第1話

第1話「三十一通目のお祈り」

夜の小さなアパートの部屋。壁に就活のスーツが掛かり、机の上のノートパソコンの光が、女子学生の顔を照らしている。

大学4年・就職活動中早瀬 ことは

十月︒
夜の十一時︒

【選考結果のご連絡】株式会社くるみ座製菓 人事部慎重に選考を重ねました結果、誠に残念ながら、今回はご希望に添えない結果となりました。今後のご活躍を、心よりお祈り申し上げます。

ことは:三十一通目の︑
お祈り︒

机の上のノート。会社の名前がびっしり並び、すべてに線が引かれている。

最終面接まで︑行った︒
手応えも︑あった︒

ことは:何が︑
だめだったの︒
理由だけでも︑
教えてよ︙︙︒

回想。最終面接の部屋。机の向こうに面接官が三人。真ん中の眼鏡の男は、手元の板に何かを書き、顔を上げない。

ことは:御社の︑
人を笑顔にする
お菓子づくりに
共感して︙︙︒

あの時︑
真ん中の面接官は︑
一度も顔を上げなかった︒

机に突っ伏して眠る女子学生。頬に涙のあと。パソコンの光だけが残る。
朝のオフィス街。くるみの形の飾りを掲げた中くらいのビルに、社員たちが入っていく。

目が覚めたら︑
知らない会社の
洗面所にいた︒

洗面所の鏡に映る、眼鏡をかけた背の高い中年の男。目を見開いて、自分の頬を両手でつかんでいる。

ことは:︙︙誰!?

私を落とした︑
真ん中の面接官だった︒

採用課長(中身:ことは)九条 透

茶髪のボブに黄色いカーディガンの若い女性社員が、板の端末を抱えて、にこやかにのぞき込んでいる。

人事部 採用担当柚木 まどか

柚木:課長︑九時半から
一次面接です︒
今日は三人︒
岩城部長が︑もう
お部屋でお待ちです︒

ことは:面接︙︙
する側!?

面接の部屋。長い机の端で、大柄で日焼けした角刈りの男が、腕を組んで座っている。

営業部長・面接官岩城 剛

岩城:九条くん︑遅いぞ︒
今年の一次は︑
三人に一人まで絞れと
社長のお達しだ︒

男の大きな手が、板の端末を持っている。画面には表のような枠が並ぶ(文字は読めない)。

一次面接 評価票① 結論から話せるか② 自分で動いた事実があるか③ 入社後にしたい事があるかそれぞれ A・B・C・D で評価

評価の物差しは︑
面接の前から
決まっていた︒

面接の評価基準の解説

現実の事実面接で応募者を評価するための項目と目盛りのことです。厚生労働省は、面接の質問事項と評価基準をあらかじめ決め、仕事に必要な適性・能力を、できるだけ客観的かつ公正に評価するよう企業に求めています。

面接官が複数いる時は?
厚生労働省の特設サイトは、複数の面接担当者で面接する場合、全員が公正な採用選考の考え方に沿って対応できるよう、前もって確認して意思統一を図るよう求めています。

出典

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ドアを開けて入ってくる、ひょろりと背の高いくせ毛の男子学生。緊張で体がこわばり、深く頭を下げる。

応募者・理工学部4年日下部 樹

岩城:学生時代に
力を入れたことを︑
どうぞ︒

樹:は︑はい︒
大学祭で︑
みんなで協力して︑
模擬店を︑
成功させました︙︙︒

眼鏡の男(中身はことは)が、隣の岩城の手元のあたりを見て息をのむ。何もない空中から、青い光が男の顔を照らす。「ピッ」の描き文字。

〈評価票〉岩城 剛 の手元② 自分で動いた事実:D「みんなで」ばかり。本人が何をしたか不明

ことは:見える︙︙︒
岩城部長が︑
いま書いてる評価が︒

〈評価票〉は、面接官が手元に書いた事だけを映す。書かれなかった事は、映さない。

ことは:「みんなで
協力して」︙︙︒
私も︑何十回も
言った︒

回想。いくつもの会社の面接の部屋で、リクルートスーツのことはが同じ笑顔で話している。面接官の顔はどれもぼやけている。

ことは:私が落ちた理由︑
これだったの︙︙?

〈評価票〉岩城 剛 の手元総合:D 次の面接へは上げない

ことは:待って︒
この人︑まだ
何も話してない︒

眼鏡の男の顔の大写し。中身のことはの決意が、まっすぐな目に出ている。

ことは:日下部さん︒
その模擬店で︑
あなたが自分の手で
やった事を︑
一つだけ︒

樹が一瞬かたまり、それから両手で数を数えるような身ぶりで話しはじめる。

樹:︙︙仕入れの数を︑
決めました︒
去年までの売上の
記録を三年分さがして︑
天気と並べて︒

樹:雨の日は
半分しか売れないので︑
前の日に仕入れを
半分にして︙︙
売れ残りを︑
ゼロにしました︒

岩城の太い指のペンが止まり、書いた記号に線を引いて、横に書き直している。

〈評価票〉岩城 剛 の手元② 自分で動いた事実:D → B「記録から数を決めた。売れ残りゼロ」

岩城:︙︙ほう︒
最初から
それを言え︒

同じ話でも︑
「自分が何をしたか」が
出てくるかどうかで︑
物差しの目盛りが変わる︒

夕方の会議室。ホワイトボードに名前の札が三枚。岩城、柚木、眼鏡の男が机を囲む。窓の外は夕焼け。

夕方︒
合否の会議︒

一次面接 合否会議応募者 3名 → 二次面接へ 1名

岩城:日下部は︑
話が下手だ︒

ことは:でも︑②はBです︒
自分で記録を探して︑
数を決めて︑
結果を出してる︒

柚木:課長が学生の
肩を持つなんて︑
珍しい︙︙︒

岩城:︙︙いいだろう︒
二次へ上げる︒

日下部 樹 一次面接 通過

夜。誰もいない人事部の部屋。眼鏡の男が一人、パソコンの画面の光の前に座っている。

夜︒
誰もいない人事部︒

ことは:私の評価票も︑
ここにあるはず︒

最終面接 評価票 早瀬 ことは九条 透:① B ② B ③ ―総合:不採用理由:(消されています)

見開いた目だけの大写し。画面の光が眼鏡に映っている。

ことは:消されてる︙︙?

暗い机の上で、スマートフォンが震えて光っている。「ブブッ」の描き文字。

着信 早瀬 ことは

ことは:︙︙私の︑
番号︒

暗い部屋で、パジャマ姿の小柄な女子学生(ことはの体)が、スマートフォンを耳に当てている。表情は冷静な大人の男のよう。

九条:俺の体で︑
余計な事は
していないだろうな︒

九条:︙︙それと︒
君を落としたのは︑
俺だ︒

お祈りの裏側 〜面接官になった就活生は、落ちた理由を知りたい〜

第1話「三十一通目のお祈り」終

この作品を読んだあなたへ

この話で分かること

面接に落ちた理由は何で決まる? 面接官は何を見ている?

厚生労働省は、面接の質問事項と評価基準をあらかじめ決め、仕事に必要な適性・能力で評価するよう企業に求めています。面接官はその物差しに当てはまる根拠が答えの中にあるかを見るので、立派な言葉でも、自分が実際にした事が出てこなければ評価は付けにくくなります。

条件・例外

物差し(評価の項目)は会社ごとに違います。合否は面接官の評価だけでなく、採用する人数やほかの応募者との比べでも変わるので、落ちた理由が本人の答えだけにあるとは限りません。

物語との違い

作中の〈評価票〉の窓(ほかの面接官が書いた評価が見える)は物語の作り事です。現実の応募者には評価は見えません。

「みんなで協力して」と話すと評価されにくいのはなぜ?

面接官が知りたいのは、その場面で応募者本人が何を考え、何をしたかです。「みんなで」の話だけでは本人の行動が見えないため、評価の根拠にできません。自分がした事を一つ、数や結果と一緒に話すと伝わります。

条件・例外

チームの成果を話すこと自体は悪くありません。その中での自分の役割と行動を添えるのが大事です。

物語との違い

作中の評価項目(結論から話せるか・自分で動いた事実・入社後にしたい事)は、架空の会社「くるみ座製菓」の物です。

面接官によって評価が違うのはなぜ?

面接官それぞれが見方の違う人だからです。厚生労働省は、複数の面接担当者で面接する時は、前もって公正な採用選考の考え方を確かめ合って意思統一を図り、評価はあらかじめ決めた評価基準で、できるだけ客観的かつ公正に行うよう求めています。

条件・例外

それでも人が評価する以上、ずれは残ります。多くの会社が面接官を複数にしたり、合否を会議で決めたりするのは、一人の見方に偏らないようにするためです。

この話の用語

面接の評価基準漫画の中で見る
現実の事実面接で応募者を評価するための項目と目盛りのことです。厚生労働省は、面接の質問事項と評価基準をあらかじめ決め、仕事に必要な適性・能力を、できるだけ客観的かつ公正に評価するよう企業に求めています。

出典

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この話のあらすじ

大学4年の早瀬ことはは、最終面接まで進んだ菓子メーカー「くるみ座製菓」から、31通目の不採用通知を受け取る。理由は書かれていない。泣き疲れて眠った翌朝、ことはは、あの最終面接で真ん中に座っていた面接官・採用課長の九条透の体で目を覚ます。そのまま一次面接に座らされたことはの前に、営業部長の岩城が手元に書いている評価が、光る窓になって見えた。評価の物差しは面接の前から決まっている。結論から話せるか、自分で動いた事実があるか、入社後に何をしたいか。応募者の日下部樹は「みんなで協力して模擬店を成功させた」と話し、岩城は「本人が何をしたか不明」とDを付ける。ことはが何十回も言ってきた答えだった。ことはは樹に「あなたが自分の手でやった事を一つ」と聞き直し、売上の記録から仕入れの数を決め、売れ残りをゼロにした話を引き出す。評価はBに変わり、樹は合否の会議を経て二次面接へ進む。その夜、九条の席で自分の評価票を開くと、総合は「不採用」、理由の欄だけが消されていた。九条のスマホに、ことは自身の番号から電話が来る。声の主は言った。「君を落としたのは、俺だ」。

作者

ka2uma

縦読み漫画の作者

仕事の現場を題材に、台本から縦読み漫画を作っています。

この作品について

面接官が何を物差しに評価し、合否の会議で何が話されるかを、面接官と体が入れ替わった就活生の目で描いています。聞いてはいけない質問の決まりなど、面接の公的なルールも話の中で解説します。

制作に生成 AI を使用。企画・編集:H株式会社・利用ガイド

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