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第4話「ツアーのお客様」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

台風の過ぎた夜明けの事務所。窓の外に濡れた滑走路と、雲の切れ目の朝の光。窓ぎわの机に向かう志摩の背中。手前の机で、千早が振り返る。

同じ空港の主任・元は整備士(47)志摩 剛

しまかぜ航空・七浦島空港の地上係員(2年目、24)羽村 千早

羽村 千早:主任
潮田さん
あすの便で
戻るって
よかった︙︙

志摩 剛:そうか

志摩の顔の寄りを少し下から。窓の外は雲の切れ目の朝の光。横目で前を見て、無線を胸の前で握る。

志摩 剛:ゆうべの
答えだが

志摩 剛:去年の
あの朝
カウンターは
謝るだけ
だった

志摩 剛:理由を
言えるやつが
1人も
いなかった

千早の胸から上。目を見開いて聞いている。手前の左に、志摩の後ろ頭と大きな肩。

志摩 剛:だから
整備から
こっちへ
来た

羽村 千早:それで︙︙
「理由は?」

志摩 剛:口ぐせだ
忘れろ

羽村 千早:忘れません

第4話「ツアーのお客様」

きょうの便7:00 180便 本土行き 満席9:30 182便 本土行き 満席15:30 186便 本土行き 満席18:30 184便 本土行き 空席 3

ロビーには︑
きのうの欠航の
お客が並んだ︒

朝のロビーを高い所から。カウンターの前の長い列。先頭で、スーツケースを押す父と、書類の入った紙袋を提げた母、黄色い帽子の小さな娘の3人がカウンターに着く。カウンターの中に千早。

沢渡 健吾:きのうの
帰りの便が
欠航で

沢渡 健吾:きょうの便に
替えてくれ
3人

ツアーで来た客(41)沢渡 健吾

健吾の妻(38)沢渡 朋美

カウンター越しに、身を乗り出してスマホの予約の画面(読めない)を突き出す父。その後ろで、母が紙袋を胸に抱え、眉を下げる。手前の右に千早の肩。
カウンターの端末を千早の肩越しに。キーを打っていた千早の指が止まる。画面の行は読めない。

予約の記録182便(きのう) 沢渡様 3名 欠航航空券:旅行会社のツアー(パッケージ)便の変更:ご購入の旅行会社で

羽村 千早:このご予約
カウンターでは
替えられ
なくて︙︙

羽村 千早:申し訳︙︙

羽村 千早:いえ
確かめます

父の顔の寄りを少し下から。眉を吊り上げ、カウンターに両手をついて身を乗り出す。

沢渡 健吾:航空会社
なのに
替えられ
ないのか

沢渡 朋美:旅行会社に
ずっと
かけてるけど
話し中で

黄色い帽子の娘の寄り。母のカーディガンのすそをつかみ、カウンターの向こうの千早を見上げる。

健吾と朋美の娘(8)沢渡 そら

沢渡 そら:ママ
おうち
帰れないの?

千早の顔の寄り。耳の小さなピアスを指でつまみ、目を細めて考える。後ろの列はぼけている。

羽村 千早:あの︙︙
ツアーの
お客様は
旅行会社との
ご契約で︙︙

ツアー(募集型企画旅行(ぼしゅうがたきかくりょこう))の解説

現実の事実旅行会社が、行き先・日程・乗り物や宿・代金を先に決めて、参加する人を募る旅行です。いわゆるパックツアーで、航空券(こうくうけん)も宿もこの契約の一部なので、変更や取り消しの相談先(そうだんさき)は申し込んだ旅行会社です。

出典

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沢渡 健吾:じゃあ
誰が
決めるんだ

羽村 千早:旅行会社
なんです︙︙

沢渡 健吾:は?

〈ツアーの約款の決まり〉予定どおりに旅行できないおそれがある時は、旅行会社が必要な手を打つ(旅程管理)変えるしかない時は、旅行会社が代わりを手配する

旅程管理(りょていかんり)の解説

現実の事実ツアーの途中で予定どおりに進まないおそれがある時に、旅行会社がする務めです。観光庁の標準旅行業約款(やっかん)では、必要な手を打ち、それでも変えるしかない時は代わりの便や宿を手配し、変更を小さくするよう努めると決めています(第23条)。

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カウンターの前。千早が身を乗り出し、母の抱える紙袋を手のひらで指す。母が紙袋から、きちんと綴じた書類の束を引き出す。横で父が腕を組み、娘が背伸びしてのぞく。

羽村 千早:旅行会社から
もらった
日程表の紙
ありますか

沢渡 朋美:これ︙︙?

カウンターの上に広げた旅行の日程表(字は読めない線と四角だけ)を真上から。いちばん下の枠を、千早の人差し指が押さえる。紙の端を母の両手が持つ。千早の胸から上の寄り。手元の書類に目を落とし、見つけた顔で口が少し開く。

旅行中の連絡先

〈ご旅行の日程表〉島めぐり 3泊4日(9月11日〜14日)このツアーは、添乗員が同行しませんご旅行中の連絡先:旅行会社の窓口(24時間)

添乗員(てんじょういん)の解説

現実の事実ツアーに付いて行き、予定どおりに旅行が進むよう世話をする人です。観光庁の標準旅行業約款(やっかん)では、添乗員が仕事をする時間は原則8時から20時と決めています(第25条)。添乗員が同行するかは、ツアーの書面に書いてあります。

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羽村 千早:あった︙︙!
添乗員の
いないツアーは
ここに
連絡先が

旅行中(りょこうちゅう)の連絡先(れんらくさき)の解説

現実の事実添乗員(てんじょういん)が付かないツアーで、旅行先から旅行会社と連絡を取る方法です。旅行会社が渡す契約の書面に書く決まりがあります(旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則 第9条)。旅行中は書面を手元に置くと、困った時にすぐかけられます。

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沢渡 朋美:えっ
いつもの
番号と
違う︙︙

カウンターの前。スマホを耳に当てる母。横で父が身をかがめて耳を寄せ、カウンターの中の千早が書類を手に見守る。娘は母を見上げる。

沢渡 朋美:あ︙︙
つながった

旅行会社の担当(電話の声):沢渡様ですね
帰りの便は
こちらで
組み直します

羽村 千早:あっ
184便なら
3席
空いてます!

旅行会社の担当(電話の声):カウンターの
方ですね
助かります
184便で
お取りします

父の顔の寄り。眉を寄せ、母の耳もとのスマホに顔を近づけて口を開く。後ろにぼけたカウンター。

沢渡 健吾:待て
延びた1泊の
宿代は?

沢渡 健吾:旅程保証って
あるだろう

旅程保証(りょていほしょう)の解説

現実の事実ツアーの契約の書面にある旅行開始日(りょこうかいしび)・終了日や宿などに大事な変更が出た時、旅行会社が旅行代金に決まった率を掛けた「変更補償(ほしょう)金」を払う決まりです(標準旅行業約款(やっかん) 第29条)。払うのは旅行が終わった翌日から30日以内です。

台風で日程が延びた時も、変更補償金は出る?
標準旅行業約款では、天災地変や運送・宿泊機関のサービスの中止などによる変更は、変更補償金の対象外(たいしょうがい)です(第29条)。延びた分の費用は、旅行代金の変更として旅行者の負担になる事があります(第13条・第14条)。

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旅行会社の担当(電話の声):天候での
変更は
対象外で︙︙

旅行会社の担当(電話の声):言いにくい
んですが
増えた分は
ご負担に
なる事も︙︙

父の顔の寄り。言い返そうと開いた口が止まり、カウンターについた拳がゆっくりほどける。その拳を、下から娘の小さな手が握る。

沢渡 健吾:︙︙

羽村 千早:もし
納得いかない
時は
消費生活
センターにも
相談できます

消費生活(しょうひせいかつ)センターの解説

現実の事実買い物や契約の困りごとを相談できる、自治体の窓口です。消費者(しょうひしゃ)ホットラインの「188」に電話すると、近くの消費生活センターなどの相談窓口(そうだんまどぐち)につながります。土日祝日も、近くの窓口が閉まっている時は国民生活センターが補うので、原則毎日かけられます(年末年始などを除く)。

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カウンターの前。娘が父の顔を見上げる。父は黙ってしゃがみ、娘の黄色い帽子に大きな手をのせる。カウンターの中の右で千早が見守る。

沢渡 健吾:︙︙いや
帰れるなら
いい

沢渡 そら:おうち
帰れる?

羽村 千早:帰れるよ
夕方の
便で

夕方︑
184便の搭乗口︒

夕方の駐機場。184便の小さな双発のプロペラ機のタラップの途中で、上の段で娘が黄色い帽子を振る。後ろの母も笑って振り向き、父が続く。手前の搭乗口のガラスの内で、千早が小さく手を振り返す。

沢渡 そら(画面の外の声):ばいばーい

羽村 千早:「確かめます」で
最後まで
行けた

千早の顔の寄りを斜め横から。受話器を耳に当てたまま、もう片方の手で耳のピアスをつまむ。目は窓の外の暗い滑走路を見つめる。

滝(電話の声):羽村さん
すみません
あすは
機体1機で
4便
回すことに︙︙

あすの島の便飛ぶ機体:1機(もう1機は点検)180便 → 182便 → 186便 → 184便(同じ機体で順に)

羽村 千早:1機で
4便︙︙

滝(電話の声):1便目が
遅れたら
4便とも
遅れちゃう
んですよ

夜の事務所。机で受話器を耳に当てる千早。奥の窓ぎわで、志摩があすの運航の紙を手に振り向く。窓の外は晴れた夜の滑走路の灯り。

滝(電話の声):僕も
その1便目で
島へ
行きます

滝(電話の声):いつも
声だけ
でしたけど
運航管理の
滝 一真です

志摩 剛:あいつ
やっと
顔を出すか

あすの朝7時︑
1機の機体が︑
4つの便を背負って飛ぶ︒

第4話「ツアーのお客様」

つづく

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最終便、欠航です。

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あなた千早が42人に電話をかけ直す夜の場面を、もう少し見たい

AI電話の向こうで怒る人、泣く人、もう寝ていた子ども、とかけるたびに声が変わり、42人目でかけた番号が岩佐の会社の夜間の窓口だった、とすると、次の朝の再会につながる場面にできます。

あなたその時の千早の一言を

AI千早「申し訳……いえ。お知らせが、あります」。謝りかけて言い直す一言にすると、その夜の千早の変わり目が見えます。

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この話で分かること

パックツアーの帰りの飛行機が欠航(けっこう)したら、どこに連絡する?

パックツアー(募集型企画旅行(ぼしゅうがたきかくりょこう))の航空券(こうくうけん)は、旅行会社と結んだ契約の一部です。帰りの便の組み直しは、申し込んだ旅行会社がします。観光庁の標準旅行業約款(やっかん)では、予定どおりに旅行できないおそれがある時は旅行会社が必要な手を打ち、変えるしかない時は代わりを手配すると決めています(第23条)。

条件・例外

旅行会社の約款が標準と違う事があります。申し込んだ時の書面で確かめてください。

ツアーの旅行中(りょこうちゅう)の連絡先(れんらくさき)は、どこに書いてある?

添乗員(てんじょういん)が同行しないツアーでは、旅行会社が渡す契約の書面に、旅行先で旅行会社と連絡を取る方法を書く決まりです(旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則 第9条)。

台風の欠航(けっこう)でツアーの日程が延びたら、増えた宿代は誰が払う?

標準旅行業約款(やっかん)では、天災地変や運送機関のサービスの中止など旅行会社が関与できない理由で日程を変えた時、増えた費用の範囲で旅行代金を変える事があります(第13条・第14条)。天災地変などによる変更は、旅程保証(りょていほしょう)の変更補償(ほしょう)金の対象外(たいしょうがい)です(第29条)。

条件・例外

扱いは旅行会社の約款と書面で確かめ、納得できない時は消費者(しょうひしゃ)ホットライン(188)で近くの相談窓口(そうだんまどぐち)に相談できます。

旅程保証(りょていほしょう)とは?

ツアーの契約の書面にある旅行開始日(りょこうかいしび)・終了日や宿などに大事な変更が出た時、旅行会社が旅行代金に決まった率を掛けた変更補償(ほしょう)金を、旅行が終わった翌日から30日以内に払う決まりです(標準旅行業約款(やっかん) 第29条)。天災地変や運送・宿泊機関のサービスの中止などによる変更は対象外(たいしょうがい)です。

この話の用語

ツアー(募集型企画旅行(ぼしゅうがたきかくりょこう))漫画の中で見る
現実の事実旅行会社が、行き先・日程・乗り物や宿・代金を先に決めて、参加する人を募る旅行です。いわゆるパックツアーで、航空券(こうくうけん)も宿もこの契約の一部なので、変更や取り消しの相談先(そうだんさき)は申し込んだ旅行会社です。
旅程管理(りょていかんり)漫画の中で見る
現実の事実ツアーの途中で予定どおりに進まないおそれがある時に、旅行会社がする務めです。観光庁の標準旅行業約款(やっかん)では、必要な手を打ち、それでも変えるしかない時は代わりの便や宿を手配し、変更を小さくするよう努めると決めています(第23条)。
添乗員(てんじょういん)漫画の中で見る
現実の事実ツアーに付いて行き、予定どおりに旅行が進むよう世話をする人です。観光庁の標準旅行業約款(やっかん)では、添乗員が仕事をする時間は原則8時から20時と決めています(第25条)。添乗員が同行するかは、ツアーの書面に書いてあります。
旅行中(りょこうちゅう)の連絡先(れんらくさき)漫画の中で見る
現実の事実添乗員(てんじょういん)が付かないツアーで、旅行先から旅行会社と連絡を取る方法です。旅行会社が渡す契約の書面に書く決まりがあります(旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則 第9条)。旅行中は書面を手元に置くと、困った時にすぐかけられます。
旅程保証(りょていほしょう)漫画の中で見る
現実の事実ツアーの契約の書面にある旅行開始日(りょこうかいしび)・終了日や宿などに大事な変更が出た時、旅行会社が旅行代金に決まった率を掛けた「変更補償(ほしょう)金」を払う決まりです(標準旅行業約款(やっかん) 第29条)。払うのは旅行が終わった翌日から30日以内です。
消費生活(しょうひせいかつ)センター漫画の中で見る
現実の事実買い物や契約の困りごとを相談できる、自治体の窓口です。消費者(しょうひしゃ)ホットラインの「188」に電話すると、近くの消費生活センターなどの相談窓口(そうだんまどぐち)につながります。土日祝日も、近くの窓口が閉まっている時は国民生活センターが補うので、原則毎日かけられます(年末年始などを除く)。

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この話のあらすじ

台風が過ぎた朝。千早は、本土で1泊した潮田さんが、あすの便で戻ると志摩に伝える。志摩はゆうべの問いに答える。去年の引き返しの朝、カウンターは謝るばかりで、理由を言える者がいなかった。だから整備から地上の係へ来た。その朝、きのうの欠航で帰れなかったツアーの家族、沢渡 健吾・朋美・そら(8)がカウンターに来て、きょうの便に替えてくれと言う。ところが記録の航空券(こうくうけん)は旅行会社のツアーの物で、便の変更は購入した旅行会社がする。旅行会社の電話は台風の翌朝で話し中が続いている。千早は「申し訳……」を飲み込み、「確かめます」と言い直す。ツアー(募集型企画旅行(ぼしゅうがたきかくりょこう))は旅行会社との契約で、予定どおりに旅行できない時は旅行会社が代わりを手配する(旅程管理(りょていかんり))。千早は、旅行会社から渡された日程表の紙を出してもらい、添乗員(てんじょういん)が同行しないツアーには「旅行中(りょこうちゅう)の連絡先(れんらくさき)」が書いてあることを見つける。その番号にかけると旅行中の窓口につながり、担当が、空いていた184便の3席で帰りを組み直す。健吾は延びた1泊の宿代と旅程保証(りょていほしょう)を問うが、天候での変更は変更補償(ほしょう)金の対象外(たいしょうがい)で、増えた費用は負担になる事もあると言われる。千早は、納得できない時は消費生活(しょうひせいかつ)センターにも相談できると伝える。夕方、そらは184便のタラップで黄色い帽子を振る。その夜、運航管理(うんこうかんり)から電話が来る。あすは機体1機で4便を回し、1便目が遅れたら4便とも遅れる。電話の声は「僕もその1便目で島へ行きます。運航管理の滝 一真です」と名乗る。

作者

空車ノート

タクシーの配車や宅配、事故の後の示談、空港の欠航のカウンターのように、人と荷物と乗り物が動く仕事の現場を描いています。

この作品について

ホテル代を払うのは、客か、会社か。その答えは、便が飛ばない理由で決まります。謝るだけだった千早が、確かめてから頭を下げる係員になっていく夜を、一緒に見届けてください。

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