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第5話「音が遅れる」

この物語はフィクションです。写真店・人物・作中の写真は架空で、花火大会は実在の大会です。

縦に長いスマホの動画の一コマ。上に、夏の夜空に開いた大きな花火。真ん中に、夜の家々の屋根の並びと、暗い色の古い窯の四角い煙突が1本。下に、坂の途中の道の柵と、柵につかまって空を見上げる小さな男の子の後ろ姿。少しぶれた動画の粒。

光って。

少しして、ドン。

「もう一回、ここで見たい」

第5話「音が遅れる」

朝の写真店。カウンターで、布張りの古い帳面を開いたまま眠そうに頬杖をつく遥(画面の左)。奥に、白いカップを持って立つ祖父(画面の右)。窓の朝の光。

三ツ木 遥:ゆうべの帳面
船の名前が
7つもあった

遥の胸から上の寄り。頬杖を外して、奥の戸口の祖父の方(画面の右)を見て聞きかける。窓の朝の光。

三ツ木 遥:ねえ
あの船って

三ツ木 鉄郎:客が
来るぞ

店の入口。スマホを手にした30代の女性(画面の左)が、5歳くらいの男の子(画面の右)と手をつないで入ってくる。男の子は女性を見上げて話しかけている。戸の上に鈴。

カラン

依頼人汐入 加代

加代の息子(5)汐入 朔

汐入 加代:写真じゃなくて
動画でも
いいですか

カウンターの上の寄り。女性の手がスマホを置き、花火の動画を再生する(画面は光と形だけ)。横から男の子の小さな指が画面に伸びる。

汐入 加代:去年の夏
多治見の
花火の

多治見市制記念花火大会(たじみしせいきねんはなびたいかい)の解説

現実の事実岐阜県多治見市の土岐川(ときがわ)の河川敷(陶都大橋〜国長橋)で開く花火大会(はなびたいかい)です。例年は夏に開かれますが、令和8年度(2026年)は10月18日(日)午後6時30分〜7時15分の秋の開催でした(多治見市)。市民の有志でつくる実行委員会が中心になって企画・運営しています。

席はある?
多治見市によると、令和8年度は打ち上げ場所の対岸などに有料の桟敷席(S席〜C席)があり、全席が売り切れました。臨時駐車場は全部が有料・予約制でした。

出典

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汐入 朔:ドンがね
おくれて
くるの!

男の子の寄り。両手を大きく広げ、目を細めて口を大きく開けて笑う。左手が絵の枠の上を越える。

汐入 朔:ピカッてして
しーんってして
ドン!

女性の横顔の寄り。手に持ったスマホの画面を見て、懐かしそうに少し笑う。

汐入 加代:夫が
車を
止めた所なんです

汐入 加代:でも夫は
「坂の途中」
としか

カウンターの前の2人を少し上から。女性が男の子の頭に手を置き、男の子は棚のカメラに背伸びする。

汐入 加代:この子が
もう一回
あそこで
見たいって

カウンターの中の遥の腰から上。手前の左に女性の肩の影。首のルーペに指を当て、女性の方(画面の左)を見る。

三ツ木 遥:見える
とは
言えません

三ツ木 遥:でも
撮った所なら
探してみます

カウンターのノートパソコンの前で、指を折って数える遥(画面の左)。横で男の子(画面の右)がまねをして指を折り、楽しそうに笑っている。

三ツ木 遥:光って
1︑2
3︑4︙︙

三ツ木 遥:ドン

音の速さの解説

現実の事実音は空気を震わせて伝わり、1秒におよそ340メートル進みます。光は1秒におよそ30万キロメートルなので、遠くの花火や雷は、光が先に届き、音が後から届きます。光ってから音までの秒数に340をかけると、おおよその距離が分かります(気象庁)。

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〈推理 1つ目〉光ってから音まで:約4秒(耳で数えた)音の速さ:1秒に約340メートル4 × 340 = 約1,360メートル

遥の顔の寄り。折った指を止めて、画面を見たまま何かに気づく顔。パソコンの青白い光が頬に当たる。

三ツ木 遥:雷と
同じ数え方

雷までの距離の目安の解説

現実の事実光ってから音が聞こえるまでの秒数で、雷までのおおよその距離が分かります。福岡管区気象台の資料では、3秒なら約1km、10秒なら約3km、30秒なら約10kmで、30秒でも「次の落雷は、すぐ近くかもしれない」としています。雷の音が聞こえたら、すぐ建物の中など安全な所へ移ります。

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カウンターの横に杖をついて立つ祖父。眉をひそめ、カウンターのノートパソコンを少し離れた所からのぞいている。腰のベルト。

三ツ木 鉄郎:耳で
数えるな

三ツ木 鉄郎:動画なら
コマで数えろ

祖父と遥の手元を上から。節くれだった祖父の人差し指が、ノートパソコンの動画の再生の線(字は読めない)を指す。左で遥の手がメモを取っている。

三ツ木 鉄郎:光ったコマから
音の波が立つ
コマまで

祖父の肩越しに、ノートパソコンをのぞき込む遥。口元で指を折りながら、口を結んで数えている。画面は光と線だけ。

三ツ木 遥:129コマ︙︙

三ツ木 遥:4.3秒

祖父の胸から上を少し下から。パソコンから目を上げ、遠くを見て低く言う。茶のカーディガンと太い眉。

三ツ木 鉄郎:それと
夏の夜は
音が速い

気温と音の速さの解説

現実の事実音の速さは、空気の温度で変わります。名古屋市科学館の解説では、乾いた1気圧の空気の中で、音の速さ(メートル毎秒)はおよそ「331.5+0.61×気温(℃)」。気温0℃なら約332メートル、30℃なら約350メートルで、暑い夜ほど音は少し速く届きます。

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遥の顔の寄り。祖父の方を見て、手を止めて驚く。眉が上がり、口が少し開く。

三ツ木 遥:え︙︙
温度で?

三ツ木 鉄郎:︙︙昔
それで外した

〈推理 2つ目〉光ってから音まで:129コマ ÷ 1秒の30コマ = 4.3秒夏の夜(約28℃)の音の速さ:1秒に約349メートル4.3 × 349 = 約1,500メートル

少し上から、祖父の背と丸めた肩。杖に寄りかかり、遥に顔を見せずうつむく。

三ツ木 遥:音で
距離を測る

カウンターの地図を挟む2人。遥が鉛筆で地図の丸い線をなぞり、女性がスマホを手に身を乗り出してのぞく。地図に字は無い。

三ツ木 遥:打ち上げは
土岐川の河川敷

土岐川(ときがわ)の解説

現実の事実岐阜県から愛知県へ流れる庄内川の、岐阜県の側の呼び名です。国土交通省の庄内川河川事務所(じむしょ)は「庄内川(土岐川を含む)」として管理し、愛知と岐阜の県境から上流を土岐川出張所が受け持っています。多治見の市街地を東西に流れています。

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三ツ木 遥:そこから
約1,500
メートルの
円の上で

カウンターに広げた多治見の地図(字は読めない)。遥の手の赤い鉛筆が、等高線の詰まった坂の上の、小さな四角い煙突の印を丸で囲む。鉛筆が絵の枠を越える。

三ツ木 遥:手前に
窯の煙突が
見える坂

女性の顔の寄り。手前の地図の、丸で囲んだ煙突の印を見つめ、口元に指を当てて目を見開く。

汐入 加代:あ︙︙
この煙突

汐入 加代:祖母の家の
裏の窯

暗い色の記憶の絵。夜の坂の上、古い窯の煙突の横で、小さな女の子と祖母が座った後ろ姿で遠くの花火を見上げる。顔は写らない。

汐入 加代:子どもの頃
祖母とここで
花火を見たんです

汐入 加代:「ここで
止めて」って
言ったの
私だった

女性がしゃがんで、男の子と目の高さを合わせる。男の子が女性の頬を両手ではさみ、笑っている。女性は目のふちを赤くして笑い返す。

汐入 朔:えー
お母さんの
場所だったの?

汐入 加代:うん
ひい
おばあちゃんの

カウンターの中の遥。2人の方(画面の左)を見て、やわらかく笑う。手元に地図を畳みかけている。

三ツ木 遥:来年の日程は
まだ出てません

三ツ木 遥:出たら
主催の案内で
確かめて
くださいね

その夜︒

閉めた後の暗い店。カウンターのランプの下で、遥が古い帳面をめくる。奥の戸口の前に、杖に両手を重ねた祖父が立っている。

三ツ木 遥:今日
初めて
教えてくれたね

三ツ木 鉄郎:教えたのは
あれだけだ

遥の顔の寄り。ランプの光の中で帳面から目を上げ、奥の暗がりの祖父を見る。

三ツ木 遥:「昔
外した」って
言ってたよね

三ツ木 鉄郎:夏の夜だ

戸口の祖父の全身を低い位置から。杖を握って立ち、顔は半ば影の中でうつむく。

三ツ木 遥:外したって
何を︙︙?

祖父の後ろ姿の全身を低い位置から。杖をついて奥の暗がりへ戻りかけ、戸口の柱に手を掛けて止まる。ランプの光が背中の端にだけ当たる。
開いた古い帳面の頁の寄り。かすれた手書きの行が並ぶ(字は読めない)。1つの行の頭に、ほかより濃い字の印。遥の指先がその行で止まる。

〈帳面の1行〉1978 隅田川 2名

三ツ木 遥:1978……
隅田川

三ツ木 遥:あの
「1978」の
ネガと
同じ年

開いた帳面の1つの行を指でなぞる遥の横顔。目を見開いて帳面を見ている。字は読めない線だけ。

三ツ木 遥:2名って

三ツ木 遥:おじいちゃんと
誰?

祖父の顔の大写し。ランプの光が顔の半分にだけ当たり、への字の口を固く閉じている。目は帳面ではなく、遥を見ている。

三ツ木 鉄郎:︙︙

第5話「音が遅れる」

つづく

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その花火、どこから撮った?

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AI遥は帳面の事を聞かず、いつもの朝にコマの数え方だけを聞く形にすると、2人とも分かっているのに言わない間が出せます。

あなたその線で、台詞を

AI遥「コマで数えるの、どこで覚えたの」。祖父「……昔の仕事だ」。遥(つぶやき)「1978年の、仕事?」。

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この話で分かること

多治見市制記念花火大会(たじみしせいきねんはなびたいかい)の花火は、どこから見える?

打ち上げは、多治見市の土岐川(ときがわ)の河川敷(陶都大橋〜国長橋)です。作中では、去年の夏の動画の、光ってから音が届くまでの時間と気温から、撮った所が打ち上げる所から約1,500メートル離れていると割り出し、手前に写る窯の煙突と坂を手がかりにしました。

条件・例外

令和8年度(2026年)の大会は10月18日に終わっています。次の開催の日程・席・交通の決まりは、主催者と多治見市の発表で確かめてください。

物語との違い

作中の動画と撮った場所は架空で、特定の場所から見えることを示す物ではありません。

花火の光と音のずれで、距離は分かる?

おおよそ分かります。音は1秒に約340メートル進み、光はほぼすぐ届くので、光ってから音までの秒数×340メートルが目安の距離です(気象庁)。動画なら、光ったコマから音が届いたコマまでを数え、1秒のコマ数で割ると、耳で数えるより細かく秒数が分かります。

条件・例外

音の速さは気温で変わります(気温が高いほど少し速い)。風や地形でも聞こえ方は変わります。

音の速さは、気温でどれくらい変わる?

名古屋市科学館の解説では、乾いた1気圧の空気の中で、音の速さ(メートル毎秒)はおよそ「331.5+0.61×気温(℃)」です。0℃で約332メートル、30℃で約350メートルです。

雷までの距離は、どう数える?

光ってから音が聞こえるまでの秒数で分かります。3秒で約1km、10秒で約3km、30秒で約10km(福岡管区気象台)。30秒でも、次の落雷はすぐ近くかもしれないので、雷の音が聞こえたら安全な所へ移ります。

この話の用語

多治見市制記念花火大会(たじみしせいきねんはなびたいかい)漫画の中で見る
現実の事実岐阜県多治見市の土岐川(ときがわ)の河川敷(陶都大橋〜国長橋)で開く花火大会(はなびたいかい)です。例年は夏に開かれますが、令和8年度(2026年)は10月18日(日)午後6時30分〜7時15分の秋の開催でした(多治見市)。市民の有志でつくる実行委員会が中心になって企画・運営しています。
音の速さ漫画の中で見る
現実の事実音は空気を震わせて伝わり、1秒におよそ340メートル進みます。光は1秒におよそ30万キロメートルなので、遠くの花火や雷は、光が先に届き、音が後から届きます。光ってから音までの秒数に340をかけると、おおよその距離が分かります(気象庁)。
雷までの距離の目安漫画の中で見る
現実の事実光ってから音が聞こえるまでの秒数で、雷までのおおよその距離が分かります。福岡管区気象台の資料では、3秒なら約1km、10秒なら約3km、30秒なら約10kmで、30秒でも「次の落雷は、すぐ近くかもしれない」としています。雷の音が聞こえたら、すぐ建物の中など安全な所へ移ります。
気温と音の速さ漫画の中で見る
現実の事実音の速さは、空気の温度で変わります。名古屋市科学館の解説では、乾いた1気圧の空気の中で、音の速さ(メートル毎秒)はおよそ「331.5+0.61×気温(℃)」。気温0℃なら約332メートル、30℃なら約350メートルで、暑い夜ほど音は少し速く届きます。
土岐川(ときがわ)漫画の中で見る
現実の事実岐阜県から愛知県へ流れる庄内川の、岐阜県の側の呼び名です。国土交通省の庄内川河川事務所(じむしょ)は「庄内川(土岐川を含む)」として管理し、愛知と岐阜の県境から上流を土岐川出張所が受け持っています。多治見の市街地を東西に流れています。

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更新日:

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この話のあらすじ

朝、「ミツギ写真」に汐入 加代と5歳の朔が来る。持ち込んだのは写真でなく、去年の夏の多治見市制記念花火大会(たじみしせいきねんはなびたいかい)の動画。夫が車を止めた「坂の途中」で撮った物で、朔は「ドンが、遅れて来る所」でもう一度見たいという。遥は光ってから音までを耳で数えて約4秒、音の速さ1秒に約340メートルから約1,360メートルと見当をつける。そこへ祖父が「耳で数えるな。動画なら、コマで数えろ」。129コマで4.3秒。「それと、夏の夜は、音が速い」。気温で音の速さが変わり、打ち上げる土岐川(ときがわ)の河川敷から約1,500メートル。その円の上で、手前に窯の煙突が見える坂。加代は、子どもの頃に祖母と花火を見た坂だと思い出し、「ここで止めて」と言ったのは自分だったと気づく。その夜、遥は帳面(ちょうめん)の1行を見つける。「1978 隅田川 2名」。おじいちゃんと、誰? 祖父は答えない。

作者

ハナビミエル開発者

花火が見える可能性を地図で探すサービス、ハナビミエルを作っています。花火の見え方を調べる中で気づいた事を、漫画にしています。

この作品について

花火の大きさや重なり、手前の景色から撮った場所を絞り込む手がかりと、大会ごとの見え方の違いを、謎解きを追いながら覚えられます。

この話を紹介する

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