第2話

第2話「うちでなければ、だめな理由」

朝の駅前の小さな喫茶店。大きな窓ぎわの席に光が差している。

翌朝︒
駅前の喫茶店︒

窓ぎわの席。小柄な女子学生が足を組み、落ち着いてブラックコーヒーを飲んでいる。向かいでは背の高い眼鏡の男が、そわそわと身を縮めている。

ことは:私の体で︑
足を組まないで
ください!

九条:君の体は︑
足を組むと
腰が楽だ︒

中身は︑
40前の採用課長︒

ことは:どうして︑
私を落としたんですか︒

九条:言わない︒

九条:言葉で聞いた理由は︑
たいてい︑
次の面接では
役に立たない︒

九条:君の評価票︒
③には︑何と
書いてあった?

ことは:︙︙空欄︑
でした︒

テーブルの上。コーヒーカップの横を、女子学生の小さな指先が、とん、と叩く。

九条:書かなかったんじゃない︒
書けなかった︒

九条:君は最終面接で︑
うちに入って
何をしたいかを︑
一度も言わなかった︒

回想。最終面接の部屋。白髪のショートカットに羽織姿の年配の女性が、背筋を伸ばしてまっすぐ問いかけている。向かいにリクルートスーツのことは。

社長(二代目)雛森 千代

雛森:うちでなければ︑
だめな理由は?

ことは:御社の理念に︑
深く共感して︙︙︒
どんな部署でも︑
頑張れます︒

九条:「どこでも頑張れる」は︑
「うちでなくてもいい」と
聞こえる︒

最終面接は︑
できるかどうかより︑
ここで働く姿が
浮かぶかを確かめる
場所だった︒

最終面接の解説

現実の事実選考の最後の面接です。会社によって違いますが、社長や役員など採用を決める立場の人が面接官になることがあり、それまでの面接で確かめた経験や力に加えて、入社後にその会社で何をしたいか、会社の仕事と合うかを確かめる場になることがあります。

最終面接は、顔合わせだけで受かる?
そうとは限りません。最終面接で合否を決める会社もあるので、ほかの面接と同じように準備するのが安全です。
最終面接に落ちたら、力が足りなかったということ?
合否は採用する人数や、ほかの応募者との比べでも変わります。本人の答えだけで決まるとは限りません。

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昼の人事部。机が並び、棚にはお菓子の箱の見本が積まれている。
茶髪のボブの柚木が、分厚いファイルを両手で差し出している。

柚木:課長が見たいって
言ってた︑
去年の最終面接の
評価票です︒

男の大きな手が、表の並んだ紙をめくっている(文字は読めない)。

去年の最終面接 通った人の評価票 ③ 入社後にしたい事「工場で見た包装の工程を、ごみが減る形に変えたい」「地方のお店で売れ残る理由を、自分で確かめたい」「くるみ最中を、留学先の友だちの国で売りたい」

ことは:みんな︑
この会社の︑
具体的な何かを
言ってる︒

ことは:私は︑どの会社でも︑
同じ答えだった︒

柚木:社長の口ぐせですよね︒
「うちでなければ︑
だめな理由は?」

柚木:あれ︑正解は
無いんです︒
答えの中に
「その人」がいるかを
見てるって︒

男の手の中で、スマートフォンに新しい知らせが光る(画面の文字は読めない)。「ピロン」の描き文字。

九条(早瀬ことはの番号)明日10時、ハナミズキ書房の最終面接。君の体で行く。③を、君の言葉で書いて送れ。俺には書けない。

ことは:私の︑
言葉︙︙︒

夜。物の少ない整った部屋。低い机の前で、背の高い眼鏡の男がペンを持ったまま固まっている。床に丸めた紙がいくつも。

夜︒
九条さんの部屋︒

ことは:何がしたいかなんて︑
考えないように
してた︒

ことは:本気で考えて
落ちたら︑
もっと痛いから︒

回想。病院の小児病棟の遊び部屋。パジャマ姿の子どもたちの前で、ことはが絵本を開いて読んでいる。

大学1年から︑
月に一度︑
小児病棟で
絵本を読んでいた︒

男の子:この本︑
どこで売ってるの?
ぼく︑本屋さん
行けない︒

机のあかりの下、男の大きな手が、紙にゆっくり文字を書いている(文字は読めない)。

③ 入社後にしたい事(早瀬ことは)病院の売店に、子どもが自分で選べる絵本の棚をつくりたい。本屋さんに行けない子にも、本を選ぶ楽しさを届けたい。

ことは:︙︙これ︑
お菓子の会社の
面接では︑
言えなかった︒

本当にしたい事が︑
あの会社には
無かった︒
だから︑③は
空欄だった︒

本棚に囲まれた面接の部屋。リクルートスーツの小柄な女子学生(中身は九条)が背筋を伸ばし、三人の面接官と向き合っている。

ハナミズキ書房の面接官:当社でなければ︑
だめな理由は?

九条:病院の売店に︑
子どもが自分で選べる
絵本の棚を
つくりたいからです︒

女子学生(中身は九条)の顔の大写し。まっすぐな目。自分の言葉に、自分で少し驚いているような表情。

九条:小児病棟で︑
本屋に行けない子に
聞かれました︒
「この本︑どこで
売ってるの」と︒

九条:御社は去年から︑
病院の売店に
本を届けている︒
私は︑その棚を
やりたいんです︒

机の向こうの三人の面接官が身を乗り出し、一人がほほえんでうなずいている。
人事部の席で、柚木が目を細めて、こちらをじっと疑うように見ている。

柚木:課長︑今日︑
ずっとスマホ
見てますね︒
︙︙恋ですか?

ことは:ち︑
違います!

夕暮れの駅の歩道橋。スーツの背の高い眼鏡の男が、スマートフォンを耳に当てて立っている。
出版社のビルの前で、リクルートスーツの女子学生(中身は九条)が、首元をゆるめながら電話をしている。

九条:最終︑通った︒
来週︑内定の
連絡が来る︒

ことは:ほんとに︙︙!?

九条:君の③が
良かった︒
俺の答えじゃない︒

九条:――それで︒
内定は︑
受けるつもりだ︒

眼鏡の男(中身はことは)の顔の大写し。息をのんで固まっている。

ことは:待ってください!

九条:戻り方が分からないまま︑
君の体で卒業を
迎えるかもしれない︒
働く場所は︑要る︒

スマートフォンを握りしめる、男の大きな手。指に力が入っている。

ことは:勝手に︑
私の人生を︑
決めないで︒

夜の街灯の下、スーツの男が一人、こぶしを握って立ち尽くしている。

本当にしたい事を︑
やっと言葉にした︒
その言葉で︑
私じゃない誰かが︑
受かった︒

お祈りの裏側 〜面接官になった就活生は、落ちた理由を知りたい〜

第2話「うちでなければ、だめな理由」終

この作品を読んだあなたへ

この話で分かること

最終面接で落ちるのはなぜ?

会社によって違いますが、最終面接では、社長や役員など採用を決める立場の人が、それまでの面接で確かめた経験や力に加えて、入社後にその会社で何をしたいか、会社の仕事と合うかを確かめることがあります。「理念に共感しました」「どんな部署でも頑張れます」だけでは、その会社を選ぶ理由が伝わらず、決め手になりにくくなります。

条件・例外

合否は、採用する人数や、ほかの応募者との比べでも変わります。最終面接に落ちたことが、そのまま本人の力が足りなかったことを意味するとは限りません。

物語との違い

作中の社長の質問「うちでなければ、だめな理由は?」と、評価票の項目は、架空の会社「くるみ座製菓」の物です。

志望動機(志望理由)は、何を話せばいい?

その会社の具体的な仕事・商品・取り組みと、自分の経験から来る「したい事」を結びつけて話すと、「なぜこの会社か」が伝わります。会社のことを調べた事実と、自分の体験の両方が要ります。

条件・例外

調べた事実だけを並べても、自分の体験だけを話しても、「なぜこの会社か」にはなりにくくなります。

最終面接に落ちたのは、力が足りなかったから?

そうとは限りません。合否は面接での評価に加えて、その時に採る人数(枠)や、ほかの応募者との比べでも決まります。最終面接まで進んだことは、それまでの面接の評価の物差しで力が認められたということです。

条件・例外

評価の物差しと面接の質問はあらかじめ決めておくよう、厚生労働省は企業に求めています。何を見られたかを振り返るには、その会社が求人や説明会で示していた「求める人物」と自分の答えを並べてみるのが近道です。

この話の用語

最終面接漫画の中で見る
現実の事実選考の最後の面接です。会社によって違いますが、社長や役員など採用を決める立場の人が面接官になることがあり、それまでの面接で確かめた経験や力に加えて、入社後にその会社で何をしたいか、会社の仕事と合うかを確かめる場になることがあります。

出典

更新日:

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この話のあらすじ

翌朝、駅前の喫茶店で、入れ替わった2人が初めて会う。ことはの体で足を組んでブラックコーヒーを飲む九条は、ことはを落とした理由を言わない。言葉で聞いた理由は、次の面接ではたいてい役に立たないからだ。代わりに九条は、ことはの最終面接の評価票の③「入社後にしたい事」が空欄だったことを告げる。社長の雛森が最終面接で必ず聞く「うちでなければ、だめな理由は?」に、ことはは「御社の理念に共感しました。どんな部署でも頑張れます」と答えていた。「どこでも頑張れる」は「うちでなくてもいい」と聞こえる。会社で去年の最終面接の評価票を読んだことはは、通った人がみな、その会社の具体的な何かを自分の言葉で話していたと知る。明日、九条はことはの体で、ことはの第一志望だったハナミズキ書房の最終面接に行く。その夜、ことはは初めて自分が本当にしたい事を書く。小児病棟で絵本を読んでいた時に聞かれた「この本、どこで売ってるの?」から生まれた、病院の売店に子どもが自分で選べる絵本の棚をつくりたい、という願いだった。九条はその言葉で最終面接を通る。だが電話の向こうで九条は言う。「内定は、受けるつもりだ」。

作者

人事のすみ

採用・面接の仕事を、面接を受ける側と見る側の両方から描いています。

この作品について

面接官が何を物差しに評価し、合否の会議で何が話されるかを、面接官と体が入れ替わった就活生の目で描いています。聞いてはいけない質問の決まりなど、面接の公的なルールも話の中で解説します。

制作に生成 AI を使用。企画・編集:H株式会社・利用ガイド

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