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第1話「その大蛇は、酒では酔わない」

豪雨の夜の川を見下ろす縦に長い絵。濁流から八つの大蛇の頭が首をもたげ、目が赤く光る。背には苔と木。手前の橋の上に、懐中電灯を持って避難する人々の小さな列。

21時40分。簸上川の、八雲橋。

市の防災無線(機械の声):簸上川が
危ない水位を
こえました

市の防災無線(機械の声):避難指示が
出ています

避難指示(ひなんしじ)(警戒レベル4)の解説

現実の事実市町村(しちょうそん)が出す避難の呼びかけで、5段階の警戒レベルの4にあたります。危ない場所にいる人は、この段階までに必ず避難します。レベル5の「緊急安全確保」は、命の危険がとても高く、もう安全な避難ができないかもしれない段階です。

前は「避難勧告」もあった?
2021年(令和3年)5月20日の災害対策基本法の改正で、避難勧告はなくなり、避難指示に一本化されました。2026年3月のガイドラインの改定では、川の氾濫などの情報の名前が警戒レベルと合う形に整理されています。

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雨の橋の上。黄色の雨合羽の若い女性が、怯えて口を開けた小さな男の子の手を引き、目を見開いて振り返る。後ろの川から、大蛇の頭が赤い目で二人を見下ろす。

図書館に避難してきた子ども(7)日野 陽太

市立簸上図書館 郷土資料室の司書(26)稗田 ふみ

日野 陽太:お姉さん
あれ
なに?

稗田 ふみ:前だけ
見てて

川の上に︑
八つの頭があった︒

第1話「その大蛇は、酒では酔わない」

40分前︒
市立簸上図書館︒

夜の図書館の閲覧室が避難所になっている。床に毛布と段ボールの仕切り。人々が座り込んでスマホを見ている。窓の外は激しい雨。

トレンド#酒で酔わせろ#ヤマタノオロチ#簸上川

ヤマタノオロチ(八俣遠呂智(やまたのおろち)・八岐大蛇(やまたのおろち))の解説

現実の事実日本神話の、八つの頭と八つの尾を持つ大蛇です。古事記(こじき)では「八俣遠呂智」、日本書紀(にほんしょき)では「八岐大蛇」と書きます。出雲の川の上流に毎年来て娘を食べていたのを、スサノオが退治した、と語られます。

どこの川の話?
古事記は「肥河(ひのかわ)」、日本書紀は「簸之川(ひのかわ)」と書き、今の島根県の斐伊川のこととされます。作中の簸上川は架空の川です。

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ヨミ(動画)(機械の声):オロチは
お酒で
倒せます!

ヨミ(動画)(機械の声):神話にも
書いて
あります

郷土資料室の戸口。古い本を胸に抱えた若い女性の司書が、閲覧室の人々のスマホの光を見て、眉を寄せる。

私は︑この図書館の
司書だ︒

司書(ししょ)の解説

現実の事実図書館に置かれる専門の職員で、図書館法で「図書館の専門的事務に従事する」と決められています。資料を集めて整え、調べたい人に合う資料を探す手伝い(レファレンス)をします。

司書になるには?
大学で図書館に関する科目を学ぶか、大学が開く司書講習を修了すると、司書の資格が得られます(図書館法第5条)。

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簸上市 防災アプリ簸上川(八雲橋)堤防の高さまで あと40cmこの図書館は、低い側の岸です高台の簸上小学校へ移ってください

稗田 ふみ:橋を
渡らないと

毛布の上。しゃがんだ司書(左)が笑って見つめる前で、7歳の男の子(右)がゲーム機を両手で握り、声を出して笑う。画面は読めない光だけ。

日野 陽太:オロチって
お酒で
寝るんでしょ?

稗田 ふみ:︙︙出典は?

日野 陽太:しゅってん?

稗田 ふみ:あ︙︙
ごめん

子どもにまで︑
出典を聞いてしまう︒
昔からの︑悪い癖だ︒

八雲橋のたもと︒
21時10分︒

雨の夜、橋のたもと。酒蔵のタンクローリーが川へ酒を放水し、しぶきが枠の上を越える。手前で、眼鏡に作業着の50代の市の職員が拡声器を握って口に当て、口を大きく開けて指揮する。奥の川に大蛇の頭が近づく。

簸上市 危機管理課長(52)大庭 剛

大庭 剛:稲田酒造さんの
酒︑全部!

大庭 剛:まいて!

大蛇の頭が酒のしぶきを浴びても目を光らせたまま、タンクローリーを頭で横から突き倒す。

ドォン

避難の人たち(何人もの声):酔って
ない!

雨に打たれ、倒れたタンクローリーの横で、拡声器を下ろして立ち尽くす危機管理課長。眼鏡の奥の目が見開く。

図書館の窓から︑
私は見ていた︒

図書館の窓ガラスに手のひらをついて、川を見つめる司書の顔。眉を寄せ、唇を結ぶ。窓ガラスを雨が流れる。

稗田 ふみ:ただの
酒じゃ
ない

私は︑
郷土資料室へ走った︒

郷土資料(きょうどしりょう)の解説

現実の事実その土地の歴史・地理・暮らし・伝説などを記した資料です。図書館法は、公共図書館が郷土資料や地方行政資料を集める事に十分気をつけるよう定めています。地元の昔話や地名の由来を調べる時は、まず地元の図書館の郷土資料の棚が近道です。

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夜の郷土資料室の書架の間。懐中電灯をくわえた司書が、古い古事記の注釈書を両手で開く。古い字のページ(読めない)。

稗田 ふみ:古事記の
原文なら︙︙

〈古事記 上巻〉(現代語訳の要約)八塩折の酒を醸し、垣を作り廻らせ。その垣に八つの門を作り、門ごとに桟敷を結い、桟敷ごとに酒船を置き、船ごとに酒を盛って待て。

酒船(さかぶね)の解説

現実の事実酒を入れておく大きな入れ物のことです。古事記(こじき)では、スサノオが垣の八つの門ごとに桟敷(台)を作らせ、その上に酒船を置き、八つの頭がそれぞれの船に頭を入れて酒を飲んだ、と語られます。

日本書紀(にほんしょき)も同じ?
日本書紀の本文には、垣と門が出てきません。八つの桟敷に槽(ふね)を一つずつ置いた、と書かれています。

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八塩折の酒︒
何度も醸した︑
強い酒︒

八塩折(やしおり)の酒(やしおりのさけ)の解説

現実の事実古事記(こじき)で、スサノオが大蛇を酔わせるために作らせた酒です。何度もくり返して醸した、強い酒とされます。日本書紀(にほんしょき)の本文では「八醞酒(やしおりのさけ)」と書かれています。

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稗田 ふみ:酒だけじゃ
ない

稗田 ふみ:門と
桟敷と
船が要る

雨の外階段。古い本を両手で頭の上にかばったまま、司書が足を滑らせて尻もちをつく。目を見開き、口が開く。

運動は︑
昔からできない︒

八雲橋︒
21時40分︒

雨の橋の上。黄色の雨合羽の司書が、泣きそうな男の子を抱き寄せて頭に手を置き、眉を寄せて大蛇の頭を見る。後ろに老人たちの避難の列。橋の向こう半分に、大蛇の頭がひとつ、あごを乗せて道をふさいでいる。

日野 陽太:渡れない︙︙

大蛇を見ると︑
私にだけ︑
数字が見える︒

〈原典どおり〉八俣遠呂智 62%赤い目・八つの頭・背の木 原典どおり「どの酒でも酔う」 原典に無い

〈原典どおり〉(作中の窓)の解説

作中の世界の決まりこの世界では、神や怪物は、いま生きている人が覚えている話の形で現れます。多くの人が信じた俗説ほど、その形が強くなります。ただし倒し方・鎮め方は、原典に書かれた条件でしか効きません。

作中の世界の決まりふみにだけ見える窓です。現れた神や怪物の姿のうち、元の話(原典)に書かれたとおりの所が何割かを出します。

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稗田 ふみ:俗説は
姿を強く
するだけ

稗田 ふみ:弱点は
原典にしか
ない

簸上市 防災アプリ堤防の高さまで あと25cm

稲田酒造の蔵元(78)稲田 源蔵

橋のたもとに止まった酒蔵の古い配達トラック。荷台の大きな木桶を、法被の78歳の老人が両手で押さえている。白髪、深いしわ。

稗田 ふみ:その桶
いちばん
重ねた酒
ですか?

稲田 源蔵:ほう︙︙
なんで
分かる

稗田 ふみ:何度も
醸した酒が
要るんです

稲田 源蔵:醸した酒で
また醸した
祖父の代の
酒だ

稗田 ふみ:それを
一つだけ
ください

雨の橋の上。手袋の手で工事の柵を押さえて並べる司書と、ヘルメットの若者2人。柵の垣の向こうに、脚立と板の台と、その上の木桶。

八つは︑無理︒
でも︑一つなら︒

稗田 ふみ:門ごとに
酒船

柵の通り口から、大蛇の頭がひとつ首を差し入れ、台の上の木桶に鼻先を沈める。

ゴクッ

息を止めて見つめる司書の顔の寄り。目を見開き、口が少し開く。
大蛇の頭が大きな木桶の縁にあごを乗せ、目を半ば閉じて動かない。その手前を、黄色の雨合羽の司書を先頭に、避難の列が走って橋を渡っていく。

日野 陽太:やった
寝た!

〈古事記 上巻〉於是飲醉留伏寝(ここに飲み酔いて、留まり伏して寝た)

古事記(こじき)の解説

現実の事実日本に残るいちばん古い書物の一つで、神話の時代から推古天皇までを記します。稗田阿礼(ひえだのあれ)が覚えて語った話を、太安万侶が書きとり、712年(和銅5年)にできあがりました。ヤマタノオロチの話は、上巻にあります。

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避難の列は︑
橋を渡りきった︒

雨の橋の上。拡声器を下げたずぶぬれの危機管理課長(左)が、司書(右)に歩み寄る。

大庭 剛:図書館の方は
ずいぶん
ご立派な
読み方を

大庭 剛:へえ︙︙
で︑残りの
七つは?

稗田 ふみ:門が
七つ
足りません

濁流の中で残りの七つの頭がうねる、縦に長い絵。左の橋の上に、懐中電灯を向ける黄色の雨合羽の小さな人影。川の真ん中で、大蛇の尾の先だけが白く光っている。

稗田 ふみ:尾が︙︙
光ってる

黄色の雨合羽の司書の横顔の寄り。丸い眼鏡の奥の目を見開き、口を開けて白い息を吐く。後ろの川面に、白い光の筋。

尾の光の声:名を
呼べ

稗田 ふみ:︙︙誰の?

第1話「その大蛇は、酒では酔わない」

つづく

原作・脚本
ka2uma
作画
ka2uma

制作に生成 AI を使用(生成 AI の使い方)

利用ガイド

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・町・川は架空です。

お気に入りから外しますか?

その神の倒し方は、原典に書いてある

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この話で分かること

ヤマタノオロチは、原典ではどう倒された?

古事記(こじき)では、スサノオが何度も醸した強い酒(八塩折(やしおり)の酒)を作らせ、垣を巡らせて八つの門を作り、門ごとに桟敷と酒船を置いて待ちました。八つの頭がそれぞれ船に頭を入れて飲み、酔って伏して眠ったところを、スサノオが剣で斬りました。

物語との違い

作中の簸上川・八雲橋・稲田酒造は架空です。作中では、門を一つだけ組み、頭の一つだけを眠らせています。

古事記(こじき)はいつ、誰が作った?

和銅4年(711年)9月に、稗田阿礼(ひえだのあれ)が覚えて語る話を太安万侶が書きとるよう命じられ、翌年の1月、712年に完成しました。神話の時代から推古天皇までが書かれています。

避難指示(ひなんしじ)とは? 警戒レベル4で何をする?

市町村(しちょうそん)が出す避難の呼びかけで、警戒レベル4にあたります。危ない場所にいる人は、レベル4までに必ず避難します。2021年5月20日から、避難勧告はなくなり避難指示に一本化されました。

八塩折(やしおり)の酒とは?

古事記(こじき)で、スサノオが大蛇を酔わせるために作らせた、何度も醸した強い酒です。日本書紀(にほんしょき)の本文では「八醞酒」と書かれます。

この話の用語

避難指示(ひなんしじ)(警戒レベル4)漫画の中で見る
現実の事実市町村(しちょうそん)が出す避難の呼びかけで、5段階の警戒レベルの4にあたります。危ない場所にいる人は、この段階までに必ず避難します。レベル5の「緊急安全確保」は、命の危険がとても高く、もう安全な避難ができないかもしれない段階です。
ヤマタノオロチ(八俣遠呂智(やまたのおろち)・八岐大蛇(やまたのおろち))漫画の中で見る
現実の事実日本神話の、八つの頭と八つの尾を持つ大蛇です。古事記(こじき)では「八俣遠呂智」、日本書紀(にほんしょき)では「八岐大蛇」と書きます。出雲の川の上流に毎年来て娘を食べていたのを、スサノオが退治した、と語られます。
司書(ししょ)漫画の中で見る
現実の事実図書館に置かれる専門の職員で、図書館法で「図書館の専門的事務に従事する」と決められています。資料を集めて整え、調べたい人に合う資料を探す手伝い(レファレンス)をします。
郷土資料(きょうどしりょう)漫画の中で見る
現実の事実その土地の歴史・地理・暮らし・伝説などを記した資料です。図書館法は、公共図書館が郷土資料や地方行政資料を集める事に十分気をつけるよう定めています。地元の昔話や地名の由来を調べる時は、まず地元の図書館の郷土資料の棚が近道です。
酒船(さかぶね)漫画の中で見る
現実の事実酒を入れておく大きな入れ物のことです。古事記(こじき)では、スサノオが垣の八つの門ごとに桟敷(台)を作らせ、その上に酒船を置き、八つの頭がそれぞれの船に頭を入れて酒を飲んだ、と語られます。
八塩折(やしおり)の酒(やしおりのさけ)漫画の中で見る
現実の事実古事記(こじき)で、スサノオが大蛇を酔わせるために作らせた酒です。何度もくり返して醸した、強い酒とされます。日本書紀(にほんしょき)の本文では「八醞酒(やしおりのさけ)」と書かれています。
〈原典どおり〉(作中の窓)漫画の中で見る
作中の世界の決まりこの世界では、神や怪物は、いま生きている人が覚えている話の形で現れます。多くの人が信じた俗説ほど、その形が強くなります。ただし倒し方・鎮め方は、原典に書かれた条件でしか効きません。
作中の世界の決まりふみにだけ見える窓です。現れた神や怪物の姿のうち、元の話(原典)に書かれたとおりの所が何割かを出します。
古事記(こじき)漫画の中で見る
現実の事実日本に残るいちばん古い書物の一つで、神話の時代から推古天皇までを記します。稗田阿礼(ひえだのあれ)が覚えて語った話を、太安万侶が書きとり、712年(和銅5年)にできあがりました。ヤマタノオロチの話は、上巻にあります。

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あなた「名を、呼べ」と言った声の正体を考えたい

AI尾の光から聞こえたのなら、大蛇の中にある何か、とするのが自然です。原典で大蛇の尾から出てくる物を手がかりにすると、ふみが次に開く本が決まります。

あなたふみが返す一言を

AIふみ「……名前は、本によって違うの」。絵:雨の中、古事記と日本書紀を片手ずつに持って立つふみ。

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この話のあらすじ

大雨の夜、簸上川に八つの頭の大蛇が現れる。避難指示(ひなんしじ)が出て、低い岸の市立簸上図書館に避難した人々は、ネットで広まった「#酒で酔わせろ」を見ている。郷土資料(きょうどしりょう)室の司書・稗田 ふみは、7歳の陽太に「出典は?」と聞いてしまう癖を持つ。危機管理課長の大庭 剛は稲田酒造の酒をタンクローリーで川にまくが、大蛇は酔わない。ふみは古事記(こじき)の原文で、八塩折(やしおり)の酒・垣と八つの門・桟敷・酒船という手順を確かめる。ふみにだけ見える窓〈原典どおり〉は、大蛇の姿は62%が原典どおりで、俗説は姿を強くするだけで弱点にはならないと示す。堤防まであと25cm。ふみは蔵元の稲田 源蔵から、醸した酒でまた醸した祖父の代の酒の桶を一つもらい、橋の上に柵の垣と門を一つ、台と桶を一つ組む。頭のひとつが桶に首を入れて眠り、避難の列は橋を渡りきる。だが門は七つ足りない。川の中で尾の先が光り、声が「名を、呼べ」と言う。

作者

ka2uma

Web マーケター

Web 集客・SEO の仕事の考え方を異世界転生の物語に、AI と働く毎日の出来事や、そこから考えた話を読み切りにして描いています。

この作品について

ヤマタノオロチは本当は何で眠ったのか。古事記と日本書紀でどこが違い、よく知られた話と原典はどこでずれているのか。神話の一行がそのまま勝ち方になる戦いを、ふみと一緒に読み解いてください。

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