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第2話「出ないで」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

暗いアパートの玄関。手前で、スマホを耳に当てた青年が背中を見せて振り返る。左奥の壁のインターホンの画面だけが白く光り、フードをかぶった男の影が映る(顔は見えない)。

その夜。

大学2年瀬名 陸斗

インターホンの画面の寄り。白い光の中に、フードの男の肩と影。顔は暗くて見えない。

ピンポーン

三谷 千鶴(電話の声):ドアから
離れて

三谷 千鶴(電話の声):奥の部屋へ
ゆっくりね

低い所から見た暗い廊下。青年が床に手をつき、スマホを耳に当てたまま奥の部屋へ下がる。後ろの玄関で、インターホンの白い光が背中を縁取る。

瀬名 陸斗:︙︙奥
来ました

三谷 千鶴(電話の声):えらい

三谷 千鶴(電話の声):そのまま
私と
話してて

メッセージ相手:いるの、分かってる相手:開けろ

瀬名 陸斗:なんで
家︙︙

送った免許証には︑
住所が︑
書いてあった︒

瀬名 陸斗:三谷さん
警察の人
っすよね

瀬名 陸斗:今すぐ
来て
もらえ
ないんすか

夜の相談室。ヘッドセットの眼鏡の女性が、眉を寄せて身を乗り出し、メモの上でペンを止める。天井の蛍光灯の白い光が机を照らし、窓の外は暗い。

三谷 千鶴(電話の声):それがね︙︙

三谷 千鶴(電話の声):私は
相談員なの

警察安全相談員(けいさつあんぜんそうだんいん)の解説

現実の事実都道府県の警察が、警察本部や警察署に置いている相談の担当の職員です。来た人や電話の相談を受けて、助言をしたり、関係する所との連絡をつけたりします。今すぐ警察官に来てほしい事件・事故は、相談ではなく110番です。

前は、何と呼ばれていた?
和歌山県警察・鳥取県警察の通達には、それまで「困りごと相談」と呼んでいた相談の仕事を「警察安全相談」と呼ぶことにした、と書かれています。相談員の置き方は、都道府県ごとの決まりで決めています。

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三谷 千鶴(電話の声):今すぐ
来てほしい
時は
110番

110番(ばん)の解説

現実の事実事件や事故で、今すぐ警察に来てほしい時にかける番号です。急ぎでない相談は #9110 にすると、本当に急ぐ人の110番がつながりやすくなります。110番は1948年(昭和23年)に東京・大阪などの大きな町で始まり、全国で「110番」にそろったのは1954年(昭和29年)です。

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三谷 千鶴(電話の声):一度
切るね

三谷 千鶴(電話の声):110番して
終わったら
私から
かけ直す

暗い部屋の隅。青年の横顔の寄り。頬に当てたスマホのマゼンタの光が顔を照らし、目を見開いて汗を浮かべる。

瀬名 陸斗:切ったら
俺︙︙

瀬名 陸斗:一人っす
よね

三谷 千鶴(電話の声):大丈夫
瀬名くんの
名前
覚えたから

暗い部屋の隅で、膝を抱えるようにしゃがんだ青年が、両手でスマホを持って画面を見下ろす。画面のマゼンタの光だけが顔を照らす。スマホの画面の寄り。光るボタンの形を、震える親指が押す(数字や字は描かない)。

ピッ

110番の警察官(電話の声):110番
警察です

110番の警察官(電話の声):何が
ありましたか

瀬名 陸斗:あの︙︙
ドアの外に
男が

瀬名 陸斗:俺
脅されて
て︙︙

脅迫(きょうはく)(脅迫罪(きょうはくざい))の解説

現実の事実命・体・自由・名誉・お金や物に害を加えると伝えて、人をおどす犯罪です。本人でなく、家族に害を加えると伝えておどした時も同じで、刑法第222条は2年以下の拘禁刑(こうきんけい)か30万円以下の罰金としています。「家族の番号もある」と言われて怖くなった時も、一人で抱えずに警察に話せます。

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110番の警察官(電話の声):場所を
住所で
言えますか

110番で伝えることの解説

現実の事実「何があったか」「いつ」「どこで」の順に伝えます。場所は住所を言うのがいちばん早く、相手の人数・特徴・逃げた向きも分かれば伝えます。かけ終わった後も警察から確かめの電話が来る事があるので、スマホの電源は入れたままにします。

スマホで110番する時に気をつける事は?
栃木県警察は、歩きながら話さない(声が聞こえにくく、切れる事がある)、車の運転中は車を止めてからかける、と呼びかけています。

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瀬名 陸斗:住所は
えっと︙︙

110番の警察官(電話の声):免許証は
手元に?
そこの住所を
読んで

瀬名 陸斗:︙︙読み
ます

110番の警察官(電話の声):すぐ
向かいます

110番の警察官(電話の声):スマホの
電源は
入れたままで

15分後︒

アパートの外の廊下。手前の左に、背中を見せた制服の警察官。懐中電灯の白い光が、絵の枠の左の線を越えて外へ出る。右で、開けたドアの所に立つ青年が、肩の力を抜く。

警察官:外の男は
もう
いなかった

警察官:けがは
ないね?

瀬名 陸斗:は
はい︙︙

警察官:今夜は
この辺りを
回るから

脚の力が︑
抜けた︒

真上に近い所から見た玄関。閉めたドアに背中をつけて床に座りこむ青年。横に置いたスマホが、着信のマゼンタの光で光る。

着信警察署の相談の窓口

瀬名 陸斗:ほんとに
かけて
きた︙︙

三谷 千鶴(電話の声):言ったよね
かけ直すって

三谷 千鶴(電話の声):話して
くれて
ありがとう

瀬名 陸斗:それ
口ぐせ
っすか

三谷 千鶴(電話の声):ふふ
ばれた?

三谷 千鶴(電話の声):明日
署に
来られる?

三谷 千鶴(電話の声):メッセージは
消える前に
撮っておいてね

瀬名 陸斗:あの︙︙

瀬名 陸斗:母さんには
言わなくて
いいっすよね

夜の相談室。ヘッドセットの眼鏡の女性が、外した眼鏡を片手に持ち、机の電話の前で言葉を選ぶように目を伏せる。白っぽい蛍光灯の光。

三谷 千鶴(電話の声):うーん︙︙

三谷 千鶴(電話の声):相手は
お母さんの
番号も
持ってる

三谷 千鶴(電話の声):先に
知ってる方が
家族も
守れるの

相談した人と家族の保護の解説

現実の事実警察庁は、闇バイトに応募してしまった人に「警察は相談を受けた「あなた」や「あなたの家族」を確実に保護します」と呼びかけています。相手が家族の連絡先を持っている時ほど、早く相談すると家族も守りやすくなります。相談はいつの段階でもでき、#9110 か近くの警察署へ。今危ない時は110番です。

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瀬名 陸斗:母さん
店を
閉めてから︙︙

父さんの店を
閉めた日から︑
母さんは︑毎晩︑
パートに出ている︒

瀬名 陸斗:これ以上
心配
かけたく
ない

翌朝︒

曇りの朝。アパートの小さな窓のカーテンを半分開けた青年が、灰色の光の中でスマホを握り、口を結んで画面を見下ろす。カーテンの端が、絵の枠の右の線を越えて外へ出る。

瀬名 陸斗:いける
いける

アパートの部屋で、窓を背にスマホを耳に当て、目をぎゅっと閉じる青年。遠くの町の家の台所。朝の支度の途中のエプロンの40代の女性が、スマホを耳に当てて目を丸くする。

瀬名 陸斗:母さん
朝から
ごめん

瀬名 朋美(電話の声):どうしたの
こんな
時間に

瀬名 陸斗:俺さ︙︙

瀬名 陸斗:やばい
バイトに
応募
しちゃって

瀬名 朋美(電話の声):︙︙学費の
ことでしょ

瀬名 陸斗:え

瀬名 朋美(電話の声):大学から
うちにも
手紙が
来てたの

陸斗の母瀬名 朋美

台所の女性の顔の寄り。目に涙をためながら、口もとは少しだけ笑う。片手をスマホに、片手を口もとに。曇りの朝のやわらかい光。

瀬名 朋美(電話の声):まったく
もう

瀬名 朋美(電話の声):そういうのは
先に
言いなさいよ

瀬名 朋美(電話の声):話して
くれて
よかった

瀬名 陸斗:︙︙うん

曇りの朝の部屋。窓辺の床に座った青年が、スマホを耳に当てたまま、片手で目もとを押さえて大きく息を吐く。窓の灰色の光が肩を縁取る。

自分から︑
人に頼ったのは︑
初めてだった︒

瀬名 陸斗:母さんにも
変な電話
来るかも

瀬名 朋美(電話の声):おばあちゃん
にも
電話
しとくね

瀬名 朋美(電話の声):あの人
知らない
電話にも
すぐ出るから

同じころ︒
隣の町の︑祖母の家︒

古い家の薄暗い廊下。壁の小さな棚の上のクリーム色の固定電話が鳴り、小さな画面だけがマゼンタに光る。手前から、オリーブ色の袖の手が受話器へ伸びる。

ジリリリ

受話器を耳に当てた80代の小柄な女性。短い白髪の巻き毛に丸い眼鏡。孫からの電話だと思い、顔をほころばせる。電話の小さな画面のマゼンタの光が手もとに当たる。

陸斗の祖母瀬名 フサ

電話の男(電話の声):もしもし
ばあちゃん?

電話の男(電話の声):俺
俺だけど

瀬名 フサ:あらまあ
陸斗?

第2話「出ないで」

つづく

お気に入りから外しますか?

その副業、犯罪です。

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あなた祖母のフサに「俺、俺だけど」と電話がかかった後を考えたい

AIフサが陸斗だと思って話を進めてしまう話と、母の朋美の電話が先に届いていて気づく話で、怖さの向きが変わります。陸斗が祖母に何と伝えておけばよかったかを、後で話す場面も置けます。

あなた気づく方で

AIフサ「陸斗? ……あんた、さっき朋美から電話があってね。合言葉、言ってごらん」

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この話で分かること

闇バイトで脅されて、家に来られたら?

今まさに危ない時は110番です。急ぎでない相談は #9110 か近くの警察署で、警察庁は、闇バイトに応募してしまった人とその家族を「確実に保護します」と呼びかけています。ドアを開けずに、家の奥など相手から離れた所で110番します。

条件・例外

#9110 は一部の IP 電話からかけられない事があります(栃木県警察)。

脅迫罪(きょうはくざい)とは?

命・体・自由・名誉・財産に害を加えると伝えて人をおどす犯罪で、刑法第222条は2年以下の拘禁刑(こうきんけい)か30万円以下の罰金としています。本人ではなく、家族に害を加えると伝えておどした時も同じです。

110番では、何を伝える?

「何があったか」「いつ」「どこで」の順に伝えます。場所は住所がいちばん早く、相手の人数・特徴・逃げた向きも分かれば伝えます。かけた後も確かめの電話が来る事があるので、電源は入れたままにします。

警察の相談員とは?

都道府県の警察が警察署などに置く、相談の担当の職員(警察安全相談員(けいさつあんぜんそうだんいん))です。来た人や電話の相談を受けて、助言や関係する所との連絡をします。今すぐ警察官に来てほしい時は110番です。

この話の用語

警察安全相談員(けいさつあんぜんそうだんいん)漫画の中で見る
現実の事実都道府県の警察が、警察本部や警察署に置いている相談の担当の職員です。来た人や電話の相談を受けて、助言をしたり、関係する所との連絡をつけたりします。今すぐ警察官に来てほしい事件・事故は、相談ではなく110番です。
110番(ばん)漫画の中で見る
現実の事実事件や事故で、今すぐ警察に来てほしい時にかける番号です。急ぎでない相談は #9110 にすると、本当に急ぐ人の110番がつながりやすくなります。110番は1948年(昭和23年)に東京・大阪などの大きな町で始まり、全国で「110番」にそろったのは1954年(昭和29年)です。
脅迫(きょうはく)(脅迫罪(きょうはくざい))漫画の中で見る
現実の事実命・体・自由・名誉・お金や物に害を加えると伝えて、人をおどす犯罪です。本人でなく、家族に害を加えると伝えておどした時も同じで、刑法第222条は2年以下の拘禁刑(こうきんけい)か30万円以下の罰金としています。「家族の番号もある」と言われて怖くなった時も、一人で抱えずに警察に話せます。
110番で伝えること漫画の中で見る
現実の事実「何があったか」「いつ」「どこで」の順に伝えます。場所は住所を言うのがいちばん早く、相手の人数・特徴・逃げた向きも分かれば伝えます。かけ終わった後も警察から確かめの電話が来る事があるので、スマホの電源は入れたままにします。
相談した人と家族の保護漫画の中で見る
現実の事実警察庁は、闇バイトに応募してしまった人に「警察は相談を受けた「あなた」や「あなたの家族」を確実に保護します」と呼びかけています。相手が家族の連絡先を持っている時ほど、早く相談すると家族も守りやすくなります。相談はいつの段階でもでき、#9110 か近くの警察署へ。今危ない時は110番です。

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この話のあらすじ

インターホンの画面に、フードの男が映る。電話の向こうの相談員・三谷 千鶴は、陸斗をドアから離して奥の部屋へ下がらせる。「いるの、分かってる」とメッセージが来て、陸斗は送った免許証(めんきょしょう)に住所があったことに気づく。三谷は自分が相談員だと話し、今すぐ来てほしい時は110番だと教えて、一度電話を切る。陸斗は110番に、脅されていることと住所を伝え、15分後に警察官が来た時、男はもういなかった。約束どおり三谷から電話がかかってくる。母には言わなくていいかと聞く陸斗に、三谷は「相手はお母さんの番号も持ってる。先に知ってる方が、家族も守れる」と話す。翌朝、陸斗は自分から母の朋美に電話し、応募したことを打ち明ける。母は大学からの手紙で学費のことに気づいていて、「話してくれて、よかった」と言い、祖母にも電話しておくと言う。同じころ、隣の町の祖母・フサの家の電話が鳴り、受話器から「俺、俺だけど」という声がする。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

「受け取るだけ」のような誘い文句のどこが危ないのか、送ってしまった後に何ができるのかを、誘われる側の焦りと一緒に追えます。

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