月9日〜4月1日(24日間)・解決済み他社の提案書:「約3か月にわたり」「6月現在も再発のおそれ」

律:向こうの数字は
私たちが
どこにも書いたことの
無い数字です

老眼鏡をかけた黒川課長が、自分の綴りをめくって確かめる。

黒川:︙︙うちの社内の資料も
全部
「3週間」

黒川:疑って ごめんなさい
宇佐美さんにも
そう伝えて

黒川:でも なら――
この会社は
どこで聞いたの?

律:︙︙言えない

黒川:提案の説明は
6月26日

黒川:2社 並べて
聞きます

夜、別の会社の暗いオフィス。波打つ明るい茶色の髪の若い男が、何もない空中を見上げている。顔が初めて見える。

辻堂:この客に勝つ提案書を書いて。競合より安く、強く見えるように。AI:価格を競合より下げ、実績と「障害ゼロ」を前に出す組み立てにしました。

辻堂:前の人生で
あの客は 3か月の障害で
保守の会社を替えた

辻堂:――今度は 俺が取る

夜の開発部。律が机に分厚い提案依頼書を開き、缶コーヒーを横に置いている。

6月22日、夜。

律:黒川さんの会社が、この入れ替えで一番困っていることは?AI:私には分かりません。提案依頼書(RFP)の「システムの概要」と「依頼事項」を読み、黒川さんの会社の言葉で書かれた困り事を拾ってください。一つ一つに、何をするかを対にして答えましょう。本日の残り:988

提案依頼書(ていあんいらいしょ)(RFP)の解説

現実の事実提案依頼書(RFP、Request For Proposal)は、システムを発注する側(ユーザ)が、開発を頼む候補の会社(ベンダ)に提案を求めるために出す文書です。IPA の「情報システム・モデル取引・契約書」は、記載する基本項目として、システムの概要(開発の経緯・基本方針・狙う効果)、提案依頼の手続き、依頼事項(機能の要件と、性能や運用などの非機能の要件)、開発の体制と環境、保証の要件、契約の事項を挙げています。ベンダは RFP に基づいて提案書を作ります。

RFI とはどう違う?
RFI(情報提供依頼書(じょうほうていきょういらいしょ))は、RFP を作る前に、技術の動き・製品・開発のやり方・価格などの情報をベンダに求める文書です。
提案書には何を書く?
IPA は、提案の要約、システムの構想と構成、性能の見込み、拡張のしやすさ、信頼性とセキュリティ、開発計画(実行上の課題を含む)、推進の体制、期待する効果、今後の課題(決まっていない懸案)、関連する実績などを挙げ、発注する側の必要に応じて取捨選択(しゅしゃせんたく)するとしています。

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提案依頼書の一行に、蛍光ペンで線を引く律の手。

提案依頼書(黒川様の会社)よりシステムの概要:秋の繁忙期の前に、倉庫のシステムを入れ替える。止まると、その日の出荷がすべて止まる。依頼事項:移行の手順。移行の夜に問題が起きた時の対応。

律:一番怖いのは
止まること

律:――なら 書くのは
勝つ方法じゃない

律:止まった時の
戻し方だ

前の人生で、何度も見た。

「できます」しか
書いていない提案書が、
移行の夜に、
燃えるのを。

印刷した提案書の見積もりの紙を手に、律の机の横に立つ鬼塚部長。

鬼塚:向こうより
高いぞ
削れ

律:削れません
戻し方の練習の
2晩分です

鬼塚:︙︙

6月26日、客先の大きな会議室。長い机の片側に黒川課長、向かいに2つの会社が並ぶ。

6月26日。提案の説明。

波打つ明るい茶色の髪の辻堂が、壁の白い画面の前で自信たっぷりに指し棒を構える。

競合の会社の新人辻堂 慧

辻堂:当社の価格は
他社より3割安く

辻堂:移行の夜の障害は
起きません

黒川課長の目だけの横長の大写し。眼鏡の奥で目を細める。

黒川:起きない と言える
根拠は?

黒川:︙︙南雲さん
あなたの所は?

立ち上がって話す律。落ち着いた顔で片手を開く。枠から頭と肩がはみ出す。

律:起きる前提で
書きました

提案書(南雲) 移行の夜① 止まった時は、朝6時までに古いシステムへ戻す(戻し方は、本番の前に2晩、練習する)② 移行の確認の表に「時刻の設定」を入れる(3月の障害の穴を塞ぐ)

提案の段階でのリスクの説明の解説

現実の事実IPA の「情報システム・モデル取引・契約書」は、契約を結ぶ前の企画・提案の段階でも、ベンダは自ら提案するシステムの機能、発注する側の必要をどれだけ満たすか、開発の手法と体制を検討し、そこから想定されるリスクを説明する義務を負うとした裁判例(東京高等裁判所 平成25年9月26日判決)を紹介しています。

どこまで予想して書けばいい?
同じ裁判例は、受注が決まる前の段階でできる確かめには限りがあると認め、その時に得られる情報の範囲で予想できるリスクを前提にしています。逆に、予想できたはずのリスクを説明していないと、責任を問われうると IPA は注意しています。

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黒川課長が手帳に短く何かを書き留め、静かに閉じる。

黒川:結果は
来週 出します

会議の後のエレベーターの前。窓際にもたれて待っていた辻堂が、律の方へ顔を向ける。

辻堂:南雲律

辻堂:宇佐美灯は
元気か?

辻堂の顔の大写し。口元だけ笑い、目は笑っていない。

辻堂:お前
7月1日を
知ってるな

夜。赤い光に照らされた律の顔。目を見開いたまま、拳を握る。

7月1日まで、あと、5日。

第4話「もう一つの窓」

つづく

原作・脚本
H株式会社

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例:AI との相談

あなた辻堂が「7月1日を知ってるな」と言った理由を考えたい

AI3つの線があります。①辻堂も前の人生で、7月1日の朝を見ている ②辻堂は日付だけを知っていて、律から中身を聞き出したい ③辻堂は律を試しているだけ。②なら、2人の駆け引きが続けられます。

あなた②で。2人がもう一度会う場面の台詞を

AI辻堂「教えてやろうか。あの朝、何が止まったか」。律「……要らない。自分で確かめる」。絵:夜の駅のホーム、背中合わせに立つ2人。

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この話で分かること

RFP とは? 提案書は何に答える物?

RFP(提案依頼書、Request For Proposal)は、システムを発注する側が、開発を頼む候補の会社に提案を求めるために出す文書です。IPA の「情報システム・モデル取引・契約書」は、記載する基本項目として、システムの概要(開発の経緯・基本方針・狙う効果)、提案依頼の手続き、依頼事項(機能と非機能の要件)、開発の体制と環境、保証の要件、契約の事項を挙げています。提案書は RFP に基づいて作る、会社を選ぶための最も重要な文書で、RFP に書かれた依頼事項が本当にできるか(実現の見込み)に的確に答える物とされています。

条件・例外

同じ IPA の文書は、契約の前の提案の段階でも、ベンダには、自ら提案するシステムや開発の体制を検討し、想定されるリスクを発注する側に説明する義務があるとした裁判例(東京高裁 平成25年9月26日判決)を紹介しています。前提は、その段階で得られる情報の範囲で予想できるリスクです。提案書の項目(開発計画の実行上の課題、今後の課題など)は、発注する側の必要に応じて取捨選択します。

物語との違い

作中では、律が提案依頼書の「止まると、その日の出荷がすべて止まる」という一文から、止まった時の戻し方を提案に書きます。現実の評価のしかた(価格と中身の重み)は発注する会社ごとに違い、高い提案が必ず選ばれるわけではありません。

提案書に「障害は起きません」と書くのは危ない?

提案の段階でも、想定されるリスクを発注する側に説明することが求められるからです。IPA の「情報システム・モデル取引・契約書」は、契約前の提案の段階でも、ベンダは提案するシステムや開発の体制を検討し、想定されるリスクを説明する義務があるとした裁判例(東京高裁 平成25年9月26日判決)を紹介しています。

条件・例外

前提は、提案の時点で得られる情報から予想できるリスクです。

物語との違い

作中では、辻堂が「移行の夜の障害は、起きません」と言い、黒川課長がその根拠を問います。

システムの入れ替えで、止まった時の戻し方を前もって決めるのはなぜ?

どれだけ確かめても、システムの障害は起こり得るからです。IPA の教訓集は、不測の事態への備えの教訓として「検証は万全?それでもシステム障害は起こる。回避策を準備しておくこと」を挙げています。

条件・例外

同じ教訓集は、作業の途中で起きる思わぬ出来事の例として、切り戻しの時のハードウェアの故障も挙げています。

物語との違い

作中の「朝6時までに古いシステムへ戻す」「戻し方を本番の前に2晩練習する」は、律の提案の中身です。

この話の用語

提案依頼書(ていあんいらいしょ)(RFP)漫画の中で見る
現実の事実提案依頼書(RFP、Request For Proposal)は、システムを発注する側(ユーザ)が、開発を頼む候補の会社(ベンダ)に提案を求めるために出す文書です。IPA の「情報システム・モデル取引・契約書」は、記載する基本項目として、システムの概要(開発の経緯・基本方針・狙う効果)、提案依頼の手続き、依頼事項(機能の要件と、性能や運用などの非機能の要件)、開発の体制と環境、保証の要件、契約の事項を挙げています。ベンダは RFP に基づいて提案書を作ります。
提案の段階でのリスクの説明漫画の中で見る
現実の事実IPA の「情報システム・モデル取引・契約書」は、契約を結ぶ前の企画・提案の段階でも、ベンダは自ら提案するシステムの機能、発注する側の必要をどれだけ満たすか、開発の手法と体制を検討し、そこから想定されるリスクを説明する義務を負うとした裁判例(東京高等裁判所 平成25年9月26日判決)を紹介しています。

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この話のあらすじ

6月17日。客先の黒川課長から、3月の障害が他社に漏れているのではと電話が入り、鬼塚部長は報告書を書いた宇佐美を問い詰める。律は、他社の提案書と自社の報告書を AI に突き合わせさせ、違いを1つ見つける。報告書は「3月9日〜4月1日の24日間」、他社は「約3か月にわたり」。3か月かかったのは、宇佐美が夏まで一人で抱えた前の人生だけだった。律は黒川課長に、どこにも書いたことの無い数字だと示し、宇佐美への疑いを晴らす。6月26日の提案の説明で、競合の新人・辻堂は「3割安く、障害は起きません」と言い、律は提案依頼書の「止まると、その日の出荷がすべて止まる」という一文から、止まった時に戻す手順と、戻し方の練習の2晩分を書いた提案を出す。説明の後、辻堂は律を待っていた。「お前、7月1日を知ってるな」。

作者

H株式会社

トゥーンエルを運営する会社です。H株式会社の「AXタスクフォース」は、AI で仕事の進め方を変える、現場の実行チームです。

この作品について

2015年の開発の現場を舞台に、AI に頼むことと人がやることの分け方を、一話ずつ不具合を解きながら描いています。

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