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第6話「買い取ります、来週にでも」

門の前。手前に、グレーのスーツの男性が両手で差し出す名刺の寄り(字は読めない)。名刺の向こうに、麦茶のコップを持ったまま目を丸くする、髪を首の後ろで結んだ女性と、腕を組んだ首にタオルの30代の男性。白い昼の光。少し下から。

宮部 千夏:買取︙︙?

宮部 航:俺が
呼んだ

髪を首の後ろでゆるく結んだ女性の顔の寄り。目を見開いて、横の弟を振り返る。麦茶のコップが傾く。白い昼の光。

宮部 千夏:え︙︙

会社員。実家を売るか迷っている宮部 千夏

宮部 航:先週
北条さんが
帰ったあと
電話した

門の前のグレーのスーツの40代の男性の胸から上。短く刈った髪、細い笑い目。名刺入れを胸ポケットにしまいながら、横を向いてにこやかに笑う。白い昼の光。目の高さ。

買取の会社の担当桐生

実家の居間を少し上から。座卓の手前の左に女性、その右に首にタオルの男性が並んで座り、向かいの右でグレーのスーツの男性が書類の封筒を座卓に置く。奥の仏壇に、年配の女性の小さな写真。障子越しの白い光。

千夏の弟。実家の近くに住む宮部 航

宮部 千夏:北条さんの所と
何が
違うんですか

グレーのスーツの40代の男性の寄り。片手を自分の胸に当て、もう片方の手のひらを前へ差し出して、細い目でにこやかに話す。障子越しの白い光。少し下から。

桐生:北条さんは
買う人を
探すお手伝い

桐生:うちは
うちが
買う人です

不動産の買取の解説

現実の事実不動産会社が、自分で買い主になって家を買う売り方です。宅地建物取引業法(たくちたてものとりひきぎょうほう)は、会社が自分で当事者(とうじしゃ)として売り買いする場合と、売り買いの代理・媒介(ばいかい)(仲介)をする場合を分けて書いています。仲介は買う人が見つかるまで待ちますが、買取は会社が買うので、決まるまでが早く、広告や見学(内覧)を受けずに済む事が多い売り方です。

買取だと、値段は安くなる?
会社が直して売り直す費用や、売れ残る心配を見込むので、仲介で売り出す値段より低い額が出る事があります。いくらになるかは会社と家しだいなので、仲介の査定(さてい)と並べて比べます。

出典

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女性の胸から上。座卓の上で、指を1本ずつ折って何かを数え、目だけ上を向く。障子越しの白い光。

桐生:なので
仲介手数料も
いただかないんですよ

仲介手数料(ちゅうかいてすうりょう)(買取の時)の解説

現実の事実仲介手数料は、不動産会社が売り買いの代理・媒介(ばいかい)(仲介)をした時に受け取る報酬(ほうしゅう)で、上限は国が決めています(宅地建物取引業法(たくちたてものとりひきぎょうほう) 第46条)。会社が自分で買い主になる買取では、仲介をしていないので、この報酬は生まれません。その代わり、買取の額そのものに会社の費用が見込まれています。

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宮部 千夏:先週の
48万8,400円が
……0?

首にタオルの30代の男性の寄り。腕を組み、横目でスーツの男性の手元の書類を見る。日焼けした顔、無精ひげ。障子越しの白い光。目の高さ。

桐生:お家を見に来る方を
何組も
上げる事も
ありません

〈桐生さんの買取の額〉950万円契約から引き渡しまで:早ければ2週間お家の中の物:そのままで

女性の顔の寄り。口を半分開け、光るスマホ(画面は見えない)を持つ手が止まる。障子越しの白い光。少し上から。

宮部 千夏:えっ……
北条さんの
1,280万より
330万も?

グレーのスーツの男性の寄り。笑みを消し、眉を少し寄せて前を見る。座卓に両手を置く。障子越しの白い光。目の高さ。

桐生:うちが直して
売り直すまでの
費用と

桐生:売れ残る心配を
うちが
持ちますので

真上から座卓。買取の申込みの紙(字は読めない線だけ)の1行を、スーツの男性の指が指す。横に電卓と緑茶の湯のみ、手前に封筒。

桐生:古いお家なので
あとで
雨漏りが
出ても

桐生:宮部さんに
責任は
求めませんので

契約不適合責任(けいやくふてきごうせきにん)の解説

現実の事実売った物が、種類・品質・数で契約の中身に合わなかった時に、売り主が負う責任です。買い主は直す事などを求められます(民法 第562条)。古い家を売った後に雨漏りが見つかった時なども、契約の中身しだいで、この責任が問われる事があります。

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女性の胸から上。とまどった顔で、隣の弟の方へ目をやる。手前にスーツの男性の肩。障子越しの白い光。

桐生:ええ
そういう
特約で
買うんですよ

責任を負わない特約の解説

現実の事実売り主が、契約不適合の責任を負わないと約束(特約)する事もできます。ただし、知っていて買い主に言わなかった事は、特約があっても責任を免れません(民法 第572条)。知っている傷みや雨漏りは、契約の前に伝えておきます。

売り主が不動産会社の時も同じ?
違います。不動産会社が自分で売り主になる時は、宅地建物取引業法(たくちたてものとりひきぎょうほう) 第40条で、買い主に不利な特約が制限されています(期間を引き渡しから2年以上とする特約を除く)。

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女性の横顔と、その奥で腕を組んだまま床を見る首にタオルの男性。2人の間に座卓の角。障子越しの白い光。少し上から。

宮部 千夏:航 なんで
勝手に

宮部 航:は?
勝手じゃ
ねえよ

首にタオルの男性が、座布団を押しのけて勢いよく立ち上がる。腰から下と、畳を踏む足、ずれた座布団。少し下から。(「ガタッ」の描き文字つき)

宮部 航:売りに出したら
知らない人が
見に来るんだろ

全面の1枚。居間から奥の台所の入口に立つ首にタオルの男性の背中を、手前に大きく。その向こうに母の古い台所:磨かれた古いガス台、窓の光、壁にかかった花柄のエプロン、やかん。男性の手が入口の柱をつかむ。奥行きのある縦に長い構図。

宮部 航:母さんの
台所を
何組も

宮部 航:値札つけて
庭に
看板立てて

宮部 航:︙︙それが
嫌なんだよ

女性の顔の寄り。目がうるみ、片手で口元を押さえて、台所の弟の背中を見る。障子越しの白い光。

宮部 千夏:それ︙︙
私も
ちょっと
嫌だった

居間の全景を少し上から。座卓に並んで座り直す女性と首にタオルの男性。少し離れて、グレーのスーツの男性が膝に手を置いて静かに待つ。奥の棚に写真。障子越しの白い光。

桐生:では
契約の日に
手付として
50万円を

手付(てつけ)(不動産の売買)の解説

現実の事実売買の契約の時に、買い主が売り主に渡すお金です。民法では、相手が契約どおりの事に取りかかる前なら、買い主は手付を手放して、売り主は手付の倍の額を返して、契約をやめられます(第557条)。いくら渡すか、いつまでやめられるかは、契約書(けいやくしょ)で決めます。

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グレーのスーツの男性の寄り。手帳を開き、ペンの先で日付の欄を指す(字は読めない)。細い目でにこやかに。

桐生:早ければ
来週の土曜
10時に

首にタオルの男性の寄り。台所の入口に立ったまま、指で鼻をこすり、目をそらして口の端で少し笑う。窓の光。

宮部 航:︙︙おう
来週で
いい

月曜︒
ならべる査定の窓口︒

白い蛍光灯の窓口の部屋。前髪のある黒のボブの若い女性がヘッドセットで電話を受け、メモに手を伸ばす。隣の席で、茶の長い髪を低く結び、ヘッドセットを首にかけた女性がキーボードを打つ。少し上から。

一括査定「ならべる査定」窓口の新人芦田 真帆

同じ窓口の3年目小野寺 円

宮部 千夏(電話の声):頼んだ会社さんに
伝えてほしくて

宮部 千夏(電話の声):弟が呼んだ
買取の会社さんに
決めそうなので

ヘッドセットの若い女性の寄り。目を見開き、ペンを持つ手が止まる。白い蛍光灯。

芦田 真帆:えっ
買取︙︙
ですか

隣の席の茶の長い髪を低く結んだ女性を横から。ヘッドセットを首にかけ、画面を見たまま静かに口を開く。白い蛍光灯。

小野寺 円:決めるのは
宮部様
だからね

古い小さな不動産屋の店の中。木のカウンターで、受話器を耳に当て、目を閉じて聞く50代の男性。手元に1枚の紙。縁なしの眼鏡、ベージュのカーディガン。窓の昼の光。

町の不動産屋の2代目北条 匡

芦田 真帆(電話の声):宮部様
買取の会社さんに
決めそうだと︙︙

北条 匡(電話の声):そうですか

北条 匡(電話の声):︙︙航さんが
呼んだんですね

ヘッドセットの若い女性の寄り。驚いて、受話器のマイクに手を添える。白い蛍光灯。

芦田 真帆:え どうして
それを

50代の男性の寄り。外した眼鏡を指にかけ、窓の外を見て、口の端だけで笑う。受話器を耳に。窓の昼の光。少し下から。

北条 匡(電話の声):あの家の庭
毎週
きれいでしたから

北条 匡(電話の声):買取も
いい道です
早くて
確かだ

寄り。木のカウンターの上の古い封筒の束(字は読めない)に、男性の指が置かれる。受話器のコード。窓の昼の光。

北条 匡(電話の声):決める前に
お母様の
書類の箱を

北条 匡(電話の声):お2人で
一度
開けてくださいと

ヘッドセットの若い女性の寄り。手帳のメモにペンを当てたまま止まり、眉を寄せて迷う。白い蛍光灯。

芦田 真帆:会社さんの言葉を
そのまま
伝えていいの?

小野寺 円:希望を伝えるのが
窓口だよ
両方のね

若い女性の横顔の寄り。唇を結び、キーボードを打ち始める。白い蛍光灯。

芦田 真帆:︙︙はい
お伝えします

その夜︒
片付けの続きで︑
千夏は実家に残った︒

夜の実家の居間を少し上から。電灯1つ。片付けの段ボールの間に座る、髪を首の後ろで結んだ女性が、スマホの画面(白い光だけ)を見る。奥の棚に小さな写真。

〈ならべる査定 窓口から〉北条さんからのご伝言です「決める前に、お母様の書類の箱を、お2人で一度開けてください」

女性を少し下から。スマホを胸に当てたまま、押し入れの上の段を見上げる。電灯の暖かい光。

宮部 千夏:書類の
箱︙︙?

宮部 千夏:お母さん
大事な物は
いつも
あそこに

寄り。開いた押し入れの上の段の奥に、古い四角いお菓子の缶。ふたに貼った小さな紙(字は読めない)。下の段に布団。電灯の光が缶の縁に当たる。

宮部 千夏(電話の声):航 お母さんの
書類の箱って︙︙

宮部 航(電話の声):︙︙知らねえ
土曜で
いいだろ

夜の実家の壁のカレンダーの寄り。土曜のますに赤い丸(数字と字は読めない線だけ)。横の柱に、母が付けた古い背くらべの傷。電灯の光。

今週の土曜︑10時︒

母の家は︑
売れるはずだった︒

つづく

第6話「買い取ります、来週にでも」

つづく

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

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この話で分かること

家の「買取」と「仲介」は、何が違う?

仲介は、不動産会社が買う人を探す手伝いをする売り方で、買う人が見つかるまで待ちます。買取は、不動産会社が自分で買い主になる売り方で、決まるまでが早く、広告や見学(内覧)を受けずに済む事が多い売り方です。宅地建物取引業法(たくちたてものとりひきぎょうほう)も、会社が自分で売り買いする場合と、代理・媒介(ばいかい)(仲介)をする場合を分けて書いています。

条件・例外

買取の額は、会社が直して売り直す費用や売れ残る心配を見込むので、仲介で売り出す値段より低くなる事があります。両方の額を並べて比べます。

買取で売ると、仲介手数料(ちゅうかいてすうりょう)はかかる?

仲介手数料は、売り買いの代理・媒介(ばいかい)をした時の報酬(ほうしゅう)なので(宅地建物取引業法(たくちたてものとりひきぎょうほう) 第46条)、会社が自分で買い主になる買取では生まれません。

条件・例外

買取の会社と別に仲介の会社が間に入る時は、その会社への手数料(てすうりょう)がかかる事があります。契約の前に、誰が買い主で、誰に何を払うかを確かめます。

売った後に雨漏りが見つかったら、売り主の責任になる?

売った物が契約の中身に合わない時は、売り主が責任を負うのが原則です(民法 第562条の契約不適合責任(けいやくふてきごうせきにん))。ただし、責任を負わないと約束する特約もでき、その時も、知っていて言わなかった事は責任を免れません(民法 第572条)。

条件・例外

売り主が不動産会社の時は、宅地建物取引業法(たくちたてものとりひきぎょうほう) 第40条で買い主に不利な特約が制限されます。

家の売買の手付金(てつけきん)は、後で契約をやめられるお金?

民法では、相手が契約の中身に取りかかる前なら、買い主は手付を手放して、売り主は倍の額を返して、契約をやめられます(第557条)。いつまでやめられるか、いくら渡すかは契約書(けいやくしょ)で決めます。

この話の用語

不動産の買取漫画の中で見る
現実の事実不動産会社が、自分で買い主になって家を買う売り方です。宅地建物取引業法(たくちたてものとりひきぎょうほう)は、会社が自分で当事者(とうじしゃ)として売り買いする場合と、売り買いの代理・媒介(ばいかい)(仲介)をする場合を分けて書いています。仲介は買う人が見つかるまで待ちますが、買取は会社が買うので、決まるまでが早く、広告や見学(内覧)を受けずに済む事が多い売り方です。
仲介手数料(ちゅうかいてすうりょう)(買取の時)漫画の中で見る
現実の事実仲介手数料は、不動産会社が売り買いの代理・媒介(ばいかい)(仲介)をした時に受け取る報酬(ほうしゅう)で、上限は国が決めています(宅地建物取引業法(たくちたてものとりひきぎょうほう) 第46条)。会社が自分で買い主になる買取では、仲介をしていないので、この報酬は生まれません。その代わり、買取の額そのものに会社の費用が見込まれています。
契約不適合責任(けいやくふてきごうせきにん)漫画の中で見る
現実の事実売った物が、種類・品質・数で契約の中身に合わなかった時に、売り主が負う責任です。買い主は直す事などを求められます(民法 第562条)。古い家を売った後に雨漏りが見つかった時なども、契約の中身しだいで、この責任が問われる事があります。
責任を負わない特約漫画の中で見る
現実の事実売り主が、契約不適合の責任を負わないと約束(特約)する事もできます。ただし、知っていて買い主に言わなかった事は、特約があっても責任を免れません(民法 第572条)。知っている傷みや雨漏りは、契約の前に伝えておきます。
手付(てつけ)(不動産の売買)漫画の中で見る
現実の事実売買の契約の時に、買い主が売り主に渡すお金です。民法では、相手が契約どおりの事に取りかかる前なら、買い主は手付を手放して、売り主は手付の倍の額を返して、契約をやめられます(第557条)。いくら渡すか、いつまでやめられるかは、契約書(けいやくしょ)で決めます。

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AI真帆が伝言の文を何度も書き直し、自分の言葉を足しかけて消す形にすると、「希望を伝えるのが窓口」を自分で選ぶ所が見えます。円は隣で何も言わずに待ちます。

あなたその線で、台詞を

AI真帆「『ぜひ』って、足したら……」円「それは、芦田さんの希望でしょ」真帆「……北条さんの言葉のまま、送ります」

送る質問あらすじを踏まえて、次の話の展開を一緒に考えて

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この話のあらすじ

門の前で名刺を出した男は、買取の会社の桐生。呼んだのは航だった。北条が帰った後、自分で電話をかけていた。居間で千夏が「北条さんの所と、何が違うんですか」と聞くと、桐生は「北条さんは、買う人を探すお手伝い。うちは、うちが買う人です」と答える。会社が自分で買うので仲介手数料(ちゅうかいてすうりょう)はかからず、家を見に来る人を上げる事もない。額は950万円。北条の1,280万円より330万円低い。桐生は、直して売り直す費用と売れ残る心配を会社が持つからだと言い、古い家なので後で雨漏りが出ても責任は求めない特約で買うと話す。「航、なんで勝手に」。航は立ち上がり、台所の入口で言う。「売りに出したら、知らない人が見に来るんだろ。母さんの台所を、何組も。値札つけて、庭に看板立てて。……それが、嫌なんだよ」。千夏は「それ……私もちょっと、嫌だった」。桐生は手付50万円と、早ければ来週の土曜10時の契約を示し、航は「……来週で、いい」。月曜、千夏は窓口に、頼んだ会社へ「買取の会社に決めそう」と伝えてほしいと頼む。真帆の電話に北条は「……航さんが、呼んだんですね。あの家の庭、毎週きれいでしたから」「買取も、いい道です」と言い、1つだけ伝言を頼む。「決める前に、お母様の書類の箱を、お2人で一度開けてください」。真帆は円の「希望を伝えるのが、窓口。両方のね」で、伝える事にする。その夜、伝言を読んだ千夏は、押し入れの上の段の古いお菓子の缶を見上げる。今週の土曜、10時。母の家は、売れるはずだった。

作者

あいみつ舎

比べて選ぶ人と、比べられる人。申込みの向こう側の両方を描いています。

この作品について

査定の後にかかってくる電話の断り方、査定額の根拠の聞き方、売るか決めかねている時の進め方を、家族・不動産会社・窓口のそれぞれの言い分から見ていけます。

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