第2話「喪主は、誰がやる」

その夜は︑
眠れなかった︒
父の顔は︑
五年前より
小さかった︒

小春:お父さん︑
三百人って︑
何︒

金曜︒
父が亡くなって︑
二日目︒


勝:篠原の本家に︑
長男はおらん︒
なら︑弟の俺だろ!
勝:︙︙いや︑待て︒
澄江さんか︒
妻だもんな︒

澄江:私は︙︙無理よ︒
人の前で
挨拶なんて︒
声が出ない︒
小春:︙︙喪主って︑
法律で
決まってるんですか︒

柏木:決まりは︑
ないんです︒
故人さんのご希望と︑
ご家族の話し合いで
決めます︒
柏木:僕が見てきたのは︑
奥さまか︑
お子さんが
なさる式が
ほとんどでした︒
勝:墓はどうする︒
仏壇は︒
継ぐのは喪主だろ︒
柏木:それと︙︙
守さんの生前の
見積もりに︑
喪主の欄が
あって︒

生前見積もり お申込書(6年前)喪主(予定) 篠原 小春(長女)

小春:――勝手に︒
小春:五年︑話も
してないのに︒
運動会にも︑
来なかったくせに︒

入学式の写真に︑
父はいない︒
撮っていたのが
母だったから︑
母もいない︒
小春:無理です︒
私︑東京で
仕事もあるし︑
葬儀なんて
何も知らない︒
柏木:何も知らない方が︑
喪主をなさるんです︒
たいてい︒
柏木:喪主のお仕事は︑
これくらいです︒
分からないところは︑
全部︑僕が︒
喪主がすること(つばめ葬祭)・葬儀社との打ち合わせ(日程・葬儀の形・見積もり)・お寺など宗教者への連絡・親族・知人への知らせ・通夜・葬儀で弔問を受ける、挨拶をする・火葬に立ち会う・費用の支払い(施主を兼ねる時)
小春:施主?
勝:女の喪主なんて︑
聞いたことが――
柏木:決まりはないです︒
娘さんが喪主の式︑
僕︑何度も
お手伝いしました︒
澄江:勝さん︒
令和よ︒
勝:︙︙おう︒

小春:はい︑父が︒
︙︙はい︒
来週の現場は︑
進行表を
送っておきます︒

玄関に︑
父の仕事の靴があった︒
かかとが︑
斜めに減っていた︒

誰かの家族が︑
父を待っていた︒
あの朝も︑
あの朝も︒

澄江:お父さんね︑
ボタンが取れても︑
自分で
つけてたのよ︒
仕事の時だけは︒
小春:︙︙今︑
待ってる家族は︑
私たちだ︒

小春:私が︑
やります︒
喪主︒

勝:︙︙兄貴の娘だな︒
言い出したら︑
聞かん顔だ︒
柏木:守さんに︑
似てます︒
小春:似てない︒
――たぶん︒
二頁目の裏に︑
父の字があった︒
喪主は、小春に頼む。理由は、三頁目に書く。三頁目は、喪主が決まったら開け。

三頁目小春を喪主にした理由。お前は、段取りの人間だからだ。俺に似て。
小春:︙︙似てないって︒
喪主の最初の仕事。見積もりを、疑え。俺の会社の見積もりでもだ。

柏木:守さんの︑
生前のお見積もりです︒
六年前の︒
御見積書 つばめ葬祭一般葬(参列 三百名想定)合計 ―――――

小春:︙︙一式︑
一式︑
一式︒
小春:お父さん︒
これ︑
業者の見積もりなら︑
私︑突き返すよ︒
父の葬儀は、父が仕切る
第2話「喪主は、誰がやる」終





