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読み切り「点数、数えられますか」

公民館の和室の、緑の卓。白髪の角刈りの小柄な老人が、身を乗り出して手牌を倒し、右の拳を突き上げる。倒した牌が絵の枠の下の線を越えて手前へ転がり出る。

健康マージャン教室の古株(78)瀬川 辰夫

瀬川 辰夫:ロン!

瀬川 辰夫:満貫だな!

公民館の和室の教室。真ん中に、若草色のエプロン姿のふくよかな60代の女性の世話役が、老眼鏡を首から下げて立つ。卓のまわりの老人たちが、世話役の方へ顔を向ける。奥の卓に、えんじのベストの白髪の老人。

教室の世話役(元・小学校の先生)大槻 さと子

大槻 さと子:辰夫さん
今日は
文子さん
いませんよ

大槻 さと子:点数
数えられ
ますか

老人の寄り。胸の前で拳を握ったまま固まり、額に汗が一粒。目だけを横へそらす。

瀬川 辰夫:︙︙うむ

40年︑
点数を数えてきたのは︑
隣の祖母・文子だった︒

公民館の︑
健康マージャン教室︒
賭けない・飲まない・
吸わない麻雀︒

健康(けんこう)マージャン(健康麻将)の解説

現実の事実「賭けない」「飲まない」「吸わない」をルールにした麻雀です。日本健康麻将協会が普及を進めていて、内閣府の高齢社会の取り組みの事例集でも紹介されています。各地の公民館や教室で打たれています。

出典

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孫(大学1年)瀬川 航大

教室の壁ぎわの長椅子(右)。灰色のパーカーのやせた19歳の青年が、スマホの麻雀アプリの画面(光だけ)を見ている。左の卓では老人たちが打っている。窓の外は雪。

〈教室の月例会の決まり〉和了った人が、自分で点数を言うほかの3人が確かめる言えない時は、世話役が数える

瀬川 航大:じいちゃん
4回目の
1位
かかってるのに

瀬川 辰夫:航大!
お前
毎晩
打ってるだろ

瀬川 航大:え
アプリだと
点数は
勝手に
出るんだよ

休憩︑10分︒

卓の上の寄り。倒したままの手牌(牌は白い角の丸い板に色の点と線だけ、字は読めない)。手前から伸びた人さし指が、牌を一つずつ指していく。

〈辰夫さんの手〉一二三萬・九九九萬(手の中で3枚)・七八九索四・六筒で、五筒を待った(嵌張)・五五索リーチ、ドラ(三萬)1つ辰夫さんは子(親ではない)。裏ドラは無し(この教室の決まり)

嵌張(かんちゃん)(カンチャン)の解説

現実の事実麻雀で、四と六のように一つ飛んだ2枚を持っていて、間の一枚(五)が来れば3枚の並び(順子)になる形です。この形で待つ事を「嵌張待ち」と言い、和了った時の符の数えでは2符が付きます。

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大槻 さと子:はい
数えましょう

大槻 さと子:まず
もとの
20符

符(ふ)の解説

現実の事実麻雀の点数を決める2つのうちの1つで、和了った手の形と和了り方で数える点です。もとの20符(副底)に、門前でロンなら10符、么九牌の暗刻なら8符、嵌張・辺張・単騎の待ちなら2符などを足し、10符未満を切り上げます。もう1つは翻(役とドラの数)です。

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世話役の女性の寄り。片手の指を広げ、もう片方の人さし指で1本ずつ数えながら、先生のようににっこり笑う。

鳴かずにロンで︑
10符︒
九の3枚で︑8符︒
嵌張待ちで︑2符︒

青年が卓に手をついて身を乗り出し、倒した手牌をのぞき込む。目を丸くしている。

瀬川 航大:足すと
40︙︙?

〈符の数え〉もと:20符鳴かずにロン:10符九萬を手の中で3枚(暗刻):8符嵌張で待った:2符合わせて 40符

大槻 さと子:正解

大槻 さと子:リーチとドラで
2翻

翻(はん)(ハン)の解説

現実の事実麻雀の点数を決めるもう1つの数で、役とドラの数を足した物です。リーチなら1翻、ドラ1枚で1翻のように数えます。点数は、符と翻から「基本の点=符×2の(翻+2)乗」で出し、子のロンなら4倍して100点未満を切り上げます。

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大槻 さと子:40符2翻
子のロンは

大槻 さと子:2,600点

瀬川 航大:マジか
満貫って
8千
でしょ

満貫(まんがん)の解説

現実の事実翻が5翻になった時などの、決まった点数です。子のロンなら8,000点、親のロンなら12,000点です。4翻・3翻でも符が多いと満貫になります。30符4翻などを満貫にする「切り上げ満貫」は、ルールによって違います。

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瀬川 辰夫:満貫じゃ︙︙
ないのか

瀬川 航大:アプリの裏で
これ
やってたんだ

40年前︒

黒と生成りの2色だけの回想。若い頃の夫婦が卓に並ぶ。左の夫が拳を上げて笑い、右の丸眼鏡の妻が、点棒を手に小さく笑っている。

祖母瀬川 文子

瀬川 辰夫:満貫だな!

瀬川 文子(ささやき):はいはい
2,600ね

今の老人の横顔の寄り。窓の白い光の中で、目を見開いて、口を開ける。

瀬川 辰夫:文子の
やつ
毎回︙︙

祖父の満貫は︑
40年︑
小さな声で
直されていた︒

最後の半荘︒

半荘(はんちゃん)(ハンチャン)の解説

現実の事実麻雀の勝負の単位で、東場と南場の2つで一回の勝負を決める物です。4人が順に親を2回ずつ受け持つまでを、1半荘と数えます。

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緑の卓を真上から見る。4人の手と、倒された手牌、点棒の箱。

パタン

瀬川 辰夫:ロン!
満貫だな!

卓の前で拳を上げる老人(右)。左から、立ち上がった孫が身を乗り出し、祖父の前に手のひらを出して止める。

瀬川 航大:待って
じいちゃん

瀬川 航大:さっきと同じ形
40符2翻︙︙

瀬川 航大:それ
2,600

卓の3人(何人もの声):2,600
ですね

瀬川 辰夫:︙︙うむ

この日︑祖父は
4回目の1位を逃して︑
2位になった︒

帰りの車︒

夜の車の中。運転席の孫と、助手席で携帯電話を耳に当てる祖父。窓の外に街灯の白い光。

瀬川 辰夫:おい
文子

瀬川 辰夫:符って
知ってたか

瀬川 文子(電話の声):あら

瀬川 文子(電話の声):40年
数えて
ましたよ

運転する孫の横顔。ハンドルを握ったまま、口を結んで小さく笑う。

瀬川 航大:じいちゃん
来月は
俺が
数えるわ

瀬川 辰夫:︙︙ふん

瀬川 辰夫:九の3枚で
8符だな

読み切り「点数、数えられますか」

おわり

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

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点数、数えられますか

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この話で分かること

麻雀の点数計算は、どうやる?

点数は「符」と「翻(ハン)」の2つで決まります。符は手の形と和了り方で数える点、翻は役とドラの数です。基本の点=符×2の(翻+2)乗で出し、子がロンで和了った時は基本の点を4倍し、100点未満を切り上げます。

条件・例外

親がロンで和了った時は6倍です。翻が多くなると満貫(5翻)・跳満(6〜7翻)のように点が決まった形になります。点数の細かい決まり(切り上げ満貫・一発・赤ドラなど)は、卓や大会のルールで違う所があります。作中は、どのルールでも同じになる所だけを使っています。

物語との違い

作中の手は40符2翻で、40×2の4乗=640、子のロンなので×4で2,560、切り上げて2,600点です。

符とは? 符の数え方(符計算)は?

和了った手の形と和了り方で数える点です。もとの20符(副底)に、門前(鳴かず)でロンなら10符、ツモなら2符、么九牌(1・9・字牌)を3枚そろえて手の中に持つ暗刻なら8符、2〜8の数牌の暗刻なら4符、待ちが嵌張・辺張・単騎なら2符などを足し、最後に10符未満を切り上げます。

条件・例外

点数の細かい決まり(切り上げ満貫・一発・赤ドラなど)は、卓や大会のルールで違う所があります。作中は、どのルールでも同じになる所だけを使っています。

物語との違い

作中の手:20(もと)+10(門前でロン)+8(九萬の暗刻)+2(嵌張待ち)=40符。

満貫(まんがん)とは? 何点?

翻が5翻になった時などの、決まった点数です。子のロンなら8,000点、親のロンなら12,000点です。満貫より上は、跳満(6〜7翻)・倍満(8〜10翻)・三倍満(11〜12翻)・役満と続きます。

条件・例外

4翻・3翻でも、符が多いと満貫になります(例:4翻40符)。30符4翻・60符3翻を満貫にする「切り上げ満貫」は、ルールによって違います。

健康(けんこう)麻雀(健康マージャン)とは?

「賭けない」「飲まない」「吸わない」をルールにした麻雀です。日本健康麻将協会が普及を進めていて、内閣府の高齢社会の取り組みの事例集でも紹介されています。

条件・例外

各地の公民館・教室・大会で打たれています。教室ごとの決まり(点数の申告の仕方など)は教室で確かめてください。

物語との違い

作中の「和了った人が自分で点数を言う」は、この教室の決まりとして描いた創作です。

お金を賭ける麻雀は違法?

刑法の第185条で、賭博をした人は50万円以下の罰金または科料(かりょう)と決まっています。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けただけの時は、この限りでないとされています。

条件・例外

常習として賭博をした人や、賭博の場所を開いて利益を得た人には、もっと重い決まり(刑法 第186条)があります。

この話の用語

健康(けんこう)マージャン(健康麻将)漫画の中で見る
現実の事実「賭けない」「飲まない」「吸わない」をルールにした麻雀です。日本健康麻将協会が普及を進めていて、内閣府の高齢社会の取り組みの事例集でも紹介されています。各地の公民館や教室で打たれています。
嵌張(かんちゃん)(カンチャン)漫画の中で見る
現実の事実麻雀で、四と六のように一つ飛んだ2枚を持っていて、間の一枚(五)が来れば3枚の並び(順子)になる形です。この形で待つ事を「嵌張待ち」と言い、和了った時の符の数えでは2符が付きます。
符(ふ)漫画の中で見る
現実の事実麻雀の点数を決める2つのうちの1つで、和了った手の形と和了り方で数える点です。もとの20符(副底)に、門前でロンなら10符、么九牌の暗刻なら8符、嵌張・辺張・単騎の待ちなら2符などを足し、10符未満を切り上げます。もう1つは翻(役とドラの数)です。
翻(はん)(ハン)漫画の中で見る
現実の事実麻雀の点数を決めるもう1つの数で、役とドラの数を足した物です。リーチなら1翻、ドラ1枚で1翻のように数えます。点数は、符と翻から「基本の点=符×2の(翻+2)乗」で出し、子のロンなら4倍して100点未満を切り上げます。
満貫(まんがん)漫画の中で見る
現実の事実翻が5翻になった時などの、決まった点数です。子のロンなら8,000点、親のロンなら12,000点です。4翻・3翻でも符が多いと満貫になります。30符4翻などを満貫にする「切り上げ満貫」は、ルールによって違います。
半荘(はんちゃん)(ハンチャン)漫画の中で見る
現実の事実麻雀の勝負の単位で、東場と南場の2つで一回の勝負を決める物です。4人が順に親を2回ずつ受け持つまでを、1半荘と数えます。

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AI玄関で荷物も下ろさないうちに、辰夫さんが点棒の箱を持ってきて「九の暗刻は8符だ」と言い出し、文子さんが「はいはい」と言いながら一つだけ間違いを直す形にすると、40年の関係が変わらないまま一歩進むのが見えます。

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この話のあらすじ

公民館の健康マージャン教室の月例会。78歳の瀬川 辰夫は「ロン! 満貫だな!」と叫ぶ。世話役の大槻 さと子が「今日は文子さん、いませんよ。点数、数えられますか」と聞くと、辰夫は固まる。40年、点数は隣の妻・文子が数えていた。教室の決まりは、和了った人が自分で点数を言うこと。運転で付いてきた孫の航大は、スマホの麻雀アプリを毎晩打つが、点数はアプリが出すので数えた事が無い。休憩の10分、大槻が辰夫の手で「符」を指で数えて見せる。もとの20符、門前でロンの10符、九萬の暗刻の8符、嵌張待ちの2符で40符。リーチとドラで2翻。子のロンなら2,600点。満貫は8,000点で、ずっと遠い。辰夫は、文子がいつも「はいはい、2,600ね」と小さく直していたのを思い出す。最後の半荘、辰夫がまた「満貫だな!」と叫び、航大が数えて「じいちゃん、それ、2,600」。辰夫は4回目の1位を逃して、2位になる。帰りの車で、辰夫は文子に電話をかける。「おい、符って、知ってたか」「40年、数えてましたよ」。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

麻雀の点数がどう決まるのか、ややこしい符の計算を、祖父と孫の1局を見ながら自分でも数えられるようになります。

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