第1話

第1話「雨の閉門前」

雨の金曜の深夜。配車センターの壁一面の画面に、街の地図と呼び出しの点が並ぶ。

金曜の深夜。
雨。

配車センター 待ちの依頼未配車 218件

ヘッドセットを付けた女性が、画面の地図を指さして指示を出している。

タクシー会社・配車センターの配車係(34歳)真柴 千景

千景:駅の北口、空車ゼロ。
南の車庫から
三台、回して!

雨の夜は、
誰もが車を呼ぶ。
走っている車の数は、
晴れの夜と同じなのに。

椅子から崩れ落ちる千景。外れたヘッドセット。「ガタッ」の描き文字。
雨の夕暮れの王都。城壁と大きな門、石畳を行き交う辻馬車、空を飛ぶ飛竜。

目を開けると、
石の街に、
雨が降っていた。

古い馬小屋の帳場で、帳面を前に自分の若い手を見つめる少女。

灰馬組・帳付け(前世:タクシー会社の配車係)チカ

チカ:……十七歳の、
手だ。

杖をついた老女が、戸口からこちらを見下ろしている。

灰馬組・組頭ベルタ

ベルタ:チカ、帳面は閉じな。
今夜も、
客は来やしないよ。

灰馬組。
辻馬車が六台の、
小さな組。

ずぶ濡れの大男の御者が、空の辻馬車を引いて馬小屋へ戻ってくる。

灰馬組・御者(流し二十五年)ガロ

ガロ:市場を三周した。
客なんか、
一人も歩いちゃいねえ。

チカ:雨の日に、
市場を流した……?

濡れた帳面に置いた手。その先の何もない空中が、かすかに光る。「ピ」の描き文字。

〈配車盤〉を開きます登録:灰馬組 六台空車 6 実車 0 迎車 0

チカ:……私の、
配車の画面だ。

〈配車盤〉は、今と過去だけを映す。先のことは、映さない。

チカ:先を読むのは、
配車係の仕事、か。

【灰馬組 乗車の記録(過去30日)】雨の日は、六の鐘から九の鐘の乗車が一日の半分行き先:東門が七割

閉門は、夜の九の鐘。
壁の外の外町に
住む人は、それまでに
門を出なければならない。

チカ:――終電だ。

何かに気づいたチカの目の大写し。

チカ:ガロさん、
市場じゃない。
劇場の裏口と、
大神殿の階段へ。

チカ:八の鐘の前に、
六台とも。

御者台の上から、腕を組んでチカを見下ろすガロ。

ガロ:帳付けの小娘が、
御者に指図か?

チカ:雨だと、歩いて
帰れない人が出ます。
閉門の前の一刻は、
みんな同じ方向へ動く。

チカ:客は、流して
探すんじゃない。
出てくる所で、
待つんです。

需要の山(記録からの見立て)八の鐘〜九の鐘 劇場・大神殿 → 東門雨:歩く人が減り、馬車を呼ぶ人が増える台数:晴れの日と同じ六台

雨の劇場の出口。外套をかぶった人々があふれ、通りに馬車は一台もない。

劇場の客:馬車はないのか!
門が閉まっちまう!

雨の通りに、灰色の辻馬車が列になって入ってくる。先頭の御者台にガロ。「ガラガラ」の描き文字。
辻馬車に乗り込む人々。老夫婦が御者に手を合わせる。

空車 0 実車 6 迎車 0

ガロ:……おい。
全部、埋まったぞ。

雨の夜、松明の灯る東門へ辻馬車の列が走る。門の上で鐘が鳴る。「ゴォン」の描き文字。

九の鐘が鳴るまでに、
六台は二度ずつ、
東門を往復した。

夜の馬小屋。机の上の銀貨を数えて目を丸くするベルタと、濡れた外套のまま黙って立つガロ。

ベルタ:晴れの日の、
四日分だよ……。

ガロ:勘じゃねえな。
あれは。

チカ:記録です。
雨と、閉門。
客が出る時間と場所は、
毎回、だいたい同じ。

ろうそくの横に置かれた、封蝋つきの手紙。

御者ギルド 通達実車率が三割に満たない組は、月末をもって営業札を返すこと。

灰馬組 今月の実車率 18%月末まで 30日

ろうそくの光に照らされ、口元を引き締めて前を見るチカ。

チカ:三割。
――配車係の、
仕事だ。

空車の王都 〜転生配車係は、馬車を空で走らせない〜

第1話「雨の閉門前」終

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この話で分かること

タクシーがつかまらない・来ないのはなぜ? 雨の日は?

雨の日は歩く代わりに車を使う人が増えるのに、走っている台数はふだんと変わらないため、乗りたい人に車が足りなくなります。国土交通省も、雨天時・酷暑時は移動需要が大きくなる傾向があるとして、日本版ライドシェアでは24時間先までの降水量の予報が1時間5mm以上の時間帯とその前後1時間に、車を増やして使えるようにしています(2026年2月26日の事務連絡)。東京ハイヤー・タクシー協会の2019年度の調査(東京都特別区・武三交通圏)では、タクシーをよく使う状況として「雨天・暑い・寒い等の気象状況で」を挙げた回答が15.7%でした。

終電の前後にタクシーがつかまらないのは本当?

国土交通省が配車アプリのデータ(2023年10〜12月)から出した数字では、東京の特別区・武三交通圏で、土曜の0時台〜4時台は配車の依頼に車が見つかった割合(マッチング率)が66%まで下がり、90%を確保するには2,540台が足りないとされました(2024年3月13日公表)。同じ時間に同じ方向へ人が動く時間帯は、台数が足りなくなります。

出典

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この話のあらすじ

タクシー会社の配車係だった真柴千景は、雨の金曜の深夜、呼び出しがあふれる配車の画面の前で倒れ、王都リンデルの小さな辻馬車屋「灰馬組」の帳付けチカとして目を覚ます。古株の御者ガロは雨の中、空の馬車で市場を三周しても客を見つけられなかった。チカの前に開いた窓〈配車盤〉は、今と過去の記録だけを映す。雨の日は歩いて帰れない人が馬車を呼び、夜の九の鐘の閉門(日本でいう終電)の前には、劇場や大神殿から東門へ人が一斉に動く。走る台数は晴れの日と同じなので、需要の山には足りなくなる。その時間と場所に先に馬車を置けば満車になる。チカは六台を先回りさせ、ひと晩で晴れの日の四日分を稼ぐ。だがその夜、御者ギルドから通達が届く。実車率が三割に満たない組は、月末に営業札を返すこと。灰馬組の実車率は18%だった。

作者

ka2uma

縦読み漫画の作者

仕事の現場を題材に、台本から縦読み漫画を作っています。

この作品について

タクシーの配車の仕事で使う「需要を読んで車を回す」考え方を、馬車と飛竜便が走る王都に置きかえて描いています。

制作に生成 AI を使用。企画・編集:H株式会社・利用ガイド

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