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第2話「真上で、上げるな」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

夜明け前の鋼のような青い空の下、足場に囲まれた木造の家の骨組み。門の内側に、白いヘルメットと灰色の作業着の若い男が、口を結んで立つ。門の外では、紺のヘルメットの別の警備員が赤い誘導棒を持っている。

見習い 1日目。

鷹野 颯:門の
内側だ

〈現場〉守る職人 8人/扱うお金 3,000万円見習い 残り 7日屋根の防水 0%

ルーフィング(屋根の防水シート)の解説

現実の事実屋根の野地板(のじいた)の上に敷く、防水のシートです。瓦や金属の屋根の下に入り、屋根の材料のすき間から入った雨水を止めます。よく使われるアスファルトルーフィングは、防湿と雨風への強さに優れ、屋根の下葺き(したぶき)の材料として広く使われています。

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工務店の施工管理の見習い(22)鷹野 颯

足場の前の朝礼。左で、首にタオルを掛けた所長が板を手に立ち、右で、白いヘルメットの若い男が口を固く閉じて立つ。手前に、並んだ職人たちの頭がぼけて大きく写る。

大河内 剛三:いいか
今日から
うちの
見習いだ

鷹野 颯:あの
鷹野 颯です

鷹野 颯:よろしく
お願いします!

返事は︑
無かった︒

列の後ろで︑
鳶の 柴崎 葵︒

柴崎 葵(画面の外の声):はっ
誘導員が
白かよ

若い男の寄り。白いヘルメットのつばの下で、額に汗をにじませ、目だけを横へ泳がせる。

大河内 剛三:KYだ

KY活動(かつどう)(危険予知活動(きけんよちかつどう))の解説

現実の事実その日の作業にひそむ危険を、作業の前にみんなで出し合い、「ここが危ない」「こうする」と決めておく活動です。K は危険、Y は予知の頭文字で、訓練の形を「危険予知訓練(KYT)」と言います。朝礼の後の数分で行う現場が多く、職場のあんぜんサイトの進め方では、出し合った危険をみんなの合意で1〜2つにしぼり込み、指差し唱和で確かめる形が紹介されています。

KYT の進め方は?
厚生労働省の職場のあんぜんサイトでは、「どんな危険がひそんでいるか」「これが危険のポイント」「あなたならどうする」「私達はこうする」の4つの段(基礎4ラウンド法)で進める形が紹介されています。
法律で決まっている?
KY活動は、法律で決まった手続きではなく、現場の安全のために広く行われている活動です。

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大河内 剛三:今日の
危ない所
言ってみろ

鷹野 颯:あ︙︙
足場の
段差に
気をつけて

朝礼の列。右の手前で、紺の作業着の年配の大工が、目を閉じたまま、腕を伸ばして指を差す。奥の左で、首にタオルを掛けた所長が板を持つ。

工務店の所長(61)大河内 剛三

大工の親方:ふん
毎日
聞いてる

大河内 剛三:︙︙指差し
呼称

指差呼称(ゆびさしこしょう)(指差し呼称(ゆびさしこしょう))の解説

現実の事実確かめる物を指で差し、その名前と状態を声に出して確かめる動作です。KY活動の一つとして、建設・製造・運輸などの現場で行われています。厚生労働省の職場のあんぜんサイトでは、指差しと呼称を両方した時の誤りは、何もしない時の約6分の1という実験が紹介されています。

どこから始まった?
もとは旧国鉄で、運転士が信号を確かめるために行っていた動作です。

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職人たち(何人もの声):ヨシ!

鷹野 颯:ああ︙︙
誰でも
言える事だ

所長に渡されたのは︑
野帳が1冊︒

野帳(やちょう)の解説

現実の事実現場で立ったまま書くための、表紙の硬い小さな手帳です。もとは野外の調べや測量の記録帳のことで、建設の現場では、寸法・段取り・その日に気づいた事を書き留めるのに使われます。片手で持てる大きさなので、足場の上や雨の日でも書けます。

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大河内 剛三(画面の外の声):見習いは
書け
全部だ

大河内 剛三(画面の外の声):葵の班は
屋根の荷揚げで
今週いっぱいだ

荷揚げ(にあげ)の解説

現実の事実材料や道具を、高い所の作業場所まで運び上げることです。建設の現場では、屋根の板・石こうボードなどを、人の手で足場を渡したり、クレーンで吊ったりして上げます。上げている間、その真下は物が落ちてくるおそれがあるので、人を入れない所にします。

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2日目︒
3日目︒

白いヘルメットの若い男が、屋根の板の束を肩に担いで足場の階段を上る。先を、職人が黙って上っていく。昼の休み。奥で職人たちが座って弁当を食べている。手前で、白いヘルメットの若い男がひとり、板に腰掛けて、小さな手帳にペンで書き込む。

柴崎 葵:おい
誘導員
そこ
邪魔だ

〈現場〉守る職人 8人/扱うお金 3,000万円見習い 残り 5日朝礼の返事 0回

4日目の夜︒

夜のアパートの小さな机。白い卓上の灯りの下、机の端に白いヘルメット。使い込んだ古い手帳と、新しい硬い表紙の手帳が並んで開いている(字は読めない)。作業着のままの若い男が、ペンを持った手で手帳を見比べる。

親父の手帳と︑
新しい野帳︒

鳶だった親父は︑
急かされて
腰を壊した︒

門の前から
見てたのは︑
トラック
だけじゃない︒

鷹野 颯:あ︙︙
毎朝
8時半︙︙

下から見上げた現場。足場に囲まれた家の骨組みの、角に足場の階段が1つだけある。階段の近くの下に、職人が4人、固まって待っている。その真上、屋根の高さで、板の束が手から手へ渡されていく。

北の昇り口の前に︑
4人が溜まる︒

昇降設備(しょうこうせつび)(足場の昇り口)の解説

作中の世界の決まり作中の現場は小さな家なので、昇り口は北の角の1か所です。

現実の事実高い所へ上り下りするための階段・はしごなどの設備です。高さか深さが1.5メートルを超える所で作業する時は、安全に上り下りするための設備を設けることが会社に義務付けられ、働く人はそれを使う決まりです(労働安全衛生規則第526条)。足場では、階段の付いた昇り口に人の行き来が集まります。

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その真上で︑
野地板を
上げている︒

野地板(のじいた)の解説

現実の事実屋根の骨組みの垂木(たるき)の上に張る板で、瓦などの屋根の材料を取り付ける下地になります。木造の家では、上棟(じょうとう)の後すぐに野地板を張り、その上に防水のシートを敷いて、骨組みを雨から守ります。

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5日目︒

大河内 剛三:KYだ
言ってみろ

朝礼。白いヘルメットの若い男が一歩前に出て、腕をまっすぐ伸ばし、北の角の昇り口の方を指差す。指先が絵の枠の外へ出る。手前に、並んだ職人たちの頭と肩が大きくぼけて写る。下から見上げる角度。

鷹野 颯:8時半
昇り口の前に
何人いるか
分かりますか

大工の親方:︙︙

鷹野 颯:毎朝
4人です

鷹野 颯:その真上で
板を
上げてます

女性の鳶の寄り。フルハーネスの肩ベルトの上で腕を組み、ヘルメットのつばの下から、眉を寄せて横をにらむ。

鳶(27)柴崎 葵

柴崎 葵:はあ?
南からじゃ
遠回りだろ

鷹野 颯:遠回りは
5分です

鷹野 颯:荷揚げは
南の面から

鷹野 颯:昇り口の前は
コーンで
立入禁止に
します

立入禁止(たちいりきんし)(物体の落下の防止)の解説

現実の事実上から物が落ちて人に当たるおそれがある時、会社は、防網(ネット)を張る・人が入る所を決めて区切るなどの手を打たなければなりません(労働安全衛生規則第537条)。現場では、コーンとバーで囲い、荷揚げや作業の真下に人が入らないようにします。

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北の角の足場の階段の下。右で、白いヘルメットの若い男が、赤いコーンを並べてバーを渡している。左で、紺の作業着の年配の大工が、横目でそれを見ながら通り過ぎる。

大工の親方:ちっ
誘導員の
癖かよ

8時30分︒

柴崎 葵:南から
上げろ!

屋根の高さの足場の上。命綱を親綱に掛けた女性の鳶が、片手で手すりを握り、もう片手で南の面を指差して、下に向かって口を開けて叫ぶ。下から見上げる角度で、後ろに青い朝の空。

鷹野 颯:動いた︙︙

10時12分︒

強い風。屋根の上に残っていた板の切れ端が1枚、落ちてくる。板だけが絵の枠の下へはみ出す。奥に、赤いコーンとバーで囲った足場の階段の前。囲いの中には誰もいない。

ゴウッ

休みの湯飲みを
持ったまま︑
4人は
囲いの外にいた︒

足場の階段の前。囲いの中に板の切れ端が落ち、バーが倒れている。囲いのすぐ奥で、湯飲みを持った職人4人が、目を見開き、口を開けて固まっている。

ガンッ

大工の親方:うわ︙︙
いつも
俺らが
待ってる所だ

鷹野 颯:よかった︙︙
誰も
いない

足場から下りてきた女性の鳶。倒れたバーと板の切れ端の横に立ち、口を閉じて、目を横の若い男の方へ向ける。

柴崎 葵:誘導員

柴崎 葵:コーン
明日も
置いとけ

6日目︒

鷹野 颯:あの
昇り口の前
今日も
立入禁止です

朝礼で、白いヘルメットの若い男が、北の階段を指差したまま、目を見開いて横を振り向く。紺の作業着の年配の大工の寄り。腕を組み、目を閉じたまま、口を固く結んでいる。

大工の親方:︙︙おう

朝礼で︑初めての
返事だった︒

〈現場〉守る職人 8人/扱うお金 3,000万円見習い 残り 2日けが 0人/朝礼の返事 1回

その夕方︒

プレハブの詰所の中。白い蛍光灯の下、左で所長が携帯電話の画面をこちらに向け、右で若い男が机に手をついてのぞき込む。画面には雨の印だけが並ぶ(字は読めない)。

大河内 剛三:ちっ
明日の
13時から
雨だ

大河内 剛三:2日
続く

鷹野 颯:えっ
屋根の防水
まだ半分です

日が沈んだ後の青い空。木造の家の骨組みの屋根の、半分は黒い防水のシートで覆われ、残りの半分は板のまま。軒から、青いシートが風にあおられている。

大河内 剛三:骨組みが
濡れる

大河内 剛三:施主さんも
明後日
見に来る

施主(せしゅ)(建築主(けんちくぬし))の解説

現実の事実家や建物の工事を頼んだ人のことで、建築主・建て主とも言います。法律(建設業(けんせつぎょう)法)の言葉では「発注者」です。工事の途中でも、上棟(じょうとう)の後などに現場を見に来て、間取りや工事の様子を確かめる施主は多くいます。

葬儀の「施主」と同じ言葉?
同じ字で、葬儀や法事では、その費用を出して営む人を言います。建設の現場では、工事の発注者のことです。

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所長の横顔の寄り。窓の外の青い暗さを背に、口を結んで、目だけをこちらへ向ける。

大河内 剛三:明日の段取り
お前が組め

鷹野 颯:え︙︙

大河内 剛三:いいか
明日で
7日目だ

〈現場〉守る職人 8人/扱うお金 3,000万円見習い 残り 1日雨まで 19時間/屋根の防水 50%

夜。白い投光器の下、白いヘルメットの若い男がひとり、緑の硬い表紙の手帳を両手で握って、半分だけ覆われた屋根を見上げる。下からあおる角度。

鷹野 颯:明日の
13時︙︙

第2話「真上で、上げるな」

つづく

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足場を組め

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あなた6日目の朝礼で大工の親方が「おう」と返した後、葵が颯に何て言うかを考えたい

AI葵は前の日に「コーン、明日も置いとけ」と言ったばかりなので、褒め言葉は出しにくい人です。呼び方を「誘導員」のままにして、中身だけ少し近づけると、関係の段が急に上がりすぎません。

あなた呼び方は変えずに、短く

AI葵「誘導員。……明日の南の荷揚げ、何時からにする」。颯「8時40分です。トラックが抜けた後なので」。

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この話で分かること

KY活動(かつどう)とは?

その日の作業にひそむ危険を、作業の前にみんなで出し合い、「ここが危ない」「こうする」を決めておく活動です。K は危険、Y は予知の頭文字です。厚生労働省の職場のあんぜんサイトでは、4つの段で進める「KYT基礎4ラウンド法」が紹介されています。

条件・例外

KY活動は法律で決まった手続きではなく、現場ごとのやり方で行われています。

物語との違い

作中で颯が言う「荷揚げは南の面から」「昇り口の前は立入禁止(たちいりきんし)」は、作中の現場の KY です。

指差呼称(ゆびさしこしょう)(指差し呼称(ゆびさしこしょう))とは?

確かめる物を指で差し、その名前と状態を声に出して確かめる動作です。もとは旧国鉄の運転士の動作で、今は建設・製造・運輸など広い現場で行われています。

条件・例外

職場のあんぜんサイトでは、指差しと呼称の両方をした時の誤りは、何もしない時の約6分の1という実験が紹介されています。

上から物が落ちてくる所は、どう守る?

物が落ちて人に当たるおそれがある時、会社は、防網を張る・人が入る所を区切るなどの手を打たなければなりません(労働安全衛生規則第537条)。荷揚げの真下などは、コーンとバーで立入禁止(たちいりきんし)にします。

物語との違い

作中で板の切れ端が落ちた所と時刻(10時12分)は、作中の現場の物です。

この話の用語

ルーフィング(屋根の防水シート)漫画の中で見る
現実の事実屋根の野地板(のじいた)の上に敷く、防水のシートです。瓦や金属の屋根の下に入り、屋根の材料のすき間から入った雨水を止めます。よく使われるアスファルトルーフィングは、防湿と雨風への強さに優れ、屋根の下葺き(したぶき)の材料として広く使われています。
KY活動(かつどう)(危険予知活動(きけんよちかつどう))漫画の中で見る
現実の事実その日の作業にひそむ危険を、作業の前にみんなで出し合い、「ここが危ない」「こうする」と決めておく活動です。K は危険、Y は予知の頭文字で、訓練の形を「危険予知訓練(KYT)」と言います。朝礼の後の数分で行う現場が多く、職場のあんぜんサイトの進め方では、出し合った危険をみんなの合意で1〜2つにしぼり込み、指差し唱和で確かめる形が紹介されています。
指差呼称(ゆびさしこしょう)(指差し呼称(ゆびさしこしょう))漫画の中で見る
現実の事実確かめる物を指で差し、その名前と状態を声に出して確かめる動作です。KY活動の一つとして、建設・製造・運輸などの現場で行われています。厚生労働省の職場のあんぜんサイトでは、指差しと呼称を両方した時の誤りは、何もしない時の約6分の1という実験が紹介されています。
野帳(やちょう)漫画の中で見る
現実の事実現場で立ったまま書くための、表紙の硬い小さな手帳です。もとは野外の調べや測量の記録帳のことで、建設の現場では、寸法・段取り・その日に気づいた事を書き留めるのに使われます。片手で持てる大きさなので、足場の上や雨の日でも書けます。
荷揚げ(にあげ)漫画の中で見る
現実の事実材料や道具を、高い所の作業場所まで運び上げることです。建設の現場では、屋根の板・石こうボードなどを、人の手で足場を渡したり、クレーンで吊ったりして上げます。上げている間、その真下は物が落ちてくるおそれがあるので、人を入れない所にします。
昇降設備(しょうこうせつび)(足場の昇り口)漫画の中で見る
作中の世界の決まり作中の現場は小さな家なので、昇り口は北の角の1か所です。
現実の事実高い所へ上り下りするための階段・はしごなどの設備です。高さか深さが1.5メートルを超える所で作業する時は、安全に上り下りするための設備を設けることが会社に義務付けられ、働く人はそれを使う決まりです(労働安全衛生規則第526条)。足場では、階段の付いた昇り口に人の行き来が集まります。
野地板(のじいた)漫画の中で見る
現実の事実屋根の骨組みの垂木(たるき)の上に張る板で、瓦などの屋根の材料を取り付ける下地になります。木造の家では、上棟(じょうとう)の後すぐに野地板を張り、その上に防水のシートを敷いて、骨組みを雨から守ります。
立入禁止(たちいりきんし)(物体の落下の防止)漫画の中で見る
現実の事実上から物が落ちて人に当たるおそれがある時、会社は、防網(ネット)を張る・人が入る所を決めて区切るなどの手を打たなければなりません(労働安全衛生規則第537条)。現場では、コーンとバーで囲い、荷揚げや作業の真下に人が入らないようにします。
施主(せしゅ)(建築主(けんちくぬし))漫画の中で見る
現実の事実家や建物の工事を頼んだ人のことで、建築主・建て主とも言います。法律(建設業(けんせつぎょう)法)の言葉では「発注者」です。工事の途中でも、上棟(じょうとう)の後などに現場を見に来て、間取りや工事の様子を確かめる施主は多くいます。

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この話のあらすじ

上棟(じょうとう)の翌朝、鷹野 颯は白いヘルメットで、工務店の施工管理(せこうかんり)の見習いになった。1週間で使えなければ戻る場所は無い。朝礼で所長の大河内 剛三に「今日の危ない所、言ってみろ」と言われても、颯は「足場の段差に気をつけて」としか言えず、職人たちは返事をしない。所長に渡された野帳に毎日を書くうち、颯は、門の前で見ていた朝の流れを思い出す。8時半、足場の北の昇り口の前に職人が4人溜まり、その真上で、鳶の柴崎 葵の班が屋根の野地板(のじいた)を上げている。5日目の朝礼で、颯は「荷揚げは南の面から」「昇り口の前はコーンで立入禁止(たちいりきんし)に」と言う。葵は遠回りだと言うが、班を南へ回す。10時12分、強い風で板の切れ端が北の軒先から落ち、誰もいない囲いの中に落ちた。葵は「コーン、明日も置いとけ」と言い、6日目の朝礼で、大工の親方が初めて「おう」と返す。その夕方、所長の携帯電話(けいたいでんわ)に、翌日13時からの雨の予報が出る。屋根の防水のシートは、まだ半分。大河内は「明日の段取り、お前が組め」と言う。明日が、見習いの7日目だった。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

棟上げの一日の段取り、道路を使う時の許可、人が足りない日にどこで線を引くかが、門の前に立つ警備員の目から見えてきます。

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