第2話「うちでなければ、だめな理由」

翌朝︒
駅前の喫茶店︒

ことは:私の体で︑
足を組まないで
ください!
九条:君の体は︑
足を組むと
腰が楽だ︒
中身は︑
四十前の採用課長︒
ことは:どうして︑
私を落としたんですか︒
九条:言わない︒
九条:言葉で聞いた理由は︑
たいてい︑
次の面接では
役に立たない︒
九条:君の評価票︒
③には︑何と
書いてあった?
ことは:︙︙空欄︑
でした︒

九条:書かなかったんじゃない︒
書けなかった︒
九条:君は最終面接で︑
うちに入って
何をしたいかを︑
一度も言わなかった︒

社長(二代目)雛森 千代
雛森:うちでなければ︑
だめな理由は?
ことは:御社の理念に︑
深く共感して︙︙︒
どんな部署でも︑
頑張れます︒
九条:「どこでも頑張れる」は︑
「うちでなくてもいい」と
聞こえる︒


柚木:課長が見たいって
言ってた︑
去年の最終面接の
評価票です︒

去年の最終面接 通った人の評価票 ③ 入社後にしたい事「工場で見た包装の工程を、ごみが減る形に変えたい」「地方のお店で売れ残る理由を、自分で確かめたい」「くるみ最中を、留学先の友だちの国で売りたい」
ことは:みんな︑
この会社の︑
具体的な何かを
言ってる︒
ことは:私は︑どの会社でも︑
同じ答えだった︒
柚木:社長の口ぐせですよね︒
「うちでなければ︑
だめな理由は?」
柚木:あれ︑正解は
無いんです︒
答えの中に
「その人」がいるかを
見てるって︒

九条(早瀬ことはの番号)明日10時、ハナミズキ書房の最終面接。君の体で行く。③を、君の言葉で書いて送れ。俺には書けない。
ことは:私の︑
言葉︙︙︒

夜︒
九条さんの部屋︒
ことは:何がしたいかなんて︑
考えないように
してた︒
ことは:本気で考えて
落ちたら︑
もっと痛いから︒

大学一年から︑
月に一度︑
小児病棟で
絵本を読んでいた︒
男の子:この本︑
どこで売ってるの?
ぼく︑本屋さん
行けない︒

③ 入社後にしたい事(早瀬ことは)病院の売店に、子どもが自分で選べる絵本の棚をつくりたい。本屋さんに行けない子にも、本を選ぶ楽しさを届けたい。
ことは:︙︙これ︑
お菓子の会社の
面接では︑
言えなかった︒
本当にしたい事が︑
あの会社には
無かった︒
だから︑③は
空欄だった︒

ハナミズキ書房の面接官:当社でなければ︑
だめな理由は?
九条:病院の売店に︑
子どもが自分で選べる
絵本の棚を
つくりたいからです︒

九条:小児病棟で︑
本屋に行けない子に
聞かれました︒
「この本︑どこで
売ってるの」と︒
九条:御社は去年から︑
病院の売店に
本を届けている︒
私は︑その棚を
やりたいんです︒


柚木:課長︑今日︑
ずっとスマホ
見てますね︒
︙︙恋ですか?
ことは:ち︑
違います!


九条:最終︑通った︒
来週︑内定の
連絡が来る︒
ことは:ほんとに︙︙!?
九条:君の③が
良かった︒
俺の答えじゃない︒
九条:――それで︒
内定は︑
受けるつもりだ︒

ことは:待ってください!
九条:戻り方が分からないまま︑
君の体で卒業を
迎えるかもしれない︒
働く場所は︑要る︒

ことは:勝手に︑
私の人生を︑
決めないで︒

本当にしたい事を︑
やっと言葉にした︒
その言葉で︑
私じゃない誰かが︑
受かった︒
お祈りの裏側 〜面接官になった就活生は、落ちた理由を知りたい〜
第2話「うちでなければ、だめな理由」終





