第3話

第3話「迎えに行く距離」

朝の城門広場。金獅子商会の馬車が並び、灰色の辻馬車は広場の外へ追い出されている。

城門広場を
失って、三日。

灰馬組 実車率 24% → 20%月末まで 19日

馬小屋の柱に、六枚の木の札が順番に掛けてある。札を手に取るベルタ。

ベルタ:待つ場所がないなら、
呼んでもらうしか
ないね。

筒を抱えて石畳を走るピム。

宿と施療院に、
呼び出しの札を置いた。
札を鳴らせば、
ピムが走って知らせに来る。

宿の帳場に掛けた、小さな鈴付きの木の札。「チリン」の描き文字。

ベルタ:呼ばれたら、
札の順番の馬車を出す。
それが組の決まりさ。

宿の前で、荷物を持った旅の男が足を踏み鳴らして待っている。
高い所から見た王都の通り。遠くの外れから、一台の灰色の辻馬車が長い道のりを向かってくる。

旅の男:もういい!
歩いた方が早い!

今日の呼び出し 12件迎えに着いた 7件着く前に客が帰った 5件迎えの距離(平均) 一里半

配車盤の光を見つめて、眉を寄せるチカ。

チカ:順番の馬車は、
いつも遠い。

色の抜けた記憶。配車センターの画面の地図に、呼び出しの点と、いちばん近い空車の印が光る。

前世の画面は、
いつも、
いちばん近い空車を
光らせていた。

迎えに行く間は、客を乗せていない。迎えの距離は、空で走る距離になる。迎えの時間は、客の待ち時間になる。

チカ:呼ばれたら、
いちばん近い空車を
出しましょう。

馬小屋で、ガロと若い御者たちが一斉に不満の声を上げる。

御者たち:それじゃ、
近くにいる奴ばかり
得をする!

まっすぐ前を見て答えるチカの顔。

チカ:だから、待つ場所を
刻ごとにずらします。

チカ:六台が、
王都のどこかの
いちばん近くに
いるように。

壁の王都の地図に、六つの灰色の駒が散らばって置かれている。

待つ場所(刻ごとにずらす)宿屋通り・施療院・南の市場大神殿・西の職人町・東門

宿の前に灰色の辻馬車がすぐに着き、荷物の男が驚いた顔をする。

旅の男:……もう、
来たのか。

今日の呼び出し 15件迎えに着いた 14件迎えの距離(平均) 半里

チカ:呼ばれて、
迎えに行けた割合。
これを、
九割より下げない。

前の世界では、
これをマッチング率と呼び、
国が、この割合から
車の足りない時間を数えていた。

雨上がりの夜。施療院の入口の灯りが、濡れた石畳に映る。
熱でぐったりした子どもを抱いて、施療院の戸口に立つ見習いの癒し手の娘。

施療院・見習いの癒し手ネリ

ネリ:東門の外の、
薬師の家まで!
閉門の前に!

呼び出し:施療院いちばん近い空車:ガロ(大神殿の前) 四半里

ランタンを揺らして施療院の前に滑り込むガロの馬車。「ガラガラッ」の描き文字。

ガロ:乗れ!
裏の坂を抜ける!

夜の坂道を、揺らさないように手綱を細かく操るガロの横顔。

閉門の鐘の、
半刻前。
馬車は、東門を抜けた。

翌朝、馬小屋の机に置かれた、家紋の封蝋の手紙。

ベルタ:侯爵家からだよ。
明日の閉門前、
御者を一人、
指名したいって。

ベルタ:――ガロ、だってさ。

朝の光の中で、目を丸くするガロの顔。

ガロ:俺は、組でいちばん
客に嫌われてる
御者だぞ……?

空車の王都 〜転生配車係は、馬車を空で走らせない〜

第3話「迎えに行く距離」終

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この話で分かること

迎車とは? 呼んだタクシーがなかなか来ないのはなぜ?

迎車は、呼ばれたタクシーが客のいる所まで迎えに行くことです。迎えに行く間は客を乗せていないので、迎えの距離はそのまま空で走る距離になり(実車率が下がる)、迎えの時間は客の待ち時間になります。呼ばれた所にいちばん近い空車を出し、空車をふだんから需要のある場所に散らして待たせると、両方を短くできます。

条件・例外

迎えに来てもらう時は、運賃とは別の料金として迎車料金がかかることがあります。国土交通省は2020年11月30日から、需要の増減に応じて迎車料金を変える「変動迎車料金」の申請の受け付けを始めました。全体では固定の迎車料金と変わらないように変えることなどが条件です。

タクシーのマッチング率とは?

配車の依頼に対して、車が見つかった割合です。国土交通省は2024年3月、配車アプリのデータ(2023年10〜12月)から、マッチング率90%を確保するのに足りない台数を「不足車両数」として、曜日・時間帯ごとに公表しました。東京の特別区・武三交通圏では、平日7時台〜10時台のマッチング率が78%で1,780台が不足とされました。その後、2026年2月26日時点の公表では、平日7時台〜10時台に870台が不足とされています(関東運輸局東京運輸支局)。

出典

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この話のあらすじ

付け待ちの場所を失った灰馬組は、宿や施療院に呼び出しの札を置き、呼ばれて迎えに行く仕事を始める。組頭のベルタは札の順番の馬車を出すが、遠くから向かう間に客は待ちきれずに帰り、十二件の呼び出しのうち五件を逃す。迎えに行く間は客を乗せていないので、迎えの距離はそのまま空で走る距離になり、迎えの時間は客の待ち時間になる。チカは、呼ばれたらいちばん近い空車を出し、六台の待つ場所を刻ごとにずらして、どの馬車も王都のどこかのいちばん近くにいるようにする。迎えの距離は一里半から半里に縮み、十五件の呼び出しのうち十四件に迎えが間に合う。チカはこの割合(日本でいうマッチング率)を九割に保つと決める。その夜、施療院の見習いの癒し手ネリから、熱の子どもを閉門前に東門の外の薬師へ、という呼び出しが入る。いちばん近くにいたガロが間に合う。翌朝、侯爵家から手紙が届く。明日の閉門前、御者を一人指名したい――組でいちばん客の評判が悪い、ガロを。

作者

ka2uma

縦読み漫画の作者

仕事の現場を題材に、台本から縦読み漫画を作っています。

この作品について

タクシーの配車の仕事で使う「需要を読んで車を回す」考え方を、馬車と飛竜便が走る王都に置きかえて描いています。

制作に生成 AI を使用。企画・編集:H株式会社・利用ガイド

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