第1話「値なしの宿」

その土地、いくらですか。
――そう聞かれるのが、
俺の仕事だった。

現地調査メモ前面道路の幅:3.8メートル(4メートルに足りない)
値は、勘で決めるものじゃない。
道の幅、日当たり、
近くで売れた値。
確かめた事だけが、値になる。

最後に測ったのは、
道の幅だった。

目を開けると、
俺は十八歳の測量見習いで、
ここは、神様が
土地の値を決める国だった。

町の測量所の見習い(前世は不動産鑑定士)ケイ

取り立て役:値なしの宿だ。
銀貨三十枚でも、
ありがたく思え。

宿〈月見鳥亭〉の娘リタ
リタ:父さんの宿を、
そんな値で
売るもんか!

大神殿 値の神託|月見鳥亭(宿と土地)値:なし
この国では、土地の値は、
大神殿の神託だけで決まる。
魔物の出た家に、
神託は値を告げない。
値の告げられない土地には、
誰も金を貸さず、
誰も買わない。

ケイ:値の無い土地なんて、無い。
値の分からない土地が、
あるだけだ。
――査定書を開きます。対象:月見鳥亭の土地記入できるのは、あなたが確かめた事だけです。

ケイ:三日ください。
この宿の土地の値を、
俺が出します。
取り立て役:神託でもない小僧が、
どうやって
値を出す!
ケイ:近所で、最近
いくらで売れたかを
調べます。

商業ギルドの〈売買の帳〉。
この町で、いつ、どの土地が、
いくらで売れたか。
――誰も読まない帳だ。
取引事例比較法近くで最近売れた土地の値を集め、売れた時の事情・時期・土地の条件の違いを直してから、対象の土地と比べて値を出す。
前の世界では、
近くで売れた値を、
国が誰でも見られる形で
出していた。

リタ:同じ通りの粉屋の跡、
銀貨四百枚で
売れてる……!
ケイ:でも、一件だけじゃ
決められない。

記録係:鍛冶屋の家と、
隣の通りの雑貨屋。
帳を読みに来た子は、
四十年で初めてだよ。
査定書|集めた取引事例(町割りで、区画の広さは同じ)① 粉屋の跡・同じ通り 半年前 銀貨400枚② 鍛冶屋の家・同じ通り 半年前 銀貨280枚③ 雑貨屋・隣の通り 二年前 銀貨380枚

ケイ:②は安すぎる。
鍛冶屋は借金の取り立てで、
急いで売ってる。
事情補正売り急ぎ・買い急ぎなど、特別な事情で値がずれた取引は、普通の取引の値に直す。② 借金で急いで売った(記録係の話では、相場の七割ほど)② 280枚 → 400枚
リタ:③は二年前だけど……
ケイ:街道が通ってから、
この町の土地は、
この二年で一割上がった。
帳の値を並べると、そうなる。
時点修正売れた時と今とで値の水準が変わっていれば、今の値に直す。③ 二年前の取引。この二年で一割上がった③ 380枚 → 418枚

ケイ:最後に、
土地そのものの違いを比べる。
月見鳥亭は、
広い通りの角だ。
地域要因・個別的要因の比較道の幅、角地かどうか、日当たり、水の便など、通りと土地の条件の違いを比べて直す。③ 隣の細い通り −5%月見鳥亭は角地 +5%(どちらも、帳に並んだ値の差から)

査定書|月見鳥亭の土地① 400枚 → 420枚② 280枚 → 400枚 → 420枚③ 380枚 → 418枚 → 417枚比準価格:銀貨 約420枚
取り立て役:四百二十……!?
神託は
値なしだぞ!
ケイ:神託は、値を告げない。
でも、隣で売れた値は、
嘘をつかない。
ただし、この値には、
まだ引いていない物がある。

宿を開く場所を探す元冒険者ドーラ
ドーラ:その値の理由、
全部聞いた。
話に乗ってもいい。

グラナート商会の主ベルント・グラナート
ベルント:値なしに値を付ける小僧、か。
……神殿に、
知らせておけ。

ドーラ:ただし。
ドーラ:この宿で、
人が死んだそうだね。

値なしの土地、査定します
第1話「値なしの宿」終


