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第3話「4時の部屋」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

夜の教室。天井の白い蛍光灯の下、消しゴムを握った男子中学生が机に手をついて立ち上がり、目をそらす。手前に若い教師の肩と腕(ぼけ)。

2年3組の生徒(14)波多野 蒼太

波多野 蒼太:︙︙別に

波多野 蒼太:消してた
だけっす

波多野 蒼太:きのう
先生たち
写真
撮ってたし

須藤 創:書いたのも?

男子中学生の顔の寄り。口を固く結び、目を伏せる。こめかみに汗。黒い学生服の襟。

波多野 蒼太:︙︙

波多野 蒼太:妹
迎え
行かないと

真上から見た教室の出入口。男子がかばんをつかんで廊下へ駆け出し、かばんの黄色い通園帽が大きく揺れる。机の間に、腰を浮かせた若い教師が、伸ばしかけた手を止めて取り残される。

2年3組の担任・社会科(24)須藤 創

須藤 創:追いかけたい

須藤 創:でも
1人で
じゃない

第3話「4時の部屋」

暗い廊下。若い教師が壁に背をつけ、スマートフォンを握る指に力を込めて耳に当て、口を固く結ぶ。下から見上げる角度。非常灯の白い光。

須藤 創:石黒先生
今
いいですか

石黒 正人(電話の声):うん
明日
2人で聞こう

石黒 正人(電話の声):波多野くんへの
指導も
家への
助言も

指導・助言の解説

現実の事実いじめが確かめられたら、学校は何人もの先生で、専門家の力も借りながら、された子と保護者を支え、した子に指導し、した子の保護者に助言することを、続けて行います(いじめ防止対策推進法 第23条第3項)。必要な時は、した子を別の教室で学ばせるなど、された子が安心して学べるようにします(同 第4項)。

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翌日︑
午後4時︒
ひだまり︒

3階の静かな部屋を高い所から。窓際の机で、パーカーの女の子がプリントの端を小さく折っている。入口に若い教師が立つ。

須藤 創:きのうの夜
机を
消してた子が
いた

小坂 りん:波多野くん
でしょ

須藤 創:えっ
知ってた
のか

小坂 りん:後ろの席
だから

女の子の横顔の大写し。前髪の奥の目が窓の外を見る。窓の白い光が頬の輪郭に当たる。

小坂 りん:教室は
行けない

〈出席簿〉欠席 23日目午後4時から:ひだまり

須藤 創:ぜっ︙︙

須藤 創:絶対って
言いそう
だった

須藤 創:どこなら
行けそう?

真上から見た机。若い教師の手が、字の無い3枚の案内の紙を女の子の前に並べる。女の子の袖の手が1枚に伸びかける。

小坂 りん:うーん
分かんない
学校じゃない
所って
あるの?

〈学校の外にも、学びの場がある〉教育支援センター:地域の教育委員会が開くフリースクール:民間の団体・施設学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校):授業の時間を減らすなど、特別の教育課程の学校

フリースクール(ふりーすくーる)の解説

現実の事実学校に行きにくい子どもが通う、民間の団体・施設の呼び名です。学習・相談・体験の活動など、中身も日数(にっすう)も施設ごとに違います。文部科学省の令和元年の通知は、学校や教育委員会がフリースクールなどと積極的に連携することの意義は大きい、としています。

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学びの多様化学校(まなびのたようかがっこう)の解説

現実の事実不登校(ふとうこう)の子に合わせて、授業の時間を減らすなど、特別の教育課程で学べる学校です。前は「不登校特例校」と呼ばれていて、2023年8月31日に文部科学大臣が今の名前に決めました(当面は「学びの多様化(たようか)学校(いわゆる不登校特例校)」と並べて書きます)。

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小坂 りん:でも
そこ
行ったら

小坂 りん:欠席
でしょ

須藤 創:いや
それがな

若い教師の顔の寄りを少し下から。頭をかきながら、照れたように片方の口の端を上げる。

〈文部科学省の通知(令和元年10月25日)〉学校の外の施設で相談・指導を受けた日を、要件を満たせば、校長は指導要録上「出席扱い」にできる要件の1つ:保護者と学校の間に、十分な連携・協力関係があること

指導要録(しどうようろく)の解説

現実の事実子ども一人ひとりの学習と健康の状況(出欠も入る)を記録する、学校の正式な書類です。校長が作る事が学校教育法施行規則で決められていて、進学する時は、その抄本か写しが進学先の学校へ送られます(第24条)。フリースクールなどで出席扱いにした日は、出席の日数(にっすう)の中に入れ、通った施設の名前も書きます。

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須藤 創:出席扱いに
できるかも
しれない

出席扱い(しゅっせきあつかい)の解説

現実の事実学校の外の施設(教育支援センター・フリースクールなど)で相談・指導を受けた日を、要件を満たせば、校長が出席として扱える仕組みです。要件は、保護者と学校の連携があること、施設の相談・指導が子どもの自立を目指すものであること、施設に通って受けること、などです。民間の施設が合うかは、校長が教育委員会と相談して決めます。

家でオンラインで学んだ日は?
自宅で ICT などを使って学んだ日も、別の要件(同じ通知の別記2)を満たせば、出席扱いにできるとされています。

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須藤 創:お母さんと
話したい

小坂 りん:8時まで
レジ
だけど

夜8時半︒
小坂さんの家︒

団地の玄関を、外から少し下の目線で。開けたドアから坊主頭の男の子が顔を出し、あきれた顔で見上げる。手前の左に若い教師の背中。

りんの弟・小学4年(10)小坂 大和

小坂 大和:えー
先生
夜も?

小坂 大和:それって

須藤 創:仕事
です

小坂 千秋(画面の外の声):大和
上がって
もらって

団地の狭い台所のテーブル。スーパーのエプロンを着たままの40代の母親が、立ったまま深く頭を下げる。向かいの椅子に若い教師が腰を浮かせる。白い蛍光灯。

りんと大和の母(41)小坂 千秋

小坂 千秋:すみません
ほんとに

小坂 千秋:毎朝
行きなさいって
言ってたんです

須藤 創:いや
そんな

母親の顔の寄り。目尻のしわと、疲れた目の下のくま。両手で湯のみを包む。

小坂 千秋:フリースクール
って
逃げたことに
なりません?

須藤 創:え︙︙
逃げた?

〈同じ通知〉不登校児童生徒への支援は、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があること。

須藤 創:学校に戻る
だけが
ゴールじゃ
ないって

須藤 創:国の通知にも
あるんです

台所の奥の廊下。半分開いた部屋のドアの陰から、パーカーの女の子が顔を半分だけ出して、台所の話を聞いている。手前の左にドアの縁。窓の外は夜。

小坂 りん:見に
行く
だけなら

小坂 千秋:あ︙︙
りん

土曜︑午前10時︒
駅の裏の
フリースクール︒

下から見上げた、古い2階建ての家の玄関。木の看板(字は無い)と、靴箱に並ぶ色とりどりのスニーカー。玄関の前の石段で、パーカーの女の子(左)が足を止め、エプロンを外した母親(右)が後ろを振り返る。冬の白い晴れの光。

小坂 千秋:須藤先生まで
休みの日に
すみません

戸塚 恵:あら
いらっしゃい

玄関の上がりかまち。50代後半の女性が膝をつき、来客用のスリッパを並べながら、左の来た人を見上げて笑う。白髪まじりの短い髪、丸い眼鏡、エプロン、目尻の笑いじわ。

フリースクールの代表(58)戸塚 恵

戸塚 恵:見るだけで
いいのよ

戸塚 恵:ここは
来たい日に
来ればいいの

畳の大きな部屋を高い所から。ボードゲームを囲む小学生2人、窓辺で本を読む中学生、床に寝そべって絵を描く子。入口で、パーカーの女の子が一歩だけ中に入る。女の子の口元の寄り。前髪の下で、口の端が少しだけ上がる。

小坂 千秋:あ︙︙
笑った

低い机をはさんで、母親(左)とフリースクールの代表(右)が向き合う。代表が字の無い紙を母親の方へ差し出す。奥で子どもたちが机に向かう。窓の白い光。

戸塚 恵:出席扱いは
学校の
校長先生が
決めるの

須藤 創:学校から
校長に
話します

戸塚 恵:それと
これね

〈入会のご案内〉入会金:50,000円会費:月35,000円(週5日まで)昼ごはん・行事の費用は、別

会費(かいひ)の解説

現実の事実フリースクールの会費(授業料(じゅぎょうりょう))は施設ごとに違います。文部科学省の調査(平成27年3月時点)では、会費を取る施設の月の平均は約3万3千円、入会金を取る施設の平均は約5万3千円でした(どちらも取らない施設は除いた平均)。会費の減免の制度がある施設は4割ほどでした。

作中の金額は?
作中の「入会金 50,000円・月35,000円」は作中の施設の物です。

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母親の手の大写し。案内の紙の端を握り、紙にしわが寄る。爪の短い、働く手。
女の子の顔の寄り。前髪の隙間の目が、母親の手元へ落ちる。眉を寄せ、下唇をかむ。頬に汗が一滴。
帰り道のバス停を引いて。ベンチに座る母親(中央)、少し離れて立つパーカーの女の子(左)、さらに後ろで立ち止まる若い教師の小さな背中(右)。冬の白い曇り空。

小坂 千秋:考える
ね

第3話「4時の部屋」

つづく

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あなた帰りのバス停の後、母の千秋がひとりで会費の紙を見直す夜を書きたい

AI千秋が電卓を出して、レジの時給で月35,000円を何時間と数え、最後に紙を折らずに冷蔵庫に貼る、とすると、迷いながらも捨てていない事が言葉なしで見えます。りんが廊下からそれを見る1コマを足せます。

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この話で分かること

フリースクール(ふりーすくーる)とは?

学校に行きにくい子どもが通う、民間の団体・施設です。学習・相談・体験の活動など、中身も日数(にっすう)も施設ごとに違います。

条件・例外

公的な学びの場には、教育委員会が開く教育支援センターや、特別の教育課程の学びの多様化(たようか)学校(いわゆる不登校(ふとうこう)特例校)もあります。

フリースクール(ふりーすくーる)に通うと、出席扱い(しゅっせきあつかい)になる?

文部科学省の通知では、保護者と学校の連携があり、施設の相談・指導が子どもの自立を目指すもので、施設に通って受けるなどの要件を満たせば、校長が指導要録(しどうようろく)上の出席扱いにできます。

条件・例外

民間の施設が合うかは、校長が教育委員会と相談して決めます。必ず出席扱いになるわけではありません。

フリースクール(ふりーすくーる)の費用は、どのくらい?

施設ごとに違います。文部科学省の調査(平成27年3月時点)では、会費を取る施設の月の平均は約3万3千円、入会金を取る施設の平均は約5万3千円でした。

条件・例外

10年ほど前の調査の平均の目安です。減免の制度がある施設もあります。

物語との違い

作中の施設の金額は作中の物です。

学校に戻ることだけが目標?

文部科学省の通知は、不登校(ふとうこう)の子への支援は「学校に登校する」という結果のみを目標にせず、子どもが自分の進路を考えて社会的に自立することを目指す、としています。

この話の用語

指導・助言漫画の中で見る
現実の事実いじめが確かめられたら、学校は何人もの先生で、専門家の力も借りながら、された子と保護者を支え、した子に指導し、した子の保護者に助言することを、続けて行います(いじめ防止対策推進法 第23条第3項)。必要な時は、した子を別の教室で学ばせるなど、された子が安心して学べるようにします(同 第4項)。
フリースクール(ふりーすくーる)漫画の中で見る
現実の事実学校に行きにくい子どもが通う、民間の団体・施設の呼び名です。学習・相談・体験の活動など、中身も日数(にっすう)も施設ごとに違います。文部科学省の令和元年の通知は、学校や教育委員会がフリースクールなどと積極的に連携することの意義は大きい、としています。
学びの多様化学校(まなびのたようかがっこう)
現実の事実不登校(ふとうこう)の子に合わせて、授業の時間を減らすなど、特別の教育課程で学べる学校です。前は「不登校特例校」と呼ばれていて、2023年8月31日に文部科学大臣が今の名前に決めました(当面は「学びの多様化(たようか)学校(いわゆる不登校特例校)」と並べて書きます)。
指導要録(しどうようろく)漫画の中で見る
現実の事実子ども一人ひとりの学習と健康の状況(出欠も入る)を記録する、学校の正式な書類です。校長が作る事が学校教育法施行規則で決められていて、進学する時は、その抄本か写しが進学先の学校へ送られます(第24条)。フリースクールなどで出席扱いにした日は、出席の日数(にっすう)の中に入れ、通った施設の名前も書きます。
出席扱い(しゅっせきあつかい)漫画の中で見る
現実の事実学校の外の施設(教育支援センター・フリースクールなど)で相談・指導を受けた日を、要件を満たせば、校長が出席として扱える仕組みです。要件は、保護者と学校の連携があること、施設の相談・指導が子どもの自立を目指すものであること、施設に通って受けること、などです。民間の施設が合うかは、校長が教育委員会と相談して決めます。
会費(かいひ)漫画の中で見る
現実の事実フリースクールの会費(授業料(じゅぎょうりょう))は施設ごとに違います。文部科学省の調査(平成27年3月時点)では、会費を取る施設の月の平均は約3万3千円、入会金を取る施設の平均は約5万3千円でした(どちらも取らない施設は除いた平均)。会費の減免の制度がある施設は4割ほどでした。

出典

更新日:

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この話のあらすじ

夜の教室で、波多野 蒼太は「消してた、だけっす」と言い、書いたのかと聞かれると「妹、迎え行かないと」と出ていく。須藤は追いかけずに石黒に電話し、翌日2人で話を聞くことにする。翌日の午後4時、りんは書いたのが後ろの席の波多野だと知っていて、教室には行けないと言う。須藤は「絶対」と言いかけてのみこみ、どこなら行けそうかを聞く。教育支援センター、フリースクール、学びの多様化(たようか)学校。フリースクールに行っても欠席だと言うりんに、須藤は、要件を満たせば校長が指導要録(しどうようろく)上の出席扱いにできるという文部科学省の通知を見せる。要件の1つは保護者と学校の連携。夜8時半、須藤は初めて母の千秋と話す。「逃げたことになりません?」に、須藤は登校だけを目標にしないという通知の言葉で答え、廊下で聞いていたりんが「見に行くだけなら」と言う。土曜、フリースクールで、りんは少しだけ笑う。帰り際、代表の戸塚が渡した入会の案内には、入会金5万円・月の会費3万5千円とあった。母の手が紙を握る。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

欠席が30日になると何が変わるのか、学校の外にどんな学びの場があるのか、いじめの時に学校がどう動くのかを、担任と家族の両方の迷いと一緒に追えます。

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