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第6話「理由は、書いておきます」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

朝の審査部。机に付箋の付いた稟議書を広げ、受話器を取る眼鏡の女性。

木曜 9時10分

三輪 朔:小日向くん
お願いが
あるの

三輪 朔:奥さんの
健康診断の
写しを
もらえる?

小日向 陸:えっ
︙︙団信
ですか

三輪 朔:うん
「あり」と
書いてあれば
中身を見るのが
順番だから

ときわ野銀行の
住宅ローンは︑
借りる人が︑団信に入る︒
入れるかを決めるのは︑
保険の会社︒

ときわ野銀行の団信(だんしん)の決まりの解説

作中の世界の決まり作中のときわ野銀行では、収入を合わせて借りる2人とも団信に入る事を条件にしていて、告知(こくち)に「あり」があると、審査役が支店を通して健康診断(けんこうしんだん)の結果などの写しを求め、保険の会社が入れるかを決めます。この流れは物語の中の決まりで、現実は金融機関と保険ごとに違います。

現実の事実現実の住宅ローンでも、団体信用生命保険(だんたいしんようせいめいほけん)(団信)に入る事を借りる条件にする金融機関が多くあります。国土交通省の令和7年度の調査では、健康状態を審査で見る955機関のうち、「団信加入が必要」が866、「団信加入は選択可能」が88、「団信加入は不要」が4でした。【フラット35】は、健康上の理由その他の事情で団信に入らない場合も使えます。

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森岡 葵:写し︙︙
ですか?

昼の歯科医院の裏口。白衣の上にカーディガンを羽織った小柄な女性が、スマホを耳に当てて立ち止まる。

森岡 葵:︙︙あの

森岡 葵:「あり」って
書いたから
落ちる
とか
は︙︙

小日向 陸:それは
僕には
分からなくて

小日向 陸:でも!
書いた事は
正しいです

森岡 葵:「なし」って
書いてたら
前と同じで
通ったかもね

夜のアパートの台所。流しの前で並んで皿を洗う夫婦。背の高い夫が、皿を拭きながら妻の横顔を見る。

森岡 慎吾:でもさ
通っても
何かあった時
払われない
んだろ?

森岡 慎吾:︙︙保険って
そういう物
だってさ

森岡 慎吾:小日向さんが

生命保険は︑入る時に︑
聞かれた事の事実を︑
告げる決まり︒

告知義務(こくちぎむ)(生命保険(せいめいほけん))の解説

現実の事実生命保険の契約を結ぶ時、保険に入る人は、病気などの危険に関わる大事な事のうち、保険の会社が告知(こくち)を求めた事について、事実を告げなければなりません(保険法 第37条)。わざと、または大きな不注意で事実を告げなかったり、事実と違う事を告げたりすると、保険の会社は契約を解除できます(第55条)。

解除はいつまでもできる?
保険法では、保険の会社が解除の原因を知ってから1か月使わないと、解除の権利は消えます。契約から5年たった時も同じです。
団信(だんしん)も同じ?
団信は生命保険の一つで、入る時に健康状態の告知を求められます。どの事を告知するかは、団信ごとの告知書に書かれています。

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第6話「理由は、書いておきます」

月曜11時30分

審査部の机。保険の会社からの回答の紙を、書類の挟みに綴じる眼鏡の女性の手。紙の字は読めない線。

〈団信の加入の回答〉(保険の会社)森岡 慎吾:加入できます森岡 葵:加入できます(健康診断の結果の写しで確かめました)

三輪 朔:︙︙よし
通った

残るのは︑
勤続︑11か月︒

午後の審査部を高い窓の側から見下ろす。机の列と、真ん中の一つの席で書類に向かう眼鏡の女性。

所見の欄に書けるのは︑
審査で見た事だけ︒

だから︑
見た事を︑
全部書く︒

同じ席の寄り。ペンを持ち、所見の欄に一行ずつ書いていく眼鏡の女性。机の端に付箋が何枚も並ぶ。

〈所見〉信用情報:異動なし。前回の異動は、登録した会社が「本人の申込みではない」と判断して訂正。返済負担率:約18.6%(車のローンは完済。妻のスマホの分割は申込書に記載)。勤続:夫 11か月(前の勤め先 8年)、妻 9年(収入合算)。団信:2人とも加入できる(妻は告知「あり」、健康診断の結果の写しで確かめた)。以上により、承認を相当とする。審査役 三輪 朔

夕方の次長の机。老眼鏡をかけて稟議書を読む次長と、机の前に立って待つ審査役の女性。正面の左右対称の構図。

能勢 総一:勤続
11か月か

三輪 朔:はい
前の勤め先に
8年

三輪 朔:奥さんは
同じ医院に
9年ですから

三輪 朔:数字で
言える事は
全部
書きました

次長の顔の寄り。老眼鏡を外して、指にはさむ。口ひげの下で、口の端がわずかに動く。

能勢 総一:三輪

能勢 総一:否決の理由は
教えられん

能勢 総一:だが
通す理由は
書ける

稟議書の上の、小さな四角い枠の並びの寄り。墨青の丸い印が、一番右の枠に押されたところ。夕方の次長の机。印を押し終えた次長と、深く頭を下げる審査役の女性。

月曜17時00分

トン

〈審査の結果〉森岡 慎吾・森岡 葵 住宅ローン 再申込み承認次長 能勢 総一

夜の審査部。誰もいない机の列の、真ん中の一つの席。眼鏡の女性が、書類の控えの一番上に若苗色の付箋を一枚貼り、ペンを置く。

会わない人に︑
言える事は無い︒

だから︑
一枚だけ︒

火曜18時02分

夜の駅のホーム。並んで立つ夫婦。小柄な妻がスマホの画面を見て口に手を当て、背の高い夫がのぞき込む。

ときわ野銀行 駅前支店住宅ローン 本審査の結果のお知らせ慎重に審査いたしました結果、ご希望のとおり、承認となりました。

森岡 葵:︙︙え
通った︙︙!

森岡 慎吾:ほんとに!?
理由は?

森岡 葵:書いて
ない

森岡 葵:でも
いいや!

線路の向こうのホーム。帰りの電車を待つ背の高い眼鏡の女性の小さな後ろ姿。夫婦の側からは顔の分からない、ぼけた人影。

線路の向こうで︑
誰かが︑
電車を待っていた︒

12月の日曜︒

冬の昼の住宅街。小学校の近くの中古マンションの前に、引越しのトラック。段ボールを運ぶ人たちが小さく見える。

小学校まで︑
歩いて7分︒

段ボールの積まれた新しい部屋。背の高い男性が脚立に乗り、窓に新しいカーテンを掛ける。窓の幅にぴったりの布。

森岡 慎吾:178センチ
ぴったりだ!

森岡 葵:測った人が
偉いでしょ

段ボールのそばに座り込み、支店から届いた契約の書類の封筒を開ける小柄な女性。

森岡 葵:︙︙あれ?

書類の束の端から、若苗色の付箋が一枚のぞく細い寄り。新しい部屋の窓辺。若苗色の付箋を指先に貼って見つめる小柄な女性。後ろでカーテンが揺れ、背の高い男性がぼける。

書類の束に︑
付箋が一枚︑
残っていた︒

森岡 慎吾:何て
書いてある?

森岡 葵:︙︙読めない
字が
小さすぎ

森岡 慎吾:小日向さん
かな

森岡 葵:どうだろうね
ふふ

窓のガラスに貼られた若苗色の付箋の寄り。手書きの読めない線。向こうに冬の空と小学校の屋根がぼける。

書類は︑
嘘はつかない︒

黙るだけ︒
――でも︑ときどき︑
一行だけ︑
何か言う︒

第6話「理由は、書いておきます」

完

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あなた付箋に書いてあった言葉を、考えてみたい

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あなた三輪の次の一日を、短く書いて

AI朝の審査部、新しい稟議書が三輪の机に置かれる。三輪「書類は、嘘はつかない。黙るだけ。――だから、読む」。絵:付箋を一枚、指に貼る手。

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この話で分かること

団信(だんしん)(団体信用生命保険(だんたいしんようせいめいほけん))とは? 入らないと住宅ローンは借りられない?

住宅ローンを借りた人が亡くなった時などに、保険でローンの残りを返す生命保険です。国土交通省の令和7年度の調査では、健康状態を審査で見る955機関のうち「団信加入が必要」が866、「団信加入は選択可能」が88、「団信加入は不要」が4でした。【フラット35】は、健康上の理由その他の事情で団信に入らない場合も使えます。

条件・例外

団信に入らずに借りると、万一の時にローンの残りは保険で返されません。

物語との違い

作中のときわ野銀行は、収入を合わせて借りる2人とも団信に入る事を条件にしています(物語の中の決まり)。

健康状態で、住宅ローンの審査に落ちる?

健康状態は、国土交通省の令和7年度の調査で96.1%の機関が審査で見ている項目です。多くの機関は団信(だんしん)に入れる事を条件にしているため、団信に入れないと、その金融機関では借りられない事があります。

条件・例外

団信に入れるかの判断や、団信を選べるか(入らない形・別の種類の団信)は、金融機関と保険ごとに違います。

団信(だんしん)の告知(こくち)で、病気を書かなかったら?

生命保険では、入る時に保険の会社が求めた事について、事実を告げる決まりがあります(保険法 第37条)。わざと、または大きな不注意で事実を告げなかったり、事実と違う事を告げたりすると、保険の会社は契約を解除できます(第55条)。

条件・例外

解除の権利は、保険の会社が原因を知ってから1か月使わないと消え、契約から5年たった時も消えます(第55条第4項)。

勤続1年未満でも、住宅ローンは通る?

金融機関ごとに違います。国土交通省の令和7年度の調査で、勤続年数(きんぞくねんすう)を見る933機関の具体的(ぐたいてき)な内容は、「1年以上」661機関が一番多く、「3年以上」121、「2年以上」45、その他183でした。

物語との違い

作中の三輪は、夫の勤続11か月に、前の勤め先の8年と妻の9年をあわせて所見に書きます。審査役が何を重く見るかは、物語の中の流れです。

この話の用語

ときわ野銀行の団信(だんしん)の決まり漫画の中で見る
作中の世界の決まり作中のときわ野銀行では、収入を合わせて借りる2人とも団信に入る事を条件にしていて、告知(こくち)に「あり」があると、審査役が支店を通して健康診断(けんこうしんだん)の結果などの写しを求め、保険の会社が入れるかを決めます。この流れは物語の中の決まりで、現実は金融機関と保険ごとに違います。
現実の事実現実の住宅ローンでも、団体信用生命保険(だんたいしんようせいめいほけん)(団信)に入る事を借りる条件にする金融機関が多くあります。国土交通省の令和7年度の調査では、健康状態を審査で見る955機関のうち、「団信加入が必要」が866、「団信加入は選択可能」が88、「団信加入は不要」が4でした。【フラット35】は、健康上の理由その他の事情で団信に入らない場合も使えます。
告知義務(こくちぎむ)(生命保険(せいめいほけん))漫画の中で見る
現実の事実生命保険の契約を結ぶ時、保険に入る人は、病気などの危険に関わる大事な事のうち、保険の会社が告知(こくち)を求めた事について、事実を告げなければなりません(保険法 第37条)。わざと、または大きな不注意で事実を告げなかったり、事実と違う事を告げたりすると、保険の会社は契約を解除できます(第55条)。

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この話のあらすじ

再申込みの稟議で、葵の団信(だんしん)の告知(こくち)は「あり(要経過観察)」。ときわ野銀行は2人とも団信に入る事を条件にしていて、三輪は支店の小日向を通して健康診断(けんこうしんだん)の結果の写しを求める。葵は「あり」と書いたから落ちるのではと不安になるが、慎吾は「嘘(うそ)を書いて通っても、何かあった時に払われない」と言う。生命保険は、入る時に求められた事の事実を告げる決まりで、わざと事実と違う事を告げると契約を解除される事がある(保険法)。保険の会社の回答は、2人とも「加入できます」。残るのは夫の勤続11か月。三輪は所見に、異動(いどう)の訂正・返済負担率(へんさいふたんりつ)約18.6%・前の勤め先の8年と妻の9年・団信の回答を、数字で言える事として全部書く。次長の能勢は「否決の理由は、教えられない。だが、通す理由は、書ける」と言い、承認の印を押す。三輪は申込みの人に会わないまま、書類の控えに付箋を一枚だけ貼る。火曜の18時02分、駅のホームで、夫婦に承認の知らせが届く。12月の日曜、小学校まで歩いて7分の部屋に、窓の幅178センチのカーテンが掛かる。葵は契約の書類の束に、読めないほど小さな字の付箋を一枚見つける。誰が書いたかは、分からない。

作者

ことわり帖

住宅ローンの審査や確定申告、役所の窓口のように、結果だけが届いて理由が見えにくい手続きの裏側を描いています。

この作品について

住宅ローンの審査で銀行が見ている所、返済負担率、事前審査と本審査の違い、否決の後にできる事を、審査役の机の上の書類から読み解けます。

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