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第1話「竜が落ちた日」

この物語はフィクションです。織田信長・今川義元などは史実の人物ですが、竜と、竜が起こした出来事、弥七たちは作り事です。

豪雨の斜面。金の雲と雨の斜線の下、槍を持った足軽の列が泥の坂を登る。手前に枯れ枝、一本の穂先が枠の上へ突き出る。

永禄3年5月19日。

この日︑
雨は降った︒

教科書の
とおりに︒

雨雲を裂いて、巨大な黒い竜が真っ逆さまに落ちてくる。稲光が金の目を照らす。

ゴオォッ

竜は︑
教科書に
無かった︒

半刻前︒

茂助:ええか
小僧

雨の中、木の下で身を寄せる足軽たち。手前に大きすぎる竹の笠をかぶった少年。右に槍を抱えた白髪まじりの男。

織田方の足軽頭・茂助に仕える小者弥七

織田方の足軽頭茂助

茂助:はぐれたら
死ぬぞ

弥七:はい
お頭

おれは︑
足軽頭の
小者だ︒

小者(こもの)の解説

現実の事実武家に雇われて、主人の供や使い走り、荷物の運搬をした下働きの奉公人です。戦では主人の馬の前を走りました。同じ奉公人の中間(ちゅうげん)より下に置かれ、軍役の人数にも数えられませんでした。

足軽とはどう違う?
足軽は戦で槍や弓・鉄砲を持って戦う兵で、身分は中間・小者より上です。小者は戦う兵ではなく、主人の世話をする者です。

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茂助:足軽の
後ろを
離れるな

足軽(あしがる)の解説

現実の事実ふだんは雑役をし、戦では槍・弓・鉄砲などを持って戦う歩きの兵です。戦国時代の大名は、武器ごとに足軽の組をつくり、足軽大将(あしがるたいしょう)に率いさせました。江戸時代には武士のいちばん下の身分になりました。

足軽はどんな身分?
近世の足軽は、侍・徒士(かち)より下、中間・小者より上の、武士のいちばん下の身分でした。ふだんは百姓や町人で、奉公の間だけ刀を差せた者もいました。

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大きすぎる竹の笠の下の少年の顔の寄り。雨のしずくが笠のふちから落ち、口元だけで小さく笑う。

弥七:大丈夫
だ

弥七:今日の事は
全部
知ってる

前世の記憶。夜の塾の教室。白い板にペンで年号を書く34歳の男の講師の背中と、机に並ぶ生徒たちの後ろ姿。

〈前世の板書〉1560年(永禄3年)5月19日桶狭間の戦い織田信長が、今川義元を討つ

永禄(えいろく)の解説

現実の事実1558年から1570年まで使われた年号です。永禄3年が1560年で、この年の5月19日に桶狭間の戦いがありました。

永禄の次の年号は?
元亀(げんき)です。その次の天正(てんしょう)の10年(1582年)に本能寺の変が起きます。

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前の人生で︑
おれは塾の
歴史の講師だった︒

夏期講習の
桶狭間の回の
途中で︑倒れた︒

弥七:はい
ここ
試験に
出ます

弥七:あ︙︙

雨に濡れた少年の顔の寄り。目を見開き、何も無い空中の一点を見つめる。

〈史実との一致〉今日の出来事が、本来の歴史と合っている割合100%

〈史実との一致〉の解説

作中の世界の決まり竜が落ちる前は100%。竜が関わると下がり、本来の流れに戻ると少し上がります。下がるほど、弥七の「先を知っている」は当てにならなくなります。

作中の世界の決まりこの物語で、弥七の目にだけ見える窓です。その日の出来事が、本来の歴史(史料に残る歴史)とどれだけ合っているかが%で出ます。

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弥七:今日
ここで
織田が
勝つ

弥七:勝つ側に
いれば
生き残れる

高い所から見下ろす雨の谷。手前の茂みに伏せる足軽の組。谷の向こうの丘に、今川の白い幕と旗が並ぶ。

足軽たち(何人もの声):おい
丸根砦も
鷲津
も
落ちたげな

丸根砦(まるねとりで)・鷲津砦(わしづとりで)の解説

現実の事実1559年(永禄2年)、織田信長が今川方の大高城(おおだかじょう)を囲むように築いた砦です。桶狭間の戦いの朝、丸根砦は松平元康(のちの徳川家康)らに、鷲津砦は今川方の朝比奈の軍勢に攻められて落ちました。今は大高城跡と合わせて国の史跡で、1938年に指定されました。

大高城とは?
今の名古屋市緑区大高町にあった城で、桶狭間の戦いの頃は今川方でした。松平元康が戦いの前に兵糧を運び入れた城として知られています。

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足軽たち(何人もの声):今川は
2万だぞ
︙︙

足軽:こっちは
その十分の一も
おらんがや

茂助:数えるな
数えると
足がすくむ

茂助:ええか
雨がやむまで
動くな

弥七:お頭

弥七:雨が
やんだら
すぐ東の
窪地へ

茂助:窪地?

弥七:今川の
大将が
そこで
休んでます

茂助:おい
小僧
なんで
知っとる

泥に片膝をついた茂助が、ひざまずく少年の胸ぐらをつかんで顔を寄せる。深いしわの目が細くなる。

弥七:教科書に
書いて
あるから

弥七:︙︙勘
です

茂助:勘︑な︙︙

茂助:外れたら
お前が先頭だ

雨がふっと止み、黒い雲の切れ目から光が一本差す。大口を開けて叫び、槍を振り上げて駆け出す茂助。後ろに続く足軽たち。

ザッ

茂助:かかれ
ぇっ!

駿河・遠江・三河の大名今川義元

窪地の底。白い幕の前、朱塗りの輿のそばに、ふくよかな口ひげの大将が立つ。周りを固める今川の武者。

窪地の真ん中に︑
輿が一つ︒

輿(こし)の解説

現実の事実人を乗せる屋形の下に2本の長い柄を付け、人が肩で担いで運ぶ乗り物です。昔は天皇などに限られ、室町時代には、将軍が家格の高い者だけに輿を使うことを許しました。乗っているだけで、身分の高さが分かる乗り物でした。

出典

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弥七:ここだ

弥七:ここで
義元が
討たれる

空から落ちてきた黒い竜が、大将の真上で翼を大きく広げる。翼の下の大将と輿。泥と雨が爆ぜる。

ドォン

少年の顔の寄り。口が開いたまま、雨粒が頬を伝う。

茂助:うわっ
なんじゃ
ありゃあ!

竜の翼に突き出された織田の槍の穂先が、火花を散らしてはじかれる。折れた穂先が一つ、枠の外へ飛ぶ。

足軽たち(何人もの声):槍が
通らん!

左に竜の横顔と金の目、右に笠の少年の横顔。雨越しに、まっすぐ向き合う。

〈史実との一致〉100%→ 71%

弥七:︙︙外れた

今川義元は︑
討たれなかった︒

真上から見た窪地。輿を担いで退く今川勢と、坂を逃げ戻る織田の足軽たち。真ん中に、泥に伏した竜。

茂助:退け!
退けぇ!

今川義元(画面の外の声):天が︙︙
わしを
守ったか

雨は︑まだ
少しだけ
降っていた︒

人のいなくなった雨の窪地。泥に伏した竜に、少年がひとり、手を伸ばしてそっと近づく。

弥七:水
飲むか

少年が、雨水のたまった裏返しの竹の笠を、伏せた竜の口元へそっと差し出す。両手で支えた笠の雨水を、竜の舌がすくう寄り。水に波紋が広がる。
ひざまずく少年の手のひらに、竜がそっと鼻先を寄せる。少年の目がうるむ。

弥七:あったかい
︙︙

弥七:お前︙︙
どこから
来たんだ

雨の向こうから︑
馬の足音︒

雨の夜。丘の上に、松明を掲げた騎馬の一団の影。手前の先頭の騎馬武者は兜の影で顔が見えず、目だけが光る。

信長:織田
上総介

第1話「竜が落ちた日」

つづく

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桶狭間に、竜が落ちた

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あなた竜が義元を守った後、弥七がどう動くかを考えたい

AI竜が弥七から離れないなら、竜を欲しがる織田方に弥七ごと連れて行かれる筋が自然です。弥七は「この人は今日勝つはずだった人」と知っているので、言えない事を抱えたまま話すことになります。

あなた信長が竜を見に来た場面の台詞を

AI信長「それが、今川の大将を救った竜か」。絵:雨の納屋、松明の明かりで竜の金の目が光る。

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この話で分かること

桶狭間の戦いとは?

1560年(永禄3年)5月19日、尾張(今の愛知県西部)に攻め込んだ駿河・遠江・三河の大名・今川義元(いまがわよしもと)を、織田信長が討った戦いです。今川方の兵は2万前後とする見方が多く、織田方はずっと少ない兵でした。

物語との違い

この物語では、竜が義元の上に翼を広げ、義元は討たれません。ここから先は、本来の歴史と分かれていきます。

桶狭間の戦いは、今の暦で何月何日?

永禄3年5月19日は、当時の西暦(ユリウス暦)で1560年6月12日です。今の暦(グレゴリオ暦)をさかのぼって当てはめると6月22日になり、本によって日付が違うのはこのためです。

桶狭間の戦いの場所はどこ?

今の名古屋市緑区と豊明市の2説があり、決まっていません。名古屋市緑区の桶狭間古戦場公園は、義元が討たれた最期の地とされ、地元では「田楽坪」と呼ばれています。豊明市にも、義元の戦死の地と伝わる所があります。

なぜ織田は今川の大軍に勝てた?

急な大雨に助けられて近づいたことと、大軍が細長く伸びていた所の、義元のいる前の軍を攻めたことがよく挙げられます。昔は「山を回り込んだ奇襲」と言われましたが、今は休んでいた義元の軍に正面からかかったとする見方もあり、説が分かれています。

この話の用語

小者(こもの)漫画の中で見る
現実の事実武家に雇われて、主人の供や使い走り、荷物の運搬をした下働きの奉公人です。戦では主人の馬の前を走りました。同じ奉公人の中間(ちゅうげん)より下に置かれ、軍役の人数にも数えられませんでした。
足軽(あしがる)漫画の中で見る
現実の事実ふだんは雑役をし、戦では槍・弓・鉄砲などを持って戦う歩きの兵です。戦国時代の大名は、武器ごとに足軽の組をつくり、足軽大将(あしがるたいしょう)に率いさせました。江戸時代には武士のいちばん下の身分になりました。
永禄(えいろく)漫画の中で見る
現実の事実1558年から1570年まで使われた年号です。永禄3年が1560年で、この年の5月19日に桶狭間の戦いがありました。
〈史実との一致〉漫画の中で見る
作中の世界の決まり竜が落ちる前は100%。竜が関わると下がり、本来の流れに戻ると少し上がります。下がるほど、弥七の「先を知っている」は当てにならなくなります。
作中の世界の決まりこの物語で、弥七の目にだけ見える窓です。その日の出来事が、本来の歴史(史料に残る歴史)とどれだけ合っているかが%で出ます。
丸根砦(まるねとりで)・鷲津砦(わしづとりで)漫画の中で見る
現実の事実1559年(永禄2年)、織田信長が今川方の大高城(おおだかじょう)を囲むように築いた砦です。桶狭間の戦いの朝、丸根砦は松平元康(のちの徳川家康)らに、鷲津砦は今川方の朝比奈の軍勢に攻められて落ちました。今は大高城跡と合わせて国の史跡で、1938年に指定されました。
輿(こし)漫画の中で見る
現実の事実人を乗せる屋形の下に2本の長い柄を付け、人が肩で担いで運ぶ乗り物です。昔は天皇などに限られ、室町時代には、将軍が家格の高い者だけに輿を使うことを許しました。乗っているだけで、身分の高さが分かる乗り物でした。

出典

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この話のあらすじ

永禄3年5月19日、雨の桶狭間。織田方の足軽頭(あしがるがしら)・茂助に仕える小者の弥七は、前の人生で塾の歴史の講師だった。目の前には〈史実との一致 100%〉の窓。今日ここで織田が勝つと知る弥七は、雨がやんだら東の窪地へ、と茂助に言う。雨が上がり、茂助の組は一番に今川義元(いまがわよしもと)の輿の前へ。そこへ空から黒い竜が落ち、義元の上に翼を広げた。槍は届かず、窓の数字は71%に下がる。義元は討たれず、織田は退いた。傷ついた竜に、弥七は笠で受けた雨を飲ませる。竜は鼻先を弥七の手のひらに寄せた。雨の向こうから、馬の足音。名は、織田上総介(かずさのすけ)。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

雨の桶狭間に竜が落ち、知っているはずの歴史が一つずつ外れていく。その外れ方から、本当の戦国の年と場所と人の動きが見えてきます。

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