第1話

第1話「ご不在のため、持ち戻りました」

夜の一人暮らしの部屋。ベッドに寝転がってスマホを見る青年。部屋の隅に、たたんだ段ボールの山。

俺の部屋のドアには︑
今月︑12枚目の
不在票が挟まっている︒

シロツメ便 ご不在連絡お荷物をお届けに参りましたが、ご不在でした。再配達のご依頼は、こちらから。

光るスマホの画面を、親指で軽く叩く手。

戸倉 航:再配達なんて︑
ボタン一つだろ︒

再配達のご依頼 受け付けましたお届け希望:明日 19時〜21時置き配:利用しない

ベッドの上で大あくびをする青年。半分閉じた目、手からずり落ちそうなスマホ。

家電量販店の販売員(遅番が多い)戸倉 航

遅番の帰りは︑
いつも22時︒
19時に家にいたことなんて︑
一度もない︒

戸倉 航:あ︙︙なんか︑
ポチった︙︙
かも︙︙

ミツバ通販 ご注文ありがとうございました23:59 お届け予定:10月22日(木)

真っ暗な中に、段ボールの継ぎ目から差す細い光の筋。「ガタン」の描き文字。

揺れる︒
段ボールの匂い︒
――体が︑動かない︒

トラックの荷台。棚にぎっしり積まれた大小の段ボール箱。真ん中の茶色い箱に、驚いた点の目と大きく開いた口が浮かんでいる。

戸倉 航:俺︙︙
箱に
なってる!?

〈お届け状況〉お問い合わせ番号 4521-8890-3317お届け先:戸倉 航 様品名:――(あなたが知っています)差出人:ミツバ通販状況:配達中

お届け先は︑
俺︒
俺あての荷物が︑
俺だった︒

この荷物は、あなたです。あなたが自分で選んだ受け取り方で配達が完了した時、あなたは戻ります。保管期限を過ぎると、差出人へ返送します。

荷台の扉を開けた女性ドライバーが、朝の光を背に、こちら(床の箱)を見下ろす。「ガラッ」の描き文字。

シロツメ便 配達ドライバー日比野 めぐる

戸倉 航:おい!
出してくれ!
俺は人間だ!

箱を両手で持ち上げたまま固まるドライバー。目を丸くして、こめかみに汗の粒。

日比野 めぐる:︙︙今︑
荷物が
しゃべった?

戸倉 航:しゃべった!
戸倉航!
27歳!

日比野 めぐる:伝票の名前と
同じだね︒

日比野 めぐる:︙︙で︑
どこに届ければ
いいの︒

戸倉 航:俺の部屋!
コーポ柊の
203!

日比野 めぐる:知ってる︒
伝票に
書いてある︒

昼の町を上から。止めた緑と白のトラック、台車に箱を積んで階段を駆け上がるドライバー、次の家へ走る背中。

めぐるは走る︒
止めて︑降ろして︑
鳴らして︑
また乗る︒

シロツメ便 本日の配達予定 142個午前中 38|14-16時 27|16-18時 2418-20時 29|19-21時 24

戸倉 航:142個︙︙
全部︑
今日!?

日比野 めぐる:うん︒
で︑君は
十九時から二十一時︒

運転席に飛び乗るドライバーが、横目で助手席の箱を見る。箱の点の目が見返している。

日比野 めぐる:君︑先月も
同じ時間を
指定したよね︒

戸倉 航:覚えて
んの!?

日比野 めぐる:3回︑
持ち戻ったからね︒

助手席でどんよりと縦線を背負う箱。運転席のドライバーは前を向いたまま、口の端で笑っている。

戸倉 航:3回︙︙
俺のせいで︑
3回︙︙

夜。三階建ての古いマンション「コーポ柊」。廊下の明かりがともり、前の道に緑と白のトラックが止まっている。
ドライバーの指が、二〇三号室のチャイムのボタンを押す。「ピンポーン」の描き文字。

19時12分︒
俺の部屋の︑
チャイム︒

ドライバーの腕に抱えられた箱の目の高さから見た、閉じたままの玄関のドア。廊下の蛍光灯だけが明るい。

誰も︑出ない︒
当たり前だ︒
俺は︑ここにいるんだから︒

ドアの郵便受けに、不在票を差し込む手。

ご不在連絡票戸倉 航 様お荷物をお届けに参りましたが、ご不在でした。シロツメ便 港南営業所

〈お届け状況〉状況:ご不在のため持ち戻り(1回目)保管期限:あと7日

戸倉 航:自分の部屋に︑
不在票を
入れられた︙︙

夜の街灯の下。止めたトラックの後ろの段に腰かけて水を飲むドライバー。隣に、あの箱。

日比野 めぐる:その一個のために︑
もう一回
来るんだよ︒

戸倉 航:でも︑
ボタン一つで
無料だし︙︙

日比野 めぐる:無料なのは︑
君だけ︒

街灯の下、すり減って底のはがれかけた運動靴と、日に焼けたふくらはぎ。

もう一回来るのは︑
同じトラックと︑
同じ人の︑
同じ足だ︒

再配達率(国土交通省・2026年4月の調査)宅配に関わる大手6社の宅配便 約332万個のうち再配達 約25万個(約7.6%)都市部 8.5%|都市部近郊 7.2%|地方 6.0%

再配達率の解説

現実の事実宅配便のうち、受取人の不在などで一度で渡せず、もう一度届けた荷物の割合です。国土交通省の令和8年(2026年)4月期の調査では、宅配に関わる大手6社の合計で約7.6%(約332万個のうち約25万個)でした。

地域で違う?
同じ調査で、都市部は8.5%、都市部近郊は7.2%、地方は6.0%でした。
前より減っている?
国土交通省によると、コロナ禍の前は約15%程度で推移していました。令和7年4月期は約8.4%、10月期は約8.3%、令和8年4月期は約7.6%です。国の目標は6%です。

出典

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戸倉 航:13個に
1個︙︙?

日比野 めぐる:昔は︑
もっと多かった︒
それでも︑
まだ半分にはならない︒

夜、トラックの荷台の前で、ドライバーの手が箱をぽんと叩く。

日比野 めぐる:明日も19時︒
それまでに︑
ちゃんと
家にいなよ︒

戸倉 航:いられないん
だって!

夜の営業所の倉庫。蛍光灯の下の高い保管の棚に、戻ってきた荷物が並ぶ。上の段に小さく、あの箱。

営業所の︑保管の棚︒
俺と同じ︑
戻ってきた箱たち︒

帰りじたくのドライバーが棚の前で立ち止まり、真顔で上の段の箱を見上げる。

日比野 めぐる:︙︙さっき︑
君の部屋の前で
聞こえたんだけど︒

日比野 めぐる:ドアの向こうで︑
スマホが
鳴りっぱなしだった︒

見上げるドライバーの目のアップ。蛍光灯の光が瞳に映る。

日比野 めぐる:君︑
今︑
どこにいるの?

〈お届け状況〉お届け先:戸倉 航 様受取人:所在不明

俺は︑ここにいる︒
――でも︑
俺を受け取れる俺は︑
どこにもいない︒

ご不在につき、俺を持ち戻ります

第1話「ご不在のため、持ち戻りました」終

この作品を読んだあなたへ

この話で分かること

再配達とは? どのくらいある?

宅配便を届けた時に受取人が不在などで渡せず、もう一度届けることです。国土交通省の令和8年(2026年)4月期の調査では、宅配に関わる大手6社の宅配便の約7.6%(約13個に1個)が再配達でした。

条件・例外

都市部は8.5%、都市部近郊は7.2%、地方は6.0%。大手3社の合計(参考値)は8.8%です。調査は毎年4月と10月に行われています。

物語との違い

作中の宅配会社「シロツメ便」の配達の数(1日142個など)は架空の値です。

再配達はなぜ減らない?

再配達率はコロナ禍の前は約15%程度で推移していましたが、令和8年4月期は大手6社で約7.6%まで下がりました。それでも国の目標の6%には届いていません。国土交通省の検討会の取りまとめは、大手宅配事業者の無料の会員サービスで置き配などの対面以外の受け取り方がすぐ使えるのに、実際に使っている会員は4分の1程度にとどまると指摘しています。

条件・例外

時間帯を指定しても、その時間に家にいなければ再配達になります。受け取る側が、家にいなくても受け取れる方法を選ぶことが減らす近道です(第2・3話)。

再配達が減ると、何が変わる?

国土交通省の検討会の取りまとめは、2019年時点の約15%程度から令和7年4月の水準(大手3社の合計で9.5%)まで再配達率が下がったことで、約6,000万時間に相当する労働コスト、トラックドライバー約3万人に相当する輸送力不足の改善、年間約7.1万トンの二酸化炭素の削減が見込まれるとしています。

この話の用語

再配達率漫画の中で見る
現実の事実宅配便のうち、受取人の不在などで一度で渡せず、もう一度届けた荷物の割合です。国土交通省の令和8年(2026年)4月期の調査では、宅配に関わる大手6社の合計で約7.6%(約332万個のうち約25万個)でした。

出典

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この話のあらすじ

家電量販店の販売員・戸倉航は遅番が多く、時間指定の「19時〜21時」に家にいたことが無い。今月12回目の再配達を頼み、寝ぼけたまま何かを注文した翌朝、航は自分あての段ボール箱になって、シロツメ便のトラックの荷台で目を覚ます。航にだけ見える〈お届け状況〉の窓には、自分で選んだ受け取り方で配達が完了すれば戻れること、保管期限を過ぎると差出人へ返送されることが書かれていた。声が聞こえるのは、ドライバーの日比野めぐるだけ。19時12分、めぐるが航の部屋のチャイムを鳴らしても誰も出ず、航は自分の部屋に不在票を入れられて持ち戻られる。めぐるは「その一個のために、もう一回来るんだよ」と言い、航は再配達が宅配便の約13個に1個(国土交通省、2026年4月)あることを知る。夜の営業所で、めぐるは、航の部屋の中でスマホが鳴りっぱなしだったと告げる。窓に1行が足される。受取人:所在不明。

作者

空車ノート

人と荷物を運ぶ仕事の現場を描いています。

この作品について

宅配便の再配達がなぜ減らないか(国土交通省の再配達率)、時間帯指定と置き配の仕組み、置き配の盗難は誰の責任か、物流の2024年問題(ドライバーの時間外労働の上限)を、自分あての荷物になってしまった男の7日間で描いています。宅配会社「シロツメ便」と通販「ミツバ通販」は架空で、時間帯の区切りなどはシロツメ便の決まりです。

制作に生成 AI を使用。企画・編集:H株式会社・利用ガイド

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