第2話「残り:0」

四月二日。
入社、二日目。
おはようございます。
昨日の不具合は、
直して終わりじゃない。
狂った三週間分の締めを、
全部、合わせ直す。

律:3月9日から4月1日までの日次締めを、日付を1日ずらして集計し直すプログラムを書いて。元のデータは消さないこと。AI:書きました。元の表を写してから、写しの方で集計し直します。実行の前に、3月9日の1日分だけで結果を確かめてください。

律:……一回で、
ゼロ?
本日の残りがありません。
大きな仕事ほど、減る。
三週間分の集計は、
一日分を、全部持っていった。

鬼塚:新人!
十一時に、客先の課長が来る。
昨日の件、
お前が説明しろ。
律:AI 無しで、
客先の前に。

宇佐美:黒川さん、
怖いよ。
前の担当の人、
泣いて帰ったから。
知っている。
前の人生で、
三年後に泣いて帰ったのは、
俺だ。

客先 物流会社・情報システム課長黒川 恭子
黒川:三週間ですよ。
倉庫の在庫が、
毎朝、合わなかった。
黒川:原因は?
影響は?
次は?

AI は、ない。
――あるのは、
十六年分の、
障害の報告だ。

ホワイトボード一、何が起きたか二、どこまで影響したか三、なぜ起きたか四、何をしたか・次に何をするか
律:起きたことは一つです。
三月九日から
四月一日まで、
毎日の締めが、
一日前の日付で
記録されていました。
黒川:影響は?
律:締めの数は狂いましたが、
入荷と出荷の記録は、
一件も消えていません。
日付を付け直せば、
全部、合います。
黒川:原因は。
――誰の、ミスです?

律:誰か、では
ありません。

律:サーバーを移す時の
確認の表に、
〈時刻の設定〉の項目が
無かった。
穴は、表の方です。
人を責める報告は、
次の失敗を、隠させる。
直すのは人ではなく、
仕組みの穴だ。

黒川:……次は?
二度と起こさないために① 移行の確認の表に「時刻の設定(タイムゾーン)」を足す② 移行の翌朝、締めの数を前の日と照らし合わせる③ 時刻の記録には、日本時間か協定世界時かを書き添える
律:日本時間は、
協定世界時より
九時間、進んでいます。
この九時間を
どこで足すか、
決めておけば、
同じ事は起きません。

黒川:報告書。
今の順番で、
明日までに。
黒川:――書くのは、
あなたね。

鬼塚:……新人。
どこで覚えた。
律:……前の、
会社で。
鬼塚:新卒だろうが!

夜九時。
報告書を書き終えても、
宇佐美さんは、
帰らなかった。

宇佐美:今日、ありがとね。
……私、あの人の前だと、
何も言えなくて。
律:宇佐美さんが
三週間、記録を
残してくれてたから、
言えたんです。

勤務の記録 宇佐美 灯 2015年3月時間外労働:112時間


前の人生で、
宇佐美さんが倒れたのは、
七月一日の朝だった。

あと、
九十日。
2015年、
入社式の朝。
俺にだけAIが見える
第2話「残り:0」終


