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第5話「書類が、1枚足りない」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

夜の居間を少し高い所から。左で座卓についた40代の女性が記録事項の紙を持ったまま見つめる。右の奥から、年配の男性が古い鍵の束を持って戻ってくる。天井の暖かい灯り1つ。

会社員。父の車を売ることにした笠井 奈緒

奈緒の父。運転免許を返したばかり笠井 寛治

笠井 寛治:︙︙直そうとは
思った

笠井 寛治:越した年は
母さんの
病院通いで

年配の男性の顔の寄り。座卓に目を落とし、口を結ぶ。

笠井 寛治:それどころじゃ
なかった

笠井 奈緒:お母さんの︙︙

寄り。座卓の上に置かれた古い鍵の束。色あせた丸い札(字は読めない)。鍵に添えた、年配の男性の節の太い指。

笠井 寛治:団地の
部屋の鍵だ

笠井 寛治:あそこには
まだ
母さんが
いる気がしてな

40代の女性の顔の寄り。口を結び、目をうるませて父を見る。胸の前で記録事項の紙を握る手。

笠井 奈緒:それで
車の住所
だけ︙︙

少し上から年配の男性。鍵を手のひらで転がす。

笠井 寛治:書類くらい
いつでも
直せると
思ってた

9年︑父は︑
団地の住所の車に
乗っていた︒

第5話「書類が、1枚足りない」

住所のことを伝えると︑
土曜の朝︑三浦さんが
来てくれた︒

朝の車庫の前。白いセダンのボンネットの横で、紺のポロシャツの若い査定員が、書類の板を胸に持って説明する。向かいで40代の女性がメモを取り、縁側に年配の男性が腰かけて見ている。

小さな買取の店の、出張の査定員三浦 拓海

三浦 拓海:売る時の書類
先に
そろえましょう

〈三浦のメモ 売る時に要る物〉車検証(電子車検証と記録事項の紙)印鑑証明書(3か月以内)と実印リサイクル券住所のつながりが分かる書類

真上から車のボンネット。書類のファイルとリサイクル券(字は読めない)と、若い手。

三浦 拓海:あ
リサイクル券も
車と一緒に
渡すんですよ

リサイクル券(けん)(リサイクル料金の預託証明書(よたくしょうめいしょ))の解説

現実の事実車を捨てる時のリサイクルの費用(リサイクル料金)を前払いした事を示す書面で、多くは新車を買う時に払っています。リサイクル料金を払ってある車を人に譲る時は、車と一緒にリサイクル券も次の持ち主へ渡します。リサイクル券はお金と換えられる券ではありません。

出典

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笠井 奈緒:住所の︙︙
つながり?

住所のつながり(車を売る時)の解説

現実の事実車を売って名義を変える(移転登録)時、車検証(しゃけんしょう)の所有者(しょゆうしゃ)の住所と印鑑証明書(いんかんしょうめいしょ)の住所が違うと、住所が変わってきた道筋(つながり)を書類で示します。住民票(じゅうみんひょう)に書かれた前の住所が車検証の住所と同じなら、住民票でつながりが示せます。何度か引っ越して住民票だけでたどれない時は、住民票の除票や戸籍の附票も使います。

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若い査定員の寄り。書類の板の上で指を動かし、車検証の住所から今の家へ、2つの点を線でつなぐように説明する。

三浦 拓海:車検証の
団地の住所から
今の家まで

三浦 拓海:たどれる紙が
1枚
要るんです

40代の女性の胸から上。車庫の作業台で腕を組み、手前の査定員が持つ書類をのぞく。

三浦 拓海:えっと︙︙
1回だけの
引っ越しなら
前の住所の
載った住民票で

笠井 奈緒:何回も
越してたら?

三浦 拓海:その時は
戸籍の附票も
使いますね

戸籍の附票の解説

現実の事実本籍のある市区町村(しくちょうそん)で、戸籍とひもづけて住所の移り変わりを記録した書類です。住民票(じゅうみんひょう)は今の市区町村の物なので、何度か引っ越した人は、附票で前の住所からのつながりをたどります。

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縁側の年配の男性の寄り。腕を組み、遠くを見るように目を細める。朝の白い光。

笠井 寛治:団地から
ここへ
1回だけだ

笠井 奈緒:じゃあ私
市役所で
取ってくる

女性の顔の寄り。上着の胸元から鍵を出しかける。

三浦 拓海:あ︙︙
本人か
同じ世帯
じゃないと

住民票(じゅうみんひょう)の写しの請求(本人・同じ世帯)の解説

現実の事実住民票の写しは、本人か、同じ世帯の人が市区町村(しくちょうそん)に請求できます(住民基本台帳法 第12条)。別に暮らす家族が代わりに取る時は、本人に頼まれた事を示す書面などが要る事があるので、窓口で先に確かめます。

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縁側から立ち上がる年配の男性を低い所から。片手を柱について、もう片方の手で茶のカーディガンの前を合わせる。手前に、腰を落としたまま振り向く40代の女性。

笠井 寛治:わしが
行く

笠井 奈緒:え
お父さんが?

年配の男性を少し下から。立ち上がりながら歯を食いしばり、前を見すえる。

笠井 寛治:わしの
車だろ

月曜︑
市役所の窓口︒

市役所の窓口の台。年配の男性が老眼鏡をかけ、請求の用紙にゆっくり書き込む。横で40代の女性がほおづえをついて見守る。手前に職員の後ろ姿。白い天井の灯り。

笠井 寛治:前の住所も
載せて
ください

少し上から女性の横向き。窓口の椅子で、手前でペンを持つ父の横顔を見る。

笠井 寛治:9年前は
母さんが
ここで
わしの分も
書いてくれた

笠井 奈緒:お母さんが︙︙

〈住民票の写し〉氏名:笠井 寛治住所:(今の家)前住所:かもめ台団地 7号棟 305

寄り。受け取った住民票の1行を、年配の男性の人さし指がなぞって止まる(字は読めない線だけ)。指先が少し震える。

笠井 寛治:305︙︙

笠井 奈緒:お母さんが
ベランダで
布団
叩いてた部屋

女性の顔の寄り。父の手の紙を見て、少し笑う。

笠井 寛治:︙︙ああ

窓口のわきの壁の貼り紙を、40代の女性が見上げる。貼り紙は線と形だけ(字は読めない)。父の背中が手前に大きい。

〈窓口の貼り紙〉住民票の除票・戸籍の附票の除票は、150年保存になりました(2019年6月から)

住民票(じゅうみんひょう)の除票(保存150年)の解説

現実の事実引っ越しや死亡で消された住民票を「除票」と言います。市区町村(しくちょうそん)は除票と戸籍の附票の除票を150年保存します(住民基本台帳法施行令 第34条)。2019年6月の改正の前は5年で、それより前に消された古い物は、もう無い事があります。

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笠井 奈緒:へえ︙︙
消えた住所も
150年
残るんだ

年配の男性の横顔の寄り。住民票を胸の前で両手に持ったまま、貼り紙を見上げて、口元が少しだけゆるむ。白い天井の灯り。

笠井 寛治:母さんの
住所も
残っとるか

母のいた団地の住所は︑
紙の上に︑
残っていた︒

駅の裏の店︒

夕方の買取の店の事務所。戸口から、赤ちゃんを抱っこひもで胸に抱えた紺の上着の30代の男性が、封筒を高く掲げて飛び込んでくる。机の若い査定員が立ち上がり、奥で店長が老眼鏡を下げて見る。

同じ店の店長権藤 誠一

滝本 涼介:三浦さん!
書類
届きました!

若い査定員の正面。手前の客の肩ごしに、書類を受け取って笑う。

三浦 拓海:所有権
解除の︙︙
おめでとう
ございます

滝本 涼介:妻と
決めました
売ります

店長の寄り。老眼鏡を胸に下げ、横を見て、太い眉の下の目だけが少しゆるむ。窓の外は夕方。白い蛍光灯。

権藤 誠一:ふん
よかったな

権藤 誠一:で

権藤 誠一:笠井さんは
いつだ

机の上で震えるスマホを取る若い査定員の手元の寄り。画面の橙の光(字は読めない)。

ブルル

笠井 奈緒(電話の声):書類
そろいました

若い査定員の横顔の寄り。手のスマホに目を向け、口を少し開ける。

笠井 奈緒(電話の声):父が
「来週の土曜の
10時でいい」
って

三浦 拓海:︙︙はい
10時に
伺います

夜の車庫。裸電球の下で、年配の男性が白いセダンのボンネットを布でゆっくり拭く。車庫の入り口に40代の女性が立って見ている。
寄り。ボンネットの上を、布を持った年配の男性の手がゆっくり滑る。電球の光が白い塗装に映る。

来週の土曜︑10時︒
白いのの︑
次の人が決まる︒

第5話「書類が、1枚足りない」

つづく

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この話で分かること

車検証(しゃけんしょう)の住所が昔のまま。車は売れる?

売れます。名義を変える時に、車検証の住所から今の住所までのつながりを書類で示します。前の住所が載った住民票(じゅうみんひょう)の前住所が車検証の住所と同じなら、住民票でつながりが示せます。

条件・例外

何度か引っ越して住民票だけでたどれない時は、住民票の除票や戸籍の附票も使います。軽自動車(けいじどうしゃ)は手続きの窓口と書類が違います。

戸籍の附票とは?

本籍のある市区町村(しくちょうそん)で、戸籍とひもづけて住所の移り変わりを記録した書類です。何度か引っ越した人が、前の住所からのつながりをたどる時に使います。

住民票(じゅうみんひょう)の除票は、何年残る?

市区町村(しくちょうそん)は、除票と戸籍の附票の除票を150年保存します(住民基本台帳法施行令 第34条)。2019年6月の改正の前は5年で、それより前に消された物は、もう無い事があります。

車を売る時、リサイクル券はどうする?

リサイクル料金を払ってある車を譲る時は、車と一緒にリサイクル券も次の持ち主へ渡します。リサイクル券は、リサイクル料金を払った事を示す書面です。

この話の用語

リサイクル券(けん)(リサイクル料金の預託証明書(よたくしょうめいしょ))漫画の中で見る
現実の事実車を捨てる時のリサイクルの費用(リサイクル料金)を前払いした事を示す書面で、多くは新車を買う時に払っています。リサイクル料金を払ってある車を人に譲る時は、車と一緒にリサイクル券も次の持ち主へ渡します。リサイクル券はお金と換えられる券ではありません。
住所のつながり(車を売る時)漫画の中で見る
現実の事実車を売って名義を変える(移転登録)時、車検証(しゃけんしょう)の所有者(しょゆうしゃ)の住所と印鑑証明書(いんかんしょうめいしょ)の住所が違うと、住所が変わってきた道筋(つながり)を書類で示します。住民票(じゅうみんひょう)に書かれた前の住所が車検証の住所と同じなら、住民票でつながりが示せます。何度か引っ越して住民票だけでたどれない時は、住民票の除票や戸籍の附票も使います。
戸籍の附票漫画の中で見る
現実の事実本籍のある市区町村(しくちょうそん)で、戸籍とひもづけて住所の移り変わりを記録した書類です。住民票(じゅうみんひょう)は今の市区町村の物なので、何度か引っ越した人は、附票で前の住所からのつながりをたどります。
住民票(じゅうみんひょう)の写しの請求(本人・同じ世帯)漫画の中で見る
現実の事実住民票の写しは、本人か、同じ世帯の人が市区町村(しくちょうそん)に請求できます(住民基本台帳法 第12条)。別に暮らす家族が代わりに取る時は、本人に頼まれた事を示す書面などが要る事があるので、窓口で先に確かめます。
住民票(じゅうみんひょう)の除票(保存150年)漫画の中で見る
現実の事実引っ越しや死亡で消された住民票を「除票」と言います。市区町村(しくちょうそん)は除票と戸籍の附票の除票を150年保存します(住民基本台帳法施行令 第34条)。2019年6月の改正の前は5年で、それより前に消された古い物は、もう無い事があります。

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この話のあらすじ

「引っ越した時、なんで直さなかったの?」。寛治は団地の部屋の鍵を座卓に置き、越した年は妻の病院通いでそれどころではなく、団地にはまだ母さんがいる気がしていたと話す。土曜の朝、三浦が売る時の書類を説明する。車検証(しゃけんしょう)の住所と今の住所が違うので、つながりを示す書類が1枚要る。1回だけの引っ越しなら、前の住所の載った住民票(じゅうみんひょう)でたどれる。奈緒が取りに行こうとすると、住民票の写しは本人か同じ世帯の人が請求する物だと分かり、寛治が「わしが行く。わしの車だろ」と立ち上がる。市役所で受け取った住民票の前住所は「かもめ台団地 7号棟 305」。奈緒は母がベランダで布団を叩いていた部屋を思い出す。夕方、店には滝本が所有権(しょゆうけん)解除の書類を持って来る。そこへ奈緒から電話が入り、「書類がそろった。父が来週の土曜の10時でいいと言っている」。

作者

あいみつ舎

比べて選ぶ人と、比べられる人。申込みの向こう側の両方を描いています。

この作品について

査定の電話の断り方、車を売る時に要る書類、契約の後で取り消せるかどうかを、手放す家族の気持ちと買い取る店の事情を行き来しながら確かめられます。

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