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第5話「通級って、何」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

朝の職員室。若い教師が鳴った電話の受話器を急いで取る。奥で先生たちが机に向かう。窓の白い朝の光。

8時10分︒
電話が︑やっと鳴った︒

小坂 千秋(電話の声):小坂です
すみません

少し上から女性。朝の台所で、エプロン姿でスマホを肩に挟み、弁当の蓋を閉める。

りんと大和の母(41)小坂 千秋

小坂 千秋(電話の声):りん
朝まで
起きてて
今︑寝てます

小坂 千秋(電話の声):電話できなかったって
泣いてました

須藤 創:そうですか
︙︙

若い教師の顔の寄り。受話器を耳に、眉を寄せる。

須藤 創:水曜に
カウンセラーの人が
来ます

小坂 千秋(電話の声):伝えます

2時間目︒
2年3組︑社会︒

2年3組の教室を後ろから。黒板の前で若い教師が地図の板書を書き、生徒たちがノートに写している。窓際の後ろの席の男子だけ、鉛筆を止めて黒板とノートを何度も見比べている。男子のノートの寄り。何度も消した跡で紙が薄くなり、線がかすれている。鉛筆を握る指に力が入っている。

須藤 創:はい
消すぞー

沖野 颯(ささやき):︙︙待って

須藤 創:次︑行くぞ

休み時間︒

2年3組の生徒(14)沖野 颯

休み時間の教室。窓際の席で、男子が破ったノートの1枚を両手で丸める。扉の所で、若い教師が振り返って足を止める。

須藤 創:沖野
ノート︙︙

沖野 颯:黒板
写せないんです

男子の顔の寄り。眉を寄せ、机のノートに目を落とす。目の下にほくろ。

沖野 颯:いつも
途中で
消える

真上から男子の机。線だけのノート(字は読めない)を教師の指が指す。男子の手が鉛筆を握ったまま止まる。

須藤 創:ちゃんと
見てれば

男子の胸から上。丸めた紙を握ったまま、前髪の下から横の教師をまっすぐ見る。悔しさで唇を結ぶ。

沖野 颯:見てます
ずっと

須藤 創:「ちゃんと」って
言った
︙︙今

放課後の相談室︒
颯の母に︑
電話で来てもらった︒

颯の母(43)沖野 美和

小さな相談室。低い机をはさんで、左に若い教師、右に工場の事務の上着を着た40代の母親が座る。母親は両手を膝の上で固く組み、うつむく。窓の白い光。
母親の顔の寄り。ハンカチを握り、言葉を選ぶ。

沖野 美和:小学校の時から
黒板を写すのが
遅いって
毎年
言われてて

若い教師を机の高さから。ペンを握り、右の母親を見る。額に汗。手前の右に母親の肩。

沖野 美和:この子
怠けてるん
でしょうか

若い教師の顔の寄り。口を開きかけて閉じる。膝の上の両手を握る。

須藤 創:︙︙分かりません

沖野 美和:え︙︙

少し上から母親。ソファに座ったまま顔を上げ、口が開く。膝の上の手にハンカチ。

須藤 創:すみません
担任なのに

須藤 創:でも
分からないまま
1人で
決めたくないんです

若い教師の胸から上。口を結び、横を見る。

須藤 創:こういう時に
一緒に考える
先生がいます
今︑呼んできます

相談室の扉を開けて入ってくる40代の女性の教師。眼鏡をかけ、髪を後ろでまとめ、ファイルを胸に抱えて、少し笑う。

特別支援教育コーディネーター(46)西森 久美

西森 久美:西森です
お話
聞かせてください

特別支援教育(とくべつしえんきょういく)コーディネーターの解説

現実の事実学校の中で、困りごとのある子の支援をまとめる役の先生です。担任・保護者(ほごしゃ)・校内の先生や外の専門家との間をつなぎ、校長・教頭・担任などで作る校内委員会(こうないいいんかい)で、支援の中身を話し合う時の中心になります。

出典

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母親の胸から上。ソファから少し腰を浮かせ、入ってきた教師の方を見る。

颯が丸めたノートの1枚を
須藤は机に広げて︑
話した︒

西森 久美:まず
教室で
できる工夫から
考えましょうね
写す量を
減らすとか

西森 久美:それでも困る時は
校内委員会で
話し合えますよ

校内委員会(こうないいいんかい)の解説

現実の事実校長・教頭・特別支援教育(とくべつしえんきょういく)コーディネーター・担任などで作る、学校の中の話し合いの場です。困りごとのある子にどんな支援が要るか、通級による指導が要るかなどを検討します。担任1人で決めない仕組みです。

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真上から机。女性の教師の手がメモ帳に矢印と丸を描く(字は読めない)。

西森 久美:通級も
考えられますよ

沖野 美和:通級︙︙って
何ですか

〈通級による指導(文部科学省の資料から)〉ふだんは自分のクラスで授業を受ける一部の時間だけ、別の教室で、困りごとに合わせた指導を受ける自分の学校で・ほかの学校へ通って・先生が回ってくる、の3つの形がある

通級による指導の解説

現実の事実小・中学校(ちゅうがっこう)などの通常の学級にいる子が、大部分の授業は自分のクラスで受けながら、一部の時間だけ、困りごとに合わせた特別の指導を別の場で受ける仕組みです。学校教育法施行規則で決まっていて、小・中学校では年間35〜280単位時間(週1〜8時間ほど)が目安です(困りごとによっては年間10単位時間から)。

出典

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沖野 美和:別の教室︙︙
みんなに
何か言われ
ませんか

女性の教師。ファイルを机に置き、手前の母親の方へ身を乗り出して、困ったように少し笑う。
母親の横顔の寄り。机に目を落とす。

西森 久美:うーん︙︙
それも
本人と
一緒に決めます

西森 久美:始める前に
本人とお母さんに
説明して
同意をもらうので

通級を始める時の流れ(本人・保護者(ほごしゃ)の同意)の解説

現実の事実文部科学省の資料では、気づき → 様子を詳しく知る → 教室での工夫 → 校内委員会(こうないいいんかい) → 市町村(しちょうそん)の教育委員会での判断 → 本人・保護者への説明と同意 → 開始、の順です。医学的な診断の有無だけにとらわれず、全体から判断するとされています。

出典

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若い教師を少し下から。ソファでノートにペンを当てたまま、手を止めて聞く。

西森 久美:教科の遅れを
取り戻す場所
じゃなくて

女性の教師の顔の寄り。やわらかく笑う。

西森 久美:困りごとを
軽くする場所
なんですよ

自立活動(じりつかつどう)(通級の指導の中身)の解説

現実の事実通級の指導の中身は、特別支援学校の「自立活動」を参考に決めます。自分に合った学び方を身につける、苦手な事を自分で知る、などです。各教科の遅れを取り戻すための指導ではない、と文部科学省は書いています。

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母親の手元の寄り。ソファの膝の上で、固く組んでいた両手がほどける。机の上に、ファイルと、丸めて伸ばしたノートの1枚。

沖野 美和:颯に
聞いてみます

教室に戻ると︑
颯は︑まだいた︒

夕方の誰もいない教室。窓際の後ろの席の男子が、消された黒板を見ている。教卓の横に若い教師が立つ。窓の白っぽい夕方の光。

須藤 創:沖野
さっきは
ごめん

沖野 颯:先生
分かんないって
言ったでしょ

若い教師の顔の寄り。頭を下げた後、男子の顔を見る。夕方の教室の光。

沖野 颯:さっき廊下で
母さんが
言ってた

須藤 創:言った

少し上から男子。誰もいない教室の席で、カバンのファスナーを閉める。

須藤 創:沖野の「待って」
聞こえて
なかった

沖野 颯:知ってる

男子の横顔の寄り。窓の方を向いたまま、口の端だけ少し上がる。誰もいない教室。

沖野 颯:ちょっと
楽だった

週明け︑7時52分︒

朝の職員室。受話器が絵の枠を越えて上へ飛び出す。若い教師が受話器をつかみ、口を開ける。

プルル

小坂 りん(電話の声):2年3組の
小坂です
今日も
休みます

少し上から、部屋の窓辺に立つ女の子の後ろ姿。電話を耳に、朝の団地の外を見る。

小坂 りん(電話の声):先生
水曜の人︙︙
会ってみる

小坂 りん(電話の声):10分
だけ

若い教師の顔の寄り。受話器を耳に当てたまま、見開いた目がゆっくりやわらぐ。

須藤 創:待ってる

小坂 りん(電話の声):︙︙明日は
行きます

水曜まで︑あと2日︒
りんが自分で決めた︑
10分だった︒

第5話「通級って、何」

つづく

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AI母は西森先生に聞いた事をそのまま言わず、「分からないって、先生も言ってたよ」と始めると、須藤の一言が颯の家まで届いた事が見えます。颯が「行くかは、自分で決めていいの?」と聞き返す形にできます。

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この話で分かること

通級による指導とは?

通常の学級にいる子が、大部分の授業は自分のクラスで受けながら、一部の時間だけ、困りごとに合わせた特別の指導を別の場で受ける仕組みです。自分の学校で受ける・ほかの学校へ通う・先生が回ってくる、の3つの形があります。

条件・例外

小・中学校(ちゅうがっこう)では年間35〜280単位時間(週1〜8時間ほど)が目安です。学習障害・注意欠陥多動性障害の子は、年間10単位時間(月1単位時間ほど)からとされています。

通級はどうやって始まる?

文部科学省の資料では、気づき → 様子を詳しく知る → 教室での工夫 → 校内委員会(こうないいいんかい) → 市町村(しちょうそん)の教育委員会での判断 → 本人・保護者(ほごしゃ)への説明と同意 → 開始、の順です。医学的な診断の有無だけにとらわれず、全体から判断するとされています。

条件・例外

気になる時は、担任・特別支援教育(とくべつしえんきょういく)コーディネーター・市区町村(しくちょうそん)の教育委員会の教育相談に相談できます。

通級は、勉強の遅れを取り戻す所?

いいえ。困りごとによる学習や生活のしにくさを軽くするための指導で、各教科の遅れを取り戻すための指導ではない、と文部科学省は書いています。

特別支援教育(とくべつしえんきょういく)コーディネーターとは?

学校の中で、困りごとのある子の支援をまとめる役の先生です。担任・保護者(ほごしゃ)・校内の先生や外の専門家の間をつなぎ、校内委員会(こうないいいんかい)での話し合いの中心になります。

物語との違い

作中の学校・先生・生徒は作中の物です。

この話の用語

特別支援教育(とくべつしえんきょういく)コーディネーター漫画の中で見る
現実の事実学校の中で、困りごとのある子の支援をまとめる役の先生です。担任・保護者(ほごしゃ)・校内の先生や外の専門家との間をつなぎ、校長・教頭・担任などで作る校内委員会(こうないいいんかい)で、支援の中身を話し合う時の中心になります。
校内委員会(こうないいいんかい)漫画の中で見る
現実の事実校長・教頭・特別支援教育(とくべつしえんきょういく)コーディネーター・担任などで作る、学校の中の話し合いの場です。困りごとのある子にどんな支援が要るか、通級による指導が要るかなどを検討します。担任1人で決めない仕組みです。
通級による指導漫画の中で見る
現実の事実小・中学校(ちゅうがっこう)などの通常の学級にいる子が、大部分の授業は自分のクラスで受けながら、一部の時間だけ、困りごとに合わせた特別の指導を別の場で受ける仕組みです。学校教育法施行規則で決まっていて、小・中学校では年間35〜280単位時間(週1〜8時間ほど)が目安です(困りごとによっては年間10単位時間から)。
通級を始める時の流れ(本人・保護者(ほごしゃ)の同意)漫画の中で見る
現実の事実文部科学省の資料では、気づき → 様子を詳しく知る → 教室での工夫 → 校内委員会(こうないいいんかい) → 市町村(しちょうそん)の教育委員会での判断 → 本人・保護者への説明と同意 → 開始、の順です。医学的な診断の有無だけにとらわれず、全体から判断するとされています。
自立活動(じりつかつどう)(通級の指導の中身)漫画の中で見る
現実の事実通級の指導の中身は、特別支援学校の「自立活動」を参考に決めます。自分に合った学び方を身につける、苦手な事を自分で知る、などです。各教科の遅れを取り戻すための指導ではない、と文部科学省は書いています。

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この話のあらすじ

7時52分の電話は鳴らず、8時10分にりんの母・千秋から、りんが朝まで起きていて今は寝ている、電話できなかったと泣いていた、と電話が来る。2時間目の社会の授業で、須藤 創は黒板を消そうとして、後ろの席の沖野 颯の「待って」を聞き逃す。颯はノートを破り、写せない、いつも途中で消える、と言う。放課後の相談室で、颯の母・美和に「この子、怠けてるんでしょうか」と聞かれ、須藤は「分かりません」と言う。分からないまま1人で決めたくないと言う須藤に、特別支援教育(とくべつしえんきょういく)コーディネーターの西森 久美が加わる。教室の工夫、校内委員会(こうないいいんかい)、通級による指導。始める前に本人と保護者(ほごしゃ)に説明して同意をもらう事、教科の遅れを取り戻す場所ではなく困りごとを軽くする場所である事。夕方の教室で、颯は「先生、分かんないって言ったでしょ」「ちょっと、楽だった」と言う。週明けの7時52分、りんは電話で「水曜の人……会ってみる。10分、だけ」と言う。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

欠席が30日になると何が変わるのか、学校の外にどんな学びの場があるのか、いじめの時に学校がどう動くのかを、担任と家族の両方の迷いと一緒に追えます。

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