第1話

第1話「欄干」

縦に長い古い写真。上に夜空と、大きく開いた花火とその奥に小さく開いた花火が縦に重なる。真ん中に灯りの映る暗い川。下に、橋の欄干の前で振り向く若い女性。手前の欄干だけが横に流れてぶれている。フィルムの粒子。

両親の部屋の︑
引き出しの奥に
あった1枚︒

母が26歳の夏︒
撮ったのは︑父︒

場所は︑
2人とも
覚えていない︒

第1話「欄干」

東京の下町︒
写真の現像と︑データ化の店︒

古い小さな写真店の中。棚にネガの袋と古いカメラ、カウンターにフィルムを読み取る機械。首にルーペを下げた若い女性の店主が、カウンターの奥で顔を上げる。夕方の窓の光。

ミツギ写真 2代目の店主三ツ木 遥

カウンターの前に立つ、紺のジャケットの若い男性。古い写真を両手で差し出し、少し緊張した顔。

依頼人(来年の秋に結婚)朝倉 悠斗

朝倉 悠斗:この写真の場所に
両親を
立たせたいんです

朝倉 悠斗:式の前に
同じ1枚を
撮りたくて

三ツ木 遥:隅田川ですね
花火が 2つ

ルーペ越しに見た写真の寄り。夜空に大きく開いた花火と、その奥に小さく開いた花火が縦に重なっている。フィルムの粒子と光のにじみ。

三ツ木 遥:同じ大きさの
玉なら
小さい方が 遠い

打上花火(うちあげはなび)の開く高さと大きさの解説

現実の事実打上花火は、玉の大きさ(号数)で開く高さと広がりがおおよそ決まります。日本煙火(えんか)協会の「煙火百科」の表(割物(わりもの)の例)では、5号玉(ごうだま)は高さ約190〜200mで直径約150〜160m、10号玉は高さ約330mで直径約280〜300mに開きます。同じ大きさの玉なら、遠くで開いた方が小さく見えます。

写真の花火の大きさから、距離が分かる?
同じ大きさの玉だと分かっていれば、写真の中の大きさを比べて、どちらが近いかの見当はつきます。写真だけでは玉の大きさは分からないので、作中のように、重なり方や手前の物など別の手がかりと合わせて確かめます。

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三ツ木 遥:隅田川の花火は
会場が 2つ
あるんです

隅田川花火大会(すみだがわはなびたいかい)の解説

現実の事実東京の隅田川で夏に開かれる花火大会(はなびたいかい)です。2026年(第49回)は7月25日(土)に開かれ、第一会場(桜橋下流〜言問橋上流)と第二会場(駒形橋下流〜厩橋上流)の2か所から、合わせて約20,000発を打ち上げる計画でした。打上の始まりは第一会場が19:00、第二会場が19:30の計画でした(主催者の実施計画概要)。

いつから?
主催者の説明では、享保18年(1733年)に両国橋のあたりの料理屋が上げた花火が「両国の川開き」の始まりとされ、昭和36年(1961年)まで両国橋の上流で続きました。交通事情などで開けなくなった後、昭和53年(1978年)に「隅田川花火大会」と名を改めて復活しました。
会場が2つあると、見え方はどう変わる?
2つの会場は川に沿って離れて並んでいるので、見る場所によって2つの花火が横に並んで見えたり、縦に重なって見えたりします。

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高い所から見下ろした夜の川。川に沿って、離れた2か所に花火を打ち上げる船の灯りが並ぶ。両岸の街の灯り。

三ツ木 遥:2つの会場は
川に沿って
並んでる

三ツ木 遥:縦に重なるのは
川に沿った方角から
見た時だけ

写真の下の方の寄り。橋の欄干の手すりと、その向こうの暗い川面。欄干だけが横に流れてぶれている。

朝倉 悠斗:︙︙じゃあ
川の上の 橋?

〈推理 1枚目の写真〉花火が2つ:大きい方が近く、小さい方が遠い縦に重なる:2つの会場を結ぶ線の上から見た手前に欄干:川に沿った方角の、橋の上

三ツ木 遥:見える とは
言えません

三ツ木 遥:見えたかもしれない
場所なら

店の奥︒

店の奥の畳の部屋。腰にベルトを巻いた白髪の老人が座椅子に座り、古いフィルムカメラを膝にのせて、むっとした顔で振り向く。

ミツギ写真の先代三ツ木 鉄郎

三ツ木 鉄郎:花火の日の道は
歩きながら
見るもんだ

花火大会(はなびたいかい)の観覧(かんらん)の決まり(隅田川花火大会(すみだがわはなびたいかい))の解説

現実の事実主催者の「観覧時のお願い」は、大変な混雑のため歩行者も一方通行の規制があり、歩きながらの観覧になるとしています。道路や公園での場所取りは禁止で、見つかれば撤去されます。防護柵に登る・入ること、他人のマンションや敷地に無断で入ることもやめるよう求めています。

座って見られる所は?
主催者の公式サイトは、市民協賛席(有料の観覧席)のほかに、座って観覧できる場所はないとしています。

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朝倉 悠斗:同じ場所には
立てない︙︙

読み取りの機械の画面いっぱいに、写真を大きく映した所。暗い店の中で、画面の光が店主の横顔を照らす。

三ツ木 遥(つぶやき):︙︙欄干だけ
流れてる

写真のさらに寄り。手前の欄干の手すりは横に長く流れてぶれているのに、奥の花火の光の筋はくっきりしている。

三ツ木 遥:花火は
流れてない

三ツ木 遥:近い物だけ流れるのは
撮った人が
横に動いていたから

カウンター越しに向き合う2人。写真を指さす店主と、目を見開く若い男性。

三ツ木 遥:お父さんは
歩きながら
撮ったんです

朝倉 悠斗:︙︙父さん
止まって
なかったんだ

〈推理 答え〉撮った場所:2つの会場を結ぶ線の上の、川に沿った方角の橋撮り方:歩きながら(手前の欄干だけが流れている)お母さんは、歩きながら振り向いた

三ツ木 遥:来年の夏
同じ方角を
3人で歩いてください

三ツ木 遥:立ち止まらなくていい
お父さんも
止まらなかった

朝倉 悠斗:写真は
撮れますか?

三ツ木 遥:撮るのは
歩き終わってから
決まりは
その年に
一緒に見ましょう

夜の店の前の通り。写真を胸に抱えて歩き出す若い男性の後ろ姿。少しだけ振り返って頭を下げる。街灯と光のにじみ。

その夜︒暗室︒

赤い灯だけの暗室。古い机の引き出しの奥から、ネガの袋を取り出す店主の手。全体が赤い一色。
細い横の帯の寄り。赤い灯の下で、細長いネガの帯を光にかざした所。ネガの袋に小さな紙の札が付いている。ライトボックスの上で、ネガを反転して映した古い夜の写真。川の上に開いた花火と、その手前に、今は無い高い煙突の影。

札には︑
「1978」とだけ︒

今の地図には無い︑
高い煙突︒

暗室の戸口に立つ老人。廊下の暗がりに体の半分が沈み、赤い灯が目元だけを照らす。

三ツ木 鉄郎:その場所は
言わん

第1話「欄干」

つづく

次の話 10月28日(水)更新

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あなた祖父が「その場所は、言わん」と言った後の、遥の夜を考えたい

AI遥が暗室でネガをもう一度光にかざし、煙突の影の向きを測り始める形にすると、言わない祖父と、確かめずにいられない孫の違いが出せます。

あなたその線で、台詞を

AI遥(つぶやき)「影は、左に長い」。ネガを置いて「……言わなくても、写ってる」。絵:赤い灯の下で、ネガに定規を当てる遥の手。

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この話で分かること

隅田川花火大会の花火は、どこから見える?

2つの会場は川に沿って離れて並んでいるので、川に沿った方角から見ると2つの花火が縦に重なって見え、川を横から見ると並んで見えます。どこで見る時も、当日は歩行者も一方通行の規制があり、歩きながらの観覧になると主催者は案内しています。

条件・例外

観覧の決まりや規制は、その年ごとに主催者が出します。立ち止まってよいか・入ってよい所かは、その年の主催者の案内で確かめます。

物語との違い

作中の写真と橋は架空の場面で、特定の橋から見えることを示す物ではありません。

隅田川花火大会の会場はどこ? 何発?

2026年(第49回)は7月25日(土)に開かれ、第一会場(桜橋下流〜言問橋上流)と第二会場(駒形橋下流〜厩橋上流)の2か所から、合わせて約20,000発を打ち上げる計画でした。打上の始まりは第一会場が19:00、第二会場が19:30の計画でした(主催者の実施計画概要)。

打上花火は、どのくらいの高さで開く?

打上花火は、玉の大きさ(号数)で開く高さと広がりがおおよそ決まります。日本煙火協会の「煙火百科」の表(割物の例)では、5号玉は高さ約190〜200mで直径約150〜160m、10号玉は高さ約330mで直径約280〜300mに開きます。同じ大きさの玉なら、遠くで開いた方が小さく見えます。

条件・例外

表は割物の例のおおよその値です。

隅田川花火大会は、いつから?

主催者の説明では、享保18年(1733年)に両国橋のあたりの料理屋が上げた花火が「両国の川開き」の始まりとされ、昭和36年(1961年)まで両国橋の上流で続きました。交通事情などで開けなくなった後、昭和53年(1978年)に「隅田川花火大会」と名を改めて復活しました。

この話の用語

打上花火(うちあげはなび)の開く高さと大きさ漫画の中で見る
現実の事実打上花火は、玉の大きさ(号数)で開く高さと広がりがおおよそ決まります。日本煙火(えんか)協会の「煙火百科」の表(割物(わりもの)の例)では、5号玉(ごうだま)は高さ約190〜200mで直径約150〜160m、10号玉は高さ約330mで直径約280〜300mに開きます。同じ大きさの玉なら、遠くで開いた方が小さく見えます。
隅田川花火大会(すみだがわはなびたいかい)漫画の中で見る
現実の事実東京の隅田川で夏に開かれる花火大会(はなびたいかい)です。2026年(第49回)は7月25日(土)に開かれ、第一会場(桜橋下流〜言問橋上流)と第二会場(駒形橋下流〜厩橋上流)の2か所から、合わせて約20,000発を打ち上げる計画でした。打上の始まりは第一会場が19:00、第二会場が19:30の計画でした(主催者の実施計画概要)。
花火大会(はなびたいかい)の観覧(かんらん)の決まり(隅田川花火大会(すみだがわはなびたいかい))漫画の中で見る
現実の事実主催者の「観覧時のお願い」は、大変な混雑のため歩行者も一方通行の規制があり、歩きながらの観覧になるとしています。道路や公園での場所取りは禁止で、見つかれば撤去されます。防護柵に登る・入ること、他人のマンションや敷地に無断で入ることもやめるよう求めています。

出典

更新日:

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この話のあらすじ

東京の下町の写真店「ミツギ写真」に、結婚を控えた朝倉悠斗が、両親の若い頃の写真を持ち込む。隅田川の花火と、橋の欄干の前で振り向く若い母。両親は撮った場所を覚えていない。2代目の店主・三ツ木遥は、写真の中の2つの花火の大きさと重なりから、2つの会場を結ぶ線の上の、川に沿った方角の橋で撮ったと割り出す。だが当日の道は、歩きながら見る決まり。同じ場所には立てないと落ち込む悠斗に、遥は写真の手前の欄干だけが流れていることに気づく。父は、歩きながら撮っていた。その夜、遥は祖父の机の奥から「1978」の札のネガを見つける。写っていたのは隅田川の花火と、今は無い高い煙突。祖父は言う。「その場所は、言わん」。

作者

ハナビミエル開発者

花火が見える可能性を地図で探すサービス、ハナビミエルを作っています。花火の見え方を調べる中で気づいた事を、漫画にしています。

この作品について

写真の中の手がかり(花火の大きさと重なり・手前の物・山の線・街の灯り)から、撮った場所を割り出す連作の推理の物語です。作中の花火大会の日時・会場・観覧の決まりは、主催者の公式の発表で確かめて描いています(確かめた日と出典は各話の解説に)。作中の見え方は推理の例で、その場所から見えることや、立ち止まって見てよいことを示す物ではありません。観覧は、その年の主催者の案内に従ってください。写真店「ミツギ写真」と人物、作中の写真は架空です。作者は、花火が見える可能性を地図で探せる参考マップ(β版)「ハナビミエル」(運営:H株式会社)を作っている人です。

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