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第6話「月末の審査」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

雨の夜の馬小屋。ランタンの下、壁の地図の前に立つチカ。濡れた外套のガロ・ピム・御者たちが、彼女の背中を見ている。

月末まで、2日。夜、雨。

灰馬組 実車率 29%月末まで 2日今夜の空:雨(閉門まで止まない)

チカ:みんな
今夜で
30を
越えます!

ガロ:雨だぞ?
客は
勝手に来る

チカ:だからこそ
空で
走らせない

雨の夜の王都を高い所から見下ろす。劇場と大神殿の前に傘の人だかり。濡れた石畳にランタンの光が映る。

雨の日は︑閉門前に︑
劇場と大神殿から︑
東門へ人が動く︒

流しは︑大通り︒
付け待ちは︑宿の前︒
呼ばれたら︑早く着く車︒

同じ雨の夜の大通り。灰色の辻馬車が何台も、劇場の前・宿の前・城門の広場へ、別々の道で散っていく。

〈配車盤〉 九の鐘の前空車 2台 実車 9台 迎車 3台指名の呼び出し(侯爵家):ガロ相乗り(東門の外へ):4組 → 2台

馬小屋の帳場。ランタンの下で、呼び出しの札を2枚ずつ組み、紐で結ぶチカの手と横顔。

チカ:14と15
東門の外
組みます!

雨の大通り。御者台で手綱を握り、振り返って客に声をかけるガロ。帽子のつばから雨が落ちる。

ガロ:揺れるぞ
︙︙先に
言っとく

ガロ:行き先は
東門の外の
井戸の広場
だな?

雨の東門。閉門の直前、灰色の辻馬車が列になって門をくぐる。門番が松明を掲げる。

九の鐘︒

門は︑閉じた︒

第6話「月末の審査」

夜明けの馬小屋。帳場の机に突っ伏して眠るピム。その横で、帳面を開いたまま目を上げるチカ。

灰馬組 実車率(今月)29% → 31%

ピム:︙︙さんじゅう
いち?

チカ:届いた!

御者ギルドの石造りの広間。高い窓、長い机の向こうに白い髭の審査役の老人。左右に組頭たちが並び、真ん中にチカとベルタ。

月末︒
御者ギルドの︑審査︒

ギルドの審査役:灰馬組
乗合の札なく
客を
乗り合わせた

ギルドの審査役:訴えたのは
金獅子商会

広間の柱の陰から歩み出るヴィクトル。黒い外套の金の獅子、白い手袋。冷たい薄笑い。

ヴィクトル:決まりは
決まりだ

ヴィクトル:1台に
知らない客を
2組

ヴィクトル:乗合でなくて
何だ

暗い中で、まっすぐ前を見るチカの目の細い寄り。窓の光が瞳に入る。審査の広間の長い机に、厚い帳面を開いて置くチカ。審査役と組頭たちが身を乗り出す。

帳場の記録︒

灰馬組 相乗りの帳(今月)組んだ時刻:すべて、走り出す前乗った客:札の番号で、申し込んだ本人承知の印:乗る前に、双方走っている途中で乗せた客:0人

チカ:乗合馬車は
走りながら
知らない客を
拾います

チカ:でも
うちは
走る前に
乗る人が
決まってる
んです

チカ:途中で
乗った客は
一人も
いません!

前の世界でも︑
タクシーの相乗りは︑
途中で知らない
客を乗せない︒

だから︑
乗合には当たらない︒

相乗り(あいのり)と乗合(のりあい)の違い(許可)の解説

現実の事実タクシーの相乗りは、走り出す前に同乗を承知した客どうしが一緒に契約し、途中で不特定の客を乗せません。そのため国土交通省の通達(令和3年10月29日)は、乗合の運送には当たらず、タクシー会社は道路運送法の乗合の許可を受けずに行えるとしています。

乗合バスは何が違う?
乗合バス(一般乗合旅客自動車運送事業(いっぱんのりあいりょかくじどうしゃうんそうじぎょう))は、走っている途中で不特定の客が乗れます。道路運送法では、事業の種類ごとに国土交通大臣の許可が要ります。

出典

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広間の後ろの扉から入ってくる、赤い短髪の女の石工アダ。作業着のまま、腰に槌。

アダ:あたしは
その馬車に
乗ったよ

アダ:知らない客は
途中で一人も
乗らなかったよ

アダ:降りる所も
先に
聞かれたしね

ギルドの審査役:ふむ
実車率は?

長い机の向こうで、帳面をめくり、白い髭をなでる審査役の老人。

ベルタ:31%

ベルタ:︙︙今月の
数字です

御者ギルド 審査の結果一、灰馬組の相乗りは、乗合に当たらない二、灰馬組の営業札は、残す三、相乗りの帳は、毎月ギルドに出すこと

営業札(えいぎょうふだ)の解説

作中の世界の決まり「実車率(じっしゃりつ)が三割に満たない組は、月末に営業札を返す」は、物語の中の御者(ぎょしゃ)ギルドの決まりです。現実の許可に、実車率の決まりはありません。

現実の事実この世界の営業札は、御者ギルドが辻馬車(つじばしゃ)の組に出す、客を乗せて稼ぐための許しです。現実のタクシー会社が受ける、道路運送法の一般乗用旅客自動車運送事業(いっぱんじょうようりょかくじどうしゃうんそうじぎょう)の許可(国土交通大臣)に当たります。

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広間の外の石段。抱き合って跳ねるピムと、ベルタの肩を叩くガロ。チカは少し離れて、空を見上げて息を吐く。

ガロ:︙︙へっ
30を
越えやがった

チカ:ううん
みんなで
越えたんです

空車の王都の︑
最初の月が︑
終わった︒

その夜︒
雨は︑上がっていた︒

夜の馬小屋の戸口。ランタンの光の中に、ヴィクトルが一人で立つ。手には灰馬組の帳面の写し。

ヴィクトル:この帳を
作ったのは
お前か

チカ:︙︙はい

ランタンの光の下、作業台に金貨の袋と巻いた書付けを置くヴィクトルの白い手袋。

ヴィクトル:灰馬組を
組ごと
買いたい

暗がりで、まっすぐヴィクトルを見返すチカの顔の寄り。ランタンの琥珀の光が半分だけ当たる。

第6話「月末の審査」

つづく

次の話 11月1日(日)更新

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AIチカが「帳面は売れても、乗った人の札は売れない」と断る線が考えられます。ベルタが黙って煙管をくわえ、チカに任せる場面にもできます。

あなたガロの一言がほしい

AIガロ「金獅子の馬車は、揺れる」。絵:戸口の外の雨上がりの石畳を見下ろすガロの横顔。

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この話で分かること

タクシーの相乗り(あいのり)と、乗合(のりあい)バスの違いは?

乗合バスは、走っている途中で不特定の客が乗れます。タクシーの相乗りは、走り出す前に同乗を承知した客どうしが一緒に契約し、途中で不特定の客を乗せません。そのため国土交通省の通達(令和3年10月29日)は、相乗りは乗合の運送に当たらず、タクシー会社は道路運送法の乗合の許可を受けずに行えるとしています。

物語との違い

作中の「乗合馬車(のりあいばしゃ)の営業札(えいぎょうふだ)」「御者(ぎょしゃ)ギルドの審査」は、物語の中の決まりです。

タクシーの相乗り(あいのり)で、運転手がその場で客を組んでもいい?

通達では、運転者が自分でタクシー乗り場などで相乗りの契約に関わる事は認められていません。乗り場の秩序が保てず、公正な条件で契約できなくなるおそれがあるためです。乗る時には、運転者が申し込んだ本人かを確かめます。

物語との違い

作中の灰馬組も、組むのは帳場で、御者(ぎょしゃ)は乗り場で客を組まず、乗る時に札の番号で本人を確かめます。

実車率(じっしゃりつ)とは? どう計算する?

客を乗せて走った距離(実車(じっしゃ)キロ)を、走った距離の全部(走行キロ)で割って100を掛けた割合です。空で走る距離が減るほど高くなります。

物語との違い

作中の「29%から31%」「三割に満たない組は営業札(えいぎょうふだ)を返す」は、物語の中の数字と決まりです。

この話の用語

相乗り(あいのり)と乗合(のりあい)の違い(許可)漫画の中で見る
現実の事実タクシーの相乗りは、走り出す前に同乗を承知した客どうしが一緒に契約し、途中で不特定の客を乗せません。そのため国土交通省の通達(令和3年10月29日)は、乗合の運送には当たらず、タクシー会社は道路運送法の乗合の許可を受けずに行えるとしています。
営業札(えいぎょうふだ)漫画の中で見る
作中の世界の決まり「実車率(じっしゃりつ)が三割に満たない組は、月末に営業札を返す」は、物語の中の御者(ぎょしゃ)ギルドの決まりです。現実の許可に、実車率の決まりはありません。
現実の事実この世界の営業札は、御者ギルドが辻馬車(つじばしゃ)の組に出す、客を乗せて稼ぐための許しです。現実のタクシー会社が受ける、道路運送法の一般乗用旅客自動車運送事業(いっぱんじょうようりょかくじどうしゃうんそうじぎょう)の許可(国土交通大臣)に当たります。

出典

更新日:

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この話のあらすじ

月末まで2日、灰馬組の実車率(じっしゃりつ)は29%。雨の夜、チカは今まで覚えた事を全部使う。雨の日は閉門(へいもん)前に劇場と大神殿から東門へ人が動く(第1話)、流しは大通りで付け待ちは宿の前(第2話)、呼ばれたらいちばん早く着く車(第3・4話)、侯爵家の指名にはガロ(第4話)、東門の外へ帰る客は走る前に組んで相乗り(あいのり)(第5話)。夜明け、実車率は31%に届く。月末の御者(ぎょしゃ)ギルドの審査で、ヴィクトルは「1台に知らない客を2組、乗合(のりあい)でなくて何だ」と責める。チカは帳場の記録を開く。組んだのはすべて走り出す前、乗ったのは札の番号で確かめた本人、乗る前に双方が承知し、途中で乗せた客は0人。乗合馬車(のりあいばしゃ)は走りながら知らない客を拾い、灰馬組は走る前に乗る人が決まっている。前の世界でも、タクシーの相乗りは途中で不特定の客を乗せないので、乗合には当たらなかった。石工のアダも「途中で知らない客は一人も乗らなかった」と証言する。審査役は、相乗りは乗合に当たらない、営業札(えいぎょうふだ)は残す、相乗りの帳を毎月ギルドに出すこと、と決める。その夜、ヴィクトルが一人で馬小屋に来て、帳面(ちょうめん)の写しを手に言う。「灰馬組を、組ごと買いたい」。

作者

空車ノート

タクシーの配車や宅配、事故の後の示談のように、街で人と荷物と車が動く仕事の現場を描いています。

この作品について

需要を読んで車を回す配車の考え方を、馬車が走る王都の街角で一つずつ試していけます。勘でなく記録で客の流れを読む面白さが味わえます。

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