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第1話「今朝、安かった物だけ」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店は架空です。

午前10時︒
坂の上の商店街︒

朝の坂の上の古い団地の商店街。シャッターの閉まった店が並ぶ通りの右に、小さな八百屋の店先。段ボールの箱に野菜が並び、手書きの値札が立つ。道を歩く人が何人か。通りの左の奥に、白い大きな建物。
スーパーの事務所のブラインドの窓の前。緑のエプロンと三角巾の若い女性が、窓の外の向かいの八百屋の方を見ながら、手の中の数取器を親指で押している。

トモエマート 坂上店の青果の契約社員(24)小谷 菜摘

小谷 菜摘:︙︙7人

小谷 菜摘:今朝も
7人

午後6時︒

夕方の白っぽい光の八百屋の店先。段ボールの箱は空になり、左の奥で、背の高い女性の店主がこちらに背を向けてシャッターに手をかけている。右の手前で、三角巾とエプロンのままの若い女性が立ち止まり、横を見ている。

小谷 菜摘:えっ
もう空︙︙?

小谷 菜摘:7人しか
来てないのに

小谷 菜摘:いやいや
売れるわけ
ないって

翌日の昼︒
売場の事務所︒

村瀬 康介:小谷さん
ちょっと
いいかな

スーパーの狭い事務所。左で、疲れた顔の40代の店長が窓の外の八百屋を指さしている。右で、緑のエプロンの若い女性がバインダーを胸に抱えて立っている。

トモエマート 坂上店の店長(45)村瀬 康介

村瀬 康介:向かいの
八百屋さん
なんだけどね

八百屋(やおや)(青果店(せいかてん))の解説

現実の事実野菜や果物を売る店です。国語の辞典では「野菜などの小売りをする店」とされます。辞典では「青物屋」「青果店」が近い言葉として挙がっていて、野菜と果物をまとめて「青果」と言います。

八百屋は、どこで仕入れる?
卸売市場(おろしうりしじょう)で、仲卸業者の店から買う店が多くあります。小売店や飲食店は「買出人」として市場に来て、仲卸業者から品物を買うことができます。市場を通さずに、産地から直接仕入れる流通もあります。

出典

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村瀬 康介:半年で
つぶれる
はずだった
んだよねえ

小谷 菜摘:ですよね
朝7人
ですもん

村瀬 康介:それが
夕方の
野菜の売上
うちが
負けてるの

小谷 菜摘:負けてる!?

村瀬 康介:参ったなあ

店長の寄り。目を閉じて困ったように笑いながら、顔の前で両手を合わせて頼んでいる。

村瀬 康介:年末までに
あの店の客
取れたら

村瀬 康介:正社員の話
本部に
出すから

〈年末まで 68日〉八百坂の今朝の客 7人小谷 菜摘の契約:年末まで

小谷 菜摘:正社員︙︙

小谷 菜摘(つぶやき):でも
取るって
どうやって

八百屋の店先の柱の上に、段ボールを切った手書きの札が下がっている(黒い太いマーカーの線だけで、読める字は無い)。エプロンを外した若い女性が、その札の前で立ち止まって見上げている。

段ボールの札︒
「朝だけ
アルバイト募集
3時半から」

小谷 菜摘:待って待って
3時半って
夜中ですよ

坂井 つぐみ:バイト?

店の奥から、背の高い女性の店主が大根の段ボールを肩にかついで出てくる。タオルの鉢巻き、作業着に紺の前掛け、耳に赤いマーカー。左の店主が、右の小柄な若い女性を見下ろしている。

八百坂の2代目(41)坂井 つぐみ

坂井 つぐみ:朝
起きられる
人?

小谷 菜摘:ははい!
起きられます

坂井 つぐみ:じゃ
明日
3時半に
ここね

坂井 つぐみ:遅れたら
置いてくよ

小谷 菜摘:えっ
名前も
聞かないの?

翌朝 3時半︒

夜明け前の暗い空の下を走る、古い軽トラックを正面から。フロントガラス越しに、左の運転席でハンドルを握る店主と、右の助手席で片手を上げて手すりにしがみつく若い女性。

小谷 菜摘:ひいっ

坂井 つぐみ:しゃべると
舌噛むよ

午前3時50分︒
青果の卸売市場︒

卸売市場(おろしうりしじょう)の解説

作中の世界の決まり作中の市場は架空の市場です。八百坂は、市場の中の仲卸の店から買っています。

現実の事実全国から集まった野菜・果物・魚・肉・花を取引し、八百屋(やおや)やスーパーなどの小売店、レストラン、加工業者へ売るための拠点です。卸売業者が農協などから集めた品を、仲卸業者などの買い手に、せりや相対取引(売り手と買い手が1対1で数量と値段を決める取引)で売ります。

市場は何時から動いている?
農林水産省の解説の例では、荷下ろしは前の日の午後3時ごろから、取引は午前2時ごろから始まり、せりは午前6時ごろ、出荷は午前7時ごろです。時間は市場や品物によって違います。

出典

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青果の卸売市場の場内。高い屋根の下に照明が下がり、通路がずっと奥まで続く。野菜の段ボールを積んだ赤い小さな運搬車(ターレ)が何台も走っている。同じ場内。左の端をターレが走り抜け、紺の前掛けの若い女性が両手を上げて飛びのく。風で、段ボールの切れ端とキャベツの外葉が上へ舞う。奥を、店主が振り向かずに歩いていく。

ブオオ

小谷 菜摘:わっ!

坂井 つぐみ(画面の外の声):ほら
こっち

仲卸の店は︑
市場で買った野菜を
小分けにして︑
八百屋や料理屋に
売っている︒

場内の仲卸の店の並び。段ボールの箱が積まれた店先で、左の前掛けの年配の男が大根の箱を開けて見せている。真ん中で背の高い女性の店主が大根を1本持ち上げて重さを見る。右の奥で、若い女性がメモ帳を握って立っている。白い照明。

仲卸の店の人:つぐみちゃん
今朝は
大根だよ

仲卸の店の人:産地が
取れすぎて
値が崩れてる

坂井 つぐみ:はいはい
知ってる

坂井 つぐみ:5ケース
ちょうだい

小谷 菜摘:えっ
5ケース︙︙?

小谷 菜摘:あの︙︙
発注表
無いん
ですか?

坂井 つぐみ:無いよ

店主の寄り。大根の箱を肩にかつぎ、口の端だけでニッと笑う。耳に赤いマーカー。後ろに市場の白い照明。

坂井 つぐみ:今朝
決める

午前7時︒
八百坂の店先︒

朝の八百屋の店先。段ボールの箱に大根が山のように積まれている。若い女性が大根の束を両手で抱えてよろけ、1本が転がり落ちて絵の枠の下の線を越え、手前へ飛び出してくる。

小谷 菜摘:大根の
山︙︙

午前中の客は︑
3人︒

小谷 菜摘(つぶやき):ほらね
やっぱり
売れない

八百屋の店先で、若い女性が、自分の店の値段の控えの紙(読める字は無い)を、段ボールの手書きの値札の横にかざして見比べている。真剣な横顔。

〈今朝の値札〉大根 1本:八百坂 98円/トモエマート 158円トマト 1個:八百坂 128円/トモエマート 98円

小谷 菜摘:えっ

小谷 菜摘:大根は
うちより
安いのに

小谷 菜摘:トマトは
高い︙︙?

坂井 つぐみ:トマトは
今朝
高かったから

店主の手元と顔の寄り。段ボールの切れ端に、赤い太いマーカーで値段を書き殴っている(太い線だけで読める字は無い)。顔は野菜の並ぶ方を向いている。

坂井 つぐみ:大根は
今朝
安かった

小谷 菜摘:毎朝
値段が
違うん
ですか?

坂井 つぐみ:そう
相場って
やつ

相場(そうば)(野菜の卸売の値段)の解説

作中の世界の決まり作中の大根・トマトの値札の値段と、トモエマートの値の決め方(本部が来週の値段を先に決める)は、作中の店の決めです。

現実の事実ここでは、卸売市場(おろしうりしじょう)で取引される野菜の、その日の値段のことです。野菜の卸売の値段は市場で毎日の取引で決まり、市場は毎日の取引の結果(量と値段)を公表しています。天気で産地の出荷の量が平年より増えると値段は下がり、減ると上がりやすくなります。

これから野菜が高くなるか、どこで分かる?
農林水産省が、東京都中央卸売市場に出荷される主な野菜の生育と卸売の値段の見通しを、産地や卸売会社への聞き取りをもとに月ごとに公表しています。

出典

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坂井 つぐみ:ほら
値札
持って

若い女性の寄り。手渡された段ボールの大きな値札(赤いマーカーの跡)を軍手の手で持ち、まっすぐ前を見ている。値札の段ボールの角が、絵の枠の右の線を割って外へ飛び出している。

小谷 菜摘:︙︙全部が
安いんじゃ
ないんだ

小谷 菜摘:今朝
安かった
物だけ
安い

〈値段の決め方〉トモエマート:本部が、来週の分まで先に決める八百坂:その朝の市場の値段で、品と値を決める

小谷 菜摘:うちの
発注表と
真逆︙︙

午後6時︒
店じまい︒

夕方の八百屋。店先の段ボールの棚は空になっている。でも店の奥の土間に、大根の段ボールの箱がまだ何箱も積んである。手前に、空の箱の間に立ち、横を向く若い女性。

小谷 菜摘:あれ?
大根
まだこんなに

今日の客は︑
7人︒

小谷 菜摘:7人で
5ケースは
無理だよね

店の奥の古い机の上の帳面の寄り。開いたページの端に、鉛筆の小さな書き込み(読める字は無い、線だけ)。横に赤いマーカー。

〈帳面の端〉保育園 9:00中華 10:30

小谷 菜摘:保育園?
中華?

小谷 菜摘(つぶやき):これって
誰に︙︙

坂井 つぐみ:で

夕方の店先。右で、店主がシャッターに手をかけたまま背を向けている。左で、若い女性が帳面を持ったまま固まっている。

坂井 つぐみ:向かいの
店長には

坂井 つぐみ:何て報告
すんの?

小谷 菜摘:な
なんで︙︙

若い女性の寄り。顔から血の気が引き、こめかみに汗。目だけが店主の背中を追っている。

坂井 つぐみ(画面の外の声):窓から
毎朝
数えてたでしょ

坂井 つぐみ(画面の外の声):7人って

夜の商店街を上から見下ろす構図。左に、2階の窓だけが白く明るい建物。右に、灯りの消えた小さな店の並び。奥の坂の上に、団地の窓の灯り。

〈年末まで 67日〉八百坂の今日の客 7人店長への報告:まだ書いていない

坂井 つぐみ(画面の外の声):明日も
3時半ね

第1話「今朝、安かった物だけ」

つづく

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あなた全部ばれていた次の朝、3時半に店の前へ来た菜摘の最初の場面を考えたい

AI菜摘が来ないと思っていたつぐみが、軽トラの助手席の荷物をどけておいたかどうかで、2人の関係の段が見えます。菜摘の手に、店長への報告の紙があるかどうかも、最初の絵で決められます。

あなた助手席が空いている形で、最初の台詞を

AIつぐみ「……来たんだ」。菜摘「置いてかれたく、ないので」。絵:夜明け前の坂の下、エンジンのかかった軽トラと、空けてある助手席。

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この話で分かること

八百屋(やおや)とは? 青果店(せいかてん)との違いは?

野菜や果物を売る店です。国語の辞典では「野菜などの小売りをする店」とされます。野菜と果物をまとめて「青果」と言うので、同じ種類の店が「青果店」とも呼ばれます。

条件・例外

仕入れ先は店によって違います。卸売市場(おろしうりしじょう)の仲卸業者から買う店のほか、市場を通さずに産地から直接仕入れる流通もあります。

八百屋(やおや)はスーパーより安い?

いつも安いとは限りません。野菜の卸売の値段は市場の毎日の取引で決まり、日によって変わります。店ごとに、いつ・どれだけ仕入れて、売り値をいつ決めるかが違うので、品目と日によって、八百屋が安い時もスーパーが安い時もあります。

条件・例外

その朝の市場の値段を見て仕入れる店では、その朝に安かった品が安く並びやすくなります。

物語との違い

作中の値札の値段(大根・トマト)と、トモエマートの値段の決め方(本部が来週の分まで先に決める)は作中の店の物です。実際のスーパーの値段の決め方は会社ごとに違います。

野菜の値段は、なぜ日によって違う?

野菜の卸売の値段は、卸売市場(おろしうりしじょう)で毎日の取引(せり・相対取引)で決まるためです。天気で産地の育ち方と出荷の量が変わり、出荷の量が平年より多いと値段は下がり、少ないと上がりやすくなります。

条件・例外

農林水産省は、東京都中央卸売市場に出荷される主な野菜の生育と卸売の値段の見通しを、月ごとに公表しています。

物語との違い

作中の「産地が取れすぎて値が崩れた大根」は、作中の市場の物です。

卸売市場(おろしうりしじょう)は、何時から動いている?

農林水産省の解説の例では、荷下ろしは前の日の午後3時ごろから、取引は午前2時ごろから始まり、せりは午前6時ごろ、出荷は午前7時ごろです。

条件・例外

時間は市場や品物によって違います。地元の小売店が夕方にも仕入れられるように、朝と夕方にせりをする地方卸売市場もあります。

物語との違い

作中の八百坂が市場に着く時刻(午前3時50分)は、作中の決めです。

この話の用語

八百屋(やおや)(青果店(せいかてん))漫画の中で見る
現実の事実野菜や果物を売る店です。国語の辞典では「野菜などの小売りをする店」とされます。辞典では「青物屋」「青果店」が近い言葉として挙がっていて、野菜と果物をまとめて「青果」と言います。
卸売市場(おろしうりしじょう)漫画の中で見る
作中の世界の決まり作中の市場は架空の市場です。八百坂は、市場の中の仲卸の店から買っています。
現実の事実全国から集まった野菜・果物・魚・肉・花を取引し、八百屋(やおや)やスーパーなどの小売店、レストラン、加工業者へ売るための拠点です。卸売業者が農協などから集めた品を、仲卸業者などの買い手に、せりや相対取引(売り手と買い手が1対1で数量と値段を決める取引)で売ります。
相場(そうば)(野菜の卸売の値段)漫画の中で見る
作中の世界の決まり作中の大根・トマトの値札の値段と、トモエマートの値の決め方(本部が来週の値段を先に決める)は、作中の店の決めです。
現実の事実ここでは、卸売市場(おろしうりしじょう)で取引される野菜の、その日の値段のことです。野菜の卸売の値段は市場で毎日の取引で決まり、市場は毎日の取引の結果(量と値段)を公表しています。天気で産地の出荷の量が平年より増えると値段は下がり、減ると上がりやすくなります。

出典

更新日:

この話のこと、いつもの AI に聞いてみてください。

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この話のあらすじ

坂の上の団地の商店街。トモエマート 坂上店の青果の契約社員・小谷 菜摘(24)は、2階の窓から向かいの八百屋「八百坂」の朝の客を数えている。今朝も7人。なのに夕方6時、八百坂の棚は空になっている。店長の村瀬 康介は「半年でつぶれるはずだった」あの店に、夕方の野菜の売上で負けていると言い、年末までに客を取れたら正社員の話を本部に出すと約束する。菜摘は「朝だけ アルバイト募集 3時半から」の札を見て、八百坂の2代目・坂井 つぐみに雇われる。翌朝3時半、つぐみの軽トラで卸売市場へ。仲卸の店で、つぐみは品目を決めずに来て、産地が取れすぎて値が崩れた大根を5ケース買う。「発注表、無いんですか」「無いよ。今朝、決める」。店に並べた大根の山に客は来ないが、値札を比べると、大根はトモエマートより安く、トマトは高い。毎朝の相場で値段が違うと知った菜摘は、八百坂は全部が安いのではなく、今朝安かった物だけが安いのだと気づく。閉店後、7人の客では売り切れないはずの大根の箱と、帳面の端の「保育園 9:00」「中華 10:30」。つぐみは振り向かずに言う。「で、向かいの店長には、何て報告すんの?」——窓から数えていた事は、全部ばれていた。

作者

トゥーンエル編集部

トゥーンエルを運営する H株式会社の編集部です。ミステリーや家族の物語など、仕事の題材に限らない作品を作っています。

この作品について

向かいに大型スーパーができても、なぜかつぶれない団地の八百屋。客を取れと言われたスーパーの契約社員が、朝だけのアルバイトとして潜り込み、毎話1つ、つぶれない仕組みを見つけていく日常の謎の物語です。卸売市場や野菜の値段の決まり方が分かります。

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