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第6話「確定検査」

夜の小さな事務所。白い蛍光灯の下、ゆるいネクタイの黒須がスマホを耳に当てたまま、空いた手で首の後ろをかく。口もとに、作り笑いが戻りかけている。

黒須 亮(電話の声):︙︙ああ
あれっすか

夜の帳場。真琴の顔の寄り。スマホを耳に当て、パソコンの青白い光の中で眉を寄せる。裸電球の白い光。

曽根 真琴:実績報告は
受け付け
られたんです

曽根 真琴:なのに
冷凍の
設備って︙︙

曽根豆腐店の3代目(29)曽根 真琴

黒須の胸から上。蛍光灯の下でスマホを肩と耳で挟み、手もとの書類にペンを走らせながら、気楽そうに笑う。机の上に、ほかの店の書類の束。

補助金の申請の代行(41)黒須 亮

黒須 亮(電話の声):審査で
点が入るんすよ

黒須の顔の寄り。蛍光灯の白い光の下で、スマホに向かって得意そうに片方の口の端を上げる。

曽根 真琴:点︙︙?

黒須 亮(電話の声):「遠くの店にも
卸す」って

黒須 亮(電話の声):どこも
書いてます

真琴の顔の寄り。パソコンの青白い光を受けて、画面の1行を見つめたまま口が開く。裸電球の白い光。

交付申請の控え 経費の明細充填豆腐機・冷却槽 864万円冷凍庫 36万円合計 900万円補助金(上限) 450万円

真上から。夜の帳場の机でパソコンをのぞき込む真琴。画面の表の1行(字は読めない)に人差し指を当てる。指の先が少し震える。裸電球の白い光。

曽根 真琴:機械は
900万なのに
明細は
864万︙︙?

経費明細表(けいひめいさいひょう)(補助金(ほじょきん)の申請)の解説

現実の事実補助金の申請で、何にいくら使うかを1行ずつ書く表です。交付決定(こうふけってい)は、この表の中身と額をもとに決まります。小規模事業者持続化補助金(第20回の公募要領)では、申請の時に計上していない経費を、後から補助の対象に足すことは原則できません。

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黒須の顔の寄り。笑ったまま、目だけを横へそらす。蛍光灯の白い光。

黒須 亮(電話の声):合計が
合ってりゃ
同じなんで

黒須 亮(電話の声):冷凍庫は
あとで
安いのを買えば

真琴の胸から上を少し下から。スマホを握る手に力が入り、唇を結ぶ。後ろに裸電球。

曽根 真琴:えっ
聞いて
ません

黒須 亮(電話の声):検査の日だけ
置いとけば
大丈夫っす

黒須 亮(電話の声):湊さんとこで
中古を
借りられますよ

真上から。夜の机の端に置いた1枚の名刺(字は読めない)。名刺の上に、真琴の指がそっと載る。裸電球の白い光。

湊さんは︑事務局に
正直に答えた人だった︒

第6話「確定検査」

商工会議所︒

〈補助金事務局 確定検査のお知らせ〉日時:4月20日 10時場所:曽根豆腐店用意する物:機械・帳簿・証拠の書類の原本

商工会議所の相談の部屋。左の土岐が、机の上の確定検査の知らせの紙(字は読めない)を指で押さえる。右の真琴は身を乗り出す。窓の外に若葉と白い空。

土岐 頼子:で 黒須さんは
何て?

真琴の胸から上。前髪を押さえ、言いにくそうに目を伏せて話す。手前の左に土岐の肩。窓の白い光。

曽根 真琴:検査の日だけ
冷凍庫を
借りて置けって

土岐の顔の寄り。眼鏡をかけたまま、片方の眉を上げる。口もとは笑っていない。後ろは相談室の明るい窓。

土岐 頼子:それは
お困り
でしょうね

曽根 真琴:困るのは
黒須さんの
はず
なんですけど

土岐 頼子:代行が書いても
申請したのは
あなたの店

第三者(だいさんしゃ)の支援(補助金(ほじょきん)の申請の代行)の解説

現実の事実補助金の申請を、コンサルタントなどの第三者に手伝ってもらうことはできます。ただ、計画は事業者が自分で考えた物である事が前提です。小規模事業者持続化補助金(第20回の公募要領)では、自ら検討していなかった事が分かると交付決定(こうふけってい)の取り消しになり、支援を受けた相手と支援の金額(着手金・成功報酬(せいこうほうしゅう)など)も書く決まりです。

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土岐の横顔の寄り。眼鏡を外して手に持ち、細めた目でまっすぐ真琴を見る。

土岐 頼子:借りた冷凍庫で
通したら

土岐 頼子:偽りの
報告

〈補助金の、うその報告〉交付決定ごと 取り消し不正の中身の 公表罰則(5年以下の拘禁刑など)

交付決定(こうふけってい)の取り消しの解説

現実の事実補助金(ほじょきん)の決まりや交付決定の条件に反すると、交付決定の全部か一部が取り消されます(補助金適正化法 第17条)。もう受け取っていれば返還を命じられ、受け取った日からの日数(にっすう)に応じて年10.95%の加算金が付きます(第18条・第19条)。小規模事業者持続化補助金の公募要領は、不正に受け取った時は、取り消し・返還に加えて不正の内容の公表や、5年以下の拘禁刑(こうきんけい)・100万円以下(えんいか)の罰金もあり得ると書いています。

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真琴の胸から上。膝の上で両手を握りしめ、青ざめて目を見開く。手前の左に土岐の肩。

曽根 真琴:じゃあ
今から
冷凍庫を
買えば︙︙

土岐 頼子:補助事業は
もう
終わったでしょ

机の上の寄り。土岐の指が、経費の明細の紙(字は読めない)の1行をとんとたたく。手前に、真琴の握った手。そばに大豆の黄色い小袋。

土岐 頼子:中身を
変える時は

補助事業(ほじょじぎょう)の変更(事前の承認)の解説

現実の事実交付決定(こうふけってい)の後に、補助事業の中身や経費の配分を変える時は、変える前に事務局の承認を得ます。小規模事業者持続化補助金(ほじょきん)(第20回の公募要領)では、承認の無い変更や、計画に無い新しい費目の追加は原則認められません。

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真琴の顔の寄り。額に手を当てて、うつむく。窓の白い光。

土岐 頼子:買う前に
事務局の承認

曽根 真琴:あ︙︙
知らな
かった

土岐 頼子:確定検査は
計画と
本物を
照らす日

確定検査(かくていけんさ)(補助金(ほじょきん)の額の確定)の解説

現実の事実実績報告(じっせきほうこく)を受けた国や事務局が、書類の審査と、必要に応じた現地の調査で、計画どおりに物を買って払ったかを確かめ、払う補助金の額を決めることです(補助金適正化法 第15条「額の確定」)。交付決定(こうふけってい)の額は上限で、計画と合わない経費が外れると、確定する額はそれより少なくなります。確かめられない物の分は、補助の対象外(たいしょうがい)です(小規模事業者持続化補助金の公募要領)。

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土岐 頼子:額の確定

〈設備の補助金の手引き 額の確定〉交付決定の明細と 買った物を 照らす買わなかった物は 0円明細の額を超えた分は 補助の外補助金の額は ここで決まる

真上から。机の上の電卓と、経費の明細の紙(字・数字は読めない)。電卓のキーを押す真琴の指。大豆の黄色い小袋。

曽根 真琴:冷凍庫は
0円

真琴の顔の寄り。電卓から顔を上げ、口を小さく開ける。

曽根 真琴:機械は
864万まで

曽根 真琴:432万︙︙
18万
減る

土岐の胸から上。眼鏡をかけ直し、机に両手を組んで、真琴をまっすぐ見る。窓の白い光。

土岐 頼子:450万が
全部消えるのと
18万

土岐 頼子:どっちを
選ぶの?

真琴を少し下から。椅子の上で背すじを伸ばし、膝の上で片手を固く握る。目はまっすぐ。

曽根 真琴:︙︙18万
です

朝の店の前。湯気の流れる戸口で、書類の鞄を下げたスーツの男が頭を下げる。前掛けの真琴が頭を下げて迎え、奥の上がり框で杖の源治が見ている。

穂積 修:確定検査に
参りました

補助金事務局の確定検査の担当(52)穂積 修

朝の作業場。銀色の機械の前にかがんだスーツの男が、機械の横の小さな銘板をカメラで撮る。右で真琴が書類のバインダーを抱えて見守る。「パシャ」の描き文字。寄り。機械の銀色の側面の小さな銘板(字は読めない)と、それに並べて持った納品書の写し(字は読めない)。スーツの男の指。

穂積 修:製造番号
納品書と
同じですね

曽根 真琴:振込の控えと
据え付けの
写真も

作業台でバインダーをめくるスーツの男と、台に肘をついてのぞき込む真琴。湯気の白い光。

穂積 修:きれいに
そろって
ますね

奥の上がり框に座った源治を引きで。杖に両手を載せ、銀色の機械の方を見る。手前の右に、振り向く真琴の頭と肩。

曽根 真琴:よかった︙︙

曽根 源治:そいつは
俺より
よく働く

スーツの男の顔の寄り。奥の源治の方を見て、目じりにしわを寄せて小さく笑う。

穂積 修:頼もしい
ですね

スーツの男の胸から上。バインダーの紙(字は読めない)から顔を上げ、作業場の奥の、何も置いていない壁ぎわを見る。

穂積 修:それで

穂積 修:冷凍の設備は
どちらに?

真琴の顔の寄り。前掛けの黄色いひもを握った手が、胸の前で止まる。一度だけ目を伏せる。
朝の作業場を少し引いて、縦に高く。右に銀色の機械を背にまっすぐ立つ前掛けの真琴、左にバインダーを持ったスーツの男。間の床に、何も無い壁ぎわの空き。奥の戸口で源治が見ている。窓からの白い朝の光と湯気。

曽根 真琴:ありません

スーツの男の顔の寄り。少し眉が上がり、それから目もとがゆるむ。

曽根 真琴:申請書が
店の本当と
違って
いました

穂積 修:︙︙そう
ですか

穂積 修:では
冷凍庫の分は
外します

穂積 修:機械は
交付決定の
864万円まで

寄り。バインダーの紙に、ペンで静かに書き込む男の手(字は読めない)。

穂積 修:検査の日だけ
置いてある店も
あるんです

穂積 修:言ってもらえて
助かります

上がり框の源治の横顔の寄り。目を細め、小さくうなずく。

真琴の父・2代目(64)曽根 源治

5月の終わり︒
事務局から︑紙が届いた︒

〈補助金の額の確定通知書〉曽根豆腐店 様交付決定の額 4,500,000円確定した額 4,320,000円

昼の店の帳場。通知の紙を片手に、スマホを耳に当てる真琴の胸から上。窓からの白い光。
寄り。通知の紙(字・数字は読めない)を持つ真琴の手。親指が、太い字の1行の横で止まる。前掛けの黄色いひも。

土岐 頼子(電話の声):よく
言いましたね

商工会議所の机の土岐。眼鏡を外して手に持ち、受話器を耳に、窓の方を見て口もとだけが少しやわらぐ。

曽根 真琴:え︙︙

土岐 頼子(電話の声):あなたの店の
補助金に
なったわね

曽根 真琴:土岐さんに
褒められたの
初めてです

土岐 頼子(電話の声):あら
そう?

帳場の戸口の黒須の顔の寄り。人のいい笑顔で、白い封筒を胸の前に出す。後ろに作業場の湯気。

黒須 亮:確定
おめでとう
っす

〈請求書 成功報酬〉採択の額 450万円 × 15%675,000円

真琴の目の寄り。机の上の請求書(字は読めない)を見下ろしたまま、まばたきをしない。
帳場を引きで。戸口に立つ黒須、机に座って請求書を手に動かない真琴、奥の上がり框に腰かけて杖を握る源治。作業場の白い湯気がゆっくり流れる。昼の白い光。

黒須 亮:契約どおり
っす

第6話「確定検査」

つづく

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

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この話で分かること

補助金(ほじょきん)の確定検査(かくていけんさ)とは?

実績報告(じっせきほうこく)を受けた国や事務局が、書類の審査と、必要に応じた現地の調査で、計画どおりに物を買って払ったかを確かめ、払う補助金の額を決めることです(補助金適正化法 第15条「額の確定」)。

物語との違い

作中の「設備の補助金」と手引き・確定検査の流れは架空です。

補助金(ほじょきん)は、交付決定(こうふけってい)の額より減ることがある?

あります。交付決定の額は上限で、計画と合わない経費や、確かめられない物の分は対象から外れ、確定する額が少なくなります。小規模事業者持続化補助金(第20回の公募要領)にも、要件を満たさないと交付決定の額より少なくなる場合がある、と書かれています。

交付決定(こうふけってい)の後に、買う物を変えたい時は?

変える前に事務局の承認を得ます。小規模事業者持続化補助金(ほじょきん)(第20回の公募要領)では、経費の配分や中身を変える時は事前の承認が要り、計画に無い新しい費目の追加は原則認められません。

検査でうそをついたら、どうなる?

交付決定(こうふけってい)の全部か一部が取り消され、受け取っていれば返還と年10.95%の加算金が付きます(補助金(ほじょきん)適正化法 第17〜19条)。不正な受給は、内容の公表や、5年以下の拘禁刑(こうきんけい)・100万円以下(えんいか)の罰金もあり得ます。

条件・例外

代行の人が書いた申請書(しんせいしょ)でも、申請したのは事業者自身です。出す前に中身を読みます。

この話の用語

経費明細表(けいひめいさいひょう)(補助金(ほじょきん)の申請)漫画の中で見る
現実の事実補助金の申請で、何にいくら使うかを1行ずつ書く表です。交付決定(こうふけってい)は、この表の中身と額をもとに決まります。小規模事業者持続化補助金(第20回の公募要領)では、申請の時に計上していない経費を、後から補助の対象に足すことは原則できません。
第三者(だいさんしゃ)の支援(補助金(ほじょきん)の申請の代行)漫画の中で見る
現実の事実補助金の申請を、コンサルタントなどの第三者に手伝ってもらうことはできます。ただ、計画は事業者が自分で考えた物である事が前提です。小規模事業者持続化補助金(第20回の公募要領)では、自ら検討していなかった事が分かると交付決定(こうふけってい)の取り消しになり、支援を受けた相手と支援の金額(着手金・成功報酬(せいこうほうしゅう)など)も書く決まりです。
交付決定(こうふけってい)の取り消し漫画の中で見る
現実の事実補助金(ほじょきん)の決まりや交付決定の条件に反すると、交付決定の全部か一部が取り消されます(補助金適正化法 第17条)。もう受け取っていれば返還を命じられ、受け取った日からの日数(にっすう)に応じて年10.95%の加算金が付きます(第18条・第19条)。小規模事業者持続化補助金の公募要領は、不正に受け取った時は、取り消し・返還に加えて不正の内容の公表や、5年以下の拘禁刑(こうきんけい)・100万円以下(えんいか)の罰金もあり得ると書いています。
補助事業(ほじょじぎょう)の変更(事前の承認)漫画の中で見る
現実の事実交付決定(こうふけってい)の後に、補助事業の中身や経費の配分を変える時は、変える前に事務局の承認を得ます。小規模事業者持続化補助金(ほじょきん)(第20回の公募要領)では、承認の無い変更や、計画に無い新しい費目の追加は原則認められません。
確定検査(かくていけんさ)(補助金(ほじょきん)の額の確定)漫画の中で見る
現実の事実実績報告(じっせきほうこく)を受けた国や事務局が、書類の審査と、必要に応じた現地の調査で、計画どおりに物を買って払ったかを確かめ、払う補助金の額を決めることです(補助金適正化法 第15条「額の確定」)。交付決定(こうふけってい)の額は上限で、計画と合わない経費が外れると、確定する額はそれより少なくなります。確かめられない物の分は、補助の対象外(たいしょうがい)です(小規模事業者持続化補助金の公募要領)。

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この話のあらすじ

実績報告(じっせきほうこく)が受け付けられた夜、真琴は黒須に電話で聞く。冷凍の設備は、審査で点が入るように黒須が書き足した物で、経費の明細は「機械 864万円・冷凍庫 36万円」になっていた。黒須は「検査の日だけ、湊さんのところで中古を借りて置けば」と言う。商工会議所(しょうこうかいぎしょ)で土岐は、借りた冷凍庫で通すのは偽りの報告で、交付決定(こうふけってい)ごと取り消され得ると話す。補助事業(ほじょじぎょう)はもう終わっていて、中身を変えるなら買う前に事務局の承認が要った。確定検査(かくていけんさ)は計画と本物を照らす日で、買わなかった冷凍庫は0円、機械は明細の864万円まで。真琴は電卓で432万円、18万円減ると知る。4月20日、事務局の穂積が店に来て、機械の製造番号と納品書、振込の控えと写真を確かめる。「冷凍の設備は、どちらに?」と聞かれ、真琴は「ありません。申請書(しんせいしょ)が、店の本当と違っていました」と答える。5月の終わり、確定した額は432万円。土岐は「よく、言いましたね」と初めて褒める。その日、黒須が成功報酬(せいこうほうしゅう)の請求書(せいきゅうしょ)を持って来る。採択の額450万円の15%、67万5千円。「契約どおり、っす」。

作者

ことわり帖

住宅ローンの審査や確定申告、役所の窓口のように、結果だけが届いて理由が見えにくい手続きの裏側を描いています。

この作品について

採択の知らせから、補助金が入るまで。店の通帳では何が起きるのか。判子を押しかけた豆腐店の3代目・真琴と一緒に、確かめてみてください。

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