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第3話「会社に、言いますか」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

病院の待合室。左で、長椅子に座ったままの七瀬が見上げる。右で、立ち上がった中年の女の人が、バッグを両手で前に持ち、身をかがめて七瀬に会釈している。

課長・大槻の妻大槻 昌枝

大槻 昌枝:大槻の
家内です

戸田 七瀬:あっ

戸田 七瀬:課長の︙︙

大槻 昌枝:主人から
名前を
よく聞くの

戸田 七瀬:怒られてる
話だ

大槻 昌枝:『印刷所が
助かった』
って

戸田 七瀬:えっ

昌枝の顔の寄り。目を伏せて、少しだけ笑っている。

大槻 昌枝:今日は
息子の
ことで

大槻 昌枝:主人には
内緒に
してくれる?

戸田 七瀬:︙︙はい

病院の受付(機械の声):戸田さん
どうぞ

低い所から。メモ帳と封筒を抱えて診察室の方へ歩き出す七瀬。後ろの長椅子の前で、昌枝が見送っている。

第3話「会社に、言いますか」

40分後︒

昼前の白い光の、病院の外の歩道を引いて。メモ帳を胸に当てた七瀬が、立ち止まって長く息をつく。

営業部・営業事務(1年目)戸田 七瀬

メモ帳を見せて︑
困った場面を
1つずつ話した︒

名前の付く答えは︑
まだ無い︒
続きは3週間後︒

〈試用期間の面談まで〉あと2日

戸田 七瀬:面談で
何て
言おう

13時︒

戸田 七瀬:沖さんは

沖の肩ごしに、隣の席の七瀬。指をあごに当て、不安な顔で沖を見て、小声で話しかけている。七瀬の手元に、開いた方眼のメモ帳とペン。

戸田 七瀬(ささやき):会社に
言いました?

沖 晴彦:︙︙

沖 晴彦:前の会社
では
言いません
でした

戸田 七瀬:今は?

沖の横顔の寄り。眼鏡の奥の目が、窓の外へそれる。

沖 晴彦:それは
また今度に
しましょう

沖 晴彦:代わりに
書きましょうか

真上から見た机。沖の手が、方眼のメモ帳のページを縦の線で2つに分け、左右に短い行を書いていく(字は読めない線)。横で七瀬の手がメモ帳を押さえている。

〈沖のメモ帳 会社に言う(オープン)・言わない〉言う:工夫や通院の配慮を頼みやすい言う:どう受け止められるかが気になる言わない:知られずに働ける言わない:工夫を1人で抱えて、無理しやすい

オープン就労(しゅうろう)の解説

現実の事実障害を職場に開示して働く事です。労働局の資料では、自分の特性に合わせて職場の環境を調整してもらいやすく、通院や服薬への配慮(はいりょ)が得られる一方、周りにどう受け止められるかが気にかかる、と整理しています。

出典

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沖 晴彦:言わない方は
クローズ
ですね

クローズ就労(しゅうろう)の解説

現実の事実障害を職場に開示せずに働く事です。労働局の資料では、応募できる求人が多い一方、自分で工夫しながら働くため我慢や無理をしやすく、通院を仕事の時間の外で調整する必要がある、と整理しています。

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七瀬の顔の寄り。メモ帳の表から顔を上げ、不安で下くちびるをかんでいる。

戸田 七瀬:言ったら
クビ︙︙
ですか

沖 晴彦:うーん

沖 晴彦:試用期間でも
決まりは
ありますね

〈沖のメモ帳 試用期間でも〉14日を超えて働いた人を辞めさせる時は、30日前の予告か、30日分以上の平均賃金(労働基準法)はっきりした理由の無い解雇は、無効(労働契約法)

解雇の予告(試用期間(しようきかん))の解説

現実の事実会社が人を辞めさせる時は、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(へいきんちんぎん)を払う決まりです(労働基準法(ろうどうきじゅんほう) 第20条)。試用期間中の人は、雇われて14日までは予告が要りませんが、14日を超えたら同じ決まりになります(第21条)。

予告すれば、どんな理由でも辞めさせられる?
いいえ。労働契約法 第16条で、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効とされています。

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沖 晴彦:会社の
産業医に
聞く手も
ありますね

産業医(さんぎょうい)の解説

現実の事実会社が選任して、働く人の健康管理などを行う医師です。常時50人以上が働く事業場には、産業医を選ぶ義務があります(労働安全衛生法 第13条・施行令 第5条)。体調や働き方の困りごとを、職場の中で相談できる相手の一人です。

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戸田 七瀬:病院で
話した事
会社に
伝わります?

沖 晴彦:お医者さん
には
守秘義務が
ありますね

守秘義務(しゅひぎむ)(医師(いし))の解説

現実の事実仕事の上で知った人の秘密を、正当な理由なく漏らしてはいけない決まりです。医師が漏らすと、刑法 第134条で6月以下の拘禁刑(こうきんけい)か10万円以下の罰金になります。医師が、正当な理由なく、診察で聞いた事を本人の会社に伝える事は、この決まりに反します。

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戸田 七瀬:よかった︙︙

同じ課の島。右の沖がペンを持ったまま、七瀬の方へ顔を向ける。左で七瀬がメモ帳を胸に抱えている。

戸田 七瀬:でも
名前の付く
答えも
無いのに

沖 晴彦:名前は
無くても

沖 晴彦:困る場面と
助かる工夫は
言えますね

戸田 七瀬:あ︙︙

沖 晴彦:手順で
話す

火曜の夜︒

真上から見たローテーブル。七瀬がメモ帳の1行にペンで線を引いて消し、その下に新しい行を書いている(字は読めない線)。

〈七瀬のメモ帳 面談で話す事〉× 私は、だめです1. 口で頼まれると、書く前に忘れる事がある2. 書く所を1冊にしてから、締め切りの遅れは0件(7日間)3. 頼む時に期限を1つ言ってもらえると、助かる

戸田 七瀬:だめ
じゃなくて
手順で

水曜︑面談の日︒

大槻 光男:戸田!

低い所から見上げた課長。刷り上がりの見本の紙を手に、大股で七瀬の席へ歩いてくる。

営業部の課長大槻 光男

大槻 光男:チラシの
校了
どうなった

校了(こうりょう)の解説

現実の事実校正がすっかり終わり、そのまま印刷してよい状態になる事です。校了の後に直しが出ると、刷り直しになる事があります。印刷会社では、校了の日から刷る日・届ける日を組みます。

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自分の席で振り向いた七瀬。手元の方眼のメモ帳の1行に、線が引いてある。落ち着いた目で課長を見上げる。

戸田 七瀬:9時に
責了で
戻しました

責了(せきりょう)(責任校了(せきにんこうりょう))の解説

現実の事実「責任校了」の略です。残った小さな直しを、印刷する側が責任を持って直す約束で、校正を終える事です。もう一度校正刷りを出して確かめる時間が無い時に使います。

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大槻 光男:︙︙そうか

呼ばれた時に︑
もう返せる事が
あった︒

15時︒

小さな会議室を高い所から。長机をはさんで、左に目を伏せて手を組む七瀬、右に腕を組んだ課長。机の上に、開いた方眼のメモ帳と面談の紙。机の下で、七瀬の両手がひざの上のメモ帳を強く握っている。

大槻 光男:試用期間の
面談だ

大槻 光男:で
どうなんだ

戸田 七瀬:言う?
言わない?

戸田 七瀬:先に
数を言っても
いいですか

大槻 光男:数?

〈七瀬のメモ帳 課長の「戸田!」〉先週 11回今週(月・火) 1回今日(水) 1回(校了の確認、返せた)

大槻 光男:︙︙数えてた
のか

戸田 七瀬:全部
書いてます

大槻 光男:ふん
減ったな

戸田 七瀬:書く所を
1冊に
したので

少し下から見た七瀬。背筋を伸ばし、開いたメモ帳を手に、課長をまっすぐ見て話している。
同じ時の課長。腕を組んだまま、目だけを見開き、顔に驚きの縦線。

戸田 七瀬:口で
頼まれると

戸田 七瀬:書く前に
忘れる事が
あります

戸田 七瀬:その場で
書くまで

戸田 七瀬:少しだけ
待って
ください

大槻 光男:︙︙

戸田 七瀬:それと
期限を
1つだけ
言ってください

病院の事は︑
まだ言わなかった︒
困る場面と︑
助かる工夫だけを︒

戸田 七瀬:奥さんとの
約束は
言わない

課長の顔の寄り。口を固く結んだまま、太い眉の下の目が、七瀬のメモ帳に落ちている。
七瀬の目の大写し。まばたきをせず、課長を見ている。
小さな会議室を引いて。長机をはさんで、右の課長が両ひじをつき、組んだ手を口元に当てて身を乗り出している。左の七瀬は、背筋を伸ばしてメモ帳を手に話している。

大槻 光男:で
俺は
何を変えれば
いい?

第3話「会社に、言いますか」

つづく

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あなた面談の後、課長が家に帰ってからの夜を考えたい

AI課長は夕飯の席で、昌枝に「部下に、何を変えればいいか聞いた」とだけ話し、昌枝は待合室の事を言わずに「それで?」と返す、とすると、2人がそれぞれ黙っている事のある夜にできます。

あなたその場面の台詞を

AI昌枝「あなたが聞くなんて、珍しいわね」大槻「……ふん」。

送る質問あらすじを踏まえて、次の話の展開を一緒に考えて

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この話で分かること

職場に、障害や困りごとを言う? 言わない?

障害を開示して働く事をオープン就労、開示せずに働く事をクローズ就労と呼びます。労働局の資料では、オープンは職場の環境を調整してもらいやすく通院の配慮(はいりょ)も得られる、クローズは応募できる求人が多いが工夫を1人で抱えて無理しやすい、と整理しています。

条件・例外

どちらが合うかは、人と職場によって違います。ハローワークの障害のある人向けの窓口などで一緒に考えてもらえます。

試用期間(しようきかん)中なら、すぐに辞めさせられる?

労働基準法(ろうどうきじゅんほう)では、試用期間中の人でも14日を超えて働いた後は、辞めさせる時に30日前の予告か、30日分以上の平均賃金(へいきんちんぎん)の支払いが要ります。労働契約法では、客観的に合理的な理由を欠く解雇は無効とされています。

条件・例外

本採用にしない理由が認められるかは、事情によって判断されます。困った時は労働局の総合労働相談コーナーなどに相談できます。

診断の名前が無くても、職場に困りごとを伝えられる?

作中の七瀬は、病名ではなく「口で頼まれると、書く前に忘れる事がある」「その場で書くまで少し待ってほしい」「期限を1つ言ってほしい」と、困る場面と助かる工夫を手順の言葉で伝えました。

物語との違い

作中の伝え方は一つの例です。作中の会社・人物・面談は創作です。

産業医(さんぎょうい)とは?

会社が選任し、働く人の健康管理などを行う医師です。常時50人以上が働く事業場には、産業医を選ぶ義務があります。体調や働き方の困りごとを相談できる相手の一人です。

この話の用語

オープン就労(しゅうろう)漫画の中で見る
現実の事実障害を職場に開示して働く事です。労働局の資料では、自分の特性に合わせて職場の環境を調整してもらいやすく、通院や服薬への配慮(はいりょ)が得られる一方、周りにどう受け止められるかが気にかかる、と整理しています。
クローズ就労(しゅうろう)漫画の中で見る
現実の事実障害を職場に開示せずに働く事です。労働局の資料では、応募できる求人が多い一方、自分で工夫しながら働くため我慢や無理をしやすく、通院を仕事の時間の外で調整する必要がある、と整理しています。
解雇の予告(試用期間(しようきかん))漫画の中で見る
現実の事実会社が人を辞めさせる時は、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(へいきんちんぎん)を払う決まりです(労働基準法(ろうどうきじゅんほう) 第20条)。試用期間中の人は、雇われて14日までは予告が要りませんが、14日を超えたら同じ決まりになります(第21条)。
産業医(さんぎょうい)漫画の中で見る
現実の事実会社が選任して、働く人の健康管理などを行う医師です。常時50人以上が働く事業場には、産業医を選ぶ義務があります(労働安全衛生法 第13条・施行令 第5条)。体調や働き方の困りごとを、職場の中で相談できる相手の一人です。
守秘義務(しゅひぎむ)(医師(いし))漫画の中で見る
現実の事実仕事の上で知った人の秘密を、正当な理由なく漏らしてはいけない決まりです。医師が漏らすと、刑法 第134条で6月以下の拘禁刑(こうきんけい)か10万円以下の罰金になります。医師が、正当な理由なく、診察で聞いた事を本人の会社に伝える事は、この決まりに反します。
校了(こうりょう)漫画の中で見る
現実の事実校正がすっかり終わり、そのまま印刷してよい状態になる事です。校了の後に直しが出ると、刷り直しになる事があります。印刷会社では、校了の日から刷る日・届ける日を組みます。
責了(せきりょう)(責任校了(せきにんこうりょう))漫画の中で見る
現実の事実「責任校了」の略です。残った小さな直しを、印刷する側が責任を持って直す約束で、校正を終える事です。もう一度校正刷りを出して確かめる時間が無い時に使います。

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更新日:

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この話のあらすじ

月曜の朝、病院の待合室。七瀬の名前を呼んだのは、課長・大槻の妻、昌枝だった。昌枝は息子の事で来ていて、「主人には内緒にしてくれる?」と頼む。診察では、メモ帳を見せて困った場面を話したが、名前の付く答えはまだ無く、続きは3週間後。面談まであと2日。午後、七瀬は沖に「会社に言いましたか」と聞く。沖は前の会社では言わなかったと答え、言う(オープン)と言わない(クローズ)の、良い所と怖い所を書き出す。試用期間(しようきかん)でも辞めさせるには決まりがある事、産業医(さんぎょうい)に相談する道、医師には守秘義務(しゅひぎむ)がある事。そして沖は、名前が無くても、困る場面と助かる工夫は言える、と言う。火曜の夜、七瀬は「私は、だめです」を線で消し、面談で話す3つを書く。水曜の朝、課長に呼ばれた校了の確認には、もう責了で返していた。15時、小さな会議室。七瀬は、ノートに数えていた課長の「戸田!」の回数から話し始め、口で頼まれると書く前に忘れる事、その場で書くまで少し待ってほしい事、期限を1つ言ってほしい事を、手順の言葉で伝える。長い沈黙の後、課長は身を乗り出して聞いた。「で、俺は何を変えればいい?」

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

同じミスが続く時に、手順を紙に書き出すような職場の工夫と、つらい時に頼れる先を、1年目の目線で拾っていけます。

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