その傷、ダンジョンのせいですか第1話

第1話「その焦げ、竜ですか」

縦に長い絵。上に、狭い1Kの部屋と開いた押し入れのふすま。押し入れの奥から下へ、岩の洞窟が深く続き、いちばん下で巨大な赤い竜が火を吐き、大剣を構えた男が炎の前に立つ。

東京都 練馬区︒
1K︑家賃4.8万円︑
駅から徒歩12分︒

押し入れの奥に︑
迷宮あり︒

ゴオオッ

炎を背に、押し入れから飛び出してくる大柄な剣士。焦げた髪、大剣を肩に担ぎ、歯を食いしばっている。夜の狭いアパートの部屋。押し入れのふすまが吹き飛び、奥から炎の光があふれている。畳の上にポスターと散らかった装備。

轟 大河:退去の日に
出てくんじゃ
ねえ!

ドンッ

翌朝︑午前10時︒

古い2階建てのアパートの外の廊下。クリップボードと付箋だらけの冊子を抱え、メジャーを腰に下げたスーツの若い女性が、103号室の戸の前で深呼吸している。

ひのき住宅管理 退去の立ち会い担当(入社7か月)鷹取 栞

迷宮が部屋に湧くように
なって︑10年︒

湧き部屋(わきべや)(迷宮(めいきゅう)の入口のある部屋)の解説

作中の世界の決まりこの作品の東京では、10年前から部屋の押し入れや物入れの奥に迷宮(ダンジョン)の入口が「湧く」。入口のある部屋は「湧き部屋」と呼ばれ、迷宮から出てきた魔物・竜の息・瘴気(しょうき)が付けた傷は「湧き害(わきがい)」として、住む人のせいにしない(貸す側が「湧き保険」で直す)。住む人の剣・魔法・持ち込んだ物の傷は、住む人の負担。

作中の世界の決まり現実にはありません。作中の世界の決まりです。現実の賃貸でこれに近いのは、地震などの自然災害で付いた傷で、国土交通省のガイドラインは「地震で破損したガラス」を「自然災害による損傷であり、賃借人(ちんしゃくじん)には責任はない」としています。

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鷹取 栞:初めての
1人の
立ち会い

戸を開けて出てくる大柄な男。焦げた髪、ばんそうこう、背中に大剣。眠そうにあくびをしている。

A級の冒険者(剣士)轟 大河

轟 大河:おう
立ち会いか
早く頼む

鷹取 栞:原状回復の
確かめを
します

原状回復(げんじょうかいふく)の解説

現実の事実賃貸を出る時に、借りた人が、借りた後に付けた傷を元に戻すことです。民法 第621条では、通常の使い方で生じた傷み(通常損耗(つうじょうそんもう))と年数による傷み(経年変化(けいねんへんか))は除くとされ、借りた人のせいでない傷も戻す義務はありません。

「借りた時の新品の状態に戻す」こと?
違います。国土交通省のガイドラインは、原状回復を「借りた人の故意・過失(かしつ)、善管注意義務違反(ぜんかんちゅういぎむいはん)、その他通常の使用を超える使用による損耗(そんもう)等を復旧すること」とし、借りた当時の状態に戻すことではないとしています。
いつから決まり?
2020年4月1日に施行された改正民法(かいせいみんぽう)で、通常損耗と経年変化は借りた人が戻さなくてよいことが条文に書かれました(国土交通省の参考資料)。

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6畳の部屋の全体。壁の一面に大きな黒い焦げ、柱に深い刀傷、魔物のポスターと無数の画鋲の穴、冷蔵庫を動かした跡の壁の黒ずみ。押し入れのふすまは閉じている。

鷹取 栞:︙︙なかなか

壁に残る無数の小さな画鋲の穴の寄り。ポスターをはがした跡の四角い日焼けの差。

鷹取 栞:画鋲の穴は
通常の
使い方の
傷みです

轟 大河:え 払わなくて
いいの?

冷蔵庫をどけた後の壁の、ぼんやりした黒ずみの寄り。床に冷蔵庫の脚の跡。

鷹取 栞:冷蔵庫の裏の
黒ずみも
電気ヤケ
です

通常損耗(つうじょうそんもう)(通常の使い方の傷み)の解説

現実の事実普通に住んでいても付く傷みのことで、家賃で賄われているとして、貸す側の負担になります。国土交通省のガイドラインでは、ポスターやカレンダーの画鋲(がびょう)の穴(下地のボードの張り替えが要らない程度)、テレビ・冷蔵庫の裏の壁の黒ずみ(電気ヤケ)、家具の設置による床のへこみなどを例に挙げています。

くぎ穴・ネジ穴も同じ?
ガイドラインでは、重い物を掛けるためのくぎ穴・ネジ穴で、下地のボードの張り替えが要る程度のものは、通常の使用を超えると判断されることが多いとしています。

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木の柱に斜めに深く入った刀傷の寄り。木の繊維がささくれている。メジャーを当てる女性の手。

鷹取 栞:でも
この柱の
傷は

轟 大河:素振り
しただけだ

鷹取 栞:︙︙部屋の
中で?

目をそらして口笛を吹く大柄な男。少しデフォルメされた、大汗の顔。

鷹取 栞:不注意の傷は
借りた人の
負担です

押し入れのふすまから部屋の壁へ、扇のように広がった大きな黒い焦げ。焦げの縁がまだ少しくすぶっている。

轟 大河:その焦げは
竜の息だ

湧き害(わきがい)の解説

作中の世界の決まり迷宮(めいきゅう)から出てきた物(魔物・竜の息・瘴気(しょうき))が付けた傷を「湧き害」と呼ぶ。地震の傷と同じく住む人のせいにせず、貸す側が「湧き保険」で直す。だから退去の日、冒険者はみんな「ダンジョンのせい」と言う。

作中の世界の決まり現実にはありません。作中の世界の決まりです。現実で近いのは、民法 第621条のただし書き「その損傷が賃借人(ちんしゃくじん)の責めに帰することができない事由によるものであるとき」で、借りた人のせいでない傷は、借りた人が戻す義務がありません。

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轟 大河:竜は
入居の前から
いた!

鷹取 栞:迷宮のせいなら
轟さんは
払わなくていい

鷹取 栞:でも
自分の魔法や
火なら――

タブレットの画面に、8年前の同じ部屋の写真。白い壁、焦げは無い。画面を持つ女性の手。画面の文字は読めない。

入居時の確認リスト 2018年4月1日103号室 洋室・東の壁:汚れ・傷 なし押し入れ:迷宮の入口(2017年 届出済み)

入居時(にゅうきょじ)・退去時(たいきょじ)の確認(チェックリスト)の解説

現実の事実国土交通省のガイドラインは、原状回復(げんじょうかいふく)のトラブルの大きな原因は入居時と退去時の物件の確認が足りないことだとして、部屋ごとの傷みをチェックリストに書き、貸す側と借りる側が立ち会って確かめることを勧めています。平面図に書き込む・写真を撮ることも大切だとしています。

写真は役に立つ?
ガイドラインでは、チェックリストなどは後でトラブルになり訴訟などになった時にも証拠の資料になりうるとしています。

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鷹取 栞:入居の日には
焦げは
ありません

轟 大河:だから
奥で竜が
寝てたんだよ!

焦げの縁の寄り。黒い煤が、押し入れの側から外へ向かって筋を引いている。
戸口に立つ、道具箱を提げた白髪まじりの職人の男。作業着、片目の上に古い傷あと、太い腕。逆光。

宇津木 源:焦げの
向きを
見な

内装の職人(元・迷宮の盾役)宇津木 源

しゃがんで焦げの扇の形を指でなぞる職人の男と、その横でメジャーを握って見入る若い女性。押し入れのすき間から赤い光。重い光と影。

宇津木 源:外から内じゃ
ねえ
押し入れの奥から
外へ吹いてる

鷹取 栞:︙︙竜の
息

轟 大河:だから
言ったろ!

〈退去の確かめ 103号室〉画鋲の穴:通常の傷み → 貸す側冷蔵庫の裏の黒ずみ:通常の傷み → 貸す側柱の刀傷:不注意 → 借りる側壁の焦げ:迷宮から(湧き害)→ 貸す側・湧き保険

鷹取 栞:柱だけ
お願いします

轟 大河:︙︙柱だけ
なら

アパートの外の廊下で、大剣を背負ったまま手を振って去っていく大柄な男の背中。

轟 大河:あんた
名前は

鷹取 栞:鷹取です
立ち会いの

立ち会いは︑
終わった︒

空になった6畳の部屋に一人立つ若い女性の背中。夕方の光。押し入れのふすまが、少しだけ開いている。

はず︑
だった︒

暗い押し入れの奥の細い帯の寄り。岩の割れ目の中で、赤く光る何かの筋。押し入れの奥の暗がり。煤と岩のかけらの中に、ひと抱えほどの大きな卵。殻の割れ目から赤い光が漏れている。

コツ︙︙

退去したはずの
竜の――

押し入れの前で四つんばいになり、凍りついたまま奥をのぞく若い女性。顔に赤い光。

鷹取 栞:︙︙入居の
前から
いた?

割れた卵の殻のすき間から、金色の小さな目がこちらを見ている寄り。

竜は︑
退去して
いなかった︒

第1話「その焦げ、竜ですか」

つづく

次の話 10月28日(水)更新

原作・脚本
地番堂
作画
地番堂

制作に生成 AI を使用(生成 AI の使い方)

利用ガイド

続編が待てないあなたへ。違う話を考えたいあなたへ。

第1話の続き、いつもの AI で作ってみてください。

ChatGPTClaudeGeminiふだん使っている AI に、この作品の設定を渡して

  1. 1ボタンを押すいつもの AI を選んで
  2. 2AI が開く作品の設定とあらすじつきで
  3. 3一緒に考える展開・台詞・絵の指示まで
例:AI との相談

あなた押し入れの卵が割れた後の、栞の場面を考えたい

AI栞が逃げずに、まず卵の殻を写真に撮る形にすると、「確かめた事しか書かない」性格が出せます。生まれた竜が栞を親と思い込めば、次の話の騒ぎにつなげられます。

あなた写真を撮る線で、台詞を

AI栞「……退去の日、午後3時12分。押し入れの奥、卵、1つ」竜の子「キュイ」。絵:スマホを構える栞の手と、殻から顔を出す小さな竜。

送る質問あらすじを踏まえて、次の話の展開を一緒に考えて

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AI の答えは、作品の公式の続きではありません。

この作品を読んだあなたへ

この話で分かること

賃貸の原状回復とは? どこまで直す?

借りた人が、借りた後に付けた傷を元に戻すことです。民法 第621条では、通常の使い方で生じた傷み(通常損耗)と年数による傷み(経年変化)は除かれ、借りた人のせいでない傷も戻す義務はありません。借りた当時の新品の状態に戻すことではありません。

物語との違い

作中の「湧き害」「湧き保険」は物語の世界の決まりで、現実にはありません。

退去費用で払わなくていいものは?

国土交通省のガイドラインでは、通常の使い方で付く傷みは貸す側の負担としています。例は、ポスターやカレンダーの画鋲の穴(下地の張り替えが要らない程度)、テレビ・冷蔵庫の裏の壁の黒ずみ(電気ヤケ)、家具を置いた床のへこみ、日焼けによる壁紙や畳の変色などです。

条件・例外

重い物を掛けるためのくぎ穴・ネジ穴(下地のボードの張り替えが要る程度)は、通常の使用を超えると判断されることが多いとしています。契約に特約がある時は、その中身も確かめます。

借りた人が払う傷は?

わざと(故意)や不注意(過失)、手入れを怠ったこと(善管注意義務違反)、通常の使い方を超える使い方で付いた傷です。ガイドラインでは、引越しの作業で付いたひっかき傷、タバコのヤニや臭い、落書きなどを例に挙げています。

地震など、借りた人のせいでない傷は誰が直す?

民法 第621条のただし書きで、借りた人のせいでない傷は、借りた人が元に戻す義務はないとされています。ガイドラインでも、地震で壊れたガラスは自然災害による損傷で、借りた人には責任がないとしています。

物語との違い

作中の「迷宮から来た傷(湧き害)」は、この考え方をもとにした物語の決まりです。

入居の時に写真を撮るべき?

国土交通省のガイドラインは、トラブルの大きな原因は入居時と退去時の確認が足りないことだとして、部屋ごとの傷みをチェックリストにし、貸す側と借りる側が立ち会って確かめ、写真なども使うことを勧めています。後で揉めた時の証拠の資料にもなりうるとしています。

この話の用語

湧き部屋(わきべや)(迷宮(めいきゅう)の入口のある部屋)漫画の中で見る
作中の世界の決まりこの作品の東京では、10年前から部屋の押し入れや物入れの奥に迷宮(ダンジョン)の入口が「湧く」。入口のある部屋は「湧き部屋」と呼ばれ、迷宮から出てきた魔物・竜の息・瘴気(しょうき)が付けた傷は「湧き害(わきがい)」として、住む人のせいにしない(貸す側が「湧き保険」で直す)。住む人の剣・魔法・持ち込んだ物の傷は、住む人の負担。
作中の世界の決まり現実にはありません。作中の世界の決まりです。現実の賃貸でこれに近いのは、地震などの自然災害で付いた傷で、国土交通省のガイドラインは「地震で破損したガラス」を「自然災害による損傷であり、賃借人(ちんしゃくじん)には責任はない」としています。
原状回復(げんじょうかいふく)漫画の中で見る
現実の事実賃貸を出る時に、借りた人が、借りた後に付けた傷を元に戻すことです。民法 第621条では、通常の使い方で生じた傷み(通常損耗(つうじょうそんもう))と年数による傷み(経年変化(けいねんへんか))は除くとされ、借りた人のせいでない傷も戻す義務はありません。
通常損耗(つうじょうそんもう)(通常の使い方の傷み)漫画の中で見る
現実の事実普通に住んでいても付く傷みのことで、家賃で賄われているとして、貸す側の負担になります。国土交通省のガイドラインでは、ポスターやカレンダーの画鋲(がびょう)の穴(下地のボードの張り替えが要らない程度)、テレビ・冷蔵庫の裏の壁の黒ずみ(電気ヤケ)、家具の設置による床のへこみなどを例に挙げています。
湧き害(わきがい)漫画の中で見る
作中の世界の決まり迷宮(めいきゅう)から出てきた物(魔物・竜の息・瘴気(しょうき))が付けた傷を「湧き害」と呼ぶ。地震の傷と同じく住む人のせいにせず、貸す側が「湧き保険」で直す。だから退去の日、冒険者はみんな「ダンジョンのせい」と言う。
作中の世界の決まり現実にはありません。作中の世界の決まりです。現実で近いのは、民法 第621条のただし書き「その損傷が賃借人(ちんしゃくじん)の責めに帰することができない事由によるものであるとき」で、借りた人のせいでない傷は、借りた人が戻す義務がありません。
入居時(にゅうきょじ)・退去時(たいきょじ)の確認(チェックリスト)漫画の中で見る
現実の事実国土交通省のガイドラインは、原状回復(げんじょうかいふく)のトラブルの大きな原因は入居時と退去時の物件の確認が足りないことだとして、部屋ごとの傷みをチェックリストに書き、貸す側と借りる側が立ち会って確かめることを勧めています。平面図に書き込む・写真を撮ることも大切だとしています。

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この話のあらすじ

部屋の押し入れの奥に迷宮が湧くようになって10年の東京。ひのき住宅管理の新人・鷹取栞は、初めて1人で退去の立ち会いに行く。練馬のメゾン万代 103号室に8年住んだA級の剣士・轟大河の部屋には、壁一面の焦げ、柱の刀傷、無数の画鋲の穴、冷蔵庫の裏の黒ずみ。栞は、画鋲の穴と電気ヤケは通常の使い方の傷みで貸す側、柱の刀傷は不注意で借りる側と分けていく。轟は「焦げは竜の息で、竜は入居の前からいた」と言い張る。入居の日の写真に焦げは無い。内装の職人・宇津木源は、焦げが押し入れの奥から外へ吹いていると見抜き、焦げは迷宮から来た「湧き害」と分かる。立ち会いを終えた栞が空の部屋で見つけたのは、押し入れの奥の、割れかけた竜の卵だった。

作者

地番堂

土地と建物の値がどう決まるのかを、異世界の物語にして描いています。

この作品について

賃貸の退去の時の原状回復(民法 第621条・敷金の第622条の2)と、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方(通常の使い方の傷み・年数による傷みは貸す側、わざと・不注意の傷は借りる側、壁紙などは年数で価値が下がる、入居と退去の日に確かめる)を、一次資料で確かめて描いています。ダンジョン・冒険者・「湧き害」・「湧き保険」は作中の世界の決まりで、現実の制度ではありません。「ひのき住宅管理」「メゾン万代」などは架空です。

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