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第6話「お布施は、お気持ちで」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

昼の篠原家の座敷。白い布をかけた棺の前に小さな祭壇。ろうそくの小さな黄色い火と、小菊。縁側から淡い光。

日曜の昼。通夜まで、あと5時間。

段取り帳の6頁目を開く小春の手。頁の手書きの字は読めない。紙の端に、封をしていた紙の跡。

段取り帳 6頁目住職が来たら、お布施の額は、そのまま聞け。恥ずかしがるな。俺は、喪主にいつもそう言ってきた。

小春:︙︙聞いて
いいんだ

第6話「お布施は、お気持ちで」

玄関の土間に立つ、小柄でやせた70代の僧侶。黒い衣に袈裟、つるりとした頭、穏やかな細い目。小春と母が頭を下げて迎える。

篠原家の菩提寺住職

菩提寺(ぼだいじ)の解説

現実の事実菩提寺は、先祖代々のお墓があり、葬儀や法事をお願いしている、家ごとのお寺です。曹洞宗は、もしもの時に慌てないよう、ふだんから菩提寺の住職に相談しておく事を勧めています。菩提寺が遠くて、法事を住まいの近くで行いたい時も、まず菩提寺に相談すると、出向いてもらえたり、近くのお寺を紹介してもらえたりする場合があります。

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住職:守さんには
長い間
お世話に
なりました

住職:うちの
檀家さんの
葬儀は
ほとんど
守さん
でしたから

小春:︙︙喪主の
小春です

座敷で向き合う住職と小春・母。座卓の上に、白い紙と筆。住職が紙に何か書きかけている。

イベント制作会社・進行管理(東京)篠原 小春(31)

住職:そうだ
戒名は
守さんの
好きな字を
一つ
入れましょう

戒名を授かるの解説

現実の事実戒名は、戒を受けて仏弟子となった人が授かる名前で、信仰の証です(曹洞宗)。曹洞宗では、葬儀は菩提寺(ぼだいじ)の住職が行い、その中で戒名を授かるとしていて、菩提寺に知らせずに別のお坊さんから戒名を受けると、菩提寺のお墓に納骨する時に相談が要る場合があります。

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澄江:じゃあ
「燕」の字を
会社の名前の

住職:ええ
そうしましょう

座卓の下で、ハンカチを握りしめる小春の手の寄り。

小春:聞くなら
今だ

小春:あの︙︙
お布施って
いくら包めば
いいですか?

住職:ふむ︙︙
「お気持ちで」
と言いたい
ところだが

住職:あなたの
お父さんは
毎回
喪主さんに
「そのまま
聞け」と
言っていた

一瞬目を丸くし、それから声を立てずに笑う住職の顔。

住職:だから
そのまま
答えましょう

住職は︑
通夜と葬儀と
戒名の分の額を︑
紙に書いて
見せてくれた︒

住職のメモ(この菩提寺の場合)通夜・葬儀の読経、戒名ひとまとめで 30万円表書きは「御布施」。白い封筒でよい渡すのは、通夜の前か、葬儀の後に

小春:︙︙よかった
分かると
ほっとします

住職:分からないのは
恥ではない

住職:聞かないで
悩むのが
一番つらい

住職を見送ったあと︑
台所で︒

台所のテーブルで、細身の背の高い青年が、書類のファイルを開いて小春に見せる。黒いスーツ、横分けの黒髪。

柏木:あ︑それと

柏木:お布施は
相続税の
計算で
葬式の費用
として
引けるんです

葬式費用(そうしきひよう)(相続税(そうぞくぜい))の解説

現実の事実相続税の計算では、亡くなった人の葬式の費用を、遺産の額から差し引けます。国税庁は、火葬(かそう)・埋葬・納骨の費用、遺体や遺骨の回送(かいそう)の費用、お通夜(つや)など葬式の前後に生じた通常かかせない費用、お寺などへの読経料などのお礼の費用を挙げています。

差し引けない物は?
香典返しの費用、墓石や墓地の買入れ・借入れの費用、初七日(しょなのか)など法事の費用は、葬式費用として差し引けません。
領収書が無い時は?
お布施(ふせ)など領収書の出ない支払は、支払った日・相手・額を控えておくと、相続税の申告の時に確かめやすくなります(作中の柏木の助言)。

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柏木:領収書が
出ないので
渡した日と額と
お寺の名前を
控えて
おいてください

小春:へえ︙︙
香典返しも
引けるん
ですか?

香典返しと税の解説

現実の事実香典返しは、いただいた香典へのお礼として贈る品です。相続税の計算で葬式の費用として遺産から引けるものに、香典返しのための費用は入りません(国税庁)。一方、個人からもらう香典は、社会の常識で見て相当な額なら贈与税がかかりません。

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柏木:あ︑それは
引けないんです
初七日の
法事も

初七日(しょなのか)と中陰法要(ちゅういんほうよう)の解説

現実の事実亡くなってから7日目を初七日といい、その後も7日ごとに勤める法要を中陰法要、最後の七七日(四十九日(しじゅうくにち))を満中陰と呼びます(浄土宗)。相続税の計算では、初七日など法事のためにかかった費用は、遺産から引ける葬式費用(そうしきひよう)に入りません(国税庁)。

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昼すぎ︒
受付の準備︒

家の門の前。大柄で腹の出た赤ら顔の叔父が、手書きの大きな案内の看板を高く立て、長机を三つ並べている。紺の作業ジャンパー。「ドン」の小さな鉛筆の描き文字。

ドン

守の弟・漁協勤め篠原 勝(60)

勝:よし!
受付は
4人で回すぞ!

勝:港の連中も
手伝いに
来る!

小春:ちょっと
叔父さん
家族葬︙︙

勝:兄貴の
「断るな」
だろうが!

長机の上の香典帳と、筆ペンと、何冊もの芳名帳。叔父の太い指が、帳面の頁をめくる。

小春:香典は
2人で数えて
すぐ帳面に
付けましょう

小春:イベントの
受付と
同じです

勝:数えるだけなら
俺1人で
十分だろ

小春:1人だと
数え違いに
誰も気づけない

小春:数えた人が
疑われない
ためでもあるの

柏木:あ︙︙
守さんも
そうでした
お一人では
数えないのが
決まりで

勝:︙︙兄貴らしいな
2人ずつだ
港の連中にも
言っとく

小春:それと――

段取り帳 5頁目(もう一度)通夜に宮下という人が来る。必ず通せ。香典は受け取るな。

小春:宮下さんの
香典だけは
受け取らない

勝:︙︙なんでだ?

小春:分からない
でも
父の段取り
だから

台所で、黒いワンピースの母が、鏡の前で真珠の一連をつける。手が少し震えている。

澄江:来るのね
今夜

小春:お母さんは
座ってて
いいよ

澄江:ううん
私も
会うわ

17時︒
日が
傾いてきた︒

夕方の篠原家の門。灯りの入った提灯、受付の長机。門の外の道に、夕日を背にした喪服の女性が一人、立ち止まっている。顔は影になっている。低い夕日を受けて、女性の長い影が手前へ伸びる。
門の前で深く頭を下げる、40代の喪服の女性。黒い髪をきっちり後ろでまとめ、手に小さな数珠と白い包み。

宮下:あの︙︙
宮下と
申します

宮下:守さんに
お別れを

受付の長机の後ろで、息をのむ小春の顔の寄り。夕日が頬に当たる。

父が︑
20年︑
11月3日に
会っていた人︒

第6話「お布施は、お気持ちで」

つづく

お気に入りから外しますか?

父の葬儀は、父が仕切る

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この話で分かること

葬儀のお布施(ふせ)は、相続税(そうぞくぜい)の計算で差し引ける?

差し引けます。国税庁は、相続税の計算で遺産から差し引ける葬式費用(そうしきひよう)として、お寺などへの読経料などのお礼の費用を挙げています。火葬(かそう)・埋葬・納骨の費用や、お通夜(つや)など葬式の前後に生じた通常かかせない費用も同じです。

条件・例外

領収書の出ない支払は、支払った日・相手・額を控えておくと、申告の時に確かめやすくなります。

葬儀でかかった費用のうち、相続税(そうぞくぜい)で差し引けない物は?

国税庁は、香典返しのための費用、墓石や墓地の買入れ・借入れの費用、初七日(しょなのか)など法事のための費用を、差し引けない物として挙げています。

「お布施(ふせ)はお気持ちで」と言われたら?

額や包み方は、お寺・宗派・地域で考え方が違います。分からない時は、そのお寺に直接聞いて確かめるのが確実です。

物語との違い

作中の額と包み方(表書き「御布施」・白い封筒・渡す時)は、篠原家の菩提寺(ぼだいじ)の住職が答えた、この家の場合の話です。どの寺にも当てはまる決まりとしては描いていません。

この話の用語

菩提寺(ぼだいじ)
現実の事実菩提寺は、先祖代々のお墓があり、葬儀や法事をお願いしている、家ごとのお寺です。曹洞宗は、もしもの時に慌てないよう、ふだんから菩提寺の住職に相談しておく事を勧めています。菩提寺が遠くて、法事を住まいの近くで行いたい時も、まず菩提寺に相談すると、出向いてもらえたり、近くのお寺を紹介してもらえたりする場合があります。
戒名を授かる漫画の中で見る
現実の事実戒名は、戒を受けて仏弟子となった人が授かる名前で、信仰の証です(曹洞宗)。曹洞宗では、葬儀は菩提寺(ぼだいじ)の住職が行い、その中で戒名を授かるとしていて、菩提寺に知らせずに別のお坊さんから戒名を受けると、菩提寺のお墓に納骨する時に相談が要る場合があります。
葬式費用(そうしきひよう)(相続税(そうぞくぜい))漫画の中で見る
現実の事実相続税の計算では、亡くなった人の葬式の費用を、遺産の額から差し引けます。国税庁は、火葬(かそう)・埋葬・納骨の費用、遺体や遺骨の回送(かいそう)の費用、お通夜(つや)など葬式の前後に生じた通常かかせない費用、お寺などへの読経料などのお礼の費用を挙げています。
香典返しと税漫画の中で見る
現実の事実香典返しは、いただいた香典へのお礼として贈る品です。相続税の計算で葬式の費用として遺産から引けるものに、香典返しのための費用は入りません(国税庁)。一方、個人からもらう香典は、社会の常識で見て相当な額なら贈与税がかかりません。
初七日(しょなのか)と中陰法要(ちゅういんほうよう)漫画の中で見る
現実の事実亡くなってから7日目を初七日といい、その後も7日ごとに勤める法要を中陰法要、最後の七七日(四十九日(しじゅうくにち))を満中陰と呼びます(浄土宗)。相続税の計算では、初七日など法事のためにかかった費用は、遺産から引ける葬式費用(そうしきひよう)に入りません(国税庁)。

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更新日:

続編が待てないあなたへ。違う話を考えたいあなたへ。

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  1. 1ボタンを押すいつもの AI を選んで
  2. 2AI が開く作品の設定とあらすじつきで
  3. 3一緒に考える展開・台詞・絵の指示まで
例:AI との相談

あなた宮下という女性が門の前に来た後を考えたい

AI叔父の勝が受付で止めようとする話と、母が自分から迎えに出る話で、通夜の空気が変わります。香典を受け取らないと決めた小春が、それを宮下にどう伝えるかが見せ場です。

あなた母が迎えに出る方で

AI澄江「……どうぞ。主人が、お待ちしていたと思います」

送る質問あらすじを踏まえて、次の話の展開を一緒に考えて

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この話のあらすじ

通夜(つや)の日曜の昼、小春が段取り帳の6頁(ぺーじ)目を開くと「住職が来たら、お布施(ふせ)の額は、そのまま聞け」。菩提寺(ぼだいじ)の住職は、檀家の葬儀のほとんどを父が手がけていたと話し、戒名に父の会社の「燕」の字を入れると決める。小春が思い切って額を聞くと、住職は笑い、父がいつも喪主(もしゅ)に「そのまま聞け」と言っていたからと、この寺の場合の額と包み方を紙に書いて見せる。柏木は、お寺への読経料などのお礼は相続税の計算で葬式費用(そうしきひよう)として差し引けるが、香典返しや初七日(しょなのか)の法事の費用は差し引けないと教える。家の門の前では、叔父の勝が受付の長机を三つ並べ、港の仲間を呼んで張り切っている。小春は、宮下の香典だけは受け取らないと受付に伝える。母は「私も、会うわ」と言う。夕方5時、門の前に喪服の女性が立ち、頭を下げる。「宮下と申します」。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

喪主が決める事、葬儀の見積書のどこを見るか、家族葬・一日葬・直葬の違い、死亡届と火葬の許可の出し方を、父の段取り帳の頁ごとに追えます。

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