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第4話「母の血」

夜明け前の雪の住宅街を高い所から。黄色い回転灯の除雪の車が、家の前の道をゆっくり進み、雪を脇へ押し上げていく。家の窓に1つだけ灯り。

ガガガ

葛城 冬馬(画面の外の声):ただいま︙︙

台所の戸口。雪まみれの作業着のがっしりした男性が、驚いた顔で立ち止まる。奥のテーブルで緑のセーターの女性が携帯を握り、ジャージの少女が問題集を広げている。

穂波の夫・市の除雪の係(44)葛城 冬馬

葛城 冬馬:って
2人とも
起きてたの?

葛城 岬:受験生
だもん

葛城 穂波:今日
おばあちゃんの
結果の日

葛城 冬馬:結果?
何の

葛城 穂波:︙︙血液検査
付き添いで
行くの

少女の顔の寄り。ポニーテールを揺らして母の方へ顔を向け、目を細める。手にシャープペン。

穂波の娘・中学3年(15)葛城 岬

葛城 岬:お母さん
最近ずっと
おばあちゃんと
電話してるね

葛城 穂波:︙︙うん

緑のセーターの女性の顔の寄り。携帯を握ったまま、娘から目をそらして小さく笑ってごまかす。

家族には︑まだ
「おばあちゃんの
病院の付き添い」
とだけ言ってある︒

葛城 冬馬:送ろうか
道はさっき
俺が開けた

葛城 穂波:ありがと
でも大丈夫

市立病院の診察室を肩越しに。手前に小柄な年配の女性の灰色のパーマの後ろ頭。奥で白衣の細面の医師が、紙の結果(字は読めない)を2人の方へ向けて置く。

蔵本 遼介:照代さんの
結果です

〈照代の血液検査の結果(作中)〉HBs抗原 陽性HBc抗体 高い値肝臓の数値(ALT) 基準の範囲

HBs抗原(こうげん)の解説

現実の事実B型肝炎ウイルスの表面にあるたんぱく質で、血液の中にあれば今ウイルスに感染している事を示します。給付金(きゅうふきん)の手続きでは、6か月以上あけた2つの時点でHBs抗原が陽性なら、持続感染(じぞくかんせん)と認められます。

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HBc抗体(こうたい)(高力価(こうりきか))の解説

現実の事実B型肝炎ウイルスに感染した事があると、体が作る抗体の1つです。この値が高い(高力価)時は、1つの時点の検査結果でも持続感染(じぞくかんせん)が認められます。逆に、母親のHBc抗体が陰性か低い値なら、母子感染(ぼしかんせん)でない事を示す材料になります。

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葛城 穂波:えっ
1回で?

緑のセーターの女性が身を乗り出し、目を見開く寄り。手に持った紙が少し折れる。

蔵本 遼介:ええ
この値なら
6か月
待たなくて
いいんですよ

蔵本 遼介:それに
肝臓は今
落ち着いて
います

小柄な年配の女性の顔の寄り。重いまぶたの目から力が抜け、小さく息を吐く。

栗栖 照代:はあ︙︙

栗栖 照代:40年
ずっと
怖くてねえ

蔵本 遼介:症状のない
キャリアですね

蔵本 遼介:半年ごとに
診ましょう

無症候性(むしょうこうせい)キャリアの解説

現実の事実B型肝炎ウイルスに持続感染(じぞくかんせん)していても、肝炎などの症状が出ていない状態です。給付金(きゅうふきん)では、和解した無症候性キャリアの人に、2026年10月時点の厚生労働省の資料で50万円の目安のほか、慢性肝炎(まんせいかんえん)などの発症を確かめる定期検査の費用・定期検査の手当・母子感染(ぼしかんせん)や世帯内の感染を防ぐ医療費(いりょうひ)が出ます。

後で病気が進んだら?
給付金を受けた人の病態が進んだ時は、すでに受けた額との差が追加給付金として出ます。和解をし直さず、医療情報基盤(いりょうじょうほうきばん)・診療報酬(しんりょうほうしゅう)審査支払機構(しんさしはらいきこう)に直接請求します。

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葛城 穂波:半年ごと︙︙
一緒に来るね

栗栖 照代:そうだねえ

下から見上げた相談室。丸眼鏡の背の高い男性の看護師が、机の上に2つの紙の束を並べて置き、2人へ向けて手のひらで示す。窓の雪明り、机の端に鉢植えの緑。

根津 澄:よし
お母さんの
1から3は
そろって
きましたね

根津 澄:それで
ですね

根津 澄:照代さん
ご自身も

根津 澄:一次感染者
として
訴えを
起こせます

一次感染者(いちじかんせんしゃ)の解説

現実の事実集団予防接種等(しゅうだんよぼうせっしゅとう)の注射器(ちゅうしゃき)の連続使用(れんぞくしよう)で、直接B型肝炎ウイルスに持続感染(じぞくかんせん)した人です。持続感染・満7歳までの接種・期間内の接種・母子感染(ぼしかんせん)でない事・ほかの原因が無い事の5つを、証拠で示します。一次感染者から母子感染した子は二次感染(にじかんせん)者です。

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葛城 穂波:お母さんの分も
出るって事?

根津 澄:ええ
お母さんご自身の
給付金です

相談室を横から。小柄な年配の女性が膝の上で両手を固く握り、首を横に振る。隣で緑のセーターの女性が母の横顔を見る。

栗栖 照代:私は
訴えない

葛城 穂波:お母さん︙︙

栗栖 照代:証拠は
出すよ
穂波の分

栗栖 照代:でも
国を相手に
なんて

栗栖 照代:近所に
なんて
言われるか

小柄な年配の女性の横顔の寄り。目を伏せ、唇をかむ。顔は落ち着いているのに、膝の上の手は強く握られている。

葛城 穂波:誰も
お母さんを
責めないよ

栗栖 照代:︙︙そういう
事じゃ
ないの

根津 澄(画面の外の声):あの

丸眼鏡の看護師の胸から上。机に両肘をつき、手を組み、やわらかい目で年配の女性を見る。窓の光。

根津 澄:無理に
とは
言いません

根津 澄:穂波さんの分は
お母さんが
原告でなくても
進められますから

原告(げんこく)(B型肝炎訴訟の)の解説

現実の事実国を相手に訴えを起こす人です。二次感染(にじかんせん)者が原告になる時は、母親が原告でなくても、母親が一次感染者(いちじかんせんしゃ)の要件を全部満たす事を証拠で示します。亡くなった人の相続人が原告になる事もできます。

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根津 澄:一つずつ
いきましょう

相談室の窓際。緑のセーターの女性が、うつむく母の背中を見つめる。窓の外の雪。

帰り道︒
母を団地へ送る車の中︒

夜の雪道を走る小さな車を横から。ヘッドライトに雪が流れる。暗い車内。運転する緑のセーターの女性の横顔に、対向車の光が流れる。助手席の母は窓の方を向いている。

栗栖 照代:ごめんね

栗栖 照代:証拠ばっかり
集めさせて

葛城 穂波:集めたいのは
私だよ

葛城 穂波:お母さん

葛城 穂波:近所の
話じゃ
ないよね

赤信号で止まった車の中、運転席から見た助手席の母。窓の外の雪に顔を向けたまま、膝の上で左の二の腕をつかむ。信号の光が頬に当たる。

葛城 穂波:本当は
何が
怖いの?

年配の女性の顔の大写し。唇を結び、何も言わずに窓の外の雪を見ている。目の端が光る。

栗栖 照代:︙︙

第4話「母の血」

つづく

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

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母のひと言から始まった、B型肝炎給付金の話

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この話で分かること

HBs抗原(こうげん)とは? 陽性だと何が分かる?

B型肝炎ウイルスの表面のたんぱく質で、血液にあれば今感染している事を示します。給付金(きゅうふきん)の手続きでは、6か月以上あけた2つの時点で陽性なら持続感染(じぞくかんせん)と認められます(HBV-DNA陽性・HBe抗原陽性でも同じ)。

持続感染(じぞくかんせん)を示すのに、6か月待たないといけない?

HBc抗体が高い値(高力価(こうりきか))の結果なら、1つの時点の検査でも持続感染が認められます。

条件・例外

どの値が高力価に当たるか、どの検査を受けるかは、医療機関(いりょうきかん)で確かめてください。

物語との違い

作中の照代の結果は創作です。

症状のないB型肝炎のキャリアも、給付金(きゅうふきん)の対象?

要件を満たせば対象です。2026年10月時点の厚生労働省の資料では、無症候性(むしょうこうせい)キャリアは50万円が目安で、ほかに定期検査の費用・定期検査の手当・母子感染(ぼしかんせん)や世帯内の感染を防ぐ医療費(いりょうひ)が出ます。

条件・例外

発症などから提訴までの年数によっては、扱いが変わる場合があります。

母が原告(げんこく)にならなくても、二次感染(にじかんせん)の子は請求できる?

二次感染者が原告になる時は、母親が一次感染者(いちじかんせんしゃ)の要件を全部満たす事を、証拠で示します。母親自身が原告になるかどうかは別です。

この話の用語

HBs抗原(こうげん)漫画の中で見る
現実の事実B型肝炎ウイルスの表面にあるたんぱく質で、血液の中にあれば今ウイルスに感染している事を示します。給付金(きゅうふきん)の手続きでは、6か月以上あけた2つの時点でHBs抗原が陽性なら、持続感染(じぞくかんせん)と認められます。
HBc抗体(こうたい)(高力価(こうりきか))
現実の事実B型肝炎ウイルスに感染した事があると、体が作る抗体の1つです。この値が高い(高力価)時は、1つの時点の検査結果でも持続感染(じぞくかんせん)が認められます。逆に、母親のHBc抗体が陰性か低い値なら、母子感染(ぼしかんせん)でない事を示す材料になります。
無症候性(むしょうこうせい)キャリア漫画の中で見る
現実の事実B型肝炎ウイルスに持続感染(じぞくかんせん)していても、肝炎などの症状が出ていない状態です。給付金(きゅうふきん)では、和解した無症候性キャリアの人に、2026年10月時点の厚生労働省の資料で50万円の目安のほか、慢性肝炎(まんせいかんえん)などの発症を確かめる定期検査の費用・定期検査の手当・母子感染(ぼしかんせん)や世帯内の感染を防ぐ医療費(いりょうひ)が出ます。
一次感染者(いちじかんせんしゃ)漫画の中で見る
現実の事実集団予防接種等(しゅうだんよぼうせっしゅとう)の注射器(ちゅうしゃき)の連続使用(れんぞくしよう)で、直接B型肝炎ウイルスに持続感染(じぞくかんせん)した人です。持続感染・満7歳までの接種・期間内の接種・母子感染(ぼしかんせん)でない事・ほかの原因が無い事の5つを、証拠で示します。一次感染者から母子感染した子は二次感染(にじかんせん)者です。
原告(げんこく)(B型肝炎訴訟の)漫画の中で見る
現実の事実国を相手に訴えを起こす人です。二次感染(にじかんせん)者が原告になる時は、母親が原告でなくても、母親が一次感染者(いちじかんせんしゃ)の要件を全部満たす事を証拠で示します。亡くなった人の相続人が原告になる事もできます。

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あなた照代が40年前に先生から聞いた日の夜を、照代の側から考えたい

AI生まれたばかりの穂波を抱いたまま、病室の窓の雪を見ている、とすると、言えなかった理由が「恥ずかしさ」より「この子に知られたくない」に寄った、静かな場面にできます。

あなたその夜の照代の心の声を

AI照代(心の声)「この子が大きくなったら、言おう。……もう少し、大きくなったら」。

送る質問あらすじを踏まえて、次の話の展開を一緒に考えて

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この話のあらすじ

夜明け前、除雪の仕事から帰った夫の冬馬は、台所で起きていた穂波と受験生の娘・岬に驚く。家族には「おばあちゃんの病院の付き添い」とだけ言ってある。市立病院で、蔵本医師が照代の結果を見せる。HBs抗原は陽性、HBc抗体は高い値。この値なら6か月待たずに、1回で持続感染(じぞくかんせん)が示せる。肝臓の数値は今は落ち着いた、症状のないキャリアだった。相談室(そうだんしつ)の根津は、照代自身も一次感染者(いちじかんせんしゃ)として訴えを起こせると話す。照代は「私は訴えない」。証拠は穂波の分を出すが、国を相手になんて、近所に何と言われるか。根津は、照代が原告でなくても穂波の分は進められると伝える。帰りの車で、穂波は「近所の話じゃないよね」と聞く。「本当は、何が怖いの?」。照代は窓の外の雪を見たまま、何も言わない。

作者

カルテの余白

診察室や相談の部屋、家族の居間で、治療や検査を決める前の人と、その話を聞く人を描いています。

この作品について

母のひと言から、昔の予防接種と家族の40年が少しずつほどけていく。B型肝炎の給付金を受け取るまでに何を集め、誰と話すのかを、穂波と一緒にたどれます。

カルテの余白のほかの作品

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