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第5話「姉の血」

下から見上げた、雪の積もった古い農家の屋根。背の高い年配の女性が屋根の上でスコップを振り上げ、雪が舞う。軒の下の左に、小さく緑のセーターの女性。

次の土曜。頼み事を1つ持って、もう一度、伯母の家へ。

照代の姉(72)越智 喜美江

時計の修理職人(41)葛城 穂波

越智 喜美江(画面の外の声):また来たのかい

葛城 穂波:伯母さん
屋根は
危ないって!

越智 喜美江(画面の外の声):毎年
やってる
あんたより
慣れてるよ

雪下ろしの事故(毎年の屋根の除雪)の解説

現実の事実除雪の作業中の事故でいちばん多いのは、屋根からの転落です。亡くなる事故の約8割は65歳以上の人で、低い1階の屋根からの転落でも起きています。屋根に上る時は命綱とヘルメットを付け、家族や近所に声をかけて2人以上で作業するよう、国が呼びかけています。

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古い家の土間。緑のセーターの女性(左)が相談室の紙(字は読めない)を差し出し、背の高い年配の女性(右)は雪の残る肩に手を当てたまま、紙から目をそらす。2人の間に石油ストーブとやかん。

葛城 穂波:お母さんの
検査の結果
出たの

越智 喜美江:︙︙それで?

葛城 穂波:あの
お願いが
あって

葛城 穂波:伯母さんの
血液検査

年上のきょうだいの血液検査(けつえきけんさ)(母子感染(ぼしかんせん)でない事の証明)の解説

現実の事実母親が亡くなっていて母親の血液検査が出せない時、一次感染者(いちじかんせんしゃ)と認めてほしい人より年上のきょうだいのうち1人でも持続感染(じぞくかんせん)していなければ、母子感染でない事を示す材料になります。年上のきょうだいの血液検査の結果を出します。

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越智 喜美江:私の?

葛城 穂波:お母さんが
おばあちゃんから
うつったんじゃ
ない
って

母子感染(ぼしかんせん)でない事(一次感染者(いちじかんせんしゃ)の要件)の解説

現実の事実母子感染は、幼い頃のB型肝炎ウイルスの感染のいちばん有力な原因とされています。そこで一次感染者として認められるには、母親から感染したのではない事を示します。原則は母親の血液検査(けつえきけんさ)(HBs抗原が陰性で、HBc抗体が陰性か低い値)です。

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葛城 穂波:示さないと
いけなくて

〈母子感染でない事の示し方(厚生労働省の手引きから)〉1 母親(おばあちゃん)のHBs抗原とHBc抗体が陰性の結果亡くなっている時は、80歳になる前のHBs抗原の陰性の結果だけでも可2 母親が亡くなっている時、年上のきょうだいの1人でも、持続感染していない3 そのほか、医学の知見で個別に判断

HBs抗原の陰性化(いんせいか)の解説

現実の事実持続感染(じぞくかんせん)していても、ウイルスの量が減って検査でHBs抗原が出なくなる事です。80歳以上の時の検査ではこれが無視できない程度に起きると知られているため、亡くなった母親の検査は80歳になる前の結果ならHBs抗原だけでよく、80歳以上の時の結果はHBc抗体も合わせて確かめます。

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越智 喜美江:母さんの
検査なんか
残ってないよ

越智 喜美江:死んで
10年だ

葛城 穂波:だから︙︙

背の高い年配の女性の顔の寄り。眉をきつく寄せ、歯をくいしばり、組んだ腕を指で強くつかんでいる。

越智 喜美江:今さら
私の血で
照代の
何が分かる

越智 喜美江:母さんの
最期にも
来なかった
あの子の

帰れ︑とは
言われなかった︒
伯母のあとについて︑
奥の仏間へ︒

雪明りの差す和室。緑のセーターの女性が背を向けて立ち、壁の古い振り子の柱時計の箱にそっと手を当てる。右の仏壇に、花と写真。

葛城 穂波:あ︙︙
この時計

越智 喜美江:母さんが
嫁に来た時
買ったんだ

越智 喜美江:米を
売って

葛城 穂波:えっ
お米を?

葛城 穂波:いつから
止まってます?

越智 喜美江:︙︙母さんが
死んだ日

葛城 穂波:動かして
いいですか

ガラス戸を開けた柱時計。緑のセーターの女性が振り子を指で止め、顔を時計に寄せて、細いドライバーを中の機械に当てる。戸口で背の高い年配の女性が腕を組んで見ている。時計の機械の寄り。片方の手が振り子の棒を支え、もう片方の手の細いドライバーが、振り子の受けの小さなねじをほんの少し回している。

振り子の
左と右の音を︑
そろえていく︒

越智 喜美江:︙︙変な
仕事だね

葛城 穂波:よく
言われます

戸口の背の高い年配の女性の顔の寄り。腕を組んだまま、目だけを上へ向けて柱時計の方をうかがう。
高い所から見た和室。動き出した柱時計の下で、背の高い年配の女性が背を丸めて正座し、振り子を見上げている。左の窓ぎわで、緑のセーターの女性が道具を巻き布に巻きながら伯母の背中を見る。窓の雪明り。

ボーン

越智 喜美江:照代が
ねじを
巻きたがった

越智 喜美江:でも
母さんの
物だって
触らせなかった

柱時計のガラス戸に当てた骨ばった手の寄り。指が震え、奥で振り子が揺れている。

越智 喜美江:あの子が
母さんの
最期に
来なかったのは

越智 喜美江:私が
来るなって
言ったからだ

葛城 穂波:えっ

緑のセーターの女性の顔の寄り。巻いた道具の布を胸の前で握ったまま、目を見開いて斜め上を見る。窓の外は雪。
下から見上げた、背の高い年配の女性の顔。目を伏せ、への字の口がゆるみかけている。

越智 喜美江:検査
いつだい

1週間後︒
市立病院の相談室︒

肝疾患相談支援センターの相談員(看護師・38)根津 澄

相談室を肩越しに。丸眼鏡の男性の相談員が紙(字は読めない)を女性の方へ向け、うなずいて笑う。机の端の鉢植えの緑。

〈喜美江の血液検査の結果(作中)〉HBs抗原 陰性HBc抗体 陰性

根津 澄:おばあちゃんから
うつって
いない事

根津 澄:これで
示せます

葛城 穂波:よかった︙︙!

相談室の椅子で、緑のセーターの女性が両手で顔をおおい、肩をふるわせて笑う。

根津 澄:伯母さん
来てくださった
んですね

葛城 穂波:検査の朝も
雪かきしてから
来ました

根津 澄:ははっ

根津 澄:あとは
カルテで
ほかの原因が
無い事を

B型肝炎訴訟で出すカルテ(医療記録(いりょうきろく))の範囲の解説

現実の事実ほかに感染の原因が無い事は、カルテなどの医療記録で確かめます。基本合意書で、直近1年分・持続感染(じぞくかんせん)が分かってから1年分・最初の発症から1年分(発症した人)・入院中(にゅういんちゅう)のすべての記録のうち、今残っている物を出す事になっています。

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その帰り︑
結果を伝えに
伯母の家へ寄った︒

古い家の玄関。背の高い年配の女性が、色あせた布の表紙の古い日記帳を、緑のセーターの女性に差し出す。外は吹雪。

葛城 穂波:伯母さん
陰性だった
ありがとう

越智 喜美江:礼なんか
いらん

越智 喜美江:これも
持ってきな

越智 喜美江:母さんの
日記だ

葛城 穂波:おばあちゃんの?

赤茶の布の表紙の古い日記帳を受け取る、2人の手の寄り。右から骨ばった両手が差し出し、左下から若い手が受ける。
開いた古い日記帳の寄り。黄ばんだ紙に、細い鉛筆の字がぎっしり(読めない)。左から若い女性の指が頁の頭を指し、右で骨ばった手が頁を押さえる。

〈祖母の日記〉昭和60年2月

越智 喜美江(画面の外の声):照代が
あんたを
産んだ月さ

第5話「姉の血」

つづく

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

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母のひと言から始まった、B型肝炎給付金の話

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この話で分かること

一次感染者(いちじかんせんしゃ)として、母子感染(ぼしかんせん)でない事はどう示す?

原則は母親の血液検査(けつえきけんさ)で、HBs抗原が陰性で、HBc抗体が陰性か低い値の結果です。母親が亡くなっている時は、80歳になる前のHBs抗原の陰性の結果だけでもよいとされています。

母親が亡くなっていて検査の記録も無い時は?

年上のきょうだいのうち1人でも持続感染(じぞくかんせん)していなければ、母子感染(ぼしかんせん)でない事を示す材料になります(母親が亡くなっている場合に限る)。ほかに、医学の知見をふまえた個別の判断で認められる場合もあります。

物語との違い

作中の喜美江の検査の結果は創作です。

B型肝炎訴訟で出すカルテは、どの期間の物?

基本合意書で、直近1年分・持続感染(じぞくかんせん)が分かってから1年分・最初の発症から1年分(発症した人)・入院中(にゅういんちゅう)のすべての医療記録(いりょうきろく)のうち、今残っている物を出す事になっています(看護記録・診療報酬(しんりょうほうしゅう)明細などは除く)。

条件・例外

国から、さらに記録の提出を求められる場合があります。

この話の用語

雪下ろしの事故(毎年の屋根の除雪)漫画の中で見る
現実の事実除雪の作業中の事故でいちばん多いのは、屋根からの転落です。亡くなる事故の約8割は65歳以上の人で、低い1階の屋根からの転落でも起きています。屋根に上る時は命綱とヘルメットを付け、家族や近所に声をかけて2人以上で作業するよう、国が呼びかけています。
年上のきょうだいの血液検査(けつえきけんさ)(母子感染(ぼしかんせん)でない事の証明)漫画の中で見る
現実の事実母親が亡くなっていて母親の血液検査が出せない時、一次感染者(いちじかんせんしゃ)と認めてほしい人より年上のきょうだいのうち1人でも持続感染(じぞくかんせん)していなければ、母子感染でない事を示す材料になります。年上のきょうだいの血液検査の結果を出します。
母子感染(ぼしかんせん)でない事(一次感染者(いちじかんせんしゃ)の要件)漫画の中で見る
現実の事実母子感染は、幼い頃のB型肝炎ウイルスの感染のいちばん有力な原因とされています。そこで一次感染者として認められるには、母親から感染したのではない事を示します。原則は母親の血液検査(けつえきけんさ)(HBs抗原が陰性で、HBc抗体が陰性か低い値)です。
HBs抗原の陰性化(いんせいか)漫画の中で見る
現実の事実持続感染(じぞくかんせん)していても、ウイルスの量が減って検査でHBs抗原が出なくなる事です。80歳以上の時の検査ではこれが無視できない程度に起きると知られているため、亡くなった母親の検査は80歳になる前の結果ならHBs抗原だけでよく、80歳以上の時の結果はHBc抗体も合わせて確かめます。
B型肝炎訴訟で出すカルテ(医療記録(いりょうきろく))の範囲漫画の中で見る
現実の事実ほかに感染の原因が無い事は、カルテなどの医療記録で確かめます。基本合意書で、直近1年分・持続感染(じぞくかんせん)が分かってから1年分・最初の発症から1年分(発症した人)・入院中(にゅういんちゅう)のすべての記録のうち、今残っている物を出す事になっています。

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AI母が死んだ日から止めていた時計が、妹の娘の手で動き出す、とすると、うれしさより先に、10年止めていたのは自分の方だったと気づく、静かな場面にできます。

あなたその時の喜美江の心の声を

AI喜美江(心の声)「止めてたのは、時計じゃなくて私か。……照代に、なんて言えばいいのさ」。

送る質問あらすじを踏まえて、次の話の展開を一緒に考えて

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この話のあらすじ

穂波はひとりで伯母・喜美江の家を訪ねる。照代が祖母から母子感染(ぼしかんせん)したのではない事を示すには、祖母の検査か、祖母が亡くなっている時は年上のきょうだいの1人が持続感染(じぞくかんせん)していない事が要る。祖母は亡くなって10年、検査は残っていない。喜美江は「今さら私の血で、照代の何が分かる」と断る。穂波は、祖母が亡くなった日に止まったままの柱時計を直したいと申し出る。振り子の音をそろえて時計が鳴ると、喜美江は、照代にねじを巻かせなかった事、そして10年前、母の最期に照代へ「来るな」と言ったのは自分だった事を話す。「検査、いつだい」。1週間後、喜美江の結果は陰性。照代が祖母から母子感染していない事が示せる。帰りぎわ、喜美江は祖母の日記を穂波に渡す。開いた頁(ぺーじ)は、昭和60年2月。照代が穂波を産んだ月だった。

作者

カルテの余白

診察室や相談の部屋、家族の居間で、治療や検査を決める前の人と、その話を聞く人を描いています。

この作品について

母のひと言から、昔の予防接種と家族の40年が少しずつほどけていく。B型肝炎の給付金を受け取るまでに何を集め、誰と話すのかを、穂波と一緒にたどれます。

カルテの余白のほかの作品

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