第3話

第3話「神前査定」

朝。王都の大神殿へ続く長い白い石段を、ケイとリタとドーラが小さく上っていく。

リタ:勝てるの……?

ケイ:勝ち負けじゃない。
値の理由を、
見せに行くんだ。

王都の大神殿の大広間。高い天井から光の柱が落ち、傍聴の人々が並ぶ。「ゴォン」の描き文字。

神前査定。
神託に逆らった者が、
神の前で、
値の理由を問われる場。

壇上の鑑定官グレゴールが、神託の石の札を掲げる。

グレゴール:神託は、値を告げる。
人が値を決めるなど、
思い上がりだ。

広間の真ん中に、小さく立つケイとリタとドーラ。

ケイ:俺は、値を
決めていません。
確かめた事を、
並べただけです。

傍聴の人々がざわめき、顔を寄せ合う。「ざわっ」の描き文字。

グレゴール:ならば並べてみよ。
その宿の建物は、
いくらだ。

原価法今、同じ物を建て直すといくらかかるか(再調達原価)を出し、古くなった分・使いにくくなった分などの傷み(減価)を引いて値を出す。

前の日の宿。大工の親方が太い梁を拳で叩いて確かめ、ケイが脚立の下から見上げている。

ケイ:町の大工の親方に、
同じ宿を今建てたら
いくらか聞きました。
梁と柱も、
一緒に見てもらった。

査定書|月見鳥亭の建物(原価法)今建て直すと:銀貨300枚(大工の親方の見積もり)建って25年。梁と柱を見て、あと25年は使えると見た。→ 傷みは、およそ半分。建物:銀貨 約150枚

額に汗を浮かべるグレゴールの顔のアップ。

グレゴール:土地は。
神託は、
値なしと告げた。

ケイ:近所で売れた値と比べて、
約四百二十枚。

ケイ:では、伺います。
同じ通りの粉屋の跡、
神託の値は
いくらですか。

埃をかぶった巨大な値帳を、グレゴールの手が開く。

値帳|粉屋の跡(八十年前の大神託)値:銀貨120枚

傍聴の人々とリタが、驚いて顔を上げる。

ケイ:同じ土地が、半年前に
四百枚で売れています。
八十年の間に、
街道が通り、町が育った。

ケイ:神託が間違ったんじゃない。
八十年前の値のまま、
止まっているだけです。

色の抜けた記憶。若い見習いの鑑定官が、年老いた師から古い値帳を両手で受け取る。

グレゴール:師は言った。
神託は、
変わらぬ、と。

グレゴール:建物で百五十、
土地で四百二十。
宿として使えば、
また違う値になろう。
どれが本当の値だ!

ケイ:全部、本当です。
だから、三つ目も
出します。

収益還元法その不動産が毎年いくら稼ぐか(純収益)から値を出す。一年の純収益 ÷ 還元利回り = 収益価格

査定書|宿として(収益還元法)ドーラの宿の見込み:一年の売り上げから費用を引いた純収益は、銀貨54枚。この町の宿の還元利回り:9%(ギルドの帳の、売れた宿の値と稼ぎから)54 ÷ 0.09 = 約600枚

試算価格の調整出した値どうしを見比べ、どの値の理由がより確かかを考えて、一つの値に決める。積算価格:570枚(土地420+建物150)収益価格:600枚宿として売るので、稼ぎの値を重く見て:約590枚

ケイ:二つの値が近いのは、
どちらの理由も
確かめてあるからです。

静まり返った広間。グレゴールが石の札を下ろし、ケイを見つめる。

グレゴール:神託は、値を告げる。
だが、理由は告げぬ。

グレゴール:……お前の札は、
理由しか
書かぬのだな。

ろうそくの光の中、羽根ペンが古い値帳の余白に新しい一行を書き入れる。

グレゴール:この値、神殿の帳に
「神託の外の値」として
記す。

夕日の神殿の階段。人々に囲まれるケイ、リタ、ドーラ。

ドーラ:銀貨五百枚。
怖がる客の分は引いた。
文句は?

涙をこぼしながら笑うリタの顔のアップ。

リタ:ありません……!

机の上の銀貨の袋と、契約の紙に手形を押す手。

三十枚と言われた宿は、
理由を並べて、
五百枚になった。

夜の王都。丘の上の城の窓に灯りがともる。
夜道で、紋章の外套をまとった若い女の使者が、ケイの前に立つ。

王家の使者:測量見習いケイ殿。
王命である。

王命北の丘の〈ダンジョン付きの土地〉に、値を付けよ。――神託は、八十年、値を告げていない。

目を見開くケイの目の大写し。

ケイ:ダンジョンに、
値を……?

月夜の北の丘。地面に口を開けた巨大な穴から、赤い光が漏れている。
暗い部屋の窓辺で、杯を傾けて笑う商会の主。

ベルント:さて。
小僧は、いくらと
出すかな。

値なしの土地、査定します

第3話「神前査定」終

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この話で分かること

不動産鑑定とは? 3つの方法で値をどう決める?

不動産の鑑定評価は、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表すことで(不動産の鑑定評価に関する法律)、不動産鑑定士の仕事です。国の不動産鑑定評価基準では、原価法・取引事例比較法・収益還元法の三つで値(試算価格)を出し、見比べて一つの鑑定評価額に決めます。

条件・例外

原価法:今、同じ物を建て直すとかかる費用(再調達原価)から、物理的・機能的・経済的な理由による傷み(減価)を引いて積算価格を出す。 収益還元法:不動産が将来生み出す純収益から値を出す。一期間の純収益を還元利回りで割る直接還元法と、毎年の純収益と売る時の値を現在の価値に割り戻して合計するDCF法がある。 試算価格の調整:複数の手法で出した値を見直し、それぞれの説得力を比べて、最終的な鑑定評価額に導く。 不動産会社が売り出しの前に出す「査定」は、宅地建物取引業者が売る値について述べる意見で、その根拠を明らかにしなければならないと定められている(宅地建物取引業法第34条の2第2項)。

出典

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この話のあらすじ

王都の大神殿で、神託に無い値を付けたケイの神前査定が開かれる。鑑定官グレゴールに宿の建物の値を問われたケイは、大工の親方の見積もりから、今建て直すといくらか(再調達原価)を出し、建って25年の傷みを引いて約百五十枚とする(原価法)。土地は近所の売れた値から約四百二十枚。さらに、同じ通りの粉屋の跡の神託の値が、八十年前の大神託のまま銀貨百二十枚で止まっていることを示し、半年前に四百枚で売れた事実と突き合わせる。どれが本当の値かと迫るグレゴールに、ケイは宿の稼ぎから出す三つ目の値(収益還元法、約六百枚)を加え、三つの値を見比べて約五百九十枚に決める(試算価格の調整)。グレゴールは「お前の札は、理由しか書かぬのだな」と、この値を神殿の帳に記すことを認め、ドーラは告げられた事の分を引いた銀貨五百枚で宿を買う。その夜、王家の使者がケイの前に現れる。北の丘の〈ダンジョン付きの土地〉に、値を付けよ、と。

作者

ka2uma

縦読み漫画の作者

仕事の現場を題材に、台本から縦読み漫画を作っています。

この作品について

土地や建物の値の出し方(取引事例比較法・原価法・収益還元法)と、事故物件の告知の決まりを、神託だけで値を決める異世界の王国に置きかえて描いています。

制作に生成 AI を使用。企画・編集:H株式会社・利用ガイド

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