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第5話「機材繰り」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

本土の空港の朝。白い霧に沈むぬれた駐機場。誘導の係が両手を上げ、小さな双発のプロペラ機が霧の中で待つ。誘導灯が点で並ぶ。同じ時刻の七浦島空港のロビーを高い所から。晴れた窓。発着案内の板の下に客の列。カウンターの中で千早が案内の板を見上げる。

朝7時︒
本土は霧︑
島は晴れていた︒

発着案内181便 本土 → 七浦島 7:00発 遅れ(天候)180便 七浦島 → 本土 8:30発 遅れ(機材繰り)

機材繰り(きざいぐり)の解説

現実の事実前の便が何かの理由で遅れて、同じ機体で飛ぶ次の便も遅れることです。国土交通省の情報公開では、遅れの理由を「天候」「機材故障」「機材繰り」「その他」に分けて数えています。発着案内で「機材繰り」と出たら、前の便の遅れを引き継いでいる、と読めます。

理由がいくつも重なった時は?
国土交通省の情報公開では、いちばん影響の大きい理由に入れて数えます。

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カウンターの裏。無線を耳に当てる志摩と、案内の紙を胸に抱えた千早。窓の外は晴れた滑走路。

羽村 千早:主任
沢渡さんの
ご家族
ゆうべ
着いたって

志摩 剛:よし

志摩 剛:まずいな
1便目が
本土の霧で
45分遅れだ

羽村 千早:じゃあ
1機で回す
島の4便も︙︙

第5話「機材繰り」

朝のロビー。出張の鞄を提げた白髪のオールバックの男が、発着案内の板を見上げて眉を寄せる。カウンターから千早が身を乗り出す。

羽村 千早:岩佐様!

岩佐 宗一郎:また
欠航の夜の
あんたか

岩佐 宗一郎:月に2回
この島に
来るように
なってな

岩佐の顔の寄りを少し下から。千早の背中越しに、カウンターの画面の黄色い行(読めない)を指で突く。

出張の会社員(58)岩佐 宗一郎

岩佐 宗一郎:機材繰り?

岩佐 宗一郎:言い訳
だろうが

千早の顔の寄り。耳のピアスをつまみ、目を伏せて考える。後ろに、ぼけた案内の板の黄色。

羽村 千早:言い訳︙︙
じゃない

羽村 千早:理由は?

羽村 千早:少しだけ
お時間
ください

カウンターのメモ用紙を真上から。千早のペンが、小さな飛行機の形を1つと、2つの点を4つの矢印の鎖でつないで描く(字なし)。岩佐の指が始まりの点を指す。

機材繰り

〈千早のメモ〉きょう飛ぶ機体は1機本土 →(181便)→ 島 →(180便)→ 本土 →(183便)→ 島 →(182便)→ …1便目の45分が、次の便に乗っていく

羽村 千早:あの
きょうは
1機の機体が
順番に
飛んでて︙︙

羽村 千早:前の便が
遅れると
次の便も
待つしか
なくて︙︙

岩佐の顔の寄り。口はへの字のまま、目もとが少しゆるむ。2本の指でメモをとんとたたく。

岩佐 宗一郎:︙︙ほう

岩佐 宗一郎:なら
最初から
そう書いとけ
紙1枚で
済む話だ

岩佐が黙ると︑
ロビーの怒る声も︑
静かになった︒

遅れて着いた
181便から︑
見慣れない男が
降りてきた︒

晴れた駐機場を低い所から。小さな双発のプロペラ機のタラップを、タブレットを抱えた眼鏡の若い男が降りてくる。ネクタイが風に流れる。
カウンターの裏の扉の前。眼鏡の男が深く頭を下げる。向かいの右に千早、その横で志摩が腕を組む。

しまかぜ航空・運航管理(32)滝 一真

滝:運航管理の
滝です

羽村 千早:あっ
あの声の︙︙!

志摩 剛:声より
若いな

滝:よく
言われます

滝の顔の寄り。タブレットの画面(読めない)を千早たちに向け、もう片方の指で眼鏡を押し上げる。

滝:遅れを戻すのに
島の折り返しを
15分
詰めてみます

滝:15分を
超えたら
記録の上では
もう「遅延」
ですけど

遅延便(ちえんびん)の解説

現実の事実国土交通省の情報公開で「遅れた便」として数える便です。出発の予定の時刻より15分を超えて出発した便を「遅延便」と言います。空港の案内で「遅れ」と出ても、15分以内なら、この数には入りません。

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羽村 千早:15分で
「遅延」︙︙

滝:去年の夏なんて
遅延率
2割近くで︙︙

遅延率(ちえんりつ)の解説

現実の事実飛んだ便のうち、遅延便(ちえんびん)がどれだけあったかの割合です。国土交通省の発表では、2025年7〜9月の大手を含む航空会社(特定本邦航空運送事業者)全体の遅延率は19.70%でした(令和8年4月28日公表)。航空会社ごと・路線ごとの数も公開されています。

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事務所へ続く廊下を後ろから。大柄の志摩と、細身の滝が並んで歩く。志摩が横目で滝を見る。

志摩 剛:整備から
見ても
折り返し
15分減は
きついぞ

滝:承知
してます

滝:でも
欠航率は
ふつう1%ほど
出せる便は
出したいんです

欠航率(けっこうりつ)の解説

現実の事実飛ぶ予定だった便のうち、欠航した便の割合です。国土交通省の発表では、2025年7〜9月の大手を含む航空会社全体の欠航率は1.19%で、同じ時期の遅延率(ちえんりつ)(19.70%)よりずっと小さい数でした。

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午後3時︒
事務所︒

事務所のホワイトボードに、便の時刻を書き直す滝の背中(字は読めない線)。手前の机で千早が名簿を手にそちらを見る。

きょうの島の便(見込み)180便 8:30 → 9:15発182便 12:30 → 13:20発186便 15:30 → 16:30発(見込み)

羽村 千早:遅れが
増えてる︙︙

滝:本土の
空港が
混んでいて

滝:詰めた分より
待つ分が
多いんです

事務所の窓越しにロビーを見る。椅子で静かに待つ客たちと、カウンターの列。窓の手前に、千早の図の写し(飛行機の形と点線)がピンで留めてある。

千早の図を貼り出すと︑
苦情の電話は︑
朝の12件から︑
昼は2件になった︒

滝の顔の寄り。タブレットの上で指が止まる。眉間にしわ、眼鏡の奥の目が細くなる。

滝:184便は︙︙

184便(最終)予定 18:30発見込み 19:45発七浦島空港の運用時間 19:30まで

運用時間(うんようじかん)の解説

現実の事実空港ごとに決まっている、空港を使える時間です(利用時間とも言います)。国土交通省の空港一覧に空港ごとに載っていて、例えば利尻空港は9:00〜17:00の8時間で、3月25日〜10月30日は8:30〜17:00です(令和8年9月1日現在)。

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羽村 千早:えっ︙︙

志摩の顔の寄り。腕を組んだまま、目だけが鋭くホワイトボードを見る。

志摩 剛:15分
足りんか

滝が︑顔を上げた︒

滝(画面の外の声):このままだと

滝(画面の外の声):最終便は
飛べません

千早の顔の寄りを少し下から。184便の名簿を握る手に力が入り、目を見開く。窓の外は傾き始めた午後の光。

184便の予約は︑
38人︒

羽村 千早:42人に
謝った夜が
また︙︙

第5話「機材繰り」

つづく

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最終便、欠航です。

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あなた千早が42人に電話をかけ直す夜の場面を、もう少し見たい

AI電話の向こうで怒る人、泣く人、もう寝ていた子ども、とかけるたびに声が変わり、42人目でかけた番号が岩佐の会社の夜間の窓口だった、とすると、次の朝の再会につながる場面にできます。

あなたその時の千早の一言を

AI千早「申し訳……いえ。お知らせが、あります」。謝りかけて言い直す一言にすると、その夜の千早の変わり目が見えます。

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この話で分かること

機材繰り(きざいぐり)とは?

前の便が何かの理由で遅れて、同じ機体で飛ぶ次の便も遅れることです。国土交通省の情報公開では、遅れの理由を「天候」「機材故障」「機材繰り」「その他」に分けて数え、理由が重なった時はいちばん影響の大きい理由に入れます。

飛行機は何分遅れたら「遅延」?

国土交通省の情報公開では、出発の予定の時刻より15分を超えて出発した便を「遅延便(ちえんびん)」として数えています。

条件・例外

航空会社の案内や保険で使う「遅延」の決まりは、それぞれの約款(やっかん)・案内で確かめてください。

国内線の飛行機は、どれくらい遅れたり欠航(けっこう)したりする?

国土交通省の発表では、2025年7〜9月の大手を含む航空会社(特定本邦航空運送事業者)全体で、遅延率(ちえんりつ)は19.70%、欠航率(けっこうりつ)は1.19%でした(令和8年4月28日公表)。

空港の運用時間(うんようじかん)とは?

空港ごとに決まっている、空港を使える時間です。国土交通省の空港一覧に空港ごとに載っていて、例えば利尻空港は9:00〜17:00の8時間で、3月25日〜10月30日は8:30〜17:00です(令和8年9月1日現在)。

この話の用語

機材繰り(きざいぐり)漫画の中で見る
現実の事実前の便が何かの理由で遅れて、同じ機体で飛ぶ次の便も遅れることです。国土交通省の情報公開では、遅れの理由を「天候」「機材故障」「機材繰り」「その他」に分けて数えています。発着案内で「機材繰り」と出たら、前の便の遅れを引き継いでいる、と読めます。
遅延便(ちえんびん)漫画の中で見る
現実の事実国土交通省の情報公開で「遅れた便」として数える便です。出発の予定の時刻より15分を超えて出発した便を「遅延便」と言います。空港の案内で「遅れ」と出ても、15分以内なら、この数には入りません。
遅延率(ちえんりつ)漫画の中で見る
現実の事実飛んだ便のうち、遅延便(ちえんびん)がどれだけあったかの割合です。国土交通省の発表では、2025年7〜9月の大手を含む航空会社(特定本邦航空運送事業者)全体の遅延率は19.70%でした(令和8年4月28日公表)。航空会社ごと・路線ごとの数も公開されています。
欠航率(けっこうりつ)漫画の中で見る
現実の事実飛ぶ予定だった便のうち、欠航した便の割合です。国土交通省の発表では、2025年7〜9月の大手を含む航空会社全体の欠航率は1.19%で、同じ時期の遅延率(ちえんりつ)(19.70%)よりずっと小さい数でした。
運用時間(うんようじかん)漫画の中で見る
現実の事実空港ごとに決まっている、空港を使える時間です(利用時間とも言います)。国土交通省の空港一覧に空港ごとに載っていて、例えば利尻空港は9:00〜17:00の8時間で、3月25日〜10月30日は8:30〜17:00です(令和8年9月1日現在)。

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この話のあらすじ

台風の2日後の朝。もう1機は点検で、島の4便を1機の機体で順に飛ぶ。1便目の181便は本土の霧で45分遅れ、その遅れが島の便に乗ってくる。発着案内の理由は、181便が「天候」、180便からは「機材繰り」。出張の常連として月に2回島に来るようになった岩佐が「機材繰り? 言い訳だろうが」と言う。千早は「理由は?」を自分に聞き直し、1機の機体が島と本土を順に行き来する図をメモに描いて見せる。前の便が遅れると、次の便も待つしかない。岩佐は「最初からそう書いとけ」と言って黙り、朝のロビーの怒る声も静かになる。遅れて着いた181便から、運航管理(うんこうかんり)の滝 一真が初めて島に来る。滝は折り返しを15分詰めると言う。出発予定から15分を超えた便は、国の記録の上では遅延便(ちえんびん)になる。それでも午後、本土の空港の混雑で、詰めた分より待つ分が多く、遅れは積もっていく。千早の図を貼り出すと苦情の電話は朝の12件から昼の2件に減ったが、滝の計算で最終の184便の出発は19時45分の見込みになる。七浦島空港の運用時間(うんようじかん)は19時30分まで。滝は「このままだと、最終便は飛べません」と言う。184便の予約は38人。

作者

空車ノート

タクシーの配車や宅配、事故の後の示談、空港の欠航のカウンターのように、人と荷物と乗り物が動く仕事の現場を描いています。

この作品について

ホテル代を払うのは、客か、会社か。その答えは、便が飛ばない理由で決まります。謝るだけだった千早が、確かめてから頭を下げる係員になっていく夜を、一緒に見届けてください。

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