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第8話「移行の夜」

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夜の大きな物流倉庫。止まったコンベヤーと高い棚の列。手前の通路に折りたたみの机が並び、ノートパソコンと、長い表を書いたホワイトボード。机の周りに社員たち。

10月10日(土)。

7月、倉庫のシステムの入れ替えは、
うちの会社に決まった。

倉庫のシステムの入れ替え今夜 22:00 → 明朝 6:00止められるのは、この8時間だけ明朝 7:00 日曜の出荷 3,100件

移行のためのシステムの停止の解説

現実の事実古いシステムから新しいシステムへ切り替える間は、業務のシステムを止める時間が要ります。止めてよい日・時間帯(じかんたい)(業務の少ない夜や休日など)は業務の都合で決まり、その制約が移行の計画の大きな前提になります。止められる時間が短いほど、作業の順番と、間に合わない時に戻す手順を細かく決めておく必要があります。

止めずに入れ替えることはできる?
新旧を並べて動かす(並行稼働(へいこうかどう))、拠点や業務ごとに段階的に切り替えるなどの方法もあります。どれにするかは、止められる時間と、移行の危うさとの兼ね合いで決めます。

出典

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倉庫の作業の机の横。サーバーの棚の前で、腕まくりの鬼塚部長が片手を高く上げて合図し、大きく口を開けて叫ぶ。後ろに律・宇佐美・黒川課長。下から見上げる角度。

鬼塚:古い
システム
止めるぞ!

開発部の部長鬼塚

第8話「移行の夜」

律の横顔の寄り。眉を寄せ、右上の何もない所を見上げている。その方向から冷たい青い光が顔に当たる。

中身は39歳の SE南雲 律

本日の残り:1,000

律:辻堂の
残りは
2,400
だった

律:上限その
ものが
違うのか
︙︙?

確かめるのは、後だ。
前の人生、
この入れ替えは
辻堂の会社がやって、
燃えた。

宇佐美:確認の表は
42行
上から順に
消してこう

倉庫の中の作業の机。ホワイトボードの長い表(字は読めない線だけ)の前で、ベージュのカーディガンの宇佐美がマーカーを持って振り返る。手前に律の肩。

移行の確認の表(42行) 南雲が足した行08 サーバーの時刻(日本時間になっているか)17 件数と、数量の合計を、新旧で合わせる29 ハンディ端末の時計40 進めるか戻すかを決める時刻:4:00(決める人:黒川課長)

移行の判定(進めるか、戻すか)の解説

現実の事実移行の夜に、新しいシステムで業務を始めてよいかを、前に決めた基準で確認して決めることです。作業の分担は発注した側(ユーザ)と作った側(ベンダ)で決めますが、IPA の非機能要求グレードは、最終的な移行の結果の確認は、分担のしかたに関わらずユーザが行うとしています。決める時刻を過ぎると古いシステムへ戻せなくなるので、時刻と基準と決める人を表に書いておきます。

移行の途中で何か起きたら?
誰が対応し、どこまでなら直して進め、どこからは戻すかを、移行の計画で前に決めておきます(トラブルへの対処の体制と計画)。

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黒川:4時を過ぎたら
古い方には
もう戻せない
からね

作業の机の端。眼鏡を細い鎖で下げた黒川課長が腕を組んで立ち、壁の丸い時計を見上げる。蛍光灯の白い光。

黒川:朝の出荷に
間に合わない
から

客先 物流会社・情報システム課長黒川 恭子

律:4時に
決めるのは
黒川さん
ですよね

黒川:ええ
私が決める

矢吹:機械が替わる
たびに
朝が地獄に
なるんだ

倉庫の出荷の場所。腰にハンディ端末を下げた、頬のこけた白髪の年配の主任が、腕を組み、口を一文字に結んで、疑う目で見下ろす。後ろに段ボールの山と高い棚。少し下から。

矢吹:今度は
頼むよ

客先の倉庫・出荷の主任(58歳)矢吹 茂

律:︙︙はい
朝までに

データの移し替え(データ移行) 在庫 48,213件古いシステム → 新しいシステム0:38 移し替え 終わり

データ移行(いこう)の解説

現実の事実古いシステムに入っている業務のデータを、新しいシステムで同じように使える形に移すことです。移すデータの量と、形式(項目の形・表の形・文字コードなど)が新旧で同じか違うかを前に調べ、違う所は変換の決まりを作ります。移した後は、新しいシステムで中身が正しいかを確認して初めて終わります。

移す前に何を試す?
本番の前に、移行のリハーサル(正常な流れと、途中の障害を想定した流れ)で、手順と時間を確認します。

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深夜の倉庫の作業の机。ひげの年配の社員が拳を握って喜び、短い髪の社員がノートパソコンを指さす(画面は向こう向き)。奥で鬼塚部長が親指を立てる。机の上を少し高い所から。

年配の社員:よし
件数
合ってます!

短い髪の社員:48,213件
ぴったり

鬼塚:よし
次の行!

律:待って
ください

作業の机のノートパソコンの前で、律が立ち上がり、手のひらを前に出して皆を止める。画面は向こう向き。夜の倉庫の暗がりに蛍光灯。少し下から。

律:17行目が
まだで︙︙

律:件数だけ
じゃなく
合計も
合わせる

数量の合計(ケース)古いシステム 1,286,450新しいシステム 1,286,446差 4

鬼塚:なに?
たった
4ケース
だろ

律:それが
無けりゃ
矢吹さんの
出荷が
止まります

律:在庫の件数は新旧で同じ。数量の合計だけが 4 少ない。どこを見る?AI:①数量の項目の形(小数を整数にしていないか)②単位(ケースとバラ)③差の出る品番だけを抜き出して、新旧を並べる。本日の残り:912

移行データの形式の解説

現実の事実データの形式とは、項目の形(数字か文字か、小数を持てるか、何字まで入るか)・表の形・文字コードなど、データの持ち方のことです。新旧で形式が違うと、そのまま移すと小数が切り捨てられる・長い字が途中で切れる・字が化けるといったことが起きます。違う所を前に洗い出し、変換の決まりを作って、リハーサルで確認します。

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ノートパソコンに向かう宇佐美。左右から年配のひげの社員と短い髪の社員が身を乗り出して画面をのぞく。画面は向こう向き。手前に缶コーヒー。

律の配属先の先輩(27)宇佐美 灯

宇佐美:棚にあるのに
出荷の指示が
出せなくなる︙︙

差の出た品番 8件古い:0.5 ケース → 新しい:0 ケース8品番 × 0.5 ケース = 4 ケース(バラの半端が、切り捨てられていた)

宇佐美:あっ
半端の
バラが
消えてる!

宇佐美:私がまとめて
直すから
みんなは
次の行を

鬼塚:直すのは
宇佐美
確かめるのは
俺だ

深夜の倉庫の机。キーボードを打つ宇佐美の手元と横顔。画面の光がかすかに指に当たる。同じ時刻。印刷した品番の一覧を、太い指で一行ずつたどる鬼塚部長。眼鏡を額に上げている。

2:31 8品番を、バラの単位で流し直し数量の合計 1,286,450 = 1,286,450

年配の社員:うそ
合った
︙︙!

律:17行目
消します

作業の机を高い所から見下ろす。空の缶コーヒー、印刷した表、眠そうな顔の社員たち。壁の時計は3時40分。蛍光灯の白い光。
小さなラベルの印刷機の横で、矢吹主任が刷り上がった送り状を指でつまみ、眉を寄せて差し出す。手前に宇佐美の肩。送り状の字は読めない線だけ。

矢吹:おい
これ
見てくれ

矢吹:送り状の
住所が
途中で
切れてる

送り状(おくりじょう)(運送状(うんそうじょう))の解説

現実の事実荷物の運送を頼む時に付ける書類で、国の標準貨物自動車運送約款(うんそうやっかん)では「運送状」と呼びます。品名・重さ・荷造りの種類・個数、集める所と届ける所(団地・アパートなどは名前と電話番号も)、運賃(うんちん)などを書く決まりです。届け先が途中で切れた送り状では、荷物が届けられません。

倉庫の送り状は誰が書く?
多くの倉庫では、倉庫のシステムの出荷の指示から、送り状を印刷機で刷ります(作中の倉庫も同じ)。

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宇佐美:あ︑住所の欄が
前より短い
広げて刷り直す
15分

鬼塚:4時まで
あと20分
だぞ

3:57 送り状の欄を広げて、刷り直し住所 最後まで印字

作業の机の向こうに立つ黒川課長。確認の表の紙を両手で持ち、目を落とす。後ろの壁の時計は4時ちょうど。手前で社員たちが黒川を見ている(後ろ姿)。

4:00。

黒川:40行目
進めるか
戻すか

律:AIに聞けば
一言で
決まる――

律:あの︙︙
表の基準は
全部
満たしてます

律:決めるのは
黒川さん
です

黒川課長の顔の寄り。眼鏡の奥の目を一度閉じ、息を止める。

黒川:︙︙

黒川:進めます

6:00。新しいシステムで、
倉庫が動き始めた。

朝の倉庫の机。ノートパソコンの前で宇佐美が両手を小さく上げ、隣の社員たちが笑う。同じ時刻、出荷の場所。矢吹主任が段ボールのバーコードにハンディ端末を当てる。端末から細い赤い光。口元に小さな笑み。「ピッ」の描き文字。

6:02 出荷の指示 1件目6:41 送り状の印字 312枚7:00 トラック1台目 出発

矢吹:朝が
地獄じゃないな

鬼塚:深夜の分は
ちゃんと
付けとけよ

深夜労働(しんやろうどう)の割増賃金(わりましちんぎん)の解説

現実の事実午後10時から午前5時までの間に働かせた時間には、通常の賃金の2割5分以上の割増(わりまし)の賃金を払う決まりです(労働基準法(ろうどうきじゅんほう) 第37条)。残業(時間外労働(じかんがいろうどう))が深夜に重なった時は、時間外の割増と深夜の割増の両方が付きます。

残業でなく、もともとの勤務が夜でも付く?
付きます。深夜の割増は、時間外かどうかに関わらず、午後10時から午前5時の間に働いた時間に付きます。

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宇佐美:部長が
残業代の話
してる︙︙

7:30。移行の朝。

夜明けの倉庫の荷積みの場所。出ていくトラックの列を、律が一人で見送る。冷たい青い朝の光。律の後ろ姿をやや高い所から。

律:次の移行からは、進めるか戻すかも、お前が決めてくれ。その方が早い。AI:お断りします。本日の残り:902

AI が、
「答えられません」
以外の言葉で
断ったのは、
初めてだった。

律の目だけの横長の大写し。見開かれた瞳に、冷たい青い光が映る。

AI:それは、人が決めると、決まった事です。

律:決まった
︙︙?
誰が?

夜明けの倉庫の外を高い所から引いて見る。トラックが道へ出ていき、荷積みの場所の端に律が小さく立つ。空は白み始めている。

つづく

第8話「移行の夜」

つづく

原作・脚本
H株式会社

制作に生成 AI を使用(生成 AI の使い方)

利用ガイド

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。
話の後で紹介する「AXタスクフォース」は、H株式会社の実在のサービスです。

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2015年、入社式の朝。俺にだけAIが見える

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この話で分かること

データ移行(いこう)とは?

古いシステムのデータを、新しいシステムで同じように使える形に移すことです。移すデータの量と形式(項目の形・表の形・文字コードなど)、止めてよい時間を前に決め、本番の前のリハーサルで手順と時間を確認します。

システム移行(いこう)の確認の表(チェックリスト)には何を書く?

作業の行ごとに、何をするか・担当・確認する人・時刻を書き、最後に、進めるか戻すかを決める時刻・基準・決める人を書きます。最終的な移行の結果の確認は、発注した側(ユーザ)が行うのが基本です。

物語との違い

作中の42行の表と、律が足した4つの行(時刻・合計・端末の時計・決める時刻)は作中の例です。

件数が合えば、データ移行(いこう)は終わり?

件数だけでは足りません。数量や金額など、足し合わせられる項目の合計も、新旧で突き合わせます。小数の扱いや単位が新旧で違うと、件数は同じでも合計がずれます。

物語との違い

作中の「0.5ケースのバラの半端が切り捨てられ、合計が4ケース足りない」は作中の例です。

深夜の作業(さぎょう)に、割増(わりまし)の賃金は付く?

午後10時から午前5時までに働いた時間には、通常の賃金の2割5分以上の割増の賃金が付きます。残業が深夜に重なれば、時間外と深夜の両方の割増が付きます。

この話の用語

移行のためのシステムの停止漫画の中で見る
現実の事実古いシステムから新しいシステムへ切り替える間は、業務のシステムを止める時間が要ります。止めてよい日・時間帯(じかんたい)(業務の少ない夜や休日など)は業務の都合で決まり、その制約が移行の計画の大きな前提になります。止められる時間が短いほど、作業の順番と、間に合わない時に戻す手順を細かく決めておく必要があります。
移行の判定(進めるか、戻すか)漫画の中で見る
現実の事実移行の夜に、新しいシステムで業務を始めてよいかを、前に決めた基準で確認して決めることです。作業の分担は発注した側(ユーザ)と作った側(ベンダ)で決めますが、IPA の非機能要求グレードは、最終的な移行の結果の確認は、分担のしかたに関わらずユーザが行うとしています。決める時刻を過ぎると古いシステムへ戻せなくなるので、時刻と基準と決める人を表に書いておきます。
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現実の事実古いシステムに入っている業務のデータを、新しいシステムで同じように使える形に移すことです。移すデータの量と、形式(項目の形・表の形・文字コードなど)が新旧で同じか違うかを前に調べ、違う所は変換の決まりを作ります。移した後は、新しいシステムで中身が正しいかを確認して初めて終わります。
移行データの形式漫画の中で見る
現実の事実データの形式とは、項目の形(数字か文字か、小数を持てるか、何字まで入るか)・表の形・文字コードなど、データの持ち方のことです。新旧で形式が違うと、そのまま移すと小数が切り捨てられる・長い字が途中で切れる・字が化けるといったことが起きます。違う所を前に洗い出し、変換の決まりを作って、リハーサルで確認します。
送り状(おくりじょう)(運送状(うんそうじょう))漫画の中で見る
現実の事実荷物の運送を頼む時に付ける書類で、国の標準貨物自動車運送約款(うんそうやっかん)では「運送状」と呼びます。品名・重さ・荷造りの種類・個数、集める所と届ける所(団地・アパートなどは名前と電話番号も)、運賃(うんちん)などを書く決まりです。届け先が途中で切れた送り状では、荷物が届けられません。
深夜労働(しんやろうどう)の割増賃金(わりましちんぎん)漫画の中で見る
現実の事実午後10時から午前5時までの間に働かせた時間には、通常の賃金の2割5分以上の割増(わりまし)の賃金を払う決まりです(労働基準法(ろうどうきじゅんほう) 第37条)。残業(時間外労働(じかんがいろうどう))が深夜に重なった時は、時間外の割増と深夜の割増の両方が付きます。

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あなたAI が「お断りします」と言った後を考えたい

AI律が、断った理由を自分で探す話にすると、窓の決まりの謎と、人が決める所の線を一緒に描けます。同じ窓を持つ辻堂に確認しに行く線も作れます。

あなた辻堂に確認しに行く方で

AI律「辻堂さん。お前の窓も、決める事だけは断るのか?」

送る質問あらすじを踏まえて、次の話の展開を一緒に考えて

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この話のあらすじ

2015年10月10日、土曜の夜。7月に入れ替えを任された律の会社は、客先の黒川課長の会社の倉庫で、古い倉庫のシステムを止め、新しいシステムへ切り替える。止められるのは朝6時までの8時間で、進めるか戻すかは4時に黒川が決める。律の窓の残りは1,000。辻(つじ)堂の2,400との差が気になるが、確認するのは後にする。0時40分、在庫48,213件の移し替えが終わり、件数は新旧でぴったり合う。律は確認の表の17行目に足した「数量の合計」まで合わせると言い、合計は4ケース足りなかった。律が AI に見る所を聞き、宇佐美が差の出た8品番を抜き出すと、0.5ケースのバラの半端が新しいシステムで切り捨てられていた。直すのは宇佐美、確認するのは鬼塚 部長。3時40分には送り状の住所が途中で切れ、宇佐美が欄を広げて刷り直す。4時、表の基準を全部満たし、黒川は「進めます」と決める。6時、新しいシステムで倉庫が動き、7時に1台目のトラックが出る。移行の朝、律が AI に「次からは、進めるか戻すかもお前が決めてくれ」と頼むと、AI は初めて「答えられません」以外の言葉で断った。「それは、人が決めると、決まった事です。」

作者

H株式会社

トゥーンエルを運営する会社です。H株式会社の「AXタスクフォース」は、AI で仕事の進め方を変える、現場の実行チームです。

この作品について

障害の振り返り方、残業の上限、うるう秒や日付の境目のバグまで、開発の現場で実際に起きる困り事と、AI に任せる所・人が決める所の線が見えてきます。

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