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第2話「消した跡」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

夕方の教室。窓際の机の前にしゃがんだ若い男性の教師が、スマートフォンのライトを机の中の板へ横から当てている。光の筋の中に、消した鉛筆の跡の溝が浮かぶ(字は読めない)。

2年3組の担任・社会科(24)須藤 創

須藤 創:横から
光を当てたら

机の中の板の寄り。横からの光で、消しゴムでこすった灰色の跡の下に、鉛筆で強く押した溝が何本も浮かび上がる(読める字は無い)。

〈机の板に、浮かんだ溝〉「来んな」……同じ字が、何度もほかの字は、消されて読めない

須藤 創:え︙︙
来んな?

若い教師の顔の大写し。頬と目のまわりが怒りで赤く染まり、奥歯をかみしめる。ライトの白い光が下から当たる。

須藤 創:誰だよ

須藤 創:明日
クラスで
絶対に
見つけてやる

第2話「消した跡」

教室の入口。見回りの鍵の束を手にした、白髪まじりで眼鏡の50代の男性の教師が立つ。床から見上げる角度。天井に白い蛍光灯。

2年の学年主任(52)石黒 正人

石黒 正人:須藤先生

石黒 正人:あれ
まだ
いたの

須藤 創:石黒先生
これ

机をのぞき込む2人を斜め上から。左で若い教師がライトを当て、右で年配の教師が眼鏡を額へ上げて板に顔を寄せる。

石黒 正人:写真
撮っとこう

石黒 正人:日付も
入れてね

須藤 創:明日の朝
クラスで
聞きます

須藤 創:誰が書いたか
絶対に

年配の教師の寄り。眼鏡の奥の目が、若い教師をまっすぐ見る。手のスマートフォンを下ろしたところ。

石黒 正人:1人で?

石黒 正人:それは
だめなんだよ

〈いじめの防止等のための基本的な方針(文部科学省)〉学校の特定の教職員が、いじめに係る情報を抱え込み、学校いじめ対策組織に報告を行わないことは、(いじめ防止対策推進法 第23条第1項の)規定に違反し得る。

いじめ防止対策推進法(いじめぼうしたいさくすいしんほう)の解説

現実の事実いじめを防ぎ、起きた時に学校・教育委員会・国がどう動くかを決めた法律です。2013年6月に公布され、同じ年の9月から施行されています。いじめの相談を受けた先生や保護者は学校へ知らせ、学校は事実を確かめて結果を教育委員会などの学校の設置者に報告する、と決めています(第23条)。

先生が1人で解決しようとするのは、だめ?
文部科学省の基本方針(きほんほうしん)は、先生がいじめの情報を1人で抱え込み、学校の対策の組織に報告しないことは、法律の第23条第1項に違反し得る、としています。いじめは学校が組織で対応する、という考え方です。

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須藤 創:えっ
違反︙︙?

石黒 正人:学校には
いじめの
対策組織
が
あるでしょ

学校いじめ対策組織(がっこういじめたいさくそしき)の解説

現実の事実いじめを防ぎ、起きた時に対応するために、どの学校にも置かれている常設の組織です(いじめ防止対策推進法 第22条)。何人もの先生と、心理・福祉の専門家(スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーなど)たちで作ります。担任1人ではなく、何人もの目で見て決めるための場です。

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年配の教師が生徒の机に軽く腰かけ、若い教師を見上げて話す。若い教師は立ったまま、眉を寄せて聞いている。窓の外は暮れかけの白い曇り空。

石黒 正人:それに
いじめか
どうか

いじめ(いじめ)の解説

現実の事実いじめ防止対策推進法では、同じ学校の子など、つながりのある子からの、心や体に影響を与える行為(インターネットを通じた物も入る)で、された子が「心身の苦痛を感じているもの」を、いじめと決めています(第2条)。決め手は、した子のつもりではなく、された子がどう感じているかです。

いじめが「解消した」と言えるのは?
文部科学省の基本方針(きほんほうしん)では、いじめの行為が止んでいる状態が少なくとも3か月を目安に続いていること、された子が心身の苦痛を感じていないこと、の両方がそろった時です。

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石黒 正人:決めるのは
字じゃない

須藤 創:字じゃ
ない?

石黒 正人:小坂さんが
苦しいと
感じてるか
なんだ

〈いじめ防止対策推進法 第2条〉つながりのある子からの行為で、された子が「心身の苦痛を感じているもの」が、いじめ

年配の教師の顔の寄りを少し下から。白いカップを持ち上げかけた手を止め、眼鏡の奥の目を細めて低い声で話す。

石黒 正人:それとね

石黒 正人:いじめで
休んでる
かもしれない
なら

石黒 正人:30日は
待たない

若い教師の顔の寄り。目を見開いて口を開け、こめかみに汗が一滴。驚いたまま、右の年配の教師を見る。

須藤 創:えっ
また
30日︙︙?

〈同じ「30日」でも、別の決まり〉不登校を数える時:年間30日以上の欠席(文部科学省の調査の決まり)いじめの重大事態:いじめで「相当の期間」休んでいる疑い。目安は年間30日。ただし、続けて休んでいる時は、30日を待たずに調査に入る(いじめ防止対策推進法 第28条・基本方針)

重大事態(じゅうだいじたい)の解説

現実の事実いじめで、子どもの命や心身・お金に重い被害が出た疑いがある時と、いじめで「相当の期間」学校を休まざるを得ない疑いがある時の2つです(いじめ防止対策推進法 第28条)。学校か教育委員会が組織を作って、速やかに調査します。「相当の期間」の目安は年間30日ですが、続けて休んでいる時は、目安にかかわらず早く調査に入る、とされています。

親が「いじめで休んでいる」と申し立てたら?
文部科学省の基本方針(きほんほうしん)では、子どもや保護者から、いじめで重大な被害が出たという申し立てがあった時は、学校が「いじめの結果ではない」と考えていても、重大事態が起きたものとして報告・調査に当たる、としています。

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石黒 正人:小坂さん
続けて
休んでるでしょ

石黒 正人:数を見てるのは
ね

夕方の教室の窓の前に、2人の教師が並んで立つ後ろ姿。外の校庭に白い照明がともり始める。2人とも同じ窓の外を見ている。

石黒 正人:数より先に
動くため
だよ

石黒 正人:明日の朝8時
組織で
話そう

須藤 創:よし

翌朝
7時52分︒

朝の職員室。手前の文具や書類越しに、受話器を耳に当てた若い教師を見る。教師は目を閉じて息を整え、片手を開いた出席簿(字は無い)に置く。窓から白い朝の光。

小坂 りん(電話の声):今日も
休みます

須藤 創:分かった
4時の部屋
今日も
開けとく

須藤 創:机のプリントも
まとめて
持ってくな

小坂 りん(電話の声):︙︙机
見た?

受話器を握る若い教師の手の大写しを真上から。指の関節が白くなるほど力が入っている。手前に出席簿の端。

須藤 創:見た

小坂 りん(電話の声):そっか

〈出席簿〉欠席 22日目

朝8時︒

校長室の机を囲む5人を斜め上から。白い窓の光。50代の女性の校長、白衣の養護教諭、ノートを開いた40代のスクールカウンセラー(3人の顔は小さく)、眼鏡の年配の教師(右)、若い教師(左)。机の上に、机の板の写真(字は読めない)。

〈学校いじめ対策組織〉今朝、決めたこと1. 小坂さんが話せる所で、本人の話を聞く(担任とスクールカウンセラー)2. 机の跡の写真を記録に残す。クラスで犯人捜しはしない3. 事実を確かめ、結果を教育委員会に報告する(いじめ防止対策推進法 第23条)

石黒 正人:うちの学校の
基本方針にも
書いてある

学校いじめ防止基本方針(がっこういじめぼうしきほんほうしん)の解説

現実の事実どの学校も、いじめをどう防ぎ、起きた時にどう動くかを、自分の学校の方針として決めています(いじめ防止対策推進法 第13条)。文部科学省の基本方針(きほんほうしん)は、学校のホームページに載せるなどして、保護者や地域の人がすぐ読めるようにし、入学の時や毎年度の初めに説明する、としています。

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年配の教師の横顔の寄り。カップを机に置き、ペンを持って紙に書き込みながら、低い声で話す。若い教師の横顔の寄り。同じ向きを向き、口を結んで小さくうなずく。

石黒 正人:担任1人に
させない
からね

須藤 創:はい

午後4時︒
3階の部屋
「ひだまり」︒

3階の空き教室を使った静かな部屋。古いソファの端に、灰色のパーカーの女の子が浅く腰かける。手前の机の上に、新しい消しゴムが1つ置かれる。窓の白い光。

2年3組の生徒(14)小坂 りん

須藤 創:これ
置いとく

小坂 りん:あ
消しゴム

小坂 りん:4個目
だ

女の子の手が、新しい消しゴムを指先でつまむ大写し。パーカーの袖が手の甲までかかる。

須藤 創:え
4個目?

小坂 りん:消しても
次の朝
また
書いてあった

小坂 りん:休む前は
毎朝
早く行って
消した

須藤 創:毎朝
1人で︙︙

若い教師が床にあぐらをかき、ソファの女の子より低い目線で話しかける。女の子の肩越しに見る。

須藤 創:誰が
って
聞かない

須藤 創:小坂が
苦しかったか
だけ
聞いていい?

小坂 りん:︙︙苦しかった
だけ

須藤 創:うん
言ってくれて
ありがとな

真上から見た机の上。ペンを持った若い教師が、もう片方の手で小さなメモの紙を女の子の方へすべらせる。メモの端が絵の枠の外へはみ出す(字は読めない)。手前に、パーカーの袖の女の子の手。

須藤 創:夜
話したく
なったら

〈須藤のメモ〉24時間子供SOSダイヤル0120-0-78310(夜も、休みの日も)

24時間子供SOSダイヤル(にじゅうよじかんこどもえすおーえすだいやる)の解説

現実の事実クラスでいじめを見たりされたり、学校やお友だちのことで不安がある時に、ひとりで悩まず、いつでも電話で相談できる窓口です(0120-0-78310)。文部科学省が案内していて、つながらない事があっても、ためらわずにかけて、としています。

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小坂 りん:先生

小坂 りん:最後の
何回かは

小坂 りん:行ったら
もう
消えてた

若い教師の横顔の大写し。眉を寄せ、口を少し開けて、窓の外の校舎の反対側の棟を見る。白い窓の光が鼻筋に当たる。

須藤 創:消えてた︙︙?

須藤 創:誰かが
先に︙︙

〈出席簿〉欠席 22日目午後4時から15分:ひだまり

夜7時︒
帰る前に︑
もう一度
2年3組へ︒

暗い教室。開いた戸口から、廊下の非常灯の白い光だけが入る。机の前に学生服の男子が背を丸めてしゃがみ、消しゴムで机の中をこすっている。机の横の通学かばんから、小さな黄色い通園帽が絵の枠の下へぶら下がる。

須藤 創(ささやき):︙︙波多野?

振り向いた男子中学生の顔の寄り。消しゴムを握ったまま、目を見開いて固まる。非常灯の白い光が横顔を切る。

2年3組の生徒(14)波多野 蒼太

波多野 蒼太:︙︙

第2話「消した跡」

つづく

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AI須藤が「書いたのも?」と聞き、波多野が答えずに「妹の迎え」と言って出ていく形にすると、消していた事と、言えない家の事情の両方が一度に見えます。理由を言い切らせないと、第3話以降に残せます。

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この話で分かること

いじめ(いじめ)の定義は?

いじめ防止対策推進法では、同じ学校の子など、つながりのある子からの、心や体に影響を与える行為(インターネットを通じた物も入る)で、された子が心身の苦痛を感じているものを、いじめとしています。

条件・例外

決め手は、した子のつもりではなく、された子がどう感じているかです。

先生がいじめ(いじめ)に気づいたら、1人で解決していい?

いじめの相談を受けた先生は学校に知らせ、学校の対策の組織で対応します。文部科学省の基本方針(きほんほうしん)は、先生がいじめの情報を1人で抱え込み、組織に報告しないことは、法律に違反し得るとしています。

いじめ(いじめ)の重大事態(じゅうだいじたい)とは? 「30日」は?

いじめで命や心身・お金に重い被害が出た疑いがある時と、いじめで相当の期間学校を休まざるを得ない疑いがある時です。「相当の期間」の目安は年間30日ですが、続けて休んでいる時は、目安にかかわらず早く調査に入ります。

条件・例外

不登校(ふとうこう)を数える時の「年間30日以上の欠席」とは、別の決まりです。

物語との違い

学校の組織の顔ぶれと「今朝、決めたこと」は作中の物です。

学校のいじめ(いじめ)の方針は、どこで読める?

どの学校も「学校いじめ防止基本方針(きほんほうしん)」を決めています。文部科学省の基本方針は、学校のホームページに載せるなどして、保護者が読めるようにするとしています。

この話の用語

いじめ防止対策推進法(いじめぼうしたいさくすいしんほう)漫画の中で見る
現実の事実いじめを防ぎ、起きた時に学校・教育委員会・国がどう動くかを決めた法律です。2013年6月に公布され、同じ年の9月から施行されています。いじめの相談を受けた先生や保護者は学校へ知らせ、学校は事実を確かめて結果を教育委員会などの学校の設置者に報告する、と決めています(第23条)。
学校いじめ対策組織(がっこういじめたいさくそしき)漫画の中で見る
現実の事実いじめを防ぎ、起きた時に対応するために、どの学校にも置かれている常設の組織です(いじめ防止対策推進法 第22条)。何人もの先生と、心理・福祉の専門家(スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーなど)たちで作ります。担任1人ではなく、何人もの目で見て決めるための場です。
いじめ(いじめ)漫画の中で見る
現実の事実いじめ防止対策推進法では、同じ学校の子など、つながりのある子からの、心や体に影響を与える行為(インターネットを通じた物も入る)で、された子が「心身の苦痛を感じているもの」を、いじめと決めています(第2条)。決め手は、した子のつもりではなく、された子がどう感じているかです。
重大事態(じゅうだいじたい)漫画の中で見る
現実の事実いじめで、子どもの命や心身・お金に重い被害が出た疑いがある時と、いじめで「相当の期間」学校を休まざるを得ない疑いがある時の2つです(いじめ防止対策推進法 第28条)。学校か教育委員会が組織を作って、速やかに調査します。「相当の期間」の目安は年間30日ですが、続けて休んでいる時は、目安にかかわらず早く調査に入る、とされています。
学校いじめ防止基本方針(がっこういじめぼうしきほんほうしん)漫画の中で見る
現実の事実どの学校も、いじめをどう防ぎ、起きた時にどう動くかを、自分の学校の方針として決めています(いじめ防止対策推進法 第13条)。文部科学省の基本方針(きほんほうしん)は、学校のホームページに載せるなどして、保護者や地域の人がすぐ読めるようにし、入学の時や毎年度の初めに説明する、としています。
24時間子供SOSダイヤル(にじゅうよじかんこどもえすおーえすだいやる)漫画の中で見る
現実の事実クラスでいじめを見たりされたり、学校やお友だちのことで不安がある時に、ひとりで悩まず、いつでも電話で相談できる窓口です(0120-0-78310)。文部科学省が案内していて、つながらない事があっても、ためらわずにかけて、としています。

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更新日:

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この話のあらすじ

夕方の教室で、須藤はりんの机の板にライトを横から当て、消した跡の下に「来んな」の溝が何度も浮かぶのを見つける。怒った須藤は明日クラスで書いた生徒を見つけると言うが、見回りの学年主任(がくねんしゅにん)・石黒は「1人で?」と止める。先生がいじめの情報を1人で抱え込み、学校の対策の組織に報告しないことは、いじめ防止対策推進法に違反し得る。いじめかどうかを決めるのは字ではなく、りんが苦痛を感じているかどうか。そして、いじめで続けて休んでいるかもしれないなら、重大事態(じゅうだいじたい)の目安の30日を待たずに動く。翌朝、りんは電話で「机、見た?」と聞き、須藤は「見た」とだけ答える。朝8時の学校いじめ対策組織で、本人の話を聞く事・犯人捜しをしない事・教育委員会への報告を決める。午後4時、ひだまりに来たりんは、消しても次の朝また書いてあったので毎朝消したと話し、「苦しかった、だけ」と言う。須藤は24時間子供SOSダイヤルの番号を渡す。だがりんは、最後の何回かは、行った時にはもう消えていたと言う。夜7時、暗い教室でりんの机をこすっていたのは、後ろの席の波多野 蒼太だった。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

欠席が30日になると何が変わるのか、学校の外にどんな学びの場があるのか、いじめの時に学校がどう動くのかを、担任と家族の両方の迷いと一緒に追えます。

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