第1話

第1話「午前四時十二分」

夜明け前の暗い部屋。布団の横の床で、スマートフォンが光って震えている。「ブブッ」の描き文字。

十月の︑木曜︒
午前四時十二分︒

スマートフォンに伸びる手。画面の光が指を照らす。

電話の母:小春︙︙
お父さんが︑
ね︙︙

父が死んだと︑
電話で知った︒

夜明けの海辺の小さな町。丘の上の病院と、淡い色の海。

始発の新幹線と︑
タクシーで︑三時間︒
海の町は︑
まだ眠っていた︒

夜明けの病院の廊下。大きな鞄を肩にかけ、息を切らして立つ女性。

イベント制作会社・進行管理(東京)篠原 小春(31)

病室。顔に白い布をかけられた人の横で、小柄な母がその大きな手を握っている。

小春の母篠原 澄江(62)

澄江:夜中に︑
胸が苦しいって︒
病院で︑手を
尽くしてもらった
けど︙︙

小春:︙︙お父さん︒

五年︑
会っていなかった︒
最後に話したのは︑
電話で三分︒

病室の入口で、看護師がクリップボードを持ち、静かに話しかけている。

看護師:ご愁傷さまです︒
お迎えの葬儀社さんは︑
お決まりですか︒

看護師:こちらで︑
ご紹介もできます︒
お部屋は︑朝のうちに
空けていただけると
助かるのですが︙︙

言葉を失って固まる小春の顔の寄り。

小春:葬儀社︒
今?
何を︑どこに︑
どの順番で――?

回想(鉛筆のセピア)。小学校の運動会。体操服の少女が、保護者の列の空いた場所を見ている。

父は︑葬儀屋だった︒

運動会にも︑
卒業式にも︑
来なかった︒
いつも︑
誰かのお葬式だったから︒

回想(鉛筆のセピア)。夜明けの玄関で、黒い礼服の父が靴を履く。廊下から、パジャマの少女が見ている。

小春の父・つばめ葬祭の葬祭ディレクター篠原 守

父:行ってくる︒
ご家族が︑
待ってるんだ︒

澄江:小春︒
これ︑お父さんの
鞄に入ってたの︒

母の両手が差し出す、使い込まれた厚い手帳。輪ゴムと、たくさんの付箋、頁の束ごとに貼られたテープの封。

段取り帳 自分の分篠原 守

澄江:「小春に渡せ」って︑
表に︒

病院の待合の椅子で、膝の上の手帳を開く小春。窓からの朝の光。

小春へ。俺が死んだら、一頁目から順に開け。先の頁は、書いてある時が来るまで開けるな。

一頁目一、まず、深呼吸。二、病院に急かされても、葬儀の中身は決めなくていい。  搬送だけ、つばめ葬祭の柏木に頼め。番号は裏表紙。三、医者から、死亡診断書を受け取れ。

搬送と安置の解説

作中の世界の決まり作中では、父が勤めていた葬儀社に搬送を頼みます。葬儀もそこに頼むかは、見積もりを見て決めます。

現実の事実病院などで亡くなると、ご遺体を自宅や葬儀社の安置施設へ移し(搬送)、葬儀まで休ませます(安置)。搬送は急いで頼むことが多いですが、その時に葬儀の中身や依頼先まで決める必要はありません。国民生活センターは、見積書を受け取って明細を確かめ、前もって複数の葬儀社を比べるよう呼びかけています。

搬送のあとで、ほかの葬儀社に頼み直せる?
頼み直すことはできますが、搬送の費用を求められた相談事例があります(国民生活センター)。搬送を頼む時に、搬送・安置の料金と、葬儀を別に頼んだ場合の扱いを確かめておくと安心です。

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死亡診断書と死亡届の解説

現実の事実死亡届の用紙は、医師が書く死亡診断書(または死体検案書)と一体になっています。死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡地・本籍地・届出人の所在地のいずれかの市区町村に出します。手数料はかかりません。

死亡届を出せる人は?
同居の親族などに届出の義務があり、同居していない親族も届け出ることができます(戸籍法第87条)。

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小春:︙︙死んでも︑
段取りか︒

目を閉じて深く息を吸い、スマートフォンを耳に当てる小春。

小春:︙︙もしもし︒
つばめ葬祭の︑
柏木さんですか︒
篠原守の︑
娘です︒

早朝の病院の裏口。ツバメの小さな印だけの濃い灰色の寝台車。その前で深く頭を下げる背の高い青年。
白い手袋の背の高い青年が、悲しみをこらえた真剣な目でこちらを見る。

つばめ葬祭・葬祭スタッフ(守の後輩)柏木 蓮(26)

柏木:守さんを︑
お迎えに
上がりました︒

柏木:搬送と︑ご自宅での
安置まで︑まず
お引き受けします︒

柏木:葬儀をうちで
なさるかどうかは︑
見積もりを見てから
決めてください︒

小春:︙︙父の会社
なのに?

柏木:守さんの︑
教えです︒
「急がせて決めさせた
葬式は︑
一生︑後悔が残る」って︒

朝日の海沿いの道を走る寝台車。漁港と、光る海。

父は︑
父が三十八年
通った道を︑
家へ帰った︒

朝の光が障子から差す和室。白い布団に寝かされた父と、枕元の小さな机のろうそく・線香・白い小菊。そばに座る母。

柏木:枕元は︑
このくらいで︒
お線香は︑
絶やさなくても
大丈夫です︒

澄江:そう︙︙
お父さん︑
夜通し番をしろって︑
よく人に
言われてたけど︒

柏木:今は︑
眠ってください︒
明日から︑
長いので︒

低い机をはさんで、正座した柏木が紙を見せながら、小春と母に説明している。

柏木:ここから先の︑
流れです︒

これからの流れ(つばめ葬祭)① 安置(今ここ)② 打ち合わせ 喪主・日程・葬儀の形・見積もり③ 死亡届を出し、火葬許可証を受け取る④ 納棺⑤ 通夜⑥ 葬儀・告別式⑦ 出棺・火葬

柏木:火葬は︑亡くなってから
二十四時間たたないと︑
できない決まりです︒
なので早くても︑
明日の朝より後です︒

火葬は死亡から24時間たってからの解説

現実の事実法律(墓地、埋葬等に関する法律 第3条)で、火葬は死亡後24時間を経過した後でなければ行ってはならないと決まっています。火葬には、市区町村長が出す火葬許可証も要ります。

火葬許可証はどこでもらう?
死亡届を受理した市区町村長が火葬を許可し、火葬許可証を交付します(同法第5条・第8条)。火葬場は火葬許可証を受け取った後でなければ火葬できません(同法第14条)。

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小春:進行表だ︒
父の仕事の︑
進行表︒

柏木:小春さんは︑
イベントの進行を
なさってるって︒
守さん︑
自慢してました︒

小春:︙︙知らない︒
そんな話︑
一度も︒

玄関の戸を開けて飛び込んでくる大柄な赤ら顔の男。紺の作業ジャンパー、泣き顔。「ガラッ」の描き文字。

守の弟・漁協勤め篠原 勝(60)

勝:兄貴ぃ!
なんで先に
行っちまうんだよぉ!

勝:︙︙で︑
喪主は誰だ︒
篠原の家には︑
男がおらんだろ︒

澄江:勝さん︑
今それ︙︙

小春:喪主︒
――それも︑
誰かが決めるのか︒

段取り帳の︑
一頁目の終わりに︑
こう書いてあった︒

搬送が済んだら、二頁目を開け。

小春の指が、手帳の頁の束を留めたテープの封をはがす。

二頁目俺の葬式は、もう決めてある。つばめ葬祭に、生前の見積もりを預けてある。一般葬。参列、三百人。

澄江:︙︙三百人?

柏木:お預かり︑
しています︒
六年前に︒

夕方の和室。ろうそくの暖かい光の中、手帳を胸に抱いて前を見る小春。

小春:お父さん︒
あなたの葬式︑
誰が仕切るの︒

父の葬儀は、父が仕切る

第1話「午前四時十二分」終

この作品を読んだあなたへ

この話で分かること

葬儀までの流れは? 亡くなってから火葬まで何をする?

一般的には、医師から死亡診断書を受け取る → 葬儀社に頼んでご遺体を自宅や安置施設へ搬送・安置 → 葬儀社と打ち合わせ(喪主・日程・葬儀の形・見積もり)→ 死亡届を出して火葬許可証を受け取る → 納棺 → 通夜 → 葬儀・告別式 → 出棺・火葬、の順に進みます。

条件・例外

内容や順序は宗教・宗派・地域で違います。通夜をしない一日葬や、式をせず火葬だけの直葬もあります。

亡くなってすぐに火葬できる?

できません。墓地、埋葬等に関する法律 第3条で、死亡後24時間を経過した後でなければ火葬してはならないと決まっています。火葬には、死亡届を受理した市区町村長が出す火葬許可証も要ります。

病院で紹介された葬儀社に決めないといけない?

決めなくても構いません。病院から搬送を急がされることはありますが、葬儀をどこにどう頼むかは見積書を見てから決められます。国民生活センターは、見積書を必ず受け取って明細を確かめること、前もって複数の葬儀社を比べること、打ち合わせは複数人で行うことを呼びかけています。

条件・例外

搬送の後に依頼をやめると、搬送の費用を求められることがあります。搬送を頼む時に、搬送・安置の料金を確かめておきましょう。

物語との違い

作中では父の勤め先に搬送を頼みますが、葬儀をそこに頼むかは見積もりを見て決めることにしています。

死亡届はいつまでに、どこへ出す?

死亡の事実を知った日から7日以内(国外で亡くなった時は3か月以内)に、死亡地・本籍地・届出人の所在地のいずれかの市区町村へ出します。届書は死亡診断書(死体検案書)と一体の用紙です。

この話の用語

搬送と安置漫画の中で見る
作中の世界の決まり作中では、父が勤めていた葬儀社に搬送を頼みます。葬儀もそこに頼むかは、見積もりを見て決めます。
現実の事実病院などで亡くなると、ご遺体を自宅や葬儀社の安置施設へ移し(搬送)、葬儀まで休ませます(安置)。搬送は急いで頼むことが多いですが、その時に葬儀の中身や依頼先まで決める必要はありません。国民生活センターは、見積書を受け取って明細を確かめ、前もって複数の葬儀社を比べるよう呼びかけています。
死亡診断書と死亡届漫画の中で見る
現実の事実死亡届の用紙は、医師が書く死亡診断書(または死体検案書)と一体になっています。死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡地・本籍地・届出人の所在地のいずれかの市区町村に出します。手数料はかかりません。
火葬は死亡から24時間たってから漫画の中で見る
現実の事実法律(墓地、埋葬等に関する法律 第3条)で、火葬は死亡後24時間を経過した後でなければ行ってはならないと決まっています。火葬には、市区町村長が出す火葬許可証も要ります。

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この話のあらすじ

東京でイベントの進行管理をしている篠原小春(31)は、十月の木曜の午前四時十二分、母からの電話で、五年会っていなかった父・守の死を知る。海辺の町の病院で、看護師に「お迎えの葬儀社はお決まりですか」と聞かれ、何も決められない。母が渡したのは、葬儀屋一筋三十八年の父が書いた「段取り帳 自分の分」。一頁目には「病院に急かされても、葬儀の中身は決めなくていい。搬送だけ柏木に頼め」。父の後輩・柏木は、搬送と安置まで引き受け、葬儀を頼むかは見積もりを見て決めてほしいと言う。家に帰った父の枕元で、柏木は火葬までの流れを示す。火葬は亡くなってから二十四時間たたないとできない。叔父の勝は「喪主は誰だ」と言い出す。二頁目を開くと、父はもう自分の葬式を決めていた。一般葬、参列三百人。

作者

ka2uma

縦読み漫画の作者

仕事の現場を題材に、台本から縦読み漫画を作っています。

この作品について

初めて喪主を務める人が知っておきたい、亡くなってから火葬までの流れ、喪主の役目、見積書の見方、家族葬・一日葬・直葬の違い、死亡届と火葬許可を、葬儀屋だった父の段取り帳を手がかりに描いています。決まりは法令と公的機関の資料で確かめ、見積もりの額は作中の値です。作法は宗派・地域で違います。

制作に生成 AI を使用。企画・編集:H株式会社・利用ガイド

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