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第5話「雨の日の、1割」

上から見下ろす雨の商店街。車道の左の端に、ハザードを点けた配達のトラックが3台つながって止まり、花屋の前に白い配達の車。自転車の通る隙間が無い。歩道で、傘をさした2人の担当者が向き合う。ぬれた路面に店の灯りが映る。

約束の金曜。夕方5時前。雨。花屋の前の歩道。

春日 ひより:本当に
塞がってる

女性の顔の寄り。傘の柄を握り、下唇をかんで、雨の車の列を見る。

ひなた損保 物損の示談担当(5年目)春日 ひより

一ノ瀬 遼:ハザード
ずらっと

夜に止めた車の非常点滅表示灯(ひじょうてんめつひょうじとう)(ハザード)の解説

現実の事実ハザードランプは、法令では非常点滅表示灯と呼ぶ灯火です。夜間、幅5.5メートル以上の道路に車を止める時は、非常点滅表示灯か尾灯を点けなければなりません(道路交通法施行令 第18条)。後ろの車や自転車(じてんしゃ)に、止まっている車を早く知らせます。

明るい所なら?
道路の照明などで、後ろ50メートルから車がはっきり見える場所に止める時などは別です(同じ第18条)。止めてよい場所かどうかは、駐車・停車の決まりで別に決まっています。

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一ノ瀬 遼:朔也くんの
言うとおりだ
車道は
走れない

傘を少し傾けて、暮れていく雨の空を見上げる眼鏡の男性。脇にファイルを抱える。後ろの花屋の前に白い配達の車。街灯が点いている。

あさなぎ海上 示談担当一ノ瀬 遼

一ノ瀬 遼:春日

一ノ瀬 遼:今日の
日の入り
何時か
知ってる?

少し上から見た雨の商店街の引き。花屋の前に止まる白い配達の車の奥で、傘をさした女性がスマホを手に顔を上げる。

春日 ひより:え?

〈東京の日の入り〉11月はじめ:16時40分ごろ

夜間のライト(日没から日の出まで)の解説

現実の事実道路交通法は、日没から日の出までを「夜間」とし、その間に道路にいる車は前照灯・車幅灯・尾灯などを点けるよう決めています(第52条)。空がまだ明るく見えても、日没を過ぎれば法律では夜間です。日の入りの時刻は、国立天文台の暦計算室で場所と日付ごとに調べられます。

昼でも点ける時は?
トンネルの中や濃い霧の中などで、50メートル(高速道路では200メートル)先が見えないような暗い場所を通る時は、昼でも点けます(道路交通法施行令 第19条)。
自転車(じてんしゃ)は?
自転車などの軽車両(けいしゃりょう)も、夜間は公安委員会が定める灯火を点けます(道路交通法施行令 第18条)。

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一ノ瀬 遼:5時すぎは

一ノ瀬 遼:もう
夜だ

一人称の構図。男性の手が持つスマホの画面に、店の防犯カメラの映像。雨の夕暮れに、ライトの点いていない白い配達の車が、暗い店先から歩道へ出かけている。画面の光が雨粒に反射する。字は無い。

一ノ瀬 遼:吉岡さんの車
ライトが
点いてない

女性の担当者の顔の寄り。傘の柄を握ったまま、目を見開いて固まる。手前に、スマホを差し出す男性の袖。

春日 ひより:映像は
見てたのに

春日 ひより:もう夜
だなんて

止まったトラックのミラーの向こう、雨の歩道に傘をさして立つ眼鏡の男性。こちらをまっすぐ見る。

一ノ瀬 遼:この件

一ノ瀬 遼:1割
こっちに
寄せて
ほしい

女性の担当者の顔の寄り。傘の下で、悔しさに頬と目のまわりが赤く染まり、涙ぐんで唇を結ぶ。

一ノ瀬 遼:ライトが
点いてなかった
分︑だけ

眼鏡の男性の横顔の寄り。眼鏡に雨の粒。道の方へ目をやる。

春日 ひより:でも
雨の日は

春日 ひより:止まるまでの
距離が
延びる

停止距離(ていしきょり)(雨の日は延びる)の解説

現実の事実運転する人が危ないと感じてブレーキが効き始めるまでに進む距離(空走距離)と、ブレーキが効いてから止まるまでの距離(制動距離)を合わせた距離です。交通の方法に関する教則は、雨にぬれた道路では制動距離が長くなり、ぬれた路面でタイヤがすり減っている時の停止距離は、乾いた路面でタイヤの状態が良い時の2倍程度に延びる事があるとしています。

疲れている時は?
教則は、運転する人が疲れている時は、危ないと分かって判断するまでに時間がかかるので、空走距離が長くなるとしています。

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春日 ひより:朔也くんも
速さを
落とすべき
だった

女性の胸から上。人差し指を立てて言い返す。

一ノ瀬 遼:それは
車も
同じだ

安全運転(あんぜんうんてん)の義務の解説

現実の事実車を運転する人は、ハンドル・ブレーキなどを確実に操作し、道路・交通・車の状況に応じて、他人に危害を与えない速さと方法で運転しなければならない、という決まりです(道路交通法 第70条)。自転車(じてんしゃ)も車両なので、この決まりを守ります。雨や暗さで止まりにくい日は、その分だけ速さを落とします。

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肩ごしの構図。手前に眼鏡の男性の肩と傘が大きくぼけ、その向こうで、同じ軒先の下の女性が一歩も引かずに見上げている。2人の間に雨のすじの幕。

吉岡 雪乃(画面の外の声):あの
ライト︙︙

花屋の店先の戸口。エプロン姿の女性店主が、花のバケツを抱えたまま立ちつくす。手前に男性の肩。

吉岡 雪乃:いつも
暗く
なってから
だったの

薄暮の時間帯(じかんたい)(早めのライト)の解説

現実の事実日没の前後1時間ほどの、空が少しずつ暗くなる時間です。警察庁は、この時間帯は周りの見え方が少しずつ悪くなり、車・自転車(じてんしゃ)・歩く人がお互いを見つけるのが遅れたり、距離や速さが分かりにくくなったりして、事故が多いとしています。暗くなってからでなく、暗くなる前からライトを点けるよう呼びかけています。

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吉岡 雪乃:朔也くんに
謝りたい

上から見た構図。雨の中、花のバケツを足元に置いて、2人の担当者に深く頭を下げる花屋の女性店主。ぬれたエプロンのすそ。

〈2人の担当の案 歩道の件〉吉岡さん:歩道の手前で止まりきらず、ライトも点けていなかった朔也くん:歩道を、すぐ止まれる速さで走っていなかった車道:止まったトラックで塞がっていた割合の案:吉岡さん 8:朔也くん 2(きのうのひなた損保の案 7対3 から、1割動かす)2人の契約者に確かめて決める

女性を少し下から。紙を持って相手を見る。

春日 ひより:吉岡さんは
8で
いいですか

吉岡 雪乃:ライトの分
ちゃんと
持ちます

女性の腰から上。傘の柄を握り、横を見て、少し無理に笑う。

春日 ひより:1割
持って
いかれた︙︙

一ノ瀬 遼:雨の日の
1割だ

雨が︑強くなった︒
バス停の屋根の下へ︒

奥行きのある広い構図。雨のバス停の屋根の下に、少し間をあけて並んで立つ2人。屋根のふちから雨が幕のように落ち、手前にぬれたベンチがぼけて大きく入る。街灯の白い光。

一ノ瀬 遼:︙︙あの日も
雨だったな

真上からバス停のベンチ。立てかけた2本の傘と、2人の靴の先。

春日 ひより:うん
降ってた

春日 ひより:5年前の
言い分
聞くんでしょ

一ノ瀬 遼:︙︙ああ

5年前︒
自動車部の︑最後の日︒

回想。雨の夜の、大学の古い車庫の中。並んだ古い小さな2台の車に、若い男女がそれぞれ乗り込む。淡くあせた色のトーン。
回想。古い小さな車の運転席で、後ろを振り返りながら車を下げる若い頃の眼鏡の男性。助手席の背に手をかけ、雨のリアガラスごしに見ている。
回想。もう1台の古い小さな車の運転席から前を見た構図。ワイパーが雨をはらい、ハンドルを握る若い女性の手。フロントガラスの先に、下がってくる車の後ろ。
回想。雨の中で、古い小さな2台の車のバンパーが軽く触れる所の寄り。雨粒がはねる。

いま︒
雨のバス停︒

バス停の街灯の下、雨の中に立つ眼鏡の男性。閉じた傘を提げ、目を伏せている。

一ノ瀬 遼:下がってたのは
俺だ

一ノ瀬 遼:下がる車が
先に見る

バス停の街灯の下で、閉じた傘の柄を握り、うつむく女性。手前にベンチ。

一ノ瀬 遼:︙︙だよな

春日 ひより:︙︙わたしも

春日 ひより:前に
出てた

春日 ひより:じゃあ
どうして

女性の顔の寄り。目に涙をため、胸の前で手を握って、相手を見上げる。

春日 ひより:何も言わずに
行っちゃったの?

眼鏡の奥の男性の目の大写し。何かを言いかけて言えず、レンズに雨のしずくと街灯の光が映る。

一ノ瀬 遼:︙︙

第5話「雨の日の、1割」

つづく

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

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過失は、五分五分で。

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この話で分かること

車のライトは、いつから点けないといけない?

道路交通法は、夜間(日没から日の出まで)に道路にいる車に、前照灯・尾灯などを点けるよう決めています。日没を過ぎれば、空がまだ明るく見えても法律では夜間です。

条件・例外

昼でも、トンネルの中や濃い霧の中などで50メートル(高速道路では200メートル)先が見えない時は、点けなければなりません(道路交通法施行令 第19条)。

雨の日は、止まるまでの距離がどれくらい延びる?

交通の方法に関する教則は、雨にぬれた道路では制動距離が長くなり、路面が雨にぬれてタイヤがすり減っている時の停止距離(ていしきょり)は、乾いた路面でタイヤの状態が良い時の2倍程度に延びる事があるとしています。

条件・例外

雨の日は晴れの日より速度を落とし、車間距離を十分にとるよう勧めています。

夕方の事故が多いのはなぜ?

警察庁は、日没の前後1時間の薄暮の時間帯(じかんたい)は、周りの見え方が少しずつ悪くなり、車・自転車(じてんしゃ)・歩く人がお互いを見つけるのが遅れやすいとして、暗くなる前からの早めのライトの点灯を呼びかけています。

過失割合(かしつわりあい)は、ライトや雨で変わる?

日本損害保険(そんがいほけん)協会は、過失割合は判例をもとにある程度パターン化されていて、それを基本に、事故の時間や走っていた速さなどの要素を踏まえて妥当な割合を認定すると説明しています。

物語との違い

作中の「1割」は、2人の担当がライトの事情から出した案で、雨やライトで決まった数だけ動くという基準ではありません。

この話の用語

夜に止めた車の非常点滅表示灯(ひじょうてんめつひょうじとう)(ハザード)漫画の中で見る
現実の事実ハザードランプは、法令では非常点滅表示灯と呼ぶ灯火です。夜間、幅5.5メートル以上の道路に車を止める時は、非常点滅表示灯か尾灯を点けなければなりません(道路交通法施行令 第18条)。後ろの車や自転車(じてんしゃ)に、止まっている車を早く知らせます。
夜間のライト(日没から日の出まで)漫画の中で見る
現実の事実道路交通法は、日没から日の出までを「夜間」とし、その間に道路にいる車は前照灯・車幅灯・尾灯などを点けるよう決めています(第52条)。空がまだ明るく見えても、日没を過ぎれば法律では夜間です。日の入りの時刻は、国立天文台の暦計算室で場所と日付ごとに調べられます。
停止距離(ていしきょり)(雨の日は延びる)漫画の中で見る
現実の事実運転する人が危ないと感じてブレーキが効き始めるまでに進む距離(空走距離)と、ブレーキが効いてから止まるまでの距離(制動距離)を合わせた距離です。交通の方法に関する教則は、雨にぬれた道路では制動距離が長くなり、ぬれた路面でタイヤがすり減っている時の停止距離は、乾いた路面でタイヤの状態が良い時の2倍程度に延びる事があるとしています。
安全運転(あんぜんうんてん)の義務漫画の中で見る
現実の事実車を運転する人は、ハンドル・ブレーキなどを確実に操作し、道路・交通・車の状況に応じて、他人に危害を与えない速さと方法で運転しなければならない、という決まりです(道路交通法 第70条)。自転車(じてんしゃ)も車両なので、この決まりを守ります。雨や暗さで止まりにくい日は、その分だけ速さを落とします。
薄暮の時間帯(じかんたい)(早めのライト)漫画の中で見る
現実の事実日没の前後1時間ほどの、空が少しずつ暗くなる時間です。警察庁は、この時間帯は周りの見え方が少しずつ悪くなり、車・自転車(じてんしゃ)・歩く人がお互いを見つけるのが遅れたり、距離や速さが分かりにくくなったりして、事故が多いとしています。暗くなってからでなく、暗くなる前からライトを点けるよう呼びかけています。

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AI遼が1人で駅まで歩きながら、5年前の自動車部の最後の日に鞄に入れたままの封筒を思い出す、とすると、言えなかった理由がまだあると読者に伝わり、次の話の約束になります。

あなたその線で、台詞を

AI遼(つぶやき)「……割合は、まだ決められない」。傘を閉じて「あの日のことは、ちゃんと話す」。

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この話のあらすじ

約束の金曜、夕方5時前。雨の商店街の花屋の前で、ひよりと遼は、車道の左に配達のトラックがハザードを点けて並び、自転車(じてんしゃ)が車道を走れない事を確かめる。遼は「今日の日の入り、何時か知ってる?」と聞く。11月はじめの東京の日の入りは16時40分ごろで、5時すぎは道路交通法ではもう夜。店の防犯カメラの映像では、吉岡 雪乃の配達の車はライトを点けていなかった。遼は「1割、こっちに寄せてほしい。ライトが点いてなかった分だけ」と言う。ひよりは、雨の日は止まるまでの距離が延びる、朔也も速さを落とすべきだったと返すが、遼は「それは、車も同じだ」と答える。店から出てきた雪乃は、いつも暗くなってから点けていたと言い、朔也に謝りたいと頭を下げる。2人の案はきのうから1割動いた。雨が強くなり、バス停の屋根の下で、遼が「あの日も、雨だったな」と言う。5年前、自動車部の最後の日。雨の車庫の前で、遼の車は下がり、ひよりの車は前に出ていた。「下がってたのは、俺だ」と言う遼に、ひよりは「わたしも、前に出てた」と返し、「じゃあ、どうして何も言わずに行っちゃったの?」と聞く。遼は黙ったまま答えない。

作者

空車ノート

タクシーの配車や宅配、事故の後の示談、空港の欠航のカウンターのように、人と荷物と乗り物が動く仕事の現場を描いています。

この作品について

駐車場や交差点の事故で割合がどう決まるのか、自分の保険会社が交渉に出られないのはどんな時かが、2人の言い合いの中から見えてきます。

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