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第3話「ばあちゃんの紙切れ」

古い家の庭の門の前。えんじの割烹着の小柄な年配の女性が、への字の口で腕を組む。庭の中から大柄な男性があわてて駆け寄り、後ろに女の子と、柿を持った小さな男の子。

ザッ

舟越さんの家の、庭の門。

洋平の母(72)棚橋 トシ子

植木職人(41)棚橋 洋平

小学6年(12)棚橋 実花

棚橋 洋平:母さん
なんで
ここに

棚橋 トシ子:柿をもらいに
来たら

棚橋 トシ子:投資だの
株だのって
聞こえたで

棚橋 実花:ばあちゃん

棚橋 実花:なんで
株は
だめなの?

年配の女性の顔の寄り。小さな目をそらし、割烹着のすそで手を何度もふく。

棚橋 トシ子:︙︙口で
言うより

棚橋 トシ子:見せたるわ
うちに来な

舟越 佐和子:私も
ご一緒して
いいかしら

棚橋 トシ子:舟越さんなら
ええわ

3軒先の
ばあちゃんの家︒
碧は庭で︑柿の番︒

お金の出張授業の講師(58)舟越 佐和子

古い家の茶の間を高い所から。ちゃぶ台を囲み、小柄な年配の女性が茶だんすの引き出しから古い茶封筒を出す。大柄な男性、眼鏡をかけたからし色のカーディガンの年配の女性、女の子が座って見守る。
真上から、ちゃぶ台の上に広げた黄ばんだ紙が2枚と、古い新聞の切り抜き(字は描かない)。しわの多い手がそっと伸ばす。

〈茶封筒の中の紙〉平成2年3月 買い 地元の電機の会社の株 1,000株 1株 2,400円平成4年2月 売り 1株 900円

棚橋 実花:これ
何の紙?

舟越 佐和子:株を
売り買い
した時の
知らせね

取引報告書(とりひきほうこくしょ)(取引が成立した時の知らせ)の解説

現実の事実株や投資信託(とうししんたく)の売り買いが成立した時に、証券会社(しょうけんがいしゃ)などが、何を・いつ・いくらで・何株売り買いしたかを客に知らせる物です。金融商品取引法(第37条の4)で決まっていて、昔は紙で届き、今はネットで見る事もできます。自分の取引を後から確かめる時の元になります。

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棚橋 トシ子:平成2年

棚橋 トシ子:貯めてた
240万

棚橋 トシ子:ぜんぶ
ひとつの会社の
株にした

株式(かぶしき)の解説

現実の事実会社が、事業のお金を集めるために出す物で、買った人はその会社の持ち主(株主)の1人になります。値段(株価)は、買いたい人と売りたい人の数で毎日動きます。金融庁(きんゆうちょう)の表では、増える力は大きい一方で、安全性は低い物とされています。1つの会社の株だけを持つと、その会社の調子で全部が動きます。

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棚橋 実花:えっ
ぜんぶ?

棚橋 洋平:︙︙そんなの
知らなかった

年配の女性が遠くを見る横顔。背景に、若い頃の彼女が玄関で背広の男の人に頭を下げる淡い回想の絵が重なる(顔はぼかす)。

棚橋 トシ子:証券会社の人が
毎週来てな

棚橋 トシ子:「必ず
上がります」
って

「必ず上がる」と言って勧める事の禁止(断定的判断(だんていてきはんだん)の提供)の解説

現実の事実値上がりのように確かでない事を「必ず」と言い切って、投資を勧める事です。今の金融商品取引法(第38条)は、証券会社(しょうけんがいしゃ)などがこう言って勧誘する事を禁じています。「必ず増える」「損はしない」と言われたら、それだけで立ち止まる理由になります。

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棚橋 実花:うそ
必ずって
言ったの?

古い新聞の切り抜きを両手で持ち、眉を下げて見つめる年配の女性。指先が小さく震え、切り抜きの端が絵の右の枠の線を越えて外へ出る。

棚橋 トシ子:上がったのは
最初だけや

棚橋 トシ子:毎朝
新聞を見て
眠れんかった

棚橋 実花:だから
売ったの?

棚橋 トシ子:売ったんは
平成4年の
2月

棚橋 トシ子:240万が
90万に
なっとった
150万の損や

株を売って出た損(譲渡損失(じょうとそんしつ))の解説

現実の事実株を買った値段より安く売った時の損です。上場している株の損は、確定申告をすると、同じ年の株の利益や配当と差し引けて、引ききれない分は次の年から3年、繰り越せます。NISA の口座の中の損は、この差し引きも繰り越しもできません。

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年配の女性が、手前の大柄な男性をまっすぐ見上げる。への字だった口元がふるえ、目に涙がにじむ。

棚橋 トシ子:あんたの
小学校の
入学のお金が
要ったでな

大柄な男性の顔の大写し。目を見開いて上を見、口が開いて息がもれる。後ろに、ランドセルを背負った小さな男の子と、台所で背中を丸める若い母の淡い回想。

棚橋 洋平:俺の
ランドセル︙︙

棚橋 洋平:台所で
泣いてたの
あの時か

同じ茶の間︒
お茶が冷めていく︒

ちゃぶ台をはさみ、女の子が身を乗り出して祖母を見る。祖母は湯のみを両手で包む。

棚橋 実花:わたしは
下がっても
売らない

棚橋 トシ子:口ではな

棚橋 トシ子:来年の春
中学の制服を
買う時に

棚橋 トシ子:半分に
なっとったら?

女の子の顔の寄り。口を開けかけて止まり、目が泳ぐ。手の中の自由帳を強く握る。同じ時、祖母は湯のみを両手で包んだまま、黙って孫を見つめる。

棚橋 実花:それは︙︙

舟越 佐和子:トシ子さん

舟越 佐和子:少し
言っても
いい?

実花が︑自由帳に
はさんでいた
授業のプリントを出す︒

からし色のカーディガンの年配の女性が、ちゃぶ台の上の2枚の紙と、女の子のプリントを並べ、人差し指で順に指す。

舟越 佐和子:トシ子さんは

舟越 佐和子:近いうちに
使うお金を

舟越 佐和子:ひとつの会社に
一度に

〈ばあちゃんの株〉使う日が近いお金を / ひとつの会社に / 一度に〈実花のプリント〉長く / 分けて / 少しずつ

棚橋 実花:あ

棚橋 実花:ぜんぶ
反対だ

棚橋 洋平:だから俺
投資って
聞くだけで
︙︙

年配の女性が2枚の紙を両手に持って見つめる。目を見開き、口が開いて、ふっと息がもれる。

棚橋 トシ子:ぜんぶ
逆やった
んか

舟越 佐和子:トシ子さんが
悪かったん
じゃないの

舟越 佐和子:証券会社の人が
「必ず」と
言ったのが
いけないの

証券会社(しょうけんがいしゃ)(金融商品取引業者(きんゆうしょうひんとりひきぎょうしゃ)の登録)の解説

現実の事実株や投資信託(とうししんたく)の売り買いを取り次ぐ会社です。国(金融庁(きんゆうちょう)・財務局)に「金融商品取引業者」として登録した会社だけができ、登録の一覧は金融庁のサイトで調べられます。銀行や郵便局でも、登録して投資信託を売っている所があります。

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帰りぎわ︒
ばあちゃんの家の門︒

青い空の下、柿畑の間の細い道。祖母の家の門の前で、祖母が、赤いかばんを背負った女の子の頭に手を置く。女の子は目を細めて笑う。少し離れて、大柄な男性が腕を組んでほほえむ。

棚橋 実花:ばあちゃんは
もう
やらない?

棚橋 トシ子:やらん

棚橋 トシ子:︙︙けど
実花が
決めるなら
見とるわ

男性の手の寄り。首の白いタオルの端を握りかけて、離す。

棚橋 洋平:母さん︙︙

その夜︒
実花の部屋︒

真上から。女の子の机の上の自由帳。女の子の手が鉛筆で大きく四角を書き、その中に何行も書きこむ(字は描かない)。走る鉛筆の先が絵の下の枠の線を越えて外へ出る。

〈実花の自由帳〉日曜の夜7時 家族会議ぎだい:わたしのお金は、何のお金?しゅっせき:お父さん・お母さん・碧・ばあちゃん

机の横の大柄な男性が、自由帳をのぞきこんで眉を上げる。女の子は鉛筆を顎に当て、にっと笑う。

棚橋 洋平:会議?

棚橋 実花:日曜の
夜7時

棚橋 実花:お父さんも
ばあちゃんも
来てね

第3話「ばあちゃんの紙切れ」

つづく

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

お気に入りから外しますか?

こどもNISA、わたしのお金でしょ?

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この話で分かること

こどもNISAで気をつける事は?

投資信託(とうししんたく)なので値が下がる事(元本割れ)があり、原則、子どもが18歳になる年の前の年の終わりまで出せず、17歳までは金融機関(きんゆうきかん)を変えられず、積み立てでしか買えません。近いうちに使うお金を入れると、使う時に下がっていても、すぐには出せない事があります。

条件・例外

12歳からは、子ども本人の同意で、教育費・生活費(せいかつひ)のために出せます(2026年10月時点の決まり)。

「必ず上がる」と勧められたら?

金融商品取引法(第38条)は、証券会社(しょうけんがいしゃ)などが確かでない事を「必ず」と言い切って勧誘する事を禁じています。言い切る勧め方は、それだけで立ち止まる理由になります。

条件・例外

迷ったら、金融庁(きんゆうちょう)の金融サービス利用者(りようしゃ)相談室(そうだんしつ)(0570-016811、平日10時〜17時)に相談できます。

株式(かぶしき)とは?

会社がお金を集めるために出す物で、買った人は会社の持ち主の1人になります。値段は毎日動き、1つの会社の株だけを持つと、その会社の調子で全部が動きます。

物語との違い

作中の会社・株価は創作です。

この話の用語

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現実の事実株や投資信託(とうししんたく)の売り買いが成立した時に、証券会社(しょうけんがいしゃ)などが、何を・いつ・いくらで・何株売り買いしたかを客に知らせる物です。金融商品取引法(第37条の4)で決まっていて、昔は紙で届き、今はネットで見る事もできます。自分の取引を後から確かめる時の元になります。
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現実の事実会社が、事業のお金を集めるために出す物で、買った人はその会社の持ち主(株主)の1人になります。値段(株価)は、買いたい人と売りたい人の数で毎日動きます。金融庁(きんゆうちょう)の表では、増える力は大きい一方で、安全性は低い物とされています。1つの会社の株だけを持つと、その会社の調子で全部が動きます。
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現実の事実値上がりのように確かでない事を「必ず」と言い切って、投資を勧める事です。今の金融商品取引法(第38条)は、証券会社(しょうけんがいしゃ)などがこう言って勧誘する事を禁じています。「必ず増える」「損はしない」と言われたら、それだけで立ち止まる理由になります。
株を売って出た損(譲渡損失(じょうとそんしつ))漫画の中で見る
現実の事実株を買った値段より安く売った時の損です。上場している株の損は、確定申告をすると、同じ年の株の利益や配当と差し引けて、引ききれない分は次の年から3年、繰り越せます。NISA の口座の中の損は、この差し引きも繰り越しもできません。
証券会社(しょうけんがいしゃ)(金融商品取引業者(きんゆうしょうひんとりひきぎょうしゃ)の登録)漫画の中で見る
現実の事実株や投資信託(とうししんたく)の売り買いを取り次ぐ会社です。国(金融庁(きんゆうちょう)・財務局)に「金融商品取引業者」として登録した会社だけができ、登録の一覧は金融庁のサイトで調べられます。銀行や郵便局でも、登録して投資信託を売っている所があります。

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AIトシ子は、平成2年の自分も同じ事を思っていたと知っています。だから孫を止めたいのに、強く言うほど昔の自分を責める事にもなる。その迷いを、湯のみを包む手で見せる場面にできます。

あなたトシ子の心の声を1行で

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この話のあらすじ

庭の門に立った祖母のトシ子(72)に、実花は「なんで株はだめなの?」と聞く。トシ子は「見せたるわ」と、3軒先の家へ洋平と実花と舟越を連れて行く。茶だんすの封筒から出てきたのは、平成2年に1株2,400円で1,000株、平成4年2月に1株900円で売った紙。貯めていた240万円を、毎週来た証券会社(しょうけんがいしゃ)の人の「必ず上がります」で、ひとつの会社の株にしたのだ。売ったのは、洋平の小学校(しょうがっこう)の入学のお金が要ったから。洋平は、台所で泣いていた母の背中を思い出す。「下がっても売らない」と言う実花に、トシ子は「口ではな。来年の春、制服を買う時に半分になっとったら?」と返し、実花は答えられない。舟越が2枚の紙と実花のプリントを並べる。使う日が近いお金を・ひとつの会社に・一度に。長く・分けて・少しずつの、ぜんぶ反対だった。帰り道、トシ子は「やらん。けど、実花が決めるなら見とる」と言う。その夜、実花は自由帳に書く。「日曜の夜7時、家族会議。わたしのお金は、何のお金?」。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

子どもの名前で始める NISA の決まり(いつから・いくらまで・いつ出せるか)と、増えも減りもするお金との付き合い方を、親と子の両方の目でたどれます。小学校の高学年なら、親と一緒に読めます。

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