第6話

第6話「御前査定」

真昼の王城の謁見の間を高い所から見下ろす。高い窓の光、長い赤い敷物、両側に並ぶ貴族と商人。

御前査定︒

王の前で︑
北の丘の土地の値を︑
一つに決める︒

同じ謁見の間の奥。玉座の王の前に、神殿の白い衣のグレゴール、赤いビロードのベルント、そして帳面を抱えたケイとリタが並ぶ。

ノエラ:北の丘の土地
値は 三つ
出ております

北の丘の土地の値(御前査定に出された物)グラナート商会(机の上):銀貨10枚大神殿の神託(真夜中の札):銀貨10枚査定士見習いケイ:――

玉座の前で、指輪の手を広げて笑うベルント。後ろに商会の仲買人たち。

ベルント:商会と 神
二つの値が
同じ10枚

ベルント:小僧の値など
聞くまでも
ありますまい

王:聞こう

王:理由のある値ならば

第6話「御前査定」

謁見の間の真ん中に進み出て、帳面を開くケイ。後ろでリタが分厚い帳を胸に抱える。

ケイ:この土地は
毎日 稼いでいます

査定書|北の丘の土地(10日の数え)入った組:1日に平均 31組入場料:1組 銅貨20枚(銅貨100枚で銀貨1枚)1日の入場料:31 × 20 = 銅貨620枚 = 銀貨6.2枚

リタ:冬の3か月は
組が半分に減る
ギルドの帳に
書いてあります

査定書|1年の稼ぎ(総収益)冬でない日 273日 + 冬の日 92日 × 半分 = 319日分銀貨6.2枚 × 319日 = 銀貨 約1,978枚

ケイ:ここから
かかる物を引く

丘の上の柵と見張り小屋を、少し上から見た製図のような絵。柵の修理の所・見張りの立つ所・けが人を運ぶ道に、青い点線と矢印が重なる。

査定書|1年にかかる物(総費用)見張り 2人:1人1日 銀貨1枚 × 365日 × 2 = 730枚柵の修理(夜の魔物):120枚けが人の手当て:100枚合わせて:銀貨 950枚

査定書|1年の純収益総収益 1,978枚 - 総費用 950枚純収益:銀貨 約1,028枚

前の世界では︑
稼ぐ不動産の値を︑
こう出した︒

1年の純収益を︑
還元利回りで割る︒

直接還元法(ちょくせつかんげんほう)(収益還元法(しゅうえきかんげんほう))の解説

現実の事実収益還元法は、その不動産(ふどうさん)が将来生み出すと見込まれる純収益(じゅんしゅうえき)の、今の値打ちの合計から値を出す方法です。そのうち直接還元法は、1年など一期間の純収益を還元利回り(かんげんりまわり)で割って値を出します(P=a÷R。P 収益価格(しゅうえきかかく)、a 一期間の純収益、R 還元利回り)。純収益は、一般に1年を単位として、総収益(そうしゅうえき)から総費用を引いて出します。

還元利回りは、どう決める?
不動産鑑定評価基準(ひょうかきじゅん)は、似た不動産の取引の事例から出す方法などを挙げ、地方・用途・品等によって違う傾向があるので、地域と個別の事情を見て決めるとしています。
DCF法との違いは?
DCF法は、何年かの期間ごとの純収益と、期間の終わりに売る時の値(復帰価格(ふっきかかく))を、それぞれの時期に応じて今の値打ちに割り戻して合計する方法です。

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真上から見た王都の宿の売買の帳。何行もの記録の横に、ケイの指が一行ずつ印を付けていく。字は読めない線。

査定書|還元利回り(似た物の売買の帳から)王都の宿・貸し店:1年の純収益 ÷ 売れた値 = およそ8%魔物の出る土地:危うさの分を足して +4%この土地の還元利回り:12%

ケイ:危ない土地は
同じ稼ぎでも
安く買われる

ケイ:だから
利回りを上げる

謁見の間。光る青い〈査定書〉の窓を背に、まっすぐ王を見上げるケイ。どよめく貴族たちがぼける。

1,028 ÷ 0.12

目を見開き、指輪の手を止めるベルントの顔の寄り。

ケイ:収益価格
銀貨
約8,570枚

査定書|北の丘の土地(収益還元法・直接還元法)純収益 銀貨 約1,028枚 ÷ 還元利回り 12%収益価格:銀貨 約8,570枚

貴族たち:10枚の土地が
8,500︙︙!

玉座の前に詰め寄るベルント。顔を紅潮させ、指をケイに突きつける。

ベルント:神託は
10枚と告げた!

ケイ:では 伺います

ケイ:10枚の土地から
商会は
毎年いくら
取っていましたか

査定書|この土地の1年の入場料(10日の数えから)銀貨 約1,978枚――商会の見張りの男たちが、毎日取っていた

言葉に詰まり、指輪の手を握りしめるベルント。後ろの仲買人たちが目をそらす。

値は︑
理由で決まる︒

10枚に︑
理由は無かった︒

灰色の石の札の縁に刻まれた、小さな印の細い寄り。印の形は読めない模様。謁見の間。灰色の石の札と、開いた神殿の大きな帳を両手に掲げて進み出るグレゴール。

グレゴール:神殿の
鑑定官として
申し上げる

グレゴール:真夜中の神託の札
その印が
神殿の帳の頁と
合わぬ

グレゴール:神託は
80年 黙っていた
︙︙あの夜も
黙っていたのだ

大神殿の帳|北の丘の土地神託の札の印:帳に無い真夜中の札は、神殿の帳の頁と合わない

玉座から立ち上がる王。片手を上げ、謁見の間が静まる。

王:北の丘の土地は
商会に売らぬ

王:麓の道は
王家が借りる
道の主に
借り賃を払え

謁見の間の後ろの扉の陰で、粉だらけの前掛けを握りしめて泣き笑いするマーラ。

マーラ:あたしの
裏庭の道に
値が
付いたよ︙︙!

夕方の王城の回廊。並んで歩くケイとリタ。リタが帳を胸に抱えて笑い、ケイは窓の外の北の丘を見る。

リタ:10日
数えてよかった

ケイ:数えたのは
リタとドーラさんだ

夜の神殿の書庫。蝋燭の光の中で、古い値帳を机に開き、ケイを待っていたグレゴール。

グレゴール:小僧
打ち明けることがある

グレゴール:値帳は
80年
直されなかった
だけではない

蝋燭の光の下、古い値帳の頁の端。紙の色が一枚だけ違い、綴じ糸が新しい。字は読めない線。

グレゴール:︙︙何枚かの頁が
書き換えられて
いる

80年前︑
王国は一度だけ︑
すべての土地の値を
帳に書いた︒

値帳(ねちょう)と、明治の地券(ちけん)の解説

作中の世界の決まり「値帳の頁(ぺーじ)が書き換えられていた」は物語の中の出来事です。

現実の事実この世界の値帳は、王国が80年前に一度だけ、すべての土地の値を書いた帳で、神殿が持ちます。現実の日本では、明治の地租改正(ちそかいせい)で、土地の持ち主に「地券」を渡し、地券に書いた地価の3%を税(地租(ちそ))として金銭で納めさせました。

地券には何が書かれていた?
明治政府が出した全国共通の地券の表には、一筆(いっぴつ)ごとの土地の所在・地目(ちもく)・面積・地価・所有者などが書かれました。売買などで持ち主が変わると地券台帳(ちけんだいちょう)を直し、明治11年からは地券の裏の書換え欄で書き換えるようになりました。地券は明治22年に廃止され、土地台帳(とちだいちょう)に替わりました。

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暗い書庫で、値帳の頁を見下ろすケイの目の大写し。蝋燭の金と、青焼きの青い影。

ケイ:誰が
値を
動かした

第6話「御前査定」

つづく

次の話 10月27日(火)更新

原作・脚本
地番堂
作画
地番堂

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あなた書き換えられた値帳の頁を、ケイはどう確かめる?

AI書き換えた頁と、その近くの土地の売買の帳を突き合わせ、値の動き方が合わない所を探す線が考えられます。リタが紙の色と綴じ糸の新しさに気づく場面にもできます。

あなたベルントの側も一場面

AIベルント「頁を書き換えたのは、わしではない。……わしの父だ」。絵:夜の商会の書斎、古い肖像画を見上げるベルントの背中。

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この話で分かること

収益還元法の計算は?(直接還元法)

直接還元法では、1年など一期間の純収益を還元利回りで割って値(収益価格)を出します。式は P=a÷R(P 収益価格、a 一期間の純収益、R 還元利回り)です。純収益は、一般に1年を単位として、総収益から総費用を引いて出します。

物語との違い

作中の数字(1日平均31組、銅貨20枚、純収益約1,028枚、還元利回り12%、収益価格約8,570枚)は物語の中の値で、計算の手順だけを現実の基準に合わせています。

収益還元法とは? どんな不動産に使う?

不動産が将来生み出すと見込まれる純収益の、今の値打ちの合計から値を出す方法です。不動産鑑定評価基準は、貸す不動産や事業に使う不動産の値を出す時に特に有効だとし、自分で使う不動産でも、貸したと想定して使うとしています。

条件・例外

基準は、取引の値が大きく上がっている時に、先走りがちな取引の値を確かめる手段としてもこの方法を使うべきだとしています。

還元利回りは、どう決める?

不動産鑑定評価基準は、似た不動産の取引の事例から出す方法、借入金と自己資金の利回りから出す方法などを挙げ、地方・用途・品等によって違う傾向があるので、地域と個別の事情を見て決めるとしています。

物語との違い

作中では、王都の宿や貸し店の売買の帳から利回りを出し、魔物の出る土地の危うさの分を足しています(物語の中の数字)。

直接還元法と DCF法の違いは?

直接還元法は一期間の純収益を還元利回りで割ります。DCF法は、何年かの期間ごとの純収益と、期間の終わりに売る時の値(復帰価格)を、それぞれの時期に応じて今の値打ちに割り戻して合計します。

この話の用語

直接還元法(ちょくせつかんげんほう)(収益還元法(しゅうえきかんげんほう))漫画の中で見る
現実の事実収益還元法は、その不動産(ふどうさん)が将来生み出すと見込まれる純収益(じゅんしゅうえき)の、今の値打ちの合計から値を出す方法です。そのうち直接還元法は、1年など一期間の純収益を還元利回り(かんげんりまわり)で割って値を出します(P=a÷R。P 収益価格(しゅうえきかかく)、a 一期間の純収益、R 還元利回り)。純収益は、一般に1年を単位として、総収益(そうしゅうえき)から総費用を引いて出します。
値帳(ねちょう)と、明治の地券(ちけん)漫画の中で見る
作中の世界の決まり「値帳の頁(ぺーじ)が書き換えられていた」は物語の中の出来事です。
現実の事実この世界の値帳は、王国が80年前に一度だけ、すべての土地の値を書いた帳で、神殿が持ちます。現実の日本では、明治の地租改正(ちそかいせい)で、土地の持ち主に「地券」を渡し、地券に書いた地価の3%を税(地租(ちそ))として金銭で納めさせました。

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この話のあらすじ

王の前の御前査定。北の丘の土地には、グラナート商会の机の上の値(銀貨10枚)と、真夜中に鳴った神託の札(銀貨10枚)が出ている。ケイは、10日数えた入場料(1日平均31組、1組銅貨20枚)から1日の稼ぎを銀貨6.2枚と出し、リタがギルドの帳で確かめた「冬の3か月は組が半分」を入れて、1年の総収益を約1,978枚とする。見張り2人・柵の修理・けが人の手当てで総費用950枚、純収益は約1,028枚。前の世界の収益還元法(直接還元法)のとおり、王都の宿や貸し店の売買の帳から出した利回り約8%に、魔物の出る土地の危うさの分を足した12%で割り、収益価格を銀貨約8,570枚と示す。ベルントが「神託は10枚と告げた」と迫ると、ケイは「10枚の土地から、商会は毎年いくら取っていたか」と問い、1年の入場料約1,978枚を示す。神殿の鑑定官グレゴールは、真夜中の神託の札の印が神殿の帳の頁と合わないと証言する。王は土地を商会に売らず、麓のパン屋の裏庭の道は王家が借り賃を払って借りると決める。その夜、グレゴールはケイに打ち明ける。値帳は80年直されなかっただけでなく、何枚かの頁が書き換えられていた。

作者

地番堂

土地と建物の値がどう決まるのかを、異世界の物語にして描いています。

この作品について

土地や建物の値の出し方(取引事例比較法・原価法・収益還元法)と、事故物件の告知の決まりを、神託だけで値を決める異世界の王国に置きかえて描いています。

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