第2話「告げること、告げなくていいこと」

二年前の冬。
二階の三号室に泊まっていた
旅の商人が、夜中に
魔物に襲われて亡くなった。

リタ:言わなきゃ、だめ?
言ったら、また
値なしに戻る。

ケイ:前の世界でも、
いちばん多かった
相談だ。
前の世界の決まり(宅地建物取引業法 第47条)不動産の取引を仕事にする者は、買う人の判断に大きく関わる事を、わざと告げなかったり、嘘を告げたりしてはならない。
ケイ:隠して売れば、
後で必ず揉める。
そして、次に買う人が
いなくなる。

前の世界で一度だけ、見た。
隠して売られた家の買い主が、
泣きながら
事務所に来た日を。
リタ:……父さんのことも?
父さんも、
この宿で死んだ。

ケイ:お父さんは、
病気だったね。
告げなくてよい死(原則)老衰や病気による自然な死。家の中での転倒、食べ物を詰まらせる等の、日常の中での不慮の死。※長く気付かれず、特別な清掃や大きな改修をした場合は除く
前の世界の国の手引き
(人の死の告知に関する
ガイドライン)は、
そう決めていた。
告げる死事件や事故など、それ以外の死。※貸す時は、起きてから概ね三年たてば、原則として告げなくてよい。※売る時には、その年数の目安は無い。
リタ:三号室のことは……
ケイ:売るなら、告げる。
年数や死因にかかわらず告げる時・買う人、借りる人から聞かれた時・世の中に広く知られた事件などで、買う人が知っておくべき事情がある時
告げる中身いつ・どこで・何が原因か(分からなければ、分からないと)。亡くなった人の名前や、詳しい様子までは告げない。後で揉めないよう、書いて渡すのが良い。
ケイ:ただし、
告げるのは
確かめた事だけだ。

年老いた衛兵:二年前の冬の件なら、
わしが退治した。
奴は裏の古井戸から
上がってきたんだ。
査定書|確かめた事(月見鳥亭)二年前の冬・二階の三号室泊まり客が魔物に襲われて亡くなった魔物は裏の古井戸から(衛兵の記録)衛兵が退治・床と壁は張り替え済み


告知書(月見鳥亭)二年前の冬、二階の三号室で、泊まり客が夜中に魔物に襲われて亡くなりました。魔物は町の衛兵が退治し、部屋の床と壁は張り替えてあります。
リタ:昨日は、
答えられなくて
ごめんなさい。

ドーラ:お父さんの事は、
書いてないね。
ケイ:病で亡くなりました。
聞かれたので、
お答えします。
ドーラ:……正直だね。
部屋を見せてもらうよ。


ドーラ:冒険者が気にするのは、
一つだけ。
魔物が、どこから来たか。
ケイ:衛兵の記録では、
裏の古井戸から
上がってきた。

ケイ:今は鉄の格子で
塞いであります。
昨日、俺が
見てきました。

ドーラ:怖がる客もいる。
その分は、
値から引かせてもらう。
ドーラ:でも、隠さなかった分、
あんたたちを信じる。
買うよ。
ドーラ:値は、建物の分も
出してから決めよう。
事件のあった家を、
どれだけ嫌うかは、
人によって違う。
だから先に告げて、
買う人に決めてもらう。

値は、隠した事の上には
立たない。

リタ:……ありがと。
父さんの宿、
隠し事なしで
渡せる。
ケイ:まだだよ。
建物の値が、
残ってる。


大神殿より 召喚状神託に無き値を口にした測量見習いケイ、三日後、神前査定に出頭せよ。

リタ:神前査定……?
負けたら、
二度と値を
口にできなくなる。

ケイ:神託と、
値の出し方で勝負か。
……望むところだ。

大神殿の鑑定官グレゴール
グレゴール:八十年……。
一度も、
書き換えていない。
値なしの土地、査定します
第2話「告げること、告げなくていいこと」終


