第2話

第2話「喪主は、誰がやる」

夜の和室。ろうそくの明かりの中、布団に眠る父のそばで、膝を抱えて座る小春。

その夜は︑
眠れなかった︒

父の顔は︑
五年前より
小さかった︒

ろうそくの小さな火と、細く立ちのぼる線香の煙。「ジ…」の描き文字。

小春:お父さん︑
三百人って︑
何︒

朝の港町。漁船の並ぶ港のそばに建つ、古い二階建ての家。

金曜︒
父が亡くなって︑
二日目︒

朝の居間。低い机を囲む叔父・母・小春と、書類を広げる柏木。

柏木:最初に︑
決めていただきたいのが︑
喪主です︒

喪主の解説

現実の事実葬儀を主宰する遺族の代表です。葬儀社との打ち合わせで日程や葬儀の形を決め、通夜・葬儀で弔問を受け、挨拶をします。誰がなるかを決めた法律はなく、故人の希望や家族の話し合いで決めます。

喪主は一人でないといけない?
法律の決まりはありません。兄弟姉妹が連名で務めることもあります。

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大柄な叔父が、自分の胸を親指で指して大声を出している。

勝:篠原の本家に︑
長男はおらん︒
なら︑弟の俺だろ!

勝:︙︙いや︑待て︒
澄江さんか︒
妻だもんな︒

湯のみを持つ母の手が震えている。うつむいた母の顔の寄り。

澄江:私は︙︙無理よ︒
人の前で
挨拶なんて︒
声が出ない︒

小春:︙︙喪主って︑
法律で
決まってるんですか︒

手のひらを上に向け、落ち着いて説明する柏木。

柏木:決まりは︑
ないんです︒
故人さんのご希望と︑
ご家族の話し合いで
決めます︒

柏木:僕が見てきたのは︑
奥さまか︑
お子さんが
なさる式が
ほとんどでした︒

勝:墓はどうする︒
仏壇は︒
継ぐのは喪主だろ︒

柏木:お墓や仏壇を継ぐ人は︑
民法に別の決まりが
あります︒
喪主と同じ人でなくても
いいんです︒

祭祀承継者(お墓・仏壇を継ぐ人)の解説

現実の事実系譜・祭具(仏壇など)・墳墓(お墓)は、相続財産とは別に、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき人が継ぎます。故人が指定していればその人が継ぎ、慣習がはっきりしない時は家庭裁判所が決めます(民法第897条)。

喪主と祭祀承継者は同じ人?
同じでなければならない決まりはありません。喪主は葬儀の代表、祭祀承継者はお墓・仏壇などを継ぐ人で、別の決まりです。

出典

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柏木:それと︙︙
守さんの生前の
見積もりに︑
喪主の欄が
あって︒

書類の「喪主」の欄に、手書きの名前(読めない走り書き)と父の印。

生前見積もり お申込書(6年前)喪主(予定) 篠原 小春(長女)

目を見開き、怒りがこみ上げる小春の顔の寄り。

小春:――勝手に︒

小春:五年︑話も
してないのに︒
運動会にも︑
来なかったくせに︒

回想(鉛筆のセピア)。入学式の校門の前で、母と手をつないで立つ少女。隣に父はいない。

入学式の写真に︑
父はいない︒
撮っていたのが
母だったから︑
母もいない︒

小春:無理です︒
私︑東京で
仕事もあるし︑
葬儀なんて
何も知らない︒

柏木:何も知らない方が︑
喪主をなさるんです︒
たいてい︒

柏木:喪主のお仕事は︑
これくらいです︒
分からないところは︑
全部︑僕が︒

喪主がすること(つばめ葬祭)・葬儀社との打ち合わせ(日程・葬儀の形・見積もり)・お寺など宗教者への連絡・親族・知人への知らせ・通夜・葬儀で弔問を受ける、挨拶をする・火葬に立ち会う・費用の支払い(施主を兼ねる時)

小春:施主?

柏木:費用を出して︑
葬儀を支える人を︑
施主と呼ぶことが
あります︒
喪主が兼ねることが
多いですね︒

喪主と施主の違いの解説

現実の事実どちらも法律で決められた言葉ではありません。一般に、喪主は葬儀を主宰し弔問を受ける遺族の代表、施主は葬儀の費用を負担し運営を支える人を指します。家族の葬儀では喪主が施主を兼ねることが多く、会社が費用を出す社葬では会社が施主になります。

法事の施主は?
葬儀の後の法要(四十九日など)を営む人を施主と呼ぶことも多く、喪主と同じ人がなるとは限りません。

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勝:女の喪主なんて︑
聞いたことが――

柏木:決まりはないです︒
娘さんが喪主の式︑
僕︑何度も
お手伝いしました︒

澄江:勝さん︒
令和よ︒

勝:︙︙おう︒

玄関の土間で、電話を耳に当て、小さく頭を下げる小春の後ろ姿。

小春:はい︑父が︒
︙︙はい︒
来週の現場は︑
進行表を
送っておきます︒

玄関に並んだ、かかとのすり減った黒い革靴。

玄関に︑
父の仕事の靴があった︒
かかとが︑
斜めに減っていた︒

回想(鉛筆のセピア)。黒い礼服の父が、泣き崩れる遺族に深く頭を下げている。

誰かの家族が︑
父を待っていた︒
あの朝も︑
あの朝も︒

隣の部屋で、父のシャツをたたむ母の小さな背中。戸口からそれを見ている小春。

澄江:お父さんね︑
ボタンが取れても︑
自分で
つけてたのよ︒
仕事の時だけは︒

小春:︙︙今︑
待ってる家族は︑
私たちだ︒

机の前で立ち上がり、決意した顔でこちらを見下ろす小春。

小春:私が︑
やります︒
喪主︒

はげ頭をかいてぶつぶつ言う叔父。その後ろで小さくほほえむ柏木。

勝:︙︙兄貴の娘だな︒
言い出したら︑
聞かん顔だ︒

柏木:守さんに︑
似てます︒

小春:似てない︒
――たぶん︒

二頁目の裏に︑
父の字があった︒

喪主は、小春に頼む。理由は、三頁目に書く。三頁目は、喪主が決まったら開け。

テープの封をはがして開いた手帳の三頁目。父の太い字の走り書き(読めない)。

三頁目小春を喪主にした理由。お前は、段取りの人間だからだ。俺に似て。

小春:︙︙似てないって︒

喪主の最初の仕事。見積もりを、疑え。俺の会社の見積もりでもだ。

低い机の上で、厚い見積書を小春の方へそっと滑らせる柏木の白い手袋の手。

柏木:守さんの︑
生前のお見積もりです︒
六年前の︒

御見積書 つばめ葬祭一般葬(参列 三百名想定)合計 ―――――

書類を見て、仕事の時の目つきに変わる小春の目の寄り。

小春:︙︙一式︑
一式︑
一式︒

小春:お父さん︒
これ︑
業者の見積もりなら︑
私︑突き返すよ︒

父の葬儀は、父が仕切る

第2話「喪主は、誰がやる」終

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この話で分かること

喪主とは? 何をする?(喪主 やること)

喪主は、葬儀を主宰する遺族の代表です。葬儀社との打ち合わせ(日程・葬儀の形・見積もり)、お寺など宗教者への連絡、親族・知人への知らせ、通夜・葬儀で弔問を受けることと挨拶、火葬への立ち会いなどを担います。費用の支払いを兼ねることもあります。

条件・例外

やることや作法は、宗教・宗派・地域で違います。葬儀社と分担を確かめましょう。

喪主はどう決める? 法律で決まっている?

喪主を誰にするかを決めた法律はありません。故人の希望と家族の話し合いで決め、配偶者や子が務めることが多いです。お墓や仏壇を継ぐ人(祭祀承継者)は、民法第897条で、故人の指定か慣習に従って決まると別に定められています。

物語との違い

作中では、父が生前の見積もりに喪主を書いていましたが、引き受けるかは小春が自分で決めています。

喪主と施主の違いは?

どちらも法律の言葉ではありません。一般に、喪主は葬儀を主宰し弔問を受ける遺族の代表、施主は費用を負担し運営を支える人を指します。家族の葬儀では喪主が施主を兼ねることが多く、社葬では会社が施主になります。

娘や女性が喪主になってもいい?

構いません。喪主の性別や続柄を決めた法律はありません。長男がいない、配偶者が高齢で務めにくいなど、家族の事情に合わせて決めます。

この話の用語

喪主漫画の中で見る
現実の事実葬儀を主宰する遺族の代表です。葬儀社との打ち合わせで日程や葬儀の形を決め、通夜・葬儀で弔問を受け、挨拶をします。誰がなるかを決めた法律はなく、故人の希望や家族の話し合いで決めます。
祭祀承継者(お墓・仏壇を継ぐ人)漫画の中で見る
現実の事実系譜・祭具(仏壇など)・墳墓(お墓)は、相続財産とは別に、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき人が継ぎます。故人が指定していればその人が継ぎ、慣習がはっきりしない時は家庭裁判所が決めます(民法第897条)。
喪主と施主の違い漫画の中で見る
現実の事実どちらも法律で決められた言葉ではありません。一般に、喪主は葬儀を主宰し弔問を受ける遺族の代表、施主は葬儀の費用を負担し運営を支える人を指します。家族の葬儀では喪主が施主を兼ねることが多く、会社が費用を出す社葬では会社が施主になります。

出典

更新日:

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この話のあらすじ

父・守が亡くなって二日目の朝。つばめ葬祭の柏木は、最初に喪主を決めてほしいと言う。叔父の勝は「長男がおらんなら弟の俺だ」と言い、母の澄江は人前で挨拶する自信がない。喪主は法律で決まっていない。お墓や仏壇を継ぐ人は民法に別の決まりがあり、喪主と同じ人でなくてもよい。父が六年前に預けた生前の見積もりの喪主の欄には、小春の名前があった。勝手に決められたことに小春は反発するが、柏木から喪主のすることを聞き、玄関のすり減った父の靴と、父のシャツをたたむ母の背中を見て、喪主を引き受ける。三頁目には、小春を喪主にした理由と、最初の仕事が書いてあった。見積もりを、疑え。父の会社の見積もりでもだ。

作者

ka2uma

縦読み漫画の作者

仕事の現場を題材に、台本から縦読み漫画を作っています。

この作品について

初めて喪主を務める人が知っておきたい、亡くなってから火葬までの流れ、喪主の役目、見積書の見方、家族葬・一日葬・直葬の違い、死亡届と火葬許可を、葬儀屋だった父の段取り帳を手がかりに描いています。決まりは法令と公的機関の資料で確かめ、見積もりの額は作中の値です。作法は宗派・地域で違います。

制作に生成 AI を使用。企画・編集:H株式会社・利用ガイド

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