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第2話「70歳まで、待てますか」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空です。年金などの制度は公の資料の範囲で描いています。家ごとの判断は、年金事務所や専門家(社会保険労務士・FP・税理士・弁護士)へ。

同じ日曜の午後の居間。ちゃぶ台いっぱいに計算の紙が散らばる。左で父が両手で電卓をたたき、右で母が家計簿を閉じて腕を組む。真ん中で娘が頭を抱える。少し上から。

パチパチ

同じ日曜の、午後。

三枝 ほのか:毎月8万
足りないのに
5年も
0円で
待つの?

三枝 昭一:貯金が
あるだろ

三枝 節子:あるわよ

〈三枝家の貯金〉1,500万円(父の退職金を含む)

三枝 昭一:ほら
5年くらい
なんとかなる

三枝 ほのか:ちょ
待って
毎月
いくら
減るの?

娘の手元の寄り。スマホの電卓に親指で数を打つ(画面は光と形だけ)。ちゃぶ台の上に母の家計簿が開いている。

〈70歳まで、全部待つと(三枝家の値)〉65〜70歳:年金 0円毎月の足りない分:22万円(母の年金が出る3年後からは16万円)5年で、貯金から 約1,180万円70歳の時の貯金:約320万円

娘の顔の寄り。丸い眼鏡の奥で目を見開き、顔に驚きの縦線。口が「え」の形で止まる。

調味料の会社の営業事務(35)三枝 ほのか

三枝 ほのか:320万!?

父が、年金請求書と一緒に届いた薄い案内の冊子を、得意げな顔で頭の上へ高く掲げる。冊子の上の縁が絵の枠の線を越えて上へはみ出す。下から見上げる角度。

三枝 昭一:でも
待てば
42%
増えるんだぞ

受け取りを遅らせる
「繰下げ」︒

繰下げ受給(くりさげじゅきゅう)の解説

現実の事実老齢年金(ろうれいねんきん)を65歳で受け取らずに、66歳から75歳までの間に遅らせて受け取り、その分を増やす仕組みです。1か月遅らせるごとに0.7%増え(75歳で最大84%)、増えた率は一生変わりません。老齢基礎年金(ろうれいきそねんきん)と老齢厚生年金(ろうれいこうせいねんきん)は、別々に繰り下げられます。

待っている途中で、やっぱり受け取りたくなったら?
66歳以後なら、その時に請求すれば、それまでの月数の分だけ増えた年金を受け取れます。増やさずに、65歳からの分をさかのぼって受け取ることもできます(70歳を過ぎてからさかのぼる時は、請求の5年前に繰り下げたとみなす決まりがあります)。
昭和27年4月1日以前に生まれた人は?
繰り下げられるのは70歳まで(最大42%)です。

出典

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〈繰下げの増え方(日本年金機構)〉1か月待つごとに 0.7%増える(一生そのまま)70歳まで待つと 42%増える父の年金 月14万円 → 70歳から 約19万9,000円

父の顔の寄り。口をへの字に結び、頬が少し赤くなる。
母の顔の寄り。家計簿を胸に抱え、静かに父を見返す。

三枝 節子:その42%の前に
1,180万円減るのよ

三枝 昭一:ぐ︙︙

三枝 ほのか:ねえ
待った分
何歳で
追いつくの?

〈全部70歳まで待った時、65歳から受け取った合計に追いつくのは〉約82歳(三枝家の額で計算。税・保険料を引く前)

父が腕を組んで胸を張り、鼻をふくらませて笑う。後ろで母があきれて目を細める。下から見上げる角度。

三枝 昭一:82まで
生きりゃ
得だろ

三枝 節子:生きる
つもり
なのね

三枝 昭一:当たり前だ

三枝 節子:私のは
早く
もらえないの?

母が家計簿から顔を上げ、少し期待した顔で自分の胸を指さす。手首に輪ゴム。横から。

三枝 ほのか:繰上げって
いうのが
あるけど

繰上げ受給(くりあげじゅきゅう)の解説

現実の事実老齢年金(ろうれいねんきん)を、60歳から65歳になるまでの間に早めて受け取る仕組みです。早めた月数に応じて減り、減った額は一生変わりません。昭和37年4月2日以降に生まれた人は、1か月早めるごとに0.4%減ります(60歳からで最大24%)。

基礎年金だけ早めることはできる?
原則として、老齢基礎年金(ろうれいきそねんきん)と老齢厚生年金(ろうれいこうせいねんきん)は同時に繰り上げ(くりあげ)ます。請求した後は取り消せません。
昭和37年4月1日以前に生まれた人は?
1か月早めるごとに0.5%減ります(60歳からで最大30%)。

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〈母が62歳で繰り上げると(日本年金機構)〉1か月早めるごとに 0.4%減る今から受け取ると 14.4%減る減った額は、一生そのまま

母が家計簿をぱたんと閉じ、口に手を当てて笑う。横で娘が肩をすくめる。

三枝 節子:はいはい
やめとく

3週間後の日曜の昼の居間。ちゃぶ台に、届いた年金請求書が開いて置かれている。カーディガンの父が老眼鏡をかけ、ボールペンを握って正座する。後ろの柱に、もう着ない会社の作業着の上着が掛かっている。

3週間後の
日曜︒

父の再雇用は︑
おととい終わった︒

三枝 昭一:65に
なったぞ

三枝 昭一:これで
請求書が
出せる

年金請求書の2ページ目の寄り。表の欄と小さな四角の欄が並ぶ(字は読めない線だけ)。父の太い指がボールペンを持ち、1つの四角の上で止まる。真上から。

〈年金請求書(事前送付用)2ページ〉2. 受取開始時期の選択(繰り下げる時は、ここに書く)

受取開始時期(うけとりかいしじき)の選択(年金請求書(ねんきんせいきゅうしょ)の欄)の解説

現実の事実日本年金機構から届く年金請求書(事前送付用(じぜんそうふよう))の2ページにある欄です。65歳から受け取るか、繰り下げるかを、ここに書きます。書いておけば、繰下げの意思を確かめる書類や申出書を別に出さなくてすみます。

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三枝 昭一:全部
70だ

三枝 ほのか:待って
その下

娘が横から身を乗り出し、請求書の下の欄を指さす。請求書の角が絵の枠の線を越えて左へはみ出す。右で父がペンを持ったまま、老眼鏡越しに同じ欄をのぞく。

三枝 ほのか:配偶者の
欄が
ある

〈請求書の、配偶者の欄〉厚生年金に20年以上入った人に、生計を維持されている65歳未満の配偶者がいると年金に「加給年金」が付く(配偶者が自分で厚生年金に20年以上入り、その年金をもらえる間は、付かない)

加給年金(かきゅうねんきん)の解説

現実の事実厚生年金(こうせいねんきん)に20年以上入った人が65歳になった時、その人に生計を維持されている65歳未満の配偶者(または18歳になった年度の末までの子など)がいると、老齢厚生年金(ろうれいこうせいねんきん)に足される額です。令和8年4月からの配偶者の分は、特別加算を含めて年423,700円(昭和18年4月2日以後に生まれた人)。足してもらうには届け出が要ります。

配偶者が自分の厚生年金を持っている時は?
配偶者が、厚生年金に20年以上入った老齢厚生年金などを受け取る権利がある間は、配偶者の加給年金は止まります。
配偶者が65歳になったら?
加給年金は終わります。配偶者が条件に合えば、配偶者の老齢基礎年金(ろうれいきそねんきん)に「振替加算」が足されます(大正15年4月2日から昭和41年4月1日までに生まれた人など)。

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三枝 昭一:かきゅう?

三枝 ほのか:お母さんは
厚生年金
20年ある?

台所との境の戸口に、お茶の盆を持った母が立ち、娘の方を見て小さく苦笑いする。藍のエプロン、手首に輪ゴム。

三枝 節子:若い頃の
5年だけよ

三枝 ほのか:じゃあ
付くんだ

三枝 ほのか:でも
厚生年金を
待つ間は
もらえないって

父の顔の大写し。老眼鏡の奥で目を見開き、顔に驚きの縦線。ボールペンが指の間で止まる。

三枝 昭一:は?

三枝 昭一:もらえない
だと?

三枝 節子:3年で
127万円

母の手元の寄り。家計簿の余白に鉛筆で小さな筆算を書き、手首に輪ゴム。横に電卓。上から。

〈加給年金(令和8年度・日本年金機構)〉年 423,700円 → 月 約3万5,000円母が65歳になるまで:あと3年(約127万円)繰下げを待つ間は、受け取れない全部70歳まで待つと、追いつくのは 約84歳に(加給の分を入れて)

三枝 ほのか(ささやき):全部か
ゼロか
じゃない︙︙

基礎年金と厚生年金は︑
別々に
繰り下げられる︒

三枝 ほのか:分けて
待てば
いいんだ

〈分けて考える(三枝家の額)〉1. 全部65歳から:月14万円+加給 約3万5,000円2. 全部70歳から:65〜70歳は0円/70歳から 約19万9,000円(加給なし)3. 厚生年金だけ65歳から(加給つき)、基礎年金は待つ:65歳から 約10万5,000円/70歳まで待てば、70歳から 約16万9,000円

ちゃぶ台を真上から。開いた年金請求書・家計簿・スマホのまわりに、3人の手が集まる。

コツ

父の太い指が、請求書の1つの四角を、ボールペンの先でそっと指す(字は読めない線)。

三枝 昭一:厚生は
65から
もらう

三枝 昭一:基礎は
待てるだけ
待つ

三枝 節子:待つ間の
足りない分は?

〈三枝家の毎月(父が65歳から・3. のとき)〉出る:26万円入る:父の厚生年金 約7万円+加給年金 約3万5,000円入る:母のパート 4万円足りない:約11万5,000円

三枝 ほのか(ささやき):8万より
増えてる︙︙

父が老眼鏡を外して手に持ち、正座のまま背すじを伸ばして前を見すえる。窓の白い光が肩をふちどる。下から見上げる角度。

三枝 昭一:足りない分は
おれが
働いて
埋める

三枝 ほのか:基礎の方は
66歳から
いつでも
請求できる
って

三枝 昭一:︙︙働ける
うちは
待つさ

三枝 節子:決める前に
年金事務所で
聞いてきなさい

母が湯のみを置き、父を指さして念を押す。父は口をとがらせて、そっぽを向く。

三枝 昭一:はいはい

三枝 節子:それ
私の
口ぐせ

三枝 節子:で
最初の
振り込みは?

三枝 ほのか:振り込みは
出してから
2︑3か月
先だって

年金の振り込み(偶数月(ぐうすうづき))の解説

現実の事実年金請求書(ねんきんせいきゅうしょ)を出すと約1か月で年金証書が届き、その約1〜2か月後に最初の振り込みがあります。その後は、偶数月(2・4・6・8・10・12月)に2か月分ずつ振り込まれます。受け取り始めの数か月は、貯金で暮らす計画が要ります。

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〈年金が振り込まれるまで(日本年金機構)〉請求書を出す → 約1か月で年金証書が届く→ その約1〜2か月後に、最初の振り込み→ あとは、偶数月に2か月分ずつ

父が片膝をついて立ち上がりながら、カーディガンのボタンを留める。窓の白い光。ちゃぶ台の上に書きかけの請求書、畳に老眼鏡。少し上から。

三枝 昭一:よし

三枝 昭一:明日の朝
ハローワークに
行ってくる

母と娘が顔を見合わせる。左の母は湯のみを持ったまま、右の娘は口を半分あける。

三枝 ほのか:65で
仕事って
見つかるの?

居間から見た玄関。上がり口に父の革靴が1足、きちんとそろえて置かれ、横に透明なクリアファイルが立てかけてある。廊下の奥の居間で、新聞を広げる父の小さな背中。

ハローワークが
開くまで︑
あと18時間︒

第2話「70歳まで、待てますか」

つづく

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あなた母の一言を短く

AI節子「……あの人の靴、磨いとこうかしら」。ほのか「お母さん、甘いなあ」。

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この話で分かること

年金の繰り下げとは? 70歳まで待つと、いくら増える?

老齢年金(ろうれいねんきん)を65歳で受け取らずに、66歳から75歳までの間に遅らせて受け取る仕組みです。1か月遅らせるごとに0.7%増え、70歳まで待つと42%、75歳まで待つと84%増えます。増えた率は一生変わりません。

条件・例外

昭和27年4月1日以前に生まれた人は、70歳まで(最大42%)です。待つ間は年金を受け取れないので、その間の暮らしのお金が要ります。家ごとの判断は、年金事務所(ねんきんじむしょ)や専門家(社会保険労務士(しゃかいほけんろうむし)・FP・税理士(ぜいりし)・弁護士(べんごし))に確かめてください。

物語との違い

作中の「月14万円 → 約19万9,000円」「貯金から約1,180万円」は、三枝家の額で計算した作中の値です。母の年金は65歳からで計算しています(若い頃に厚生年金(こうせいねんきん)に5年入った母は、生まれた年により63〜64歳から「特別支給の老齢厚生年金(ろうれいこうせいねんきん)」が少し出る見込みですが、作中の計算には入れていません)。

年金を繰り下げると、加給年金(かきゅうねんきん)はどうなる?

老齢厚生年金(ろうれいこうせいねんきん)を繰り下げて待つ間は、加給年金を受け取れません。加給年金そのものは、繰り下げても増えません。老齢基礎年金(ろうれいきそねんきん)と老齢厚生年金は別々に繰り下げられるので、厚生年金(こうせいねんきん)は65歳から受け取って加給年金を付け、基礎年金だけを繰り下げる形もあります。

条件・例外

加給年金は、厚生年金に20年以上入った人に、生計を維持されている65歳未満の配偶者などがいる時に付きます(令和8年4月からの配偶者の分は、特別加算を含めて年423,700円)。届け出が要ります。家ごとの判断は、年金事務所(ねんきんじむしょ)や専門家(社会保険労務士(しゃかいほけんろうむし)・FP・税理士(ぜいりし)・弁護士(べんごし))に確かめてください。

年金の繰り下げの損益分岐点は、何歳?

税・保険料(ほけんりょう)を引く前の額で比べると、全部を70歳まで繰り下げた時、65歳から受け取った場合の合計に追いつくのは、およそ82歳です(42%増えた額で、待った5年分を取り戻す計算)。加給年金(かきゅうねんきん)が付く人は、待つ間にもらえない加給年金の分だけ、追いつく年齢が遅くなります。

条件・例外

手元に入る額は、税・社会保険(しゃかいほけん)料・医療や介護の自己負担(じこふたん)の変化で変わり、日本年金機構も、繰下げがこれらに影響する場合があると書いています。家ごとの判断は、年金事務所(ねんきんじむしょ)や専門家(社会保険労務士(しゃかいほけんろうむし)・FP・税理士(ぜいりし)・弁護士(べんごし))に確かめてください。

物語との違い

作中の「約82歳」「約84歳」は、三枝家の額で計算した作中の値です。

繰り下げるかどうかは、どこに書く?

65歳になる3か月前に日本年金機構から届く年金請求書(ねんきんせいきゅうしょ)(事前送付用(じぜんそうふよう))の2ページ「受取開始時期(うけとりかいしじき)の選択」の欄に書きます。請求書(せいきゅうしょ)を出せるのは65歳になってからです。66歳以後に繰り下げて受け取る時は、その時に請求します。

条件・例外

請求書を出してから約1か月で年金証書が届き、最初の振り込みはその約1〜2か月後、その後は偶数月(ぐうすうづき)に2か月分ずつです。家ごとの判断は、年金事務所(ねんきんじむしょ)や専門家(社会保険労務士(しゃかいほけんろうむし)・FP・税理士(ぜいりし)・弁護士(べんごし))に確かめてください。

この話の用語

繰下げ受給(くりさげじゅきゅう)漫画の中で見る
現実の事実老齢年金(ろうれいねんきん)を65歳で受け取らずに、66歳から75歳までの間に遅らせて受け取り、その分を増やす仕組みです。1か月遅らせるごとに0.7%増え(75歳で最大84%)、増えた率は一生変わりません。老齢基礎年金(ろうれいきそねんきん)と老齢厚生年金(ろうれいこうせいねんきん)は、別々に繰り下げられます。
繰上げ受給(くりあげじゅきゅう)漫画の中で見る
現実の事実老齢年金(ろうれいねんきん)を、60歳から65歳になるまでの間に早めて受け取る仕組みです。早めた月数に応じて減り、減った額は一生変わりません。昭和37年4月2日以降に生まれた人は、1か月早めるごとに0.4%減ります(60歳からで最大24%)。
受取開始時期(うけとりかいしじき)の選択(年金請求書(ねんきんせいきゅうしょ)の欄)漫画の中で見る
現実の事実日本年金機構から届く年金請求書(事前送付用(じぜんそうふよう))の2ページにある欄です。65歳から受け取るか、繰り下げるかを、ここに書きます。書いておけば、繰下げの意思を確かめる書類や申出書を別に出さなくてすみます。
加給年金(かきゅうねんきん)漫画の中で見る
現実の事実厚生年金(こうせいねんきん)に20年以上入った人が65歳になった時、その人に生計を維持されている65歳未満の配偶者(または18歳になった年度の末までの子など)がいると、老齢厚生年金(ろうれいこうせいねんきん)に足される額です。令和8年4月からの配偶者の分は、特別加算を含めて年423,700円(昭和18年4月2日以後に生まれた人)。足してもらうには届け出が要ります。
年金の振り込み(偶数月(ぐうすうづき))漫画の中で見る
現実の事実年金請求書(ねんきんせいきゅうしょ)を出すと約1か月で年金証書が届き、その約1〜2か月後に最初の振り込みがあります。その後は、偶数月(2・4・6・8・10・12月)に2か月分ずつ振り込まれます。受け取り始めの数か月は、貯金で暮らす計画が要ります。

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この話のあらすじ

「70歳まで遅らせる」と言った父・昭一に、母・節子は家計簿で答える。全部70歳まで待つと、5年で貯金から約1,180万円が減り、70歳の時に残るのは約320万円。待てば42%増えるが、65歳から受け取った合計に追いつくのは約82歳。3週間後、65歳になった父は届いた年金請求書(ねんきんせいきゅうしょ)の「受取開始時期(うけとりかいしじき)の選択」の欄に「全部70」と書きかける。ほのかが見つけたのは、その下の配偶者の欄。厚生年金(こうせいねんきん)に20年以上入った父には、母が65歳になるまで年約42万円の加給年金(かきゅうねんきん)が付くが、厚生年金を繰り下げて待つ間は受け取れない。老齢基礎年金(ろうれいきそねんきん)と老齢厚生年金(ろうれいこうせいねんきん)は別々に繰り下げられると知った父は、厚生年金は65歳から受け取り、基礎年金は待つと決める。毎月の足りない分は約11万5,000円に増えた。父は言う。「足りない分は、おれが働いて埋める。明日の朝、ハローワークに行ってくる」。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

父の年金は、月14万円。家の毎月は、26万円。届いた封筒を1通ずつ開けながら、三枝家と一緒に、自分の家の数字も数えてみてください。

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