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第3話「帳に無い物」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

朝の門の前。ミラの荷車の上に、真鍮の枠のランプがずらりと並び、中の青い石が冷たく光る。腕を組んだ頭が身を乗り出して、ランプをにらむ。

ミラの荷車。

帝国から来る隊商の娘(19)ミラ

ハルデン関の頭(58)グスタフ

グスタフ:石だろうが

グスタフ:宝石の類だ
1つ金貨2枚

ミラ:はあ?
灯りだよ!

ミラ:石だけで
売ってない!

グスタフ:嫌なら
番が決まるまで
待つんだな

真鍮のランプの寄り。ガラスの覆いの中で、青い石が台座にはめこまれて光り、上に吊るす輪、下に油の皿の無い台。ランプの光を受けて、リオが目を細める顔の寄り。

〈品目の札〉?(番が出ない)

リオ:品目帳に
無いんだ

ミラ(画面の外の声):帝国で
3年前に
出たばかり

ミラ(画面の外の声):火を使わない
灯り

魔石灯(ませきとう)の解説

作中の世界の決まり帝国で3年前に作られた、火を使わずに光る石のランプ。40年前に作られた品目帳(ひんもくちょう)には載っていません。

作中の世界の決まり現実でも、新しい物は品目表に名前が無い事があります。HS 品目表は改正され、2022年1月1日の改正(HS2022)では、無人航空機(ドローン)の項(第88.06項)が新しく作られました。

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〈ミラの荷〉魔石灯 3台の荷車に 120個次の市まで あと4日

ミラ:何日も
待ってたら
市に
遅れるでしょ!

帳場の机で、リオとエルマーが品目帳を開いてのぞきこむ。指で項の行をたどる。窓の冷たい光。

エルマー:第71類
宝石

エルマー:第94類
油の灯り

照明器具(しょうめいきぐ)(第94類)と宝石(第71類)の解説

現実の事実現実の関税率表(かんぜいりつひょう)では、照明器具は第94類(家具・寝具・照明器具など)に、真珠・貴石・半貴石とその製品は第71類に入ります。同じ石でも、灯りに組み込んだ物か、石そのものかで類が変わります。

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エルマー:どっちも
ぴったりじゃ
ないよ︙︙

リオ:どこにも
当たらない時は

リオ:一番
似た物の番

最も類似する物品(通則4)の解説

現実の事実通則1〜3で、どの項にも当てはめられない物は、一番似た物が属する項に分類します(通則4)。似ているかは、形・材料だけでなく、何をする物か(使い道・はたらき)も比べます。

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エルマー:えっと
似てるのは
石︙︙?

リオ:何を
する物か

リオ:で︑比べるの

リオ:石は
はめてあるだけ

リオ:吊るして
夜を照らす物

リオがランプの上の輪に指をかけて持ち上げる。青い光が下から、リオと頭の顔を照らす。

見習いの関守(17)リオ

リオ:油の灯りが
一番近いです

グスタフ:決めるのは
俺だと
言ったろうが

グスタフ:宝石だ

ミラ(画面の外の声):はあ?
じゃあ
いいよ

ミラが荷車の御者台に飛び乗り、手綱を強く引く。赤い頭巾がひるがえる。ミラの3台の荷車が、峠の道を帝国の側へ引き返していく。後ろ姿。門の前に立ちつくす頭。風で毛皮が揺れる。

ミラ(画面の外の声):港回りで
売るから

〈今日の税〉ミラの荷 金貨0枚(引き返した荷からは、税は取れない)

積戻し(つみもどし)(輸入しないで外国へ送る)の解説

作中の世界の決まり作中のミラは、峠の関で荷を通さずに引き返し、港回りで売ることにしました。

現実の事実外国から着いた荷を、輸入しないでそのまま外国へ送り出す事を積戻しといい、輸出と同じく税関に申告して許可を受けます(関税法 第75条)。関税は輸入する(国内に引き取る)物にかかるので(第2条・第3条)、積み戻した荷には輸入の関税がかかりません。

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リオ:取れる税が
︙︙ゼロ

エルマー(画面の外の声):通達に
落とすな
って︙︙

帳場︒

夜の帳場。ランタン1つ。机に向かっていたリオが、はっと顔を上げる。机の上に品目帳と白紙。

リオ:門で
決めるから
もめるんだ

リオ:荷が
着く前に
決めておけば

前の世界には︑
事前教示という
やり方がある︒

事前教示(じぜんきょうじ)(品目分類(ひんもくぶんるい))の解説

現実の事実輸入する前に、その物の関税率表(かんぜいりつひょう)の番号と関税率を税関に照会(しょうかい)し、回答を受けられる制度です。文書で照会すると回答書が出て、輸入申告(ゆにゅうしんこく)に添付すれば審査で尊重されます。回答書は3年間有効で、事前に税率が分かるので原価の計算が確かになり、通関も滑らかになります。

電話やメールで聞いた答えでも、同じに扱われる?
いいえ。口頭(電話・窓口)やメールの照会の答えは、輸入申告の審査で尊重される扱いになりません。確かにしたい時は、文書で照会します(メールから文書の扱いに切り替えられる場合もあります)。
回答に納得できない時は?
回答書を受け取った日の翌日から2か月以内なら、番号の再検討を求める意見を申し出られます。

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2日後︒

朝の門。引き返したはずのミラが、後ろに荷車を残して歩いて来て、腕を組んで頭をにらむ。手前の頭は目をそらす。

ミラ:港の関も
宝石だって

ミラ:遠回りして
損しただけ

リオ(画面の外の声):ミラさん

リオ(画面の外の声):次の荷は
何ですか

ミラ:は?
次も
魔石灯だけど?

リオが一枚の紙を両手で差し出す。紙には升目の欄と、焼き印を押す丸い空き(字は読めない)。

〈前もっての札〉荷の名・作り方・使い道を書いて、峠の手前で預ける番と税を、紙に書いて返す頭の焼き印を押した紙は、3か月、門で同じに扱う

リオ:荷が着く前に
番を決めます

リオ:決めるのは
頭です

グスタフ(画面の外の声):俺が?

グスタフ(画面の外の声):︙︙引き返した
荷からは
1枚も
取れねえ

頭の大きな手が、紙の丸い空きに焼き印を押しつける寄り。白い煙。

ジュッ

グスタフ:灯りだ

グスタフ:油の灯りと
同じ番

〈品目の札〉第94類・5番 灯り(魔石灯を含む)1つ 銀貨3枚

ミラ(画面の外の声):へえ︙︙

ミラが紙をつまんで、そっぽを向いたまま懐にしまう。口元だけ少し笑っている。

ミラ:先に
聞いた方が
早いんだ

ミラ:商いは
先に言った方が
勝ち

リオ(画面の外の声):決めた番は
壁に貼ろう

リオ(画面の外の声):次の人の
前例になる

分類の前例(事前教示回答(じぜんきょうじかいとう)の公開)の解説

現実の事実税関は、文書の事前教示(じぜんきょうじ)の照会(しょうかい)と回答の中身を、最長180日の非公開(ひこうかい)の期間の後、原則として公開しています。ホームページで品名や番号から探せるので、同じような物を輸入する人が、前の判断を見て番号の見当を付けられます。

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門が開き、ミラの3台の荷車が、止まらずに峠の向こうへ出ていく。御者台のミラが振り返らずに片手を上げる。

〈峠の待ち〉夕方今日通した荷車 49台待ち 2日(帳に無い荷でもめた分、縮まず)

〈月末まで〉25日

日暮れ︒
峠の下から︑
旗を立てた一行が来た︒

夕暮れの青い門。毛皮の襟の上等な外套の太った男が、指輪の手で手紙を差し出してにこやかに笑う。後ろの下の道を、同じ旗を立てた一行の荷車が上ってくる。旗の端が風で絵の枠の上の線を越えて外へはためく。

ベルク商会の番頭ブルーノ

ブルーノ:5日後

ブルーノ:商会の荷車を
100台
通しますので

ブルーノ:お待たせは
困りますなあ

関の取り立てを
請け負いたい商会が︑
来る︒

第3話「帳に無い物」

つづく

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その荷、峠を越えられません

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あなたブルーノの荷車100台が峠に着く朝を考えたい

AI旗を立てた荷車が九十九折りを埋め、ブルーノが「お待たせは困りますなあ」と笑う、とすると、100台を門で1台ずつ見るか、前もっての札のように先に決めておくかで、峠の列と税が揺れる話にできます。

あなたその朝の門の場面を

AIリオ「100台の中身を、先に紙に書いてもらえますか」。

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この話で分かること

事前教示(じぜんきょうじ)とは?

輸入する前に、その物の関税率表(かんぜいりつひょう)の番号と関税率を税関に照会(しょうかい)し、回答を受けられる制度です。文書で照会した回答書は3年間有効で、輸入申告(ゆにゅうしんこく)に添付すると審査で尊重されます。

条件・例外

照会の中身と実際の物が違う時、期限を過ぎた時、法令が変わった時などは尊重されません。電話・窓口・メールの答えも尊重される扱いになりません。

関税率表(かんぜいりつひょう)に無い新しい物は、どう分類する?

通則1〜3でどの項にも当てはめられない物は、一番似た物が属する項に分類します(通則4)。似ているかは、何をする物か(使い道・はたらき)も比べます。

HSコードは変わる事がある?

あります。HS 品目表は改正される事があり、2022年1月1日の改正(HS2022)で、無人航空機(ドローン)の第88.06項が新しく作られました。古い番号のまま申告していないか、改正の時に確かめます。

前の分類の判断は、見られる?

見られます。税関は文書の事前教示(じぜんきょうじ)の照会(しょうかい)と回答を、最長180日の非公開(ひこうかい)の期間の後、原則として公開していて、品名や番号から探せます。

この話の用語

魔石灯(ませきとう)漫画の中で見る
作中の世界の決まり帝国で3年前に作られた、火を使わずに光る石のランプ。40年前に作られた品目帳(ひんもくちょう)には載っていません。
作中の世界の決まり現実でも、新しい物は品目表に名前が無い事があります。HS 品目表は改正され、2022年1月1日の改正(HS2022)では、無人航空機(ドローン)の項(第88.06項)が新しく作られました。
照明器具(しょうめいきぐ)(第94類)と宝石(第71類)漫画の中で見る
現実の事実現実の関税率表(かんぜいりつひょう)では、照明器具は第94類(家具・寝具・照明器具など)に、真珠・貴石・半貴石とその製品は第71類に入ります。同じ石でも、灯りに組み込んだ物か、石そのものかで類が変わります。
最も類似する物品(通則4)漫画の中で見る
現実の事実通則1〜3で、どの項にも当てはめられない物は、一番似た物が属する項に分類します(通則4)。似ているかは、形・材料だけでなく、何をする物か(使い道・はたらき)も比べます。
積戻し(つみもどし)(輸入しないで外国へ送る)漫画の中で見る
作中の世界の決まり作中のミラは、峠の関で荷を通さずに引き返し、港回りで売ることにしました。
現実の事実外国から着いた荷を、輸入しないでそのまま外国へ送り出す事を積戻しといい、輸出と同じく税関に申告して許可を受けます(関税法 第75条)。関税は輸入する(国内に引き取る)物にかかるので(第2条・第3条)、積み戻した荷には輸入の関税がかかりません。
事前教示(じぜんきょうじ)(品目分類(ひんもくぶんるい))漫画の中で見る
現実の事実輸入する前に、その物の関税率表(かんぜいりつひょう)の番号と関税率を税関に照会(しょうかい)し、回答を受けられる制度です。文書で照会すると回答書が出て、輸入申告(ゆにゅうしんこく)に添付すれば審査で尊重されます。回答書は3年間有効で、事前に税率が分かるので原価の計算が確かになり、通関も滑らかになります。
分類の前例(事前教示回答(じぜんきょうじかいとう)の公開)漫画の中で見る
現実の事実税関は、文書の事前教示(じぜんきょうじ)の照会(しょうかい)と回答の中身を、最長180日の非公開(ひこうかい)の期間の後、原則として公開しています。ホームページで品名や番号から探せるので、同じような物を輸入する人が、前の判断を見て番号の見当を付けられます。

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この話のあらすじ

ミラが運んできたのは、帝国で3年前に出たばかりの、火を使わずに光る石のランプ(魔石灯(ませきとう))。40年前の品目帳(ひんもくちょう)には無く、リオの札にも番が出ない。頭のグスタフは石だから宝石の類だと言い、ミラは灯りだと言い張る。どの番にも当たらない物は、一番似た物の番へ。リオは、似ているかは何をする物かで比べると言い、吊るして夜を照らす物なら油の灯りが一番近いと示すが、頭は「決めるのは俺だ」と宝石に決める。ミラは3台の荷車ごと引き返し、その日の取れる税はゼロになった。夜、リオは門で決めるからもめると気づき、荷が着く前に番と税を決める〈前もっての札〉を考える。2日後、港回りでも宝石と言われて戻ってきたミラに、リオは紙を差し出す。決めるのは頭。グスタフは焼き印を押し、灯りだと決めた。ミラは先に聞いた方が早いと笑う。だが日暮れ、旗を立てた一行とともに、ベルク商会の番頭ブルーノが、5日後に荷車100台を通すと知らせに来る。

作者

空車ノート

タクシーの配車や宅配、事故の後の示談、空港の欠航のカウンターのように、人と荷物と乗り物が動く仕事の現場を描いています。

この作品について

峠を越える荷が、何に当たるかで税が決まる。その分け方ひとつで、三日の列が動き出す面白さを味わえます。

空車ノートのほかの作品

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