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第1話「要精密検査」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

昼の古い一軒家の居間。右奥で、肌着の父が畳に寝ころんでいる。左手前で、娘がテレビ台の引き出しを開け、紙の束を引き出している。窓からの白っぽい昼の光。

日曜の昼。実家の居間。

実家に来た娘(会社員)野上 千晴

食品工場のライン長野上 善行

野上 千晴:これ
開いて
ないよね

〈封筒〉健康診断 結果在中消印:去年の10月

野上 善行(画面の外の声):いいんだよ

野上 善行(画面の外の声):毎年
平気だから

封筒の寄り。娘の指が封をびりっと開ける。細長い切れ端が垂れて、絵の枠の下の線を越える。

第1話「要精密検査」

健康診断の結果の紙の寄り。表と小さな字が並ぶ(字は読めない)。1か所だけ、赤い四角の印がある。

〈健康診断の結果〉便潜血(2日法) 1日目:陰性 2日目:陽性判定:要精密検査

要精密検査(ようせいみつけんさ)の解説

現実の事実がん検診で「がんの疑いあり」と判定された時の結果です。がん情報サービスは、要精密検査と判定されたら、必ず精密検査(せいみつけんさ)を受けるよう呼びかけています。血便やおなかの痛みなどの症状がある時は、検診を待たずに医療機関を受診します。

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野上 千晴(画面の外の声):要精密
検査︙︙

野上 千晴:お父さん

千晴の母野上 和子

居間。右で、寝ころんだまま新聞で顔を隠す父(作業着のズボンに肌着)。左で、結果の紙を突きつける千晴。奥の台所の入口から、母がのぞいている。

野上 善行:2回の
うち
1回だろ

大腸がん検診の解説

現実の事実40歳から1年に1度受けるよう勧められている検診で、2日分の便を取る便潜血検査(べんせんけつけんさ)(2日法)で行います。市町村のがん検診に大腸がん検診が加わったのは、1992年4月です。

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野上 善行:もう1回
やりゃ
いいんだよ

野上 和子:痔だから
って
言ってたのよ

痔と便潜血検査(べんせんけつけんさ)の解説

現実の事実もともと痔がある人でも、便潜血検査の陽性が痔からの出血か、大腸がんやポリープからの出血かは、精密検査(せいみつけんさ)をしないと分かりません。がん情報サービスは、自分で決めずに、必ず精密検査を受けるよう呼びかけています。

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野上 善行:言うなよ

1年と
2週間︑
引き出しの中︒

千晴の寄り。結果の紙を持ったまま、スマホで調べている。眉が寄る。

野上 千晴:もう1回で
いいの?

〈千晴が調べた事(国立がん研究センター がん情報サービス)〉1日分でも陽性なら、精密検査を受けるもう一度、便の検査を受けても、精密検査の代わりにはならない精密検査は、一般的には大腸の内視鏡(カメラ)の検査痔があっても、精密検査をしないと、どこからの出血かは分からない

便潜血検査(べんせんけつけんさ)の解説

現実の事実便に混じった目に見えない血を調べる検査で、市町村などの大腸がん検診で行われています。2日分の便を取り、がんやポリープからの出血を見つけます。出血は毎日あるとは限らないため、1日分でも陽性なら精密検査(せいみつけんさ)を受けます。気になる時は、医療機関に相談してください。

陽性だったら、もう一度、便の検査をすればいい?
がん情報サービスは、便潜血検査をもう一度受けることは精密検査の代わりにならない、としています。
精密検査は、何をする?
一般的なのは全大腸内視鏡検査(ぜんだいちょうないしきょうけんさ)です。難しい時は、大腸内視鏡検査と大腸の X 線検査の併用法や、大腸 CT 検査を行います。

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野上 千晴:だめ
だって

野上 善行(画面の外の声):ネットの
話だろ

野上 善行:カメラだろ
あれ
尻から

全大腸内視鏡検査(ぜんだいちょうないしきょうけんさ)の解説

現実の事実下剤で大腸を空にした後、肛門から内視鏡を入れて、直腸から盲腸まで大腸の全部を見る検査です。がんやポリープがあるかを確かめます。便潜血検査(べんせんけつけんさ)が陽性の時の精密検査(せいみつけんさ)は、一般的にはこの検査です。

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居間のちゃぶ台。右で、父が起き上がってあぐらをかき、腕を組んでそっぽを向く。左手前に、向き合う千晴の後ろ姿。

野上 千晴:怖いの?

野上 善行:怖くねえよ

野上 善行:工場が
年末で
忙しいんだ

〈お父さんの工場〉お歳暮の時期で、ラインは毎日、朝6時から

野上 和子(画面の外の声):ライン長
だもんねえ

父の言葉で︑
聞いてみる事にした︒

野上 千晴:ねえ

千晴の顔の寄り。まっすぐ父を見る。

野上 千晴:ラインで
不良が
1個出たら

野上 千晴:もう1回
同じ検査
する?

父の顔の寄り。口を結んだまま、目だけが一瞬、千晴のほうを向く。

野上 善行:しねえよ

野上 善行:ライン
止めて
原因を見る

野上 千晴:でしょ

工場の記憶。白い作業着と帽子の父が、ベルトコンベアの前で、箱詰めの食品を1つ頭の上へ持ち上げ、明るい照明の下で見上げている。箱が絵の枠の上の線を越える。

同じ検査を︑
2回やっても︑
原因は見えない︒

野上 善行(画面の外の声):ちっ

居間のちゃぶ台。右で、父が目を落としたまま、結果の紙を千晴のほうへ押し返す。左で、千晴が受け取る。奥で、母が両手を合わせている。

野上 善行:予約
お前が
取れ

野上 千晴:うん

野上 和子:あらまあ

翌日の昼休み︒
千晴の会社︒

会社の非常階段の踊り場。千晴がスマホを耳に当て、手帳にペンで書き込んでいる(字は読めない)。曇りの白い光。

〈千晴の手帳〉11月12日(木)9時 大腸内視鏡の検査前の日:夕食は軽く・下剤

〈お父さんの会社の健康診断〉会社は、結果を本人に知らせる(労働安全衛生法)お父さんにも、去年の10月に届いていた

健康診断(けんこうしんだん)の結果の通知の解説

現実の事実会社(事業者)は、法律で決まった健康診断を受けた働く人に、結果を知らせなければなりません。異常の所見がある人については、健康を保つために必要な事を医師から意見を聴くことも決まっています。知らせを受けた本人にも、結果を使って健康を保つよう努める事が決められています。

精密検査(せいみつけんさ)に行ったかどうかまで、会社が決める?
法律は、会社に健康診断・結果の通知・医師の意見を聴く事などを決め、働く人にも、結果を使って健康を保つよう努める事を決めています。精密検査の受け方や費用の扱いは、会社の決まりや健診の案内で確かめます。

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スマホのメッセージの画面の寄り(字は読めない吹き出しの形だけ)。父からの短いメッセージが1つ届いている。

野上 千晴:下剤
まずいのか
だって

野上 千晴:ふふ

父が︑
自分から
聞いてきた︒

11月12日︒
朝7時30分︒

朝の駅のホーム。通勤のコートの千晴が、スマホを耳に当てたまま立ち止まる。後ろを電車が走り抜ける。

野上 和子(電話の声):千晴?

野上 和子(電話の声):お父さん
工場に
行っちゃった

野上 千晴:え

スマホの画面の寄り。父からのメッセージが1つ(字は読めない)。千晴の手がスマホを強く握る。スマホの角と指先が、絵の枠の右の線を越えて外へ出る。

〈お父さんからのメッセージ〉シフト、代われなかった仕事だ

朝の食品工場。白い作業着と帽子の父が、動き出したベルトコンベアの前に立ち、背中を向けている。

予約の9時まで︑
あと1時間半︒

第1話「要精密検査」

つづく

次の話 10月28日(水)更新

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あなた千晴が帰った後の実家の夜を、母の目から考えたい

AI台所で洗い物をする母が、居間の父がこっそり結果の紙を引き出しから出して、老眼鏡で読み直しているのに気づき、声をかけずに湯のみを1つ置く場面にすると、強がる父の本音を言葉なしで見せられます。

あなたその場面の台詞を

AI母「お茶、置いとくわね」。父「……ああ」。絵:ちゃぶ台の上の結果の紙と、老眼鏡と、湯気の立つ湯のみ。

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この話で分かること

便潜血検査(べんせんけつけんさ)で陽性。もう一度、便の検査をすればいい?

国立がん研究センターのがん情報サービスは、便潜血検査をもう一度受けることは精密検査(せいみつけんさ)の代わりにならない、としています。出血は毎日あるとは限らないので、2日分のうち1日分でも陽性なら精密検査を受けます。

健康診断(けんこうしんだん)で「要精密検査(ようせいみつけんさ)」と言われたら?

結果の案内に従って、医療機関で精密検査(せいみつけんさ)を受けます。大腸がん検診の便潜血検査(べんせんけつけんさ)が陽性の時の精密検査は、一般的には全大腸内視鏡検査(ぜんだいちょうないしきょうけんさ)です。難しい時は、大腸内視鏡検査と大腸の X 線検査の併用法か、大腸 CT 検査を行います。

条件・例外

判定の区分の名前や基準は、健診を行った機関の結果の案内で確かめます。体の事は医療機関に相談してください。

痔があるから、便潜血検査(べんせんけつけんさ)が陽性になった?

がん情報サービスは、もともと痔がある人でも、痔からの出血か、大腸がんやポリープからの出血かは、精密検査(せいみつけんさ)をしないと分からない、としています。自分で決めずに精密検査を受けます。

会社の健康診断(けんこうしんだん)の結果は、会社が知らせる?

労働安全衛生法は、会社(事業者)に、健康診断の結果を受けた人に知らせる事と、異常の所見がある人について医師の意見を聴く事を決めています。知らせを受けた本人にも、結果を使って健康を保つよう努める事が決められています。

物語との違い

作中の工場・人物・検査の日は創作です。

この話の用語

要精密検査(ようせいみつけんさ)漫画の中で見る
現実の事実がん検診で「がんの疑いあり」と判定された時の結果です。がん情報サービスは、要精密検査と判定されたら、必ず精密検査(せいみつけんさ)を受けるよう呼びかけています。血便やおなかの痛みなどの症状がある時は、検診を待たずに医療機関を受診します。
大腸がん検診漫画の中で見る
現実の事実40歳から1年に1度受けるよう勧められている検診で、2日分の便を取る便潜血検査(べんせんけつけんさ)(2日法)で行います。市町村のがん検診に大腸がん検診が加わったのは、1992年4月です。
痔と便潜血検査(べんせんけつけんさ)漫画の中で見る
現実の事実もともと痔がある人でも、便潜血検査の陽性が痔からの出血か、大腸がんやポリープからの出血かは、精密検査(せいみつけんさ)をしないと分かりません。がん情報サービスは、自分で決めずに、必ず精密検査を受けるよう呼びかけています。
便潜血検査(べんせんけつけんさ)漫画の中で見る
現実の事実便に混じった目に見えない血を調べる検査で、市町村などの大腸がん検診で行われています。2日分の便を取り、がんやポリープからの出血を見つけます。出血は毎日あるとは限らないため、1日分でも陽性なら精密検査(せいみつけんさ)を受けます。気になる時は、医療機関に相談してください。
全大腸内視鏡検査(ぜんだいちょうないしきょうけんさ)漫画の中で見る
現実の事実下剤で大腸を空にした後、肛門から内視鏡を入れて、直腸から盲腸まで大腸の全部を見る検査です。がんやポリープがあるかを確かめます。便潜血検査(べんせんけつけんさ)が陽性の時の精密検査(せいみつけんさ)は、一般的にはこの検査です。
健康診断(けんこうしんだん)の結果の通知漫画の中で見る
現実の事実会社(事業者)は、法律で決まった健康診断を受けた働く人に、結果を知らせなければなりません。異常の所見がある人については、健康を保つために必要な事を医師から意見を聴くことも決まっています。知らせを受けた本人にも、結果を使って健康を保つよう努める事が決められています。

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この話のあらすじ

日曜の昼、実家の居間。会社員の野上 千晴は、テレビ台の引き出しから、開けていない1年前の健康診断(けんこうしんだん)の封筒を見つける。食品工場のライン長の父・善行の結果は「便潜血(2日法) 1日目:陰性 2日目:陽性 判定:要精密検査(ようせいみつけんさ)」。父は「2回のうち1回だろ、もう1回やりゃいいんだよ」、母は「痔だからって言ってた」。千晴が調べると、1日分でも陽性なら精密検査(せいみつけんさ)を受ける、もう一度便の検査を受けても精密検査の代わりにはならない、痔があっても精密検査をしないと分からない、とあった。年末で忙しいと言う父に、千晴は「ラインで不良が1個出たら、もう1回同じ検査する?」と聞く。父は「しねえよ、ライン止めて原因を見る」と答え、「予約、お前が取れ」と結果の紙を押し返した。千晴は11月12日の大腸内視鏡の検査を予約し、父からは「下剤、まずいのか」と短いメッセージが届く。ところが検査の日の朝、母から電話が来る。父は工場に行ってしまっていた。「シフト、代われなかった。仕事だ」。

作者

カルテの余白

診察室や相談の部屋、家族の居間で、治療や検査を決める前の人と、その話を聞く人を描いています。

この作品について

「要精密検査」の封筒を開けた後に何をすればいいか、入院した時に医療費の上限がどう効くか、仕事を休む間のお金をどう支えるかが、家族の段取りの中で分かってきます。

カルテの余白のほかの作品

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