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第2話「火は、空気の一部を食べる」

朝の演習の庭を上から見下ろす。長い石の台に、ろうそくの入ったガラスの瓶がずらりと並び、制服の生徒たちが一人ずつ瓶の前に立つ。端の台に大きな砂時計。

判定の翌朝。演習の庭。

〈試し火〉閉じた瓶の火を、砂時計が落ちきるまで燃やし続けた者を合格とする空白のレン:落ちれば、今日のうちに村へ

ブラント先生:学院長の
お言いつけだ
空白は
最後だ

イリス・アルデント:ゆうべ
講堂の
表の升が
一つ灯ったそうね

少女の顔の寄り。薄く笑って、横目で少年を探るように見る。

火の家アルデントの次女イリス・アルデント

イリス・アルデント:まさか
あなたじゃ
ないわよね

レン:︙︙さあ

瓶の並ぶ石の台の前の二人の顔。左の黒髪にマフラーの少年は目を伏せて瓶の小さな火を見、右の淡い色の髪の少女は腕を組んで横目でにらむ。台の上に赤い石。

辺境ロウ村の奨学生(14)レン

ブラント先生:始め!

瓶の中で、火の呪文を受けた火がいっせいに大きく燃え上がる。生徒たちが叫んで杖を突き出す。
同じ瓶の列。火はどれも小さく細くなって、白い煙が立つ。目を見張る生徒たちと、紅の肩掛けの少女。

一同(何人もの声):えっ
消えた!?

紅の肩掛けの少女の寄り。歯を食いしばり、杖を握って瓶へ突きつける。瓶の中で紅の火が燃え上がる。奥に並んで見る生徒たち。

イリス・アルデント:もっと
強く︙︙!

少女の顔の寄り。目を見開いて固まり、汗がひとすじ。横の瓶の火は消えて、細い煙が立つ。

イリス・アルデント:なんで︙︙
私の紅が︙︙

レン:強くするほど
早く消える

黒髪にマフラーの少年の胸から上。瓶の前で目を伏せて考える。奥に、杖を上げたままの紅の肩掛けの少女。

レン:火が
空気の
燃やす方を
早く食べてる

ブラント先生:次
空白

低い角度から。瓶の前に立つ少年。杖を構えず、両手を下ろしたまま、瓶の中の小さな火を見ている。後ろの塀の上で、生徒たちが笑っている。

ブラント先生:呪文は
どうした

レン:火を足しても
だめなんです

少年の肩の向こうに、笑って指をさす生徒たちの列。口を大きく開けている。右に、紅の肩掛けの少女の後ろ姿。

一同(何人もの声):呪文も
唱えないのかよ

レン:先生
瓶の中で
火は何を
食べていると
思いますか?

角刈りであごひげの教師の顔の寄り。あごに手を当て、口を開きかけて止まる。眉間にしわ。

実技の教師・火の家の出ブラント先生

ブラント先生:︙︙

ブラント先生:火の精霊が
食べる︙︙
だと?

レン:はい
食べているのは――

少年の目の寄り。前髪の間から横を見る瞳に、瓶の小さな火が映る。

レン:空気の
一部です

レン:燃やすのは
酸素

少年が瓶に手のひらを向ける。瓶の口から白い火がまっすぐ背を伸ばし、枠の上を越えて立ちのぼる。木の葉が舞う。

ゴウッ

酸素︒
空気の
約21%を占める︑
燃やす方の空気︒

酸素(さんそ)の解説

現実の事実8番の元素で、元素記号(げんそきごう)は O です。乾いた空気の体積の約21%を占め、物が燃える時に結びつく相手になります。燃焼の三要素の一つなので、酸素が足りないと火は燃え続けられません。

空気の残りは何?
水蒸気を除いた空気は、体積で窒素が約78%、酸素が約21%、アルゴンが約1%、二酸化炭素が約0.04%です。
この世界では?
人々は火の精霊だけで火が燃えると信じ、空気の中の酸素の精霊を呼ぶ呪文を持っていません。

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残りの
ほとんどは︑
窒素だ︒
火は︑
食べない︒

窒素(ちっそ)の解説

現実の事実7番の元素で、元素記号(げんそきごう)は N です。乾いた空気の体積の約78%を占めます。空気の大部分ですが、ろうそくの火が燃える時に使われるのは窒素でなく酸素です。

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大きな砂時計の寄り。最後の砂が落ちきる。その奥で、瓶の中の白い火がまだ燃えている。教師の顔の寄り。目を見開き、驚きの縦線。あごひげが震える。

一同(何人もの声):うそ︙︙
燃えてる︙︙

静まった庭を上から。白い火の燃え続ける瓶をはさんで、左にマフラーの少年、右に腕を組む教師。生徒たちが塀の前から遠巻きに見ている。

ブラント先生:︙︙
合格だ

一同(何人もの声):空白が
合格︙︙!?

レン:ありがとう
ございます

庭を見下ろす石の回廊。柱の陰で、眼鏡に長い白い髭の学院長が杖に両手を重ね、下の庭の白く光る瓶を見下ろしている。

アウグスト学院長:名で︙︙
呼んだか

少年の横顔。燃え続ける瓶の白い火を見つめる。前髪の下の目に白い光。奥に生徒たち。

レン:火を見ると
思い出す
ろうそく1本で
子どもたちに
講義した
学者のこと

ロウソクの科学(ファラデー)の解説

現実の事実イギリスの科学者ファラデーが1860年のクリスマスレクチャーで、子どもたちにろうそく1本の燃え方から科学を語った講話の記録です。日本でも『ロウソクの科学』として訳され、今も読まれています。

出典

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レン:でも
これで終わり
じゃない

庭の隅。紅の肩掛けを風になびかせた少女が、胸の前で両手を握りしめてうつむく。

イリス・アルデント:うそ︙︙
空白に
負けた

昼前︒
講堂︒

講堂の石の壁の表。上に火・水・風・土の四つの紋、その下の升の8番目だけが青白く光る。手前に見上げる生徒たちの後ろ姿。左にマフラーの少年、右に紅の肩掛けの少女。

〈学院の表〉灯った升:1/1188番 O 酸素

Oは︑
酸素の
元素記号︒

元素記号(げんそきごう)の解説

現実の事実元素(物をつくる原子の種類)を表す、ラテン文字1〜2字の記号です。酸素は O、水素は H、炭素は C。中学の理科で、原子の種類は記号で表すと習います。

この世界では?
〈学院の表〉の升は、誰かが精霊を正しい名で声に出して呼んだ時に、字が浮かびます。

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前の世界では、
1774年に
初めて
取り出された気体だ。

酸素の発見(さんそのはっけん)(プリーストリー・シェーレ・ラヴォワジエ)の解説

現実の事実イギリスのプリーストリーは1774年8月、水銀灰をレンズで集めた日の光で熱して酸素を取り出し、「脱フロギストン空気」と呼びました。スウェーデンのシェーレも同じ頃に取り出しています。「酸素」という名は、1779年にフランスのラヴォワジエが作りました。

フロギストンとは?
18世紀に信じられた、燃える物に含まれる「燃える元」です。燃えるとこれが出ていくと考えられていましたが、ラヴォワジエの研究で否定されました。

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その日の午後︒
学院の門︒

下から見上げる学院の門。紅い外套の御者が操る紅い馬車と白い馬が門をくぐる。扉に炎の紋章。手前で生徒たちが振り向く。

一同(何人もの声):火の家の
馬車だ︙︙

火の家(ひのいえ)(アルデント家)の解説

作中の世界の決まりこの世界の、火の魔法を受け継ぐ名家です。当主のアルデント卿は学院の理事でもあり、紅の外套が家の印です。四つの家(火・水・風・土)は、学院の教えそのものを守っています。

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下から見上げる。馬車の扉から段に足を下ろす、紅の外套の男。整えた口ひげ、顔の半分は影。奥に門の前の生徒たち。

ブラント先生:アルデント卿

一同(何人もの声):イリス様の
お父上だ︙︙

第2話「火は、空気の一部を食べる」

つづく

原作・脚本
ka2uma
作画
ka2uma

制作に生成 AI を使用(生成 AI の使い方)

利用ガイド

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

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火・水・風・土、だけじゃない。

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この話で分かること

酸素(さんそ)とは?

酸素は8番の元素で、元素記号(げんそきごう)は O です。乾いた空気の体積の約21%を占め、物が燃える時に結びつく相手になります。火が燃え続けるのに要る三要素の一つです。

空気の成分の割合は?

水蒸気を除いた空気は、体積で窒素が約78%、酸素が約21%、アルゴンが約1%、二酸化炭素が約0.04%です。地表から高さ80kmくらいまでは、ほぼ同じ割合です。

酸素(さんそ)を見つけたのは誰?

イギリスのプリーストリーが1774年8月に、水銀灰をレンズで集めた日の光で熱して酸素を取り出し、「脱フロギストン空気」と呼びました。スウェーデンのシェーレも同じ頃に取り出しています。「酸素」の名は、1779年にフランスのラヴォワジエが付けました。

物語との違い

作中では、レンが空気の中の「燃やす方」を正しい名で呼ぶと、精霊が応えて火が燃え続けます。

元素記号(げんそきごう)とは?

元素(物をつくる原子の種類)を表す、ラテン文字1〜2字の記号です。酸素は O、水素は H、炭素は C。中学の理科で、物質は原子や分子からできていて、原子の種類は記号で表すと習います。

この話の用語

酸素(さんそ)漫画の中で見る
現実の事実8番の元素で、元素記号(げんそきごう)は O です。乾いた空気の体積の約21%を占め、物が燃える時に結びつく相手になります。燃焼の三要素の一つなので、酸素が足りないと火は燃え続けられません。
窒素(ちっそ)漫画の中で見る
現実の事実7番の元素で、元素記号(げんそきごう)は N です。乾いた空気の体積の約78%を占めます。空気の大部分ですが、ろうそくの火が燃える時に使われるのは窒素でなく酸素です。
ロウソクの科学(ファラデー)漫画の中で見る
現実の事実イギリスの科学者ファラデーが1860年のクリスマスレクチャーで、子どもたちにろうそく1本の燃え方から科学を語った講話の記録です。日本でも『ロウソクの科学』として訳され、今も読まれています。
元素記号(げんそきごう)漫画の中で見る
現実の事実元素(物をつくる原子の種類)を表す、ラテン文字1〜2字の記号です。酸素は O、水素は H、炭素は C。中学の理科で、原子の種類は記号で表すと習います。
酸素の発見(さんそのはっけん)(プリーストリー・シェーレ・ラヴォワジエ)漫画の中で見る
現実の事実イギリスのプリーストリーは1774年8月、水銀灰をレンズで集めた日の光で熱して酸素を取り出し、「脱フロギストン空気」と呼びました。スウェーデンのシェーレも同じ頃に取り出しています。「酸素」という名は、1779年にフランスのラヴォワジエが作りました。
火の家(ひのいえ)(アルデント家)漫画の中で見る
作中の世界の決まりこの世界の、火の魔法を受け継ぐ名家です。当主のアルデント卿は学院の理事でもあり、紅の外套が家の印です。四つの家(火・水・風・土)は、学院の教えそのものを守っています。

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あなた紅い馬車でアルデント卿が学院に着いた続きを考えたい

AI卿はまず学院長室を訪ね、空白の奨学生が瓶の火を燃やし続けた事を問いただす、という筋が自然です。学院長は窓の外の講堂を見ながら、灯った升の話をはぐらかします。

あなた学院長の返しの台詞を

AI学院長「升を灯したのは、名を呼んだ声でしたよ、卿。……火の家の火では、ありませんでした」。絵:卿の手袋が、机の上で握られる。

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この話のあらすじ

判定の翌朝、演習の庭で試し火が始まる。閉じた瓶の火を、砂時計が落ちきるまで燃やし続けた者だけが合格。生徒たちが火の呪文を強めるほど、瓶の火は早く消えた。火の家のイリスの紅の火も、一番大きく燃えて一番早く消える。レンは呪文を唱えず、ブラント先生に「瓶の中で、火は何を食べていると思いますか」と問う。答えは空気の一部、酸素。レンが酸素を名で呼ぶと、瓶の火は白く背を伸ばし、砂が落ちきっても燃え続けた。講堂の石の表の8番目の升に「O 酸素」の字が浮かぶ。レンは残れることになったが、その日の午後、学院の門に火の家の紅い馬車が着く。

作者

ka2uma

Web マーケター

Web 集客・SEO の仕事の考え方を異世界転生の物語に、AI と働く毎日の出来事や、そこから考えた話を読み切りにして描いています。

この作品について

燃える仕組み、空気と水の正体、炎の色、周期表。中学・高校の化学で習う事が、魔法の勝負の決め手になる面白さを味わえる物語です。

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